3月19日に2月のロシアの主要マクロ統計が公表された。特に注目されたのは小売売上の数字で、市場予想(5.8%減)を大きく下回る前年同月比7.7%減となり、ロシアの景気後退が一段と強まっていることが明らかになった。
昨年後半はプラス1%前後を推移していた小売売上の前年比は、12月にはルーブル急落・インフレ急伸(=物価上昇)を背景とする駆け込み需要もあり、前年比5.3%増と急回復を示した。
この時期はロシア国民にとっては年末とクリスマス(ロシアは1月7日)を控えて消費が一番盛り上がる時期だが、銀行預金残高統計と照らし合わせてみると、多くの国民が預金を取り崩してお金を消費に回した姿が見て取れる。
さすがに今年に入り、1月、2月は実質賃金も前年割れとなっており、ロシア人も消費を大幅に抑制しているようだ。
モスクワの景気が一目で分かる通り
拡大画像表示
筆者はこの統計が発表される直前までモスクワに滞在していたので、「街角景気」を確認すべくモスクワの中心部にあるスターリ(旧)アルバート通りに出かけた。
この通りは観光ガイドには必ず掲載されている観光名所でもあり、平日でも地元の若者、あるいは地方からやってきたロシア人で賑わっている。
拡大画像表示
それは観光客相手の土産物と併せて多くのカフェやレストラン、特にファストフード店が軒を連ねているからである。
筆者がまず向かったのは、2013年12月に開店したシェイク・シャック(ShakeShack)ハンバーガー店である。
シェイク・シャックは米ニューヨーク初の高級ハンバーガー店で、今年1月にニューヨーク証取に上場したことで日本でも注目を集めている。
ハンバーガー界のスターバックスとも呼ばれているやに聞くが、確かモスクワの店舗は以前はスターバックスの店舗であったような記憶がある。
筆者が入店したのは午後2時頃で、店の中の座席は2割程度の入りであろうか。閑散としている。
無理もない。マクドナルドの「ビッグ・マック」は、現在モスクワで100ルーブル(約200円)である。それと比べて、シェイク・シャックのお勧めである「Shackバーガー」は205ルーブル(約410円)、ビッグ・マック同様にパテを2枚のダブルにすると345ルーブル(約690円)である。
この不景気のご時世にそんな高いハンバーガーが売れるわけがあるまい。
ところが、筆者の注文したハンバーガーが出来上がるまで約10分、食べ終わるまでさらに10分過ぎた頃には座席が次々と埋まってきた。
店を後にした3時頃には8割以上の座席が埋まっていた。客層は多くが大学生であろうか、学校帰りの仲間と連れ立ってハンバーガーあるいはお茶を飲みながら皆でタブレットの画面をのぞき込んだり、会話を楽しんでいる様子であった。
シェイク・シャックではワインやビールも飲めるのだが、さすがに昼間からアルコールを飲む姿は見られない。
50年代の米国を謳うジョニー・ロケッツはどうか?
同レストランは2014年10月には2号店を市内ショッピングセンター内に開店している。少なからぬ数のロシア人にとっては、まだこの程度の贅沢を楽しむ余裕はあるのだろう。
しかし、ロシア人の財布の紐が経済危機前に比べて固くなっていることは間違いない。それは、すべての外資系のファストフードのビジネスがうまくいっているわけではないことから分かる。
同じアルバート通りに2013年4月、米系のファストフード、ジョニー・ロケッツ(JohnnyRockets)が開店した。同レストランは全米と海外数十カ国で「50年代アメリカ」をテーマとした店舗、それにハンバーガーとシェイクが売り物のレストランである。
筆者はこの会社の元経営陣と親交があり、モスクワ開店当時に「東京からは撤退したのに、モスクワで開店するとはどういう風の吹きまわしだ?!」とメールのやり取りをしたことを覚えている。
ところが、今回店の前を通りかかってみると、少し雰囲気が違う。見た目は同じ50年代ダイナー風であるが、「ビバリー・ヒルズ・ダイナー」という別の店舗に模様替えされていた。
そう言えば、ジョニー・ロケッツの通りの反対側にはウエンディーズ(Wendy's)があったが、こちらも2014年夏に閉店となった。
その3年前の華々しいオープニングの時には、店のキャラクターであるウェンディーちゃんに扮したロシアのキャンペンガールがセクシー過ぎてブランドイメージを損ねると米国本部からクレームがついたと伝えられていた。
こうした外資系ファストフードチェーンがロシアと西側とのウクライナを巡る国際関係悪化のせいで、あるいはロシアの景気後退によって撤退を余儀なくされたのかと言うと必ずしもそうとは言い切れない。
冒頭のシェイク・シャックのみならず日本でもおなじみのバーガー・キング(BurgerKing)やサンドイッチのサブウェイ(Subway)は着実に店舗を増やしている。
ところでファストフードと言えば、業界の雄、ロシア市場開拓のパイオニアであったマクドナルドはどういう状況なのだろうか。
営業停止処分を受けたマクドナルドのその後
昨年夏のマクドナルド店舗に対する営業停止処分については菅原信夫氏のコラムに詳しい。
日本の一般メディアでもこのニュースは頻繁に取り上げられたのでご記憶の読者も多いと思うが、その後の顛末についてはほとんど報じられていない。
すべての店舗について出向いて調べたわけではないが、モスクワ市内中心部のロシア1号店(厳密には開店はソ連時代であったが)は昨年秋には通常営業に戻っている。
マクドナルドはロシア人にとってはコカコーラと並んでアメリカ食文化の象徴であるが、勢いロシアのナショナリスト政党の国会議員からはロシアから追放すべきとの発言がたびたび聞かれる。
こうした意見に対し、クドリン元財務大臣は「マクドナルドの生鮮材料の85%はロシア企業160社が納入している」「コカコーラの原材料の75%はロシア国内で調達されている」「これらの企業を追放するのは大量の失業者を生み出すだけだ」と冷静な意見を述べている。
マクドナルドがロシア全国で雇用する従業員は4万人以上、1日の平均来店客数は100万人以上という数字を突きつけらては、クレムリンもクドリンの意見に同調せざるを得まい。
注目すべきは、当のマクドナルド自身はこうしたロシアの世論に対しても一向に動じる気配はないことである。
マクドナルドはロシア国内に現在490店舗を展開している。2015年1月の終わりに報じられたマクドナルド・ロシア・中央ヨーロッパ社社長のインタビューによると、同社は2014年中、ロシア国内に当初計画70店舗を上回る73店舗を新規開業した。2015年には60億ルーブルを投資してさらに50店舗を新規開店するという。
ところで、ロシアのマクドナルドの東方進出はどこまで進んでいるのであろうか?
東の果て、ウラジオストクにも登場する日が
マクドナルド・ロシアのウエブサイトを見ると現在の最東端はノボシビルスク(3店舗)である。筆者が目にした記事では、2015年中にさらに東進してオムスク、ケメロボで開店予定とある。
筆者は当分はあり得ないと思っていたが、ウラジオストクにマクドナルドが開業するのもそう遠いことではないかもしれない。
北は文句なしにムルマンスクであるが、さらにアルハンゲリスク、スィクティフカル(コミ共和国)、スルグトといったシベリアの中堅都市にまで展開していることに改めて驚きを禁じ得ない。
とは言え、マクドナルドも2014年は過去24年間のロシアビジネスで売上高が初めて1ケタ増にとどまったことを認めている。
その背景としてはロシアの景気低迷に加え、当局による営業停止処分が影響したことを挙げている。
それでも同社は2015年も店舗拡大と既存店舗のリニューアルによる売上増加に自信を示している。
日本や本家米国では問題山積のマクドナルドであるが、ロシアにおいては1990年代初頭の大混乱期(インフレ率は2000%を超えていた)から98年金融危機、2008年リーマンショックを生き延びてきた企業だけに、日本の企業が見習うべき点は多いように思える。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43304
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。