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[地球回覧] 原爆、米にも歴史のトゲ
戦後70年、伝承手探り
3日、米ミズーリ州インディペンデンス。ハリー・トルーマン元大統領の記念図書館で実施する有料の教育プログラムに、カンザス州の高校生60人余りが参加した。
広島型(手前)と長崎型の原爆の複製を展示する米ブラッドベリー科学博物館(ニューメキシコ州)
第2次世界大戦末期の米国。ドイツに続き、日本との戦争も終わらせるにはどうすべきか――。高校生が大統領や国務長官、陸軍長官などを演じ、当時の情報を分析して自分たちの答えを導く。
「降伏を促す努力をもう少し続ける。日本が受諾しなければ、原爆投下の準備に入る」。サミー・ダイヤーさん(16)のグループは、熟慮の末にそんな結論を出した。
トルーマン政権下の米国が広島と長崎に原爆を落とした1945年8月から、まもなく70年になる。「大統領の判断は最善だったと思います。でも核兵器はない方がいい」とダイヤーさんは話す。
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「警告もせず真珠湾を攻撃した者たちに、原爆を使用した。つらい戦争を早く終え、大勢の若い米国民の命を救うためだ」。トルーマン自身は生涯を通じ、後悔の言葉を口にすることはなかった。
米国内ではその決断を正当化する向きが多い。だが大戦の勝者にも良心の呵責(かしゃく)は残る。原爆開発のマンハッタン計画に関わった元科学者のイザベラ・カールさん(93)は「多くの人々を傷つけたことに胸が痛んだ」と共同通信に語っている。
いまも論争が続く原爆投下の歴史をどう伝承すればいいのか。トルーマン図書館の教育プログラムには「重い決断の是非を自分なりに総括してほしい」(エイミー・ウィリアムズ館長代理)という意味が込められている。
マンハッタン計画の中心を担ったニューメキシコ州のロスアラモス国立研究所。ここが運営するブラッドベリー科学博物館は、原爆関連の客観的な展示に気を配る。
原爆の使用を擁護する当局の見解だけでなく、非人道的な行為を非難する反核団体などの意見も併記している。広島型原爆「リトルボーイ」と長崎型原爆「ファットマン」の複製には、最終的に20万人と14万人の死者を出したという説明がついていた。
大戦を知る世代の減少や日本の原発事故の影響も手伝って、原爆の投下を冷静に総括する土壌は広がりつつあるようにみえる。しかし米国に残る歴史問題のトゲを抜くのはたやすいことではない。
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6日、ワシントン。元ジャーナリストでシカゴ在住のクリフトン・トルーマン・ダニエルさん(57)に会った。12歳で亡くなった広島の被爆者、佐々木禎子さんの兄雅弘さん(73)に招かれ、2012年に初めて被爆地を訪れたトルーマンの孫である。
「原爆の使用で救われた米国の退役軍人に、あの決断は間違っていたとは言えない。同様に日本の被爆者に正しいことをしたとも言えません。ただ和解の糸口を探る努力なら私にもできる。お互いの言い分をよく聞き、痛みを分かち合う。これがトルーマンの孫としての責任です」
トルーマン家の被爆地入りを「裏切り者」とののしる米国人もいた。日本人には「謝罪に来たのか」と何度も問われた。それでもダニエルさんは雅弘さんと手を携え、被爆者との交流を続ける。
ダニエルさんは被爆体験の記録をトルーマン図書館に残す予定だ。禎子さんの遺品である折り鶴も寄贈されるという。そんな展示を見聞きして、くだんの教育プログラムに参加する若者の決断はどう変わっていくのだろうか。
米大統領の広島・長崎訪問や日本の首相の真珠湾訪問は、容易には実現しまい。手探りでも小さな一歩の積み重ねが大事だと、70年後のトルーマンに学んだ気がした。
(ワシントン支局長 小竹洋之)
[日経新聞3月15日朝刊P.15]
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