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泥沼にはまり込んだブラジル経済
(英エコノミスト誌 2015年2月28日号)
中南米のかつての花形は1990年代初め以降最悪の混乱に陥っている。
昨年10月の選挙でブラジル大統領として2期目再選を目指す選挙運動を展開していた時、ジルマ・ルセフ氏は世界第7位の経済大国のバラ色の未来を描いていた。
完全雇用、賃金上昇、社会福祉は、敵対勢力の悪辣な新自由主義的計画によってのみ脅かされているとルセフ氏は主張した。
ルセフ大統領の2期目に入ってわずか2カ月で、ブラジル国民は自分たちが虚偽の目論見書を売りつけられたことに気づきつつある。
景気後退、汚職スキャンダル、通貨下落・・・
ブラジル経済は混乱に陥っており、政府が認めるより、あるいは投資家が認識しているように見えるより、はるかに大きな問題を抱えている。
ブラジルが2013年に陥った鈍い景気停滞は、高いインフレ率が賃金を圧迫し、消費者の債務返済が増加するにつれて、本格的な――そして、ことによると長期にわたる――景気後退に発展しつつある。
1年前からすでに8%減少した投資はさらに大きく落ち込む可能性がある。国の支配下にある巨大石油会社ペトロブラスの大規模な汚職スキャンダルは、少なくとも検察と監査当局が職務を果たすまでは、ブラジル最大の建設会社数社を巻き込み、経済の様々な分野で設備投資を麻痺させている。
通貨レアルの対ドルレートは2013年5月から30%下落している。通貨の下落は必要な変化だが、ブラジル企業の対外債務のうち、今年返済期限を迎える400億ドルの債務の負担を増やすことになる。
強い政治的リーダーシップがあったとしても、この泥沼から抜け出すのは難しいだろう。だが、ルセフ氏は弱い。同氏は僅差で選挙に勝利した。同氏の政治基盤はすでに崩れつつある。世論調査会社データフォルハによると、ルセフ氏の支持率は昨年12月の42%から今年2月の23%に低下した。
ルセフ氏は、悪化する経済と、同氏が属する労働党(PT)とその連立相手の政治家に流れ込んだ少なくとも10億ドルのキックバックの疑惑が絡むペトロブラスのスキャンダルの両方から打撃を受けている。
問題となっている期間の大半を通じ、ルセフ氏はペトロブラスの取締役会の議長を務めていた。
ブラジルがルセフ氏の2期目から多少の恩恵を確保するには、ルセフ氏はブラジルを全く新しい方向に導く必要がある。
レビ財務相の増税策
ブラジルの問題は、その多くが自ら招いたものだ。ルセフ大統領は1期目に、財政の緩み、不透明な公会計、競争力を弱める産業政策、金融政策への大統領の干渉を含む熱帯性の国家資本主義を取り入れた。再選を目指した昨年の選挙運動の時には、財政赤字が2倍に膨らみ、国内総生産(GDP)比6.75%に達した。
ルセフ氏の名誉のために言えば、同氏は少なくとも、ブラジルが投資適格の信用格付けを維持し、成長軌道に戻るためには、もっと企業に優しい政策が必要だということを認識している。この認識は、シカゴで教育を受けた経済学者兼銀行家で、ブラジルでは珍しい経済的自由主義者の1人、ジョアキン・レビ新財務相によって体現されている。
だが、マクロ経済の歪みに迅速な対応が取れなかったブラジルの過去の失敗によって、レビ氏は景気後退の罠と格闘する状態に置かれている。
公的債務総額を安定させるために、レビ氏は今年、GDPのほぼ2%に相当する途方もない財政引き締めを公約している。その一部は、電気料金の補助金廃止と燃料税の再課税から来る。どちらの措置もインフレ率を7.4%に押し上げる要因になっている。レビ氏は、お気に入りの産業や企業への公的銀行による補助金付き融資の抑制も計画している。
ブラジルがこの財政引き締めをより緩和的な金融政策で相殺するなら、それが理想的だ。だが、この国のハイパーインフレの過去とより最近の過ち――中央銀行が大統領の意に屈し、インフレ目標を無視し、愚かにも2011〜12年に政策金利を引き下げた――のために、今では対策を取る余地が限られている。
インフレが今も目標を上回っているため、中央銀行は、信頼をさらに失う危険を冒したり、投資家の信頼を損なったりすることなく、政策金利を12.25%の現行水準から引き下げることができない。
財政引き締めと高金利は、ブラジルの企業と家計に痛みを与え、成長への回帰をさらに遅らせている。この財政再建を危険なものにしているのは、ルセフ氏自身の政治的な脆さだ。
ルセフ氏は表面上は、10月の選挙で、議席を減らしはしたものの、議会の安定多数を得た。だが、PTはすでにレビ氏の財政政策に不満を漏らしている――その一因は、選挙運動で財政政策の根拠が示されなかったことだ。
ルセフ氏は、政治的に強力な議会下院議長のポストを争う2月1日の選挙で惨敗を喫した。PTの候補を破ったエドゥアルド・クーニャ氏は、ルセフ氏の政策ではなく自らの政策を追求するだろう。これが初めてではないが、ブラジルは半議会政治の時期を迎えることになるかもしれない。
そのためブラジルは1990年代初め以降で最大の試練に直面している。そのリスクは明らかだ。
景気後退と税収の減少がレビ氏の調整を台無しにするかもしれない。後戻りするようなことがあれば、それがレアルの急落とブラジルの格下げを招き、政府と企業の資金調達コストを高める可能性もある。
ブラジルで汚職とお粗末な公共サービスに反対する2013年の大規模デモが繰り返されることになれば、ルセフ氏の命運は尽きるかもしれない。
弱みからチャンスを
だが、大統領の弱さはチャンスでもある――レビ氏にとっては、特にチャンスになる。レビ氏は今やなくてはならない人物だ。同氏は、議会が支持と引き換えに予算面での代償を引き出そうとするなら、それは別の場所での削減につながることを明確にする一方で、クーニャ氏との間に橋を架けるべきだ。
企業の信頼と投資が戻るためには、財政責任の復活が持続的なものでなくてはならない。だが、財政再建の効果が早く表れれば表れるほど、中央銀行は早く利下げを始められる。
ブラジルが急速かつ持続的な成長に戻るためには、もっと多くのことが必要だ。
生産性を抑える一因になってきた時代遅れの労働法をルセフ氏が全面的に見直すと期待するのは行き過ぎかもしれないが、同氏は少なくとも税を簡素化し、くだらないお役所仕事を減らすよう努めるべきだ。政府が産業政策の規模を縮小し、過剰に保護されたままの経済でより多くの国際貿易を奨励するという一時的な兆候は見られる。
ブラジルは、主要新興国BRICS5カ国の中で苦境にある唯一の国ではない。特に、ロシアの経済は戦争、制裁、石油への依存で打ちのめされている。
問題は抱えているものの、ブラジルはロシアほど大きな混乱には陥っていない。ブラジルには大きくて多様な民間部門と強固な民主主義的制度がある。だが、ブラジルの苦悩は多くの人が思っているより深刻だ。問題を正すべき時は今だ。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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