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移民疎外 過激派生む
仏連続テロ1ヵ月 トッド氏に聞く 宗教と表現 解けぬ難題
【パリ=竹内康雄】フランスの週刊紙「シャルリエブド」銃撃事件などパリで発生した一連のテロ事件からほぼ1カ月が過ぎた。フランスやほかの欧州諸国はどんな問題を抱えるのか。フランスの移民に多いイスラム教徒を弱者ととらえ、宗教の冒涜(ぼうとく)に懸念を表明する著名な歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏に聞いた。
――事件後に仏国民の多くが「私はシャルリ」という運動に参加、反テロの連帯を示しました。
「フランスの現状と私の考えの間には大きなずれがある。理性的でない何かが『私はシャルリ』という現象とともに姿を現したのだと思う」
「フランスには個人を対象にしなければ、何でも風刺できるという風潮がある。だが、私は事件前からシャルリエブドの風刺画を強く軽蔑していた。預言者ムハンマドのわいせつな風刺画を出版したシャルリエブドの神聖化には同意できない」
中間層に注目
――事件を通じて何が見えましたか。
「中間層の心理や行動に注目している。フランス全土での『反テロ行進』には400万人が参加した。調査機関によると、その多くは中間層だった。郊外に住む(移民やその子孫を中心とする)若者と、極右政党の国民戦線を支持する労働者階級は参加しなかった」
「私の目に映ったのは団結したフランスではなかった。自分たちを中心に世界が回っていると思い込む中間層だった。歴史家としては不安を感じる。社会システムの安定は移民や労働者階級でなく中間層が担うからだ」
――仏社会はイスラム系の移民とどう向き合えばよいのでしょうか。
「高い教育を受けた富裕層の若者はオーストラリアやカナダに移る。だが移民とその子孫は貧しく、十分な教育を受けられない。経済危機で職もない。いらだつ若者は発展途上国に向かう。その一部が過激派『イスラム国』を目指すのだ」
「わが国の大都市郊外でみられる現象は、西欧社会が直面している危機の最も新しい表出だといえる。郊外に住むイスラム教徒の若者は西洋で生まれたフランス人だ。将来の展望が開けないことが若者の疎外感の一因なのだ。西欧は自らの問題に目をつぶっている」
「西欧の社会はスケープゴートを探しているのだと思う。フランスはイラク(のイスラム国)を空爆し、シリア北部でアサド政権に対抗する反体制派を支援している。アフリカのマリにも軍事介入した。(これだけ外国で軍事活動を展開して報復を受ける可能性があるのに)自分たちが突然攻撃されたと考えるのは理性的とはいえない」
社会弱者を侮辱
――表現の自由と宗教の尊重のバランスは。
「冒涜とも受け止められる表現でも、フランスでは権利として認知されている。例えば、米国で国旗を燃やすのはひどい犯罪だが、フランスではそうとらえられない」
「それでも(キリスト教など)自分たちや祖先の宗教を皮肉ることと、(イスラムのような)ほかの人たちの宗教を侮辱することは違う話だ。イスラムは郊外に住む職のない移民の心のよりどころになっている。イスラムを冒涜することは、こうした移民のような社会の弱者を辱めることだ」
「フランスでは400万〜500万人のイスラム系の市民が生活している。一方、経済が低迷して社会は瓦解の危機にひんしている。(フランス人は)ムハンマド(の風刺画)を描くことのほかに考えなければならないことがあるはずだ。表現の自由や宗教の尊重を巡る問題を一朝一夕に解決することは難しい。(社会に波風を立てることがわかっているのにわざわざ)投げかけられるような話題ではないのだ」
Emmanuel Todd フランス国立人口学研究所研究員。同国左派を代表する知識人。パリ政治学院卒、英ケンブリッジ大博士(歴史人口学)。著書に旧ソ連(現ロシア)の崩壊を予言した「最後の転落」(1976年)、米国の衰退期入りを指摘した「帝国以後」(02年)など。63歳。
[日経新聞2月6日朝刊P.6]
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