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イエメンに迫る「水戦争」に脅威
http://www.asyura2.com/15/kokusai10/msg/106.html
投稿者 あっしら 日時 2015 年 2 月 08 日 00:56:56: Mo7ApAlflbQ6s
 


※ 関連投稿

「石油危機とテロ拡大を招くイエメン政局の混迷:イエメンではクーデタを敢行したホーシー派と連携する米国」
http://www.asyura2.com/14/warb14/msg/889.html

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『ニューズウィーク日本版』2015−2・10
P.36〜39

「イエメンに迫る「水戦争」に脅威

中東:シーア派とスンニ派武装勢力の台頭に加えて深刻な水不足で国が干上がって枯死する可能性も

 ジェームズ・ファーガソン


4年前の「アラブの春」で可憐な花を咲かせ、ずっしり重い民主主義の実を結実させた稀有な例……になるはずだった。しかしアラビア半島の突端にある国イエメンで民主主義が実を結ぶことはなく、今や(この地域にある多くの国と同様)国家の存続すら危ぶまれている。
 なぜか。宗教と政治の複雑微妙な関係ゆえではない。宗教や政治に無縁な人たちにも不可欠な「水」がないからだ。
 首都サヌア(人口260万)の状況はとりわけ深刻だ。水道から水が出るのは月に1度、それもわずか数時間。だから住民はずっと前から、水道よりも屋上に設けた貯水槽を頼りにしてきた。ただし貯水槽にためる水はタンクで運ばねばならないから、けっこう高くつく。
 世界銀行の調査によれば、このままだとサヌアは、あと4年ほどで「持続不能」になりかねない。しかるべき対策が取られなければ、住民たちは町を捨てて逃げ出すしかない。すべてが干上がって、枯死する前に。

 古代ローマ人はこの土地を「アラビア半島の楽園」と呼んだ。しかし今のイエメンはアラビア半島で最も貧しい国。しかも人口(現状で約2600万)は急激に増え続けている。
 変革の気配はあった。22年にわたる独裁を続けてきたアリ・アブドラ・サレハが12年に大統領の座を追われ、その後に国連主導で国民和解会議が開かれた。そこで新たな憲法を制定し、今年中には選挙を実施するはずだった。
 だが昨年9月に北部のシーア派武装組織ホーシー派が決起して首都を包囲。年が明けると市内を制圧し、暫定政府を率いるアブドラボ・マンスール・ハデイ大統領を追い落とし、事実上のクーデターに成功した。一方でスンニ派テロ組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」や南部の分離独立派も暗躍している(AQAPはフランスの風刺週刊紙シヤルリ・エプド襲撃で犯行声明を出した)。しかし、いずれの脅威よりも水不足の脅威のほうが大きい。

 21世紀には石油ではなく水資源をめぐる戦争が起きると予言されてから久しい。だがイエメンでは、この終末論的な観測が現実になりつつある。世界銀行によれば、イエメンは世界で最も水不足に苦しめられている国の1つであり、国民1人当たりの1年の真水供給量はわずか86立方メートルだ(アメリカは8914立方メートル)。


水を武器にするテロ組織

 政府に敵対する勢力は、水不足がもたらす社会の亀裂を巧みに利用している。いい例がAQAPだ。イエメンを拠点とする彼らは欧米でのテロ攻撃を計画して実行する一方、地元では水の配給や井戸の掘削支援などを通じて住民の支持を獲得しつつある。
 ちなみに、イスラム過激派が現代社会に復活させようとしている厳格なイスラム法は「シャリーア」と呼ばれるが、この語はもともと「水場に通じる道」の意だとされる。イスラムの教えがアラビア半島の砂漠で生まれたことを考えれば、水へのアクセスと救済の通が重なるのは当然のことなのだろう。だからナセル・ビン・アリ・アルアンシ率いるAQAPも、今や「水へのアクセス」を武器として勢力拡大を目指している。

 13年にAP通信が入手したイスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織(AQIM)宛ての秘密文書で、AQAPは「水のようなライフラインの世話をすることで地元住民の心をつかむ」戦術を提案している。「こうした生活必需品の提供には大きな効果がある。地元住民の共感を待やすくなるし、彼らの運命がわれわれの運命と一体であることを自覚させることにもなる」
一方のイエメン政府は、国民への水の提供が持つ重要性の認識ではAQAPに大きく後れを取っている。国民和解会議では国内にいる少数の水文学着たちが水不足の解消に優先的に取り組むよう訴えたが、水の管理運用に当たる水資源・環境省の予算は70%も削減されてしまった。

 政府予算の大半を占めるのは軍事費だ。国軍兵士は40万人以上もいて、北部のホーシー派、南部の分離独立派、そして各地のAQAPと戦っている。
 その戦闘で、イエメン軍はアメリカの無人機を頼りにしている。イエメン軍は無人機を保有していないが、標的に関する情報をアメリカ側に提供し、無人機で攻撃してもらっている。
 実際、ハディ前大統領は無人機に代表されるアメリカの軍事力の熱烈な信奉者で、国民の問では「無人機ハディ」のあだ名で呼ばれていたほどだ。
 しかし無人機攻撃の精度は高くなく、時には大きな悲劇を生む。ニューヨークの人権団体リプリーブによると、これまでに標的17人に対して無人機攻撃が実施されたが、民間人260人前後が犠牲となっている。そのうち少なくとも7人は子供だった。他方、標的とされた17人のうち4人はまだ生き残っているという。

 イエメン政府は間違いを犯しているが、現下の危機がすべてハディの責任というわけではない。坂本的な原因はイエメンの途方もない人口爆発だ、と社会学者は言う。
 60年代には500万人だった人口が、今は2600万人に膨れ上がり、30年には4000万人に達すると予想されている。たとえイエメンが豊かで安定した国だったとしても、この人口に十分な真水を供給することはかなりの難題だ。
 人口増加率が全国平均の2倍以上の7%に近いサヌアは最大の問題に直面している。1910年には2万人に満たなかったこの都市の人口は、もうすぐ300万人に達する。海水から塩分を除去して飲料水にする技術はアラビア半島のいくつかの国が採用しているが、イエメンでは採用しにくい。海から遠過ぎる上に、海抜が2200bと高過ぎるからだ。
 この国の水危機は少なくとも40年前から進行している。70年代以前のイエメンでは伝統的なかんがいが行われてきた。それは雨期の雨水をためる複雑な段々畑のシステムだった。

 だが人口の増加につれて食料の需要が増えた。そのため農家はもっと確実な水資源が必要になり、それを地下水に求めた。そこで始まったのが「掘り抜き井戸革命」。直径1センチほどの鉄管を地中に打ち込み、地下水脈に達するまでひたすら掘り抜く単純な方法だ。

 雨水から地下水への切り替えは、原油が発見された70年代に加速された。農産物の生産増加を目指す政府が、井戸掘削に必要な燃料への補助金を農家に支給し始めたからだ。
 その裏で、昔ながらの段々畑式かんがいシステムは放棄された。地下水をくみ上げるほうが手っ取り早いからだ。かつては世界的に有名だった美しい緑の景観は、今や見る影もない。燃料補助金カットの怒り 悪影響は政治にも及んでいる。イエメンの原油資源は先細りなため、政府は昨年に燃料補助金の削減を決定。これが住民の反発を招き、ホーシー派による大規模な抗議デモに発展した。

 政府は補助金削減を撤回したが、時既に遅し。今年に入るとハディ政権は空中分解し、ホーシー派が首都の支配権を掘ろうとしている。
 言うまでもなく、地下水によるかんがいへの転換は環境への悪影響も大きかった。帯水層に再び水がたまるまでには一定の時間がかかるが、イエメンではもはや、その余裕がない。
 ホーシー派の本拠地であるサアダでは、自然にたまるペースの12倍の速さで地下水がくみ上げられている。30年前、サヌア盆地では100bも掘れば地下水に達した。今では1000bも掘らなくてはならないことがある。
 しかも、今汲み上げているのは地下水脈ではなく「化石水」と呼ばれるもの。自然には補充されないから、すぐに枯渇してしまう。そうなれば農民は土地を捨て、仕事を探しに大都市へ流人してくる。だが都市部にも仕事はなく、不満だけが募ることになる。

 イエメンの水事情を悪化させる原因の1つは作物にもある。そもそも政府が70年代に農業用燃料に対する補助金を出したのは食料の増産が目的だった。
 だが農民の多くは、野菜や穀物よりもカート(葉に含まれる成分に興奮作用のある植物)の栽培を増やした。カートの葉には常習性があり、イエメン人の3人に1人が日常的にかんでいる。麻薬の一種だが、イエメンやソマリアなどでは合法的に栽培されている。
 イエメン人は平均して収入の4分の1から3分の1をカートに費やしているとされる。国全体では年間約40億ドルだ。オランダでの研究によれば、産業として見ると、カートは雇用の16%、GDPの実に25%を生み出している。
 カートの木は地中探く根を張り、大量の水を吸い上げる。消費されるのは先端の柔らかい葉だけであるため、非常に無駄の多い作物だ。イエメンで手に入る真水の40%が、栄養的価値のないカートの栽培に使われているという報告まである。5歳未満の幼児の過半数が栄養不良に苦しむこの国で、カートの栽培面積は年間10%ずつ増え続けている。

 無許可の井戸も増えている。掘るのは大掛かりな移動式掘削装置を持つ「山猫」と呼ばれる掘削者だ。サヌア盆地には個人所有の井戸が推定1万4000本あり、今も増加している。
 水資源省は取り締まりに注力しているが、資金不足で山猫との戦いに勝ち目はない。井戸掘りを雇うのは、カートの取引を支配する有力部族長が多い。
 筆者の取材に応じた水資源省の水文学者ノーリ・ガマルは、繁華街のビジネス地区ハッダで行われているという違法な井戸掘りの現場に私を連れて行ってくれた。私には何も聞こえなかったが、経験豊富なガマルの耳は低くうなる油圧回転ドリルの昔をすぐに感知した。
 3ブロック歩いて左に曲がり、右に曲がると、高さ10bほどのにわか仕立ての掘削装置があった。そこはカートを栽培する地主でもある部族長の屋敷の裏庭だった。頬をカートで膨らませた6人ほどの作業員が立ってにらんでいる。現場監督は私たちを見て不機嫌そうだった。


昔の生活に戻るべきか

 ガマルは作業の中止を命じなかった。部族長には政治的な影響力があって、ガマルをクビにするのも逮捕させるのも簡単、もっとひどい目に遭わせることもできるのだという。
「違法掘削装置は可動式ミサイル発射装置のようなもので、地下水を配る給水車は空から降ってくるミサイルだ」とガマルは言う。「大げさな表現だとは思わない。水不足で死ぬ人は、アルカイダに殺される人よりも多いのだから」

 昨年11月、水資源省は国連やオランダ大使館と協力して3年計画を開始した。地下水のくみ上げを減らすよう、サヌア盆地の農民を説得しているのだ。その一方まだ手付かずの大きな帯水層がある市の南部では新たな井戸の掘削も始めた。
 しかし、それは気休め程度の時間稼ぎでしかない。新たな井戸掘りは、避けられない破局を先延ばしにするだけの行為だ。
「イエメンは断崖に向かって進んでいる」と、かつて水資源相を務めたアブドゥルラーマン・アルエリアニは言う。「転落するのは時間の問題だ」

 楽観的な見方もある。政府高官の中には、国が必要とする水資源管理政策の徹底的な変更は可能だし、十分な時間もあると信じる人もいる。
 西部高地に住むシーア派の一派、イスマイル派の例は希望をもたらす。ここの住民たちは15年前にカートとの決別を決めた。20万本のカートの木を切り倒し、代わりにカート並みの商品価値があるコーヒー豆の栽培を始めたのだ(イエメンはかつて良質なコーヒー産地だった)。
 イスマイル派の住民は近代的な細流かんがいシステムを導入し、段々畑を復活させている。その結果、周辺の地下水面の下降は止まり、地元の経済は潤い始めた。
 水資源省のアリ・アルスライミ局長も高地の農家が地下水への依存を減らせばサヌアも持続可能だと考えている。「段々畑と古い農法を復活させ、祖父の代の生活スタイルに戻ればいい」と言う。

 イエメンを再び「アラビア半島の楽園」とする唯一の方法は、時計の針を逆に戻すことらしい。それって、ちょっと寂し過ぎる話ではあるが。」


 

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