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現論 人間が起こす地震
島村 英紀 武蔵野学院大特任教授
新潟日報[29面 オピニオン] 2016年10月8日 ※
地下開発に伴うリスク
地震学の教科書には、「米国では西岸のカリフォルニア州と北部のアラスカ州だけに地震が起きる」と書いてある。
しかし情勢は変わった。2014年には米国南部にあるオクラホマ州で地震が以前よりも50倍にも増えて、全米一になったのだ。
同州では、この9月3日にマグニチュード(M)5
・8の強い地震が起きた。近くに都会があれば、大きな被害を生みかねない規模だ。かつて11年11月に起きた地震でも負傷者が出たり、家屋が倒壊したりするなどの被害が出ていた。
オクラホマ州では08年までの30年間に起きた地震は、ごく小さなM3まで数えても2回しかなかった。つまり日本とは違って、そもそもは先天的な無地震地帯だった。
最近起きている地震は、間違いなく「人間が誘発してしまった地震」である。人間が地球内部に対して何かをすれば地震を起こすことが知られるようになってきた。
最初は1962年のことだった。米国のコロラド州の軍需工場で放射性廃液の始末に困って、約4キロもの深い井戸を掘って捨てた。ところが、それまで地震がまったくなかった所に地震が起き始めた。
多くは小さな地震だったが、なかにはM5を超える結構な大きさの地震まで起きた。生まれてから一度も地震を感じたこともない地元では大きな騒ぎになった。
このほか、世界各地でダムが地震を起こしている。大きな被害が出たものに67年にインド西部でM6・3の地震が起きて一説には約2千人もが死傷した例がある。コイナダムという巨大なダムを造ったことで引き起こされた地震である。
最近、オクラホマ州をはじめ米国各地で起き始めているのはシェールガス採掘によるものだ。
この採掘には「水圧破砕法(フラッキング)」という手法が使われている。化学物質を含む液体を地下深くに超高圧で注入して岩石を破砕する手法だ。これによってシェール(頁岩)層に割れ目を作る。そこから層内の原油やガスを取り出す掘削法である。
この手法では大量の廃水が生まれる。これを地下1キロほどの深さに掘った廃水圧入井に圧力をかけて注入することで処分している。
シェールガス採掘に限らず、石油や天然ガスの掘削、ダム、廃液の地下投棄。地球内部に影響を及ぽす作業が地震を起こす例は、このところ世界的に増えている。
岩の中でひずみがたまっているとき、水や液体は岩と岩の間の摩擦を小さくして滑りやすくする、つまり地震を起こしやすくする働きをするのだ。いわば、地下のエネルギーを解放する「引き金」を引いてしまったのである。
オクラホマ州では非常事態を宣言して、州内に3200ある廃水圧入用の深井戸のうち37カ所に対し、10日間の使用中止を指示した。この1月にも27カ所に停止を指示したことがある。
これで事態が収まるかどうかは分からない。今までの世界の例だと、地下への注水量の急激な変化は、圧力が増える場合でも、また減る場合でも地震を多発させることがある。増減いずれの方向でも地下の圧力の変動は地震を起こすことがあるのだ。
地震を多発させているのはオクラホマ州に限らない。米国で地震観測を担当している米国地質調査所 (USGS)は今年3月に公表した報告書で、地震発生予測地図の対象に初めて人為的な地震も含めた。
USGSによると米国で人為的地震のリスクが多い
州は、危険度の高い順にオクラホマ、カンザス、テキサス、コロラド、ニューメキシコ、アーカンソーの各州だという。
これらの州ではM3以上の地震が、11年段階ですでに20世紀の6倍にも増えている。いずれもシェールガス採掘が最近盛んになった州だ。
化石燃料の中では環境影響が小さく、また安価なために「革命」とまでいわれたシェールガスだが、その開発にはさまざまなリスクが伴うことを忘れてはいけないのだろう。便利さだけを追求した技術は、いつかは地球にしっぺ返しをされるのかもしれないのだ。
しまむら・ひでき 1941年東京生まれ。69年東京大から理学博士号。専門は地震学。北海道大教授、国立極地研究所長などを歴任。2005年4月から現職。「直下型地震―どう備えるか」(花伝社)、「火山入門―日本誕生から破局噴火まで」(NHK出版新書)など著書多数。
※ 投稿者注: 「島村英紀・最近の新聞記事から」によれば次の通り。
「共同通信から 2016年10月5日(水曜)に各紙に配信」。『現論』コラム。「人間が起こした地震 シェールガスのリスクに目を」を執筆しました。
http://shima3.fc2web.com/saikinnnokijikara.htm
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