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揺らぐ地震対策
(上)予知限界、「発生確率」に落とし穴 情報発信 手探り
世界で起きる地震の10%が集中する地震大国・日本の備えが揺らいでいる。東日本大震災や熊本地震で甚大な被害に見舞われ、南海トラフや首都直下の大地震の危機も迫る。地震予知を前提とする対策の限界は明らかだが、それに代わる防災への転換は手探りだ。
遠州灘と駿河湾に面し、北東に富士山を望む静岡県御前崎市。地下200メートルを超す岩盤で、地震の前兆を探る「ひずみ計」がきょうも目を光らせる。周辺地域を含め、27カ所の観測点から集まる情報を気象庁が24時間体制で監視する。東海地震の予知が目的だ。
大震法の廃止も
「前兆現象をつかめば地震がいつどこで起きるかを知る直前予知は可能」。そんな学説に支配され、国は1965年に地震予知計画を掲げ、予知への挑戦に踏み出した。半世紀がたち、予知の実用化をうたう看板を下ろす時が迫る。「予知の精度は上がっていない」。今年6月、河野太郎防災相(当時)は、東海地震への備えを見直すことを表明した。
78年制定の大規模地震対策特別措置法(大震法)に基づく対策では、地震の前兆をとらえたときには首相が警戒宣言を出し、鉄道や百貨店の営業を止めることまで想定する。当初から「机上の空論」との批判はあった。「可能性がある限り社会の要請に応える」と現実から目を背けてきた国も、ようやく法律の廃止も排除せず9月にも検討を始める。
背景には、予知に一向に近づけなかった事実がある。95年の阪神大震災も2011年の東日本大震災も「想定外」の大惨事だった。「独りよがりになっていた」。日本地震学会の前会長である東京大学の加藤照之教授は、実力を過信した専門家の責任を認める。
現在の科学では、複雑な自然現象である地震の前触れは判断できない。阪神大震災後に予知偏重の批判が高まり、国は長期的な発生確率などを使った情報発信を模索してきた。研究や観測を進めてきたが、活用の難しさを突きつけられた。
消えた「余震」
「今後は『余震』という表現は使わない」。気象庁は19日、大地震後の情報発信を改めると発表した。4月の熊本地震では、最初の地震の28時間後にさらに大きな地震が襲った。大地震の後は余震への警戒を呼びかけてきたが「『余震』は一回り小さい地震との誤解を受ける」と判断した。
熊本地震では国の地震調査委員会が震源となった活断層を事前に調べ「30年以内にマグニチュード(M)7の地震が最大0.9%の確率で起きる」と公表していた。専門家からみれば警戒すべき確率だが、住民の感覚では「安全」と映った。
「確率を防災行動に結びつけるのは難しい」。調査委の平田直委員長は19日の記者会見でこう述べた。現在の数値は曖昧さが伴う。調査委は今後、確率ではなくリスクを4段階で示す方針だ。
「本当に、地震は来るのですか」。慶応大学の大木聖子准教授は防災の講演などで地震への備えを訴えるたび、伝える難しさを痛感する。「予知ができない現状で備えを促すのは締め切りのない宿題を課すようなもの。どう意識を高めるか真剣に考えなければならない」と話す。
地震はいつどこで発生するともわからないが、日本では必ず起きる。正しく恐れる姿勢を日ごろの防災活動に生かす試みは道半ばだ。
[日経新聞8月28日朝刊P.1]
(下)「市民の防潮堤」、高校で人材育成 国頼み脱却急ぐ
西は浜名湖から東は天竜川までの太平洋沿岸部17.5キロに高さ13メートルの巨大防潮堤の建設が急ピッチで進む。事業費は340億円規模。企業や浜松市民の寄付で賄う全国初の「市民の防潮堤」だ。
同市には30年以内の発生確率が70%程度とされる南海トラフ地震発生後に14〜15メートルの津波が到達、死者は最大で1万6千人。地元創業の大手住宅メーカー、一条工務店から300億円もの寄付もあり、浜松商工会議所は「国や県が動くのを待っていては間に合わない」と地元企業や市民に呼びかけ、計4200件、13億円を集めた。
東日本大震災以降、この地域では津波リスクを避けようと、大手企業が工場を移転する動きが相次いだが、中小企業は沿岸部にとどまらざるを得ない。商工会議所の大須賀正孝会頭(75)は「命の安全を買えるならば安い。自分たちの街は自分たちで守ろう」と会員企業などを口説いて回る。
大学から即助言
「独自に備えよ」。予知を前提とした大規模地震対策特別措置法(大震法)の見直しに国は重い腰を上げたが、予知できなくても被害を最小限にする減災に挑む活動の芽は育ちつつある。
南海トラフ地震では最短で発生から5分以内に津波が到達する見込みの高知県は今年2月、京都大防災研究所(京都府宇治市)と独自の防災協定を結んだ。調査・研究に必要な災害記録を提供し、最先端の知見を減災対策に役立てる狙いだ。
4月の熊本地震では研究所と南海トラフ地震の誘発の恐れをすぐに協議、「可能性は低い」との回答を得た。「即時に科学的な助言を得られるのは心強い」(県危機管理・防災課)
減災は人材育成でも連携が広がる。
宮城県立多賀城高校(多賀城市)は今年度、防災を専門に学ぶ「災害科学科」を新設、1期生38人が入学した。「科学技術と災害」「実用統計学」などを学び、県内外の教育・研究機関と連携した授業も組み込んだ。
「家族の安否確認が第一じゃないか」「近所の人の避難の手助けは?」。8月上旬には阪神大震災を機に全国初の防災科を設けた兵庫県立舞子高校(神戸市)などの生徒約70人との交流会を開催。2つの震災を経験した県の生徒同士が災害直後に取るべき行動について熱心に意見を交わした。
災害科学科1年の及川唯人さん(15)は避難所で約1週間過ごした。熊本地震では20人の死者を出した益城町でボランティアを経験。将来は「避難生活を快適にする道具を生み出す技術者になりたい」との夢を描く。
産業界巻き込め
ただ多くの自治体や企業は補助事業など国主導の対策に依存しがちで、相互の連携も不十分だ。
「巨大地震には自治体単位の対策では不十分」。名古屋大減災連携研究センターの福和伸夫センター長は「複数の県を1つの『ブロック』と捉え、電力やガス、製造業、物流会社など産業界を巻き込んだ防災計画の整備が必要」と説く。
首都直下型や連動する恐れがある東海地震や南海トラフなどの大地震に突然襲われた際、本当に日本の社会システムを維持できるのか。国は「予知」にやっと見切りを付けたが、減災対策は国など「公助」だけでは限界がある。自治体や企業、そして市民が議論し、備えの見直しを加速させることが不可欠だ。
編集委員 久保田啓介、馬淵洋志、高岡憲人、生川暁、村越康二、井上航介が担当しました。
[日経新聞8月29日朝刊P.1]
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