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2016年6月17日 有井太郎
「この夏、記録的な猛暑が襲来」のウソとホント
夏を前に、猛暑への警戒感が強まっている。
「今夏は記録的な猛暑になる」という予測が出ており、観測史上最も暑かった2010年の再来になると懸念する声も多い。いったいなぜ、こうした予想が出るのか。また、それはどれだけ確かな情報なのだろうか。専門家の分析を交えながら、今夏の気候で着目すべきポイントと暑さへの対策を考える。(取材・文/有井太郎、編集協力/プレスラボ)
今夏の「記録的な猛暑」は本当か?
気象庁予測の信憑性を考えよう
夏を前に、「今夏は記録的な猛暑になる」という予測が出ており、観測史上最も暑かった2010年の再来と懸念する声が広まっている。いったいなぜ、こうした予想が出るのか
「今の時期から『この夏は記録的な猛暑になる』って……。一体どうして?」
夏の到来を前にして、早くも「猛暑」の2文字があちこちで躍っている。というのも、春の時点ですでに気象庁が「今夏の気温上昇」を警戒する予測を打ち出したからだ。
気象庁では、「3か月予報」として、向こう3ヵ月の天候の見通しを発表している。5月25日に出された「6月〜8月」の予報では、「全国的に暖かい空気に覆われやすい」という見解が示された。地域別で見ると、北日本と東日本は「平年並みか高い」との見込みで、西日本と沖縄・奄美については「高い」見込みとなっている。
これだけなら、そこまでのインパクトはないかもしれない。重要なのは、気象庁の予報を踏まえて、今夏の猛暑が「2010年並になる可能性がある」といった声が挙がっていること。2010年といえば、「観測史上最も暑かった夏」と言われる年だ。このときの全国平均気温の平年差は+1.64℃と、統計を開始した113年間で最も高い記録になった。
地域別で見ても、154地点中55地点で統計開始以来の記録を更新。熱中症に関するニュースも飛び交った。「夏の暑さがシャレでは済まなくなった」と、日本人がその危険さを痛感することになった年と言える。
2010年の暑さが今年も本当に再来するとなれば、それはやはり警戒すべきこと。一方で、古くから「夏は暑ければ暑いほど、冬は寒ければ寒いほど経済は活性化する」とも言われる。そうした格言も踏まえると、ビジネスパーソンはますます今夏の猛暑予測に興味を持っておく必要があるだろう。
では、そもそもなぜ「今年の夏は記録的な猛暑」という報道が出ているのだろうか。そして、それらの予測は本当に当たるものなのだろうか。識者の解説を交えながら、今夏の気候について着目すべきポイントを考えたい。
ポイントは海水温の「急激な低下」
列島が悲鳴を上げた2010年夏との類似点
近年の気候を語る上で欠かせないのが「エルニーニョ現象」だ。最初の頃は、その不思議な発音が新鮮だったが、今では誰もが知っているお馴染みの気象用語となった。このエルニーニョは、2014年の夏から今年まで発生してきたという。ウェザーマップに所属する、気象予報士の片山由紀子氏が解説する。
「エルニーニョ現象とは、赤道付近に位置する東部太平洋熱帯域の海水温が基準値よりも高くなる現象です。これによって、太平洋高気圧などの動きに変化が生じ、世界的に異常気象を引き起こすことが知られています。日本の場合、エルニーニョが起きると『夏は涼しくなり、冬は暖かくなる』ことが多いですね」
2014年夏から前述のエリアの海水温が上がり始め、2015年12月には基準値から+3℃もの高温に達した。片山氏は「過去を振り返っても、今回のエルニーニョはかなり大きな規模だった」と語る。
片山氏のコメントが“だった”と過去形になっている理由は、そこから一気にエルニーニョが終焉を迎えた(と考えられる)からだ。2015年12月の+3℃を境に、2016年3月には+1.6℃、そして5月には+0.1℃まで急降下した。気象庁では暫定的ながら「エルニーニョは終息したと見られる」と発表した。
実はこの急速なエルニーニョ終焉が、今夏の猛暑予測に通じている。というのも、エルニーニョは「海水温の上昇」で起きるが、反対に海水温が基準値より低下すると「ラニーニャ」という現象に転じるからだ。気象庁では、今回の急速な海水温低下から、そのまま基準値を下回りマイナス圏に入ると予想。エルニーニョが終わって、夏頃にはラニーニャが発生する可能性が高いと見ているのだ。
「ラニーニャが起きると、太平洋高気圧が張り出すため、夏が暑くなりやすい傾向にあります。また、過去にエルニーニョからラニーニャへと一気に転じたことは何度かありますが、最も直近で起こったのが猛暑となった2010年。この状況から『2010年の再来になるのでは』という予測が出ているんですね」
気象庁のエルニーニョとラニーニャに関する予想モデルは、「世界的に見ても精度が高い」と片山氏は言う。同氏も、「おそらくそのままラニーニャに突入するのではないか」と考えている。
なお、こうした気象現象は非常に動きが遅いため、片山氏は「明日急にラニーニャになる、というようなものではなく、1ヵ月〜3ヵ月といったスパンでゆっくり転じていくものです」と付け加える。
いずれにせよ、エルニーニョからラニーニャへそのまま突入するケースは2010年以来。そのときも春にエルニーニョが終焉し、夏からラニーニャが発生した。となると、やはり今夏は記録的な猛暑になるのだろうか。だが、片山氏はその考えに“待った”をかける。
ラニーニャ現象に転じても
必ず猛暑になるとは限らない?
エルニーニョからラニーニャへと一気に転じるのは、2010年と同じ。そのことから「2010年と同じく記録的な猛暑になる」と考えてしまうが、片山氏は「他の年の例も参考にすべき」と言う。
「エルニーニョからラニーニャへと転じたのは、2010年の他に、1998年と1988年などがあります。1998年は天候不順で、暑い時期が短く、8月は雨が多く降りました。1988年は完全な冷夏で、平均気温は沖縄・奄美以外は平年マイナス。地域によっては冷害により水稲などが不良になったほどです」
確かに2010年は記録的な猛暑となったが、同様にエルニーニョからラニーニャへと転じた1998年、1988年はむしろ暑さを感じにくい夏になった。「『1998年の方が今年に近い』と見ることもでき、シンプルに『2010年と同じ記録的な猛暑になる』とは言い切れません」と片山氏は考える。
また、もう1つ片山氏がポイントと考えるのは、ラニーニャの影響が天候に反映されるまでのスピードだ。
「確かに、ラニーニャ現象が起きると『日本では夏が暑くなる』というのが一般的ですが、あくまでラニーニャ現象は海水温の変化。つまり、海水温が下がってラニーニャ現象に突入しても、その影響が大気や雲に伝わって、日本での天候を左右するまでには時間がかかります。そう考えると、今夏中に一気に暑くなるとも言い切れません」
片山氏は「今回のエルニーニョは、過去を振り返っても非常に大きなもの。その分、大気には相当な影響が残っており、ラニーニャへと転じたからといって、すぐにその変化が天気に転化されるとは考えにくい」という。大きな歯車に逆回転の力を加えても、回転が変わるまでには時間がかかる。今回の天候は、そういったイメージもできるという。
「気象データを観測し出してから、まだ118年ほどしか経っていません。つまり、夏のサンプルはたった118しかないんです。ですので、過去と類似していても、同じになるとも限りません。猛暑になるかもしれないし、そうならないかもしれない。今後の動向を見ながら、夏の気候を考えていきたいですね」
エルニーニョからラニーニャへ転じるであろう今年の夏について、“暑さ”ばかりが取り沙汰されているが、他にも知っておきたい天気の傾向がある。それは「台風の激減」だ。片山氏が説明する。
「2010年は、台風の発生が年間14個。観測以来、最も少ない1年でした。1998年は年間16個で、2010年に続き2番目に少ない年。台風1号の発生も、統計史上最も遅い7月9日だったのです。今年も、6月16日時点で台風1号が発生しておらず、明らかに少ない傾向が出ています」
平年だと、台風は年間で平均25〜26個ほど発生する。それがエルニーニョからラニーニャへと一気に転じた夏は、明らかに数が少なくなる。今年もまだ1号が発生しておらず、この遅さはまさに「1998年以来」となるようだ。
「台風は海で発生し、海で育つもの。だからこそ、海水温の変化をよりスピーディに受やすいのだと思います。こちらも1つの気象現象として、着目すべき事柄ですね」
ただし、台風は少なくなっても、過去の例を見れば安心はできない。前述したように、1998年は天候不順で、8月には栃木県から福島県にかけて記録的な豪雨に見舞われた。片山氏も「夏の豪雨に対しても十分に備えてもらいたい」と警鐘を鳴らす。
自分の身は自分で守るしかない
知っておきたい部屋の暑さ対策
今夏は「2010年のような記録的な猛暑になる」という見方もあれば、1998年のような天候不順になるケースも考えられる。あるいは、全く別パターンの夏だったり、平年並みに落ち着いたりすることもあるかもしれない。2010年の夏だけでなく、それ以外のパターンも想定しながら、夏までの気象動向に注目するといいだろう。
なお、2010年のような記録的な猛暑になるかは別として、あくまでも「夏の暑さには注意が必要」である。
「過去10年の夏の平均気温を見ると、たとえば東日本で平年より寒かったのは2009年だけ。また2010年〜2014年までは、平年より高いか、かなり高い気温となっています。西日本でも、平年より気温が低かったのは2014年、2015年のみ。記録的な猛暑にならない場合でも、近年の夏は基本的に暑い傾向なので、対策はきちんとしておくべきでしょう」(片山氏)
そのような暑さ対策として考えたいのは、「住まい」を涼しくする方法。冷房を入れるのは重要だが、省エネの観点からも、それ以外の方法を併用して、冷房をバックアップする態勢を取りたいところだ。
ホームインスペクター(住宅診断士)として活動する、さくら事務所の山見陽一氏は、住まいの暑さ対策のポイントを次のように挙げる。
「基本的には、窓などの開口部から入る日射熱を抑えることが一番です。最も効果的なのは、窓の外に日除けとなるオーニングやよしず、グリーンカーテンを設けること。侵入しようとする熱を外部でカットするのが良いですね」
ただし、前述の対策はマンションでは難しいケースもある。部屋の外に設置する場合、マンションの外壁に穴を開けるなどの細工はできない場合が多い。となると、構造的に設置が厳しくなることもあるからだ。その場合の暑さ対策として、山見氏は以下のような代替案を勧める。
「ガラスの間に特殊な金属膜が挟み込まれたインナーサッシや、日射熱の侵入をカットする遮熱フィルム、遮熱カーテンなどを窓の内側に取り付けます。窓自体を取り替えるのもマンションでは難しい場合が多いので、内側に遮熱性のあるものを設置することで、熱の侵入をカットします」
その他、「ドレープカーテンやレースカーテンなどを日中も閉めて遮熱する」(山見氏)のも有効なようだ。
夏より冬に影響が出る可能性も?
ビジネスにも必要な中長期の天候予測
エルニーニョが終焉し、そのままラニーニャが発生すると考えられる今夏。この状況の中で、私たちの生活に大きな影響を与える「天候」は、どんな動きを見せるのか。
また、今回は夏にスポットを当てたが、もっと長期的な視点で見ていくことも重要だろう。エルニーニョと同様、夏以降にラニーニャが発生すれば、1年ほどはラニーニャ現象が継続される可能性が強い。片山氏も「ラニーニャの影響は、今年の夏よりも冬に色濃く出るかもしれない」と語る。つまり、エルニーニョの反対で冬が寒くなる可能性があると言える。
気象の歴史から言っても、注視すべき状況が発生している2016年の夏。果たして、今夏はどんな天候となるのか。また、その夏を越えて冬はいったいどうなるのか。もちろん、その動向は様々なビジネスや企業の業績にも影響するはず。そんなことを考えながら、日々の天気予報やニュースをチェックしてみてはいかがだろうか。
http://diamond.jp/articles/-/93193
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