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医療ジャーナリスト 木原洋美「夫が知らない 妻のココロとカラダの悩み」
【第5回】 2016年8月5日 木原洋美 [医療ジャーナリスト]
定年夫の早起きで死にそう!熟年夫婦の「睡眠時差」はなぜ起こる
慢性的な寝不足で死にそう
原因は定年後の夫
「ねぇお母さん、具合悪いの?」
お盆休みで帰省中の娘が心配そうに尋ねてきた。
「大丈夫よ、この頃ちょっと寝不足なだけ」
加寿子さん(仮名・56歳)は笑顔で答えたが、寝不足は既に慢性化しているし、昼から夕方にかけてやってくる眠気の強さは「ちょっと」どころではない。
原因は、夫の孝博さん(仮名・65歳)だ。
1月に定年退職して以来、早寝早起ぶりに拍車がかかっている。
「俺もようやく、のんびりできるな。しばらくはマイペースで身体を休めるよ。これまで酷使して来たからね」
会社勤めだった頃は12時に就寝し、6時起床だった孝博さん。
当初こそ、朝は8時過ぎまで寝ていたくせに、たちまち7時になり、6時になり、今は5時には起床する。夏になってからはさらに早起きになりつつある。
独りで起き出すだけなら構わないが、寝室のカーテンを開け放って散歩に出かけ、戻るとラジオをつけ、台所でガタガタと音を立ててコーヒーを淹れ、お気に入りのロッキングチェアに腰かけて、ギコギコさせながら読書を始める。
「頼むからそのまま静かにしていて」、と思うと今度はボソボソ話しかけてくる。
寂しいらしい。
「朝ごはん、作ろうか」
作る気もないのに聞いてくるのは、遠回しの催促である。
時間は6時半。朝食としては普通の時間だが、加寿子さんは眠い。
孝博さんが起きた時点で目はもう覚めている。でも布団から出なかったのは、前夜寝つけたのが午前1時過ぎだったからだ。
そう。早起きになった分、早寝になった孝博さんは午後10時には布団に入る。元来夜型人間の加寿子さんも付き合って11時には布団に入るが、本当はまだ眠くない。灯りを消して、暗闇でじっとしていると、孝博さんがゴーゴーといびきをかきはじめ、うるさくてますます眠れない。
結果、ほとんど眠った実感がないまま朝となり、孝博さんに安眠を妨害されて仕方なく起き出し、朝食をとり、パートに出かける。帰宅後耐え切れず、昼寝をすると、さらに夜、寝付けない。ずっと、その繰り返しだ。
「早朝の空気は気持ちいいぞ。君も一緒に散歩しようよ」
爽やかに笑う孝博さんがうらやましい、そして恨めしい。これまで病気らしい病気はしたことがない加寿子さんだが、最近は疲労が溜まり、血圧が高くなってきた気がする。
パートが休みの日は、一日中寝ていたいが、孝博さんに起こされる。
(このままじゃ、倒れちゃう。私が朝型人間になればいいのかもしれないけど、私は夜更かしが好きなのよ!)
加齢に伴い体内時計は朝方にシフト
『朝活』を強いる男性の勘違い
年を取ると、人は自然に早起きになる。
加齢に伴い、体内時計がじわじわっと朝型にシフトするからだ。
「俺は毎日にハリがあるから早起きなんだ」
かつては朝が苦手で仕方なかったのに、今では小鳥のさえずりと共に目覚め、読書に散歩、英会話の勉強、ラジオ体操等々、密度の濃い時間が送れる自分が嬉しくて『朝活』を周囲に押し付ける男性経営者や上司がたまにいる。
だがそれは、単純に年を取っただけ…という自覚は頭の片隅に持っておくべきかもしれない。
加えて睡眠には、男女差がある。
ヨーロッパでの調査によると、青年期は女性と比べて男性の方が夜型傾向が強いが、45歳を超える頃から男性の朝型化が目立ち始め、55歳くらいになると男女逆転、男性のほうが朝型になるという。
こうした傾向は日本でも同様で、2000年に行われた調査結果では、40代から男性の早朝覚醒が増え始め、50歳以上から著しくなることが判っている。女性の場合は、朝型化の傾向が緩やかなので、60代、70代でも変わらず、夜型でいる場合が多いらしい。
睡眠の名医は次のように言う。
「夫婦の場合、夫が朝型化して就床時間が早くなり、朝型化の起こっていない妻がそれに合わせた生活をしようとすると、妻が自然な入眠時刻より早く床につくことになり、入眠困難に陥ることがあります。実際に女性で入眠障害が増加するのは、50代からです。原因は様々ですが、体内時計のリズムとの不一致によるものが、多く含まれている可能性があると私は思っています」
どうやら加寿子さん夫婦は、典型的な事例のようだ。
睡眠不足はさまざまな病気の原因
夫婦の家庭内時間差問題は要注意
さて、夫婦の家庭内時差問題、放置していても大丈夫なのだろうか?
もちろん、大丈夫なはずがない。
人間はだいたい人生の3分の1を睡眠に費やす。睡眠不足が健康に及ぼす影響は深刻だ。
「近年、睡眠不足や質の悪い睡眠は認知症を招く、という研究結果が注目されていますが、そのほかにも、がん、高血圧、心臓病、うつ病など、睡眠が影響している病気は多々ありますよ」
前出の名医は警鐘を鳴らす。
例えば、深夜勤務の女性は乳がんや大腸がん、男性は前立腺がんの発症率が高いという研究データが報告されている。
がん発症の原因として着目されているのは、睡眠とホルモン分泌の関係だ。
睡眠を促すホルモンである「メラトニン」には、性ホルモンの分泌を抑制する作用がある。不規則な睡眠によってメラトニンの分泌が減ると、性ホルモンの分泌が増加して、乳がん、子宮頸がん、前立腺がんを発症しやすくなってしまう。
一方で、深い睡眠に入った時に分泌が高まる「成長ホルモン」には、傷ついた細胞を修復する働きや免疫力をアップする働きがある。
つまり睡眠不足は、抗腫瘍作用がある「メラトニン」と、免疫力を高めてくれる「成長ホルモン」という2つの大切なホルモンの分泌を悪くし、がんになるリスクを増大させるというわけだ。
自分の爽やかな朝の陰で、妻の健康が害され、「早世の危機」が進んでいるとしたら、それでも孝博さんは早寝早起き生活を謳歌し続けたいと思うだろうか?
「孤独な老後」を過ごすか
対策を講じ夫婦円満な生活か
実は孝博さんも、自分の状態に不安を感じていた。
「体内時計が極端に変化してきました。海外旅行に行った際、現地時間に合せて時計の針を調整しますよね。あんな感じで、自分の入眠起床時間が大胆に動いてしまった印象です。特に春から夏にかけては、夜明けと共に目が覚め、夜は大好きな野球中継が終了する前に睡魔に襲われるようになってきたので正直困っています。健康的なのでいいことだと、自分に言い聞かせていますが、妻は相当迷惑そうなので、いずれ怒りを爆発させるのではとドキドキしています」
不安は的中している。加寿子さんの不満大爆発はもはや時間の問題。
とりあえず、孝博さんの選択肢は以下の3つしかない。
(1)妻に早世され、孤独な老後を過ごす
(2)妻から熟年離婚を宣告され、孤独な老後を過ごす
(3)対策を講じ、夫婦円満な生活を続ける
迷うまでもない。賢明な読者なら、(3)を選ぶはずだ。
まずは、自分自身の体内時計を調整しよう。
睡眠の名医によると、体内時計の調整には「光」のコントロールが効くらしい。
「早起きして、散歩や庭仕事をする際には、サングラスをかけて光が目に入るのを遮るとよいでしょう。体内時計は光の影響を受けるので、早朝はできるだけ太陽光を浴びないようにするのです」
さらに大切なのは、夫婦の寝室だ。
夫婦別室の就寝が夫婦円満の秘訣
睡眠の専門家が語るのは、なぜ
「熟年夫婦の寝室は、別々にするのが理想」と、睡眠の専門家は誰もが口をそろえる。
「奥さんは、ご主人の早寝早起きに合せようとしてはいけません。寿命を縮めます。眠くもないのに、早めに寝床に入る行為は、眠れずに悶々とする時間を作り、不眠恐怖症型不眠の原因にもなります」
夫婦別室での就寝は、熟年離婚の前兆と心配するむきもあるだろうが、実は、夫婦別室こそが、夫婦の健康と円満の秘訣なのだ。
熟年夫婦のみなさんには、安心して、夫婦別室を実行してほしい。
「それではお互い、体調に異変が起きた際、気づかないかもしれないと心配な場合は、室内を本棚等のパーテーションで区切り、半別室にするのもいいですよ。とにかく、お互いの体内時計を尊重する意識が重要です」
これなら、実践のハードルはぐんと下がるのではないだろうか。
ちなみに加寿子さん夫婦は、この夏から夫婦別室を実践し始めた。ただし、就寝時には部屋の扉を開けておき、お互いの寝息を常に意識している。寒い季節にどうするかは、現在思案中だ。
「長年一緒に暮らしてきたのに、まさか睡眠時間で時差ができるなんて、意外でした。だけど、夫婦のほどよい距離間を見直す、いい機会になった気がします」
気持ちも体調も楽になり、加寿子さんは爽やかに笑った。
http://diamond.jp/articles/-/97955
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