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第1回目と第2回目は、輸入肉の肥育ホルモンに関する話題を書いた。健康にかかわる問題でもあるので、多くの方に読んでいただき、反響も大きかった。しかし、輸入肉の問題点だけを書くのはアンフェアともいえるだろう。前回の記事からしばらく間が空いてしまったが、今回からは「日本の牛肉」について書いていく。 日本の牛肉といえば「和牛」という言葉が思い浮かぶと思う。では和牛とは何だろうか。「日本で育った牛を和牛と言うのだろう」と思っている人がいるかもしれないが、そうではない。また逆に「よく焼肉店などで見かける“黒毛和牛”を和牛と言うのだ」と思っている人もいるかもしれないが、それも不十分な理解である。
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■ 牛には「肉用種」と「乳用種」がある
犬にシェパードやブルドックといった品種が存在するように、牛にもさまざまな品種がある。犬を飼いたいと思ったとき、家の中で飼いたいから小型犬がいいな、とか、番犬にしたいから強そうなのがいいなど、いろいろな視点で犬を見ることだろう。同じように、牛も品種によって向き・不向きがある。いちばん大きな分け方をすると、畜産における牛の利用方法は「肉にする」と「乳を搾る」という2つだ。そこで、それぞれを得意とする「肉用種」と「乳用種」がいる。
たとえば牛乳のパッケージにはよく白黒まだらの牛がイラストで描かれているが、あれはホルスタインという乳用種だ。草と穀物を食べて、適度な乳脂肪分を含む乳をたっぷりと出してくれる。ジャージーという品種は、乳脂肪が濃く、アイスクリームなどに適した乳を出すことで有名だ。
一方、肉用種に必要な資質は乳用種とは大きく異なる。簡単に言ってしまうと、すぐ大きくなって、肉がいっぱい取れて、肉質がよいという3つの資質を兼ね備えていることが望ましい。日本が誇る黒毛和種はまさにこれ。牛を食べる文化を持つどこの国でも、このような資質を持つ牛が喜ばれ、いい牛を選抜して残してきている。
でも同じ牛なんだし、乳用種のホルスタインも肉になるでしょう? という疑問が浮かぶ。もちろん乳用種だって肉にできるし、逆に肉用種も子供を産めば乳を出す。けれども、肉用種は肉を取るため、乳用種は乳を搾るためという目的に最大限にかなうように選抜を繰り返されてきているから、違うことをしろと言っても得意ではない。水泳の選手に棒高跳びをやれと言っても困るだろうし、きっといい記録は出ないだろう、それと同じことだ。
さて、それでは日本の肉用種の話だ。スーパーで売られている精肉で「和牛」と書かれている場合、おそらく「それって黒毛和牛でしょう」と思う人が多いだろう。
現に、食肉業界の人や焼肉店の人がグルメ誌のインタビューなどで「和牛っていうのは黒毛和牛のことなんです」と話しているのをよく見かける。でも、これは正しくない。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160804-00130039-toyo-bus_all
実は「和牛」と呼べる牛は4種もある。もちろん「黒毛和種」はその筆頭で、日本を代表する肉用品種だ。黒毛のルーツとなった但馬牛はもともとそれほど体格のよい牛ではなかったのだが、肉に細かなサシが入るためおいしいことで選抜・育種が進み、今日では大きな体躯でサシがばっちり入った黒毛がどんどん増えている。
それ以外の3種は、黒毛に比べるとかなり知名度は低いのだが、個性派ぞろいだ。たとえば、熊本県や高知県で「あか牛」と呼ばれ愛されている「褐(あか)毛(げ)和種」も有名な牛だ。“かつもう”と読む人もいるが、正式には“褐毛”と書いて“あかげ”と読む。牛の通になりたければ覚えておいたほうがいい。
褐毛は朝鮮がルーツの品種をベースに、外国の肉用種を掛け合わせたりして成立したものといわれ、放牧して草を食べさせるのに向いている。熊本の阿蘇地方で、広大な草原で放牧されている茶色の牛の写真をよく見ると思うが、あれが褐毛和種だ。ちなみに熊本の褐毛と高知の褐毛とは、正確に言うと系統の違う牛で、味わいも違いがあるのだが、分類上は同じ褐毛和種とされている。
「短角和種」は最近、赤身肉ブームにおいて「赤身がおいしい牛」として名が広く知られるようになってきた和牛品種だ。岩手県の北部、その昔は南部地方と呼ばれていた地域で、農耕や塩を内陸に運ぶために使役していた牛を「南部牛」という。この南部牛にショートホーンという外来の肉用種を掛け合わせてできたのがこの短角だ。サシも入るが赤身肉の部分が比較的多く、そしておいしい。
もう1種、山口県で飼われている「無角和種」がいる。日本の黒毛和種に、ヨーロッパで生まれた肉用牛であるアバディーンアンガス種を掛け合わせた品種で、その名のとおり角がない珍しい品種だ。ただし和牛品種の中で最も頭数が少なく、2012年4月の段階でおよそ200頭しか残っていない、希少品種だ。
■ 同じ「和牛」でも肉質がまったく違う
さて、この4種を「和牛」と呼ぶのだが、同じ和牛だから肉質も似ているかと思いきや、まったく違う! 黒毛和種といえばなんといってもサシ。甘みと香りを感じるきめ細かいサシが入り、肉まで軟らかいというのが特徴だ。褐毛和種は、黒毛ほどではないにしろサシも入るし、赤身肉のうまさもほどよいバランス派だ。それに対して短角和種は圧倒的に筋肉質で、赤身中心の肉。うま味たっぷりでかみしめて食べるのがおいしい。無角和種はその血統上、黒毛のような風味もあり、大ぶりに切ったステーキに向く肉質だ。このようにそれぞれまったく違う性質を持っているのだが、すべて「和牛」なのである。
4種の和牛品種以外にも、さまざまな牛が肉になっている。精肉売場で「国産牛」と標記された肉を見たことがあるだろう。そのほとんどが、日本で乳用種と呼ばれるホルスタインゆかりの肉だ。先にも書いたが、乳牛はメスでなければ乳を出さない。生まれてくる子どもの半分はオスだが、乳は出さないので最初から肉牛として育てられるのである。乳用種として品種改良されてきた牛なので、骨が太く肉の量が少なくて、肉質も和牛品種までは至らない。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160804-00130039-toyo-bus_all&p=2
そこで、少しでも高く売れる肉にするため、最初からホルスタインに黒毛和種の種をつけて、半分黒毛の血が入るようにした交雑種(F1ということもある)を作ることも多い。ホルスタインと黒毛の交雑種は、小さい頃は茶色だが、大きくなると完全に真っ黒けになることが多く、体格がいいのでかなりの威圧感がある。肉は、黒毛並みとまではいかないが、純粋なホルスタインよりは高く売れる肉になる。
またホルスタイン以外の乳用種が日本には数種いる。ジャージー、ブラウンスイス、エアシャー、ガーンジィなど、日本ではごくわずかにしか存在していない品種がいるのだ。そうした牛にオスが産まれてしまった場合、やはり肥育(食用の目的で太らせること)して肉にすることがある。こうした場合も「国産牛」として販売される。
同じくらい希少だが、和牛以外の肉専用種、たとえば世界的に有名なアンガス牛やシャロレー牛といった海外の品種を育てている生産者もいる。そうした肉はたいてい、生協組織などの契約取引をされているケースが多いので、あまりスーパーには並ばない。もしスーパーなどで販売される場合は、やはり国産牛表記で販売されるはずだ。
■ 「黒毛和牛」は圧倒的に多く生産されている
さてこの記事の核心といえる部分に入ろう。日本では「黒毛和牛は高級」というイメージが確立されている。確かに先ほどまで解説したどの肉用牛よりも黒毛和牛が最も高値で販売されるので、高級というのは正しい。ただ、たまに首をかしげてしまうのは「希少な黒毛和牛」というような紹介の仕方をしているのを見かけることだ。
黒毛和牛は希少ではない。というより、日本で最もありふれた肉用種である。これは日本で肉になっている牛の割合を品種別に表したものだ。数年前の状況から変わって、今、最も多く生産されているのは乳用種のホルスタインだが、それとほぼ同じ割合で、肉用種の中では圧倒的多数となっているのが黒毛和牛なのである。
これを見てどう思うだろうか。黒毛和牛って価値の高い、とても希少な肉なんだと思っていたらまったく逆で、いちばんありふれた肉用種だった、ということになる。まあ、それは言い過ぎかもしれないが、おそらく黒毛和牛は希少な高級品、という世間一般のイメージとはちょっと違うのではないだろうか。そして、もうひとつ驚くポイントがある。それは、黒毛以外の和牛品種の頭数だ。
いろいろな品種の名前が並んでいるが、そのほとんどのパーセンテージが1%とか0%台である。なんと、先に誇らしく「和牛は黒毛だけじゃない」と紹介した褐毛や短角、無角たちがここに押し込められているではないか。これら黒毛以外の和牛品種を全部合わせても、全体のたった2%に満たないのである!
僕から見たら、本当の意味で希少で価値の高いのはこの頭数が少ないほうなんじゃないの? と思ってしまう。
なぜこんなことになってしまったのか。そして黒毛和牛が今どのような問題を抱えているのかを、次回以降で書いていきたい。
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山本 謙治
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160804-00130039-toyo-bus_all&p=3
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