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慢性疼痛 消えない痛み、考え方のくせ変えて軽く
田村建二2016年6月29日06時00分
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検査ではっきりした異常はないのに、つらい痛みがいつまでも消えない。そんな人たちの「考え方のくせ」を変えることで、苦しみを和らげようという手法がある。痛みが完全には消えなくても、できることを増やして生活の質を上げることをめざしている。
「もっと医療面」はここから
「痛み残っても生活の質を」 清水栄司教授に聞く
■認知行動療法で、生活の質を改善
千葉県の男性(63)が腰の痛みに苦しみ出したのは6年ほど前。検査で問題はなく、整形外科の医師に「もう来てもらっても仕方ありません」と言われた。
あまりに痛くて、会社を退職。ほとんど自宅で寝て過ごした。別の医師から紹介を受け、今年1月から、千葉大医学部で「認知行動療法」を受けている。
医師や臨床心理士と向き合い、まず緊張による痛みを和らげるための腹式呼吸などを習った。面談では「妻の支えなしで一人で歩く」といった目標を決め、次回までに挑戦した。事前の不安の度合いは「100点」。でも、実行できて不安は「40点」になった。
痛みはまだ残っているが、行動範囲が広がり、「自信とやる気が芽ばえてきました」。鎮痛薬を一時、やめることもできた。
長く続く痛みは「慢性疼痛(とうつう)」と呼ばれ、原因不明のことが多い。周囲にわかってもらえず、孤立することもある。国内の調査では、18歳以上の約15%が腰や肩などに6カ月以上続く痛みを抱えていた。
慢性疼痛は、一般的な鎮痛薬が効きにくい。痛みのせいで体を動かさず気分が落ち込むと、ますます痛みを感じやすい。認知行動療法は、そんな悪循環を断つ手段だ。
たとえば、痛みで仕事がうまくできなかった場合、患者は「私はいつも痛みに苦しめられている」といった考え(認知)に陥りやすい。それを、「きのうは仕事ができた」といった別の事実に目を向け、「いつも必ず痛いわけではなく、できることはある」という考えができるようにする。
千葉大では2000年、伊豫(いよ)雅臣教授(精神医学)らが認知行動療法を始めた。現在は清水栄司教授(認知行動生理学)が中心になって取り組む。
海外での研究のまとめでは、慢性疼痛への認知行動療法は治療しない場合と比べ、痛みに伴う生活への支障や気分などの改善に「軽度から中等度の効果がある」とされている。
■瞑想による治療も
慢性腰痛の治療で実績のある福島県立医大も、「痛いから動けない」といった考え方を「痛くても動こう」へと変えてもらうことに力を入れる。運動は痛みを軽減しやすいからだ。
「腰痛で趣味の合唱ができない」という人には「見学だけでいいから会場へ行きましょう」とすすめる。二階堂琢也講師(整形外科)は「会場で友人と話すだけでも、生活の質を上げるきっかけになり得る」。
九州大の細井昌子講師(心療内科)によると、重い慢性疼痛の人では両親の不仲やいじめなど、つらい過去を抱えていることが少なくなく、「一般的な認知行動療法では効果が出にくいことがある」という。
そんな人たちへの治療の一つとして、細井さんらは瞑想(めいそう)の手法を骨格とした「マインドフルネス」を導入している。仰向けの状態で、つま先から頭の先まで意識を向けていく、といった内容だ。新世代の認知行動療法とも呼ばれ、効果を示す研究も出てきた。(田村建二)
■保険適用外、広がりが課題
認知行動療法は、うつ病などには公的な医療保険が認められているが、慢性疼痛は適用外。このため、千葉大では自費のカウンセリング(30分あたり6480円)として実施している。
実施に時間がかかる一方、医療機関側の収入につながりにくく、取り組む施設はまだ少ない。細井さんは「複数の診療科が連携して痛みの治療に取り組む施設では、患者の心理的背景にも目を配っていることが多い」と話す。
NPO法人「いたみ医学研究情報センター」(http://www.pain-medres.info/別ウインドウで開きます)は、痛みに関する無料の電話相談窓口(0561・57・3000、月・水・木曜の午前9時〜午後0時半と午後1時半〜5時)を開設している。
<アピタル:もっと医療面・その他>
http://www.asahi.com/apital/healthguide/iryou/
田村建二
田村建二(たむら・けんじ)
朝日新聞編集委員
1993年朝日新聞入社。福井支局、京都支局、東京本社科学部、大阪本社科学医療部次長、アピタル編集長などを経て、2016年5月から編集委員。
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痛み残っても生活の質を」 清水栄司教授に聞く
編集委員・田村建二2016年6月29日13時42分
いつまでも消えない痛みにどう向き合うのか。患者の「考え方のくせ」を修正してつらさを軽くしようという「認知行動療法」に取り組む千葉大の清水栄司教授に聞いた。
――なかなか消えない痛みを「慢性疼痛(とうつう)」と呼ぶそうですね。
一般的には6カ月以上続く痛みを慢性疼痛ということが多いです。けがなどで起こる急性の痛みと違って、最初の原因となった傷が治っても痛み続けます。以前は「疼痛性障害」とも呼ばれていました。検査では異常がなく、どうして痛みが続くのか分からない、それだけにつらい思いをする患者さんがよくいます。仕事に行けないなど、日常生活に支障が出ることもあります。
――慢性疼痛の患者は国内にどれくらいいるのですか。
これまでの調査によると、18歳以上の人の15%あまりが該当するといわれています。腰や頸部(けいぶ)、肩などに痛みを抱える方が多いようです。
――認知行動療法とはどんなものですか。
基本的には、医療者が患者さんと向かい合ってお話をする治療法です。「カウンセリング」のイメージが近いかもしれません。「認知」というのは考え方のことです。考え方や行動の「バランス」のようなものがちょっと偏っていて、それが慢性の痛みにつながっている場合に、そのバランスをとることによって、質の高い生活ができるようになることを目指します。
――考え方のくせを変えるとは、具体的には。
慢性疼痛の患者さんの中には、「痛みがゼロにならなければ、自分は何もできない」とか、「私が痛いのは家族が悪い」といった、偏った考え方をしてしまう方が少なくありません。それを、「痛いけれどもここまではやれる」とか、「家族もできることはやってくれている」というふうに思ってもらえるようにします。そのことで行動範囲が広がり、世界も違って見えてくるようになることがあります。
――痛みゼロを目指すわけではないのですね。
基本的には、痛みをなくすというより、痛いためにできなくなっていることができるようになることを目標にします。「痛みのせいで自分の人生は終わりだと思っていたけれど、痛くても意味のある人生は送れる」、「痛いけど気持ちは和やかになった」、そんなふうに変わっていく方が多いです。海外の研究でも、慢性疼痛への認知行動療法は、痛みのせいでずっと家から出られないといった「生活の障害」や、痛みのせいで人生は終わりだといった「破局的な考え方」などを軽減させる効果があると報告されています。
――実際にはどのように進めているのですか。
欧米で使われているマニュアルを私たちが和訳したものを使っています。医師や臨床心理士が患者さんと話をしながら、どのような行動をしているときに痛みが増すのか、痛みをご本人がどのように受けとめているのかといったことを紙に書いてもらいます。たとえば、痛いからとずっと横になっていると、痛い場所に意識が向いて、よけいに痛さが気になるようになります。そういう悪循環に気づいていただいて、痛くてもちょっと歩いたり動いたりしてもらう。そうすると、動きのほうに注意が向いて、痛みの感じ方が減ったりします。何か行動することで楽しさを感じる、それによって考え方が変わっていくことがあるのです。こうしたセッションを患者さんの状況によって10回から20回ほど行います。
――腹式呼吸や筋肉の弛緩(しかん)法も習いますね。何のためにするのですか。
痛みや不安といった感覚は、筋肉を緊張させます。そのことがさらに痛みを強く感じさせる面があるので、腹式呼吸や筋弛緩法を通して体をリラックスさせます。体がリラックスすると、心もリラックスする面があるのです。
――慢性疼痛への認知行動療法は、まだ公的な医療保険が適用されていません。
私たちは病院での診療ではなく、医学部での有料カウンセリングという形で取り組んでいます。1回30分間につき6480円です。実際には、人件費などを考えるとこの価格で経営的に成り立たせるのは難しいです。患者さんの金銭的負担も小さくはありませんので、保険診療となってほしいと思います。認知行動療法は現在、うつ病と不安障害に関しては保険が適用されています。ただ、保険が認められるのはうつ病では医師と看護師が、不安障害では医師が行う場合に限定されています。
――千葉大学のほか、どんな施設で受けられますか。
保険が認められず、医療機関の収入につながりにくいことがあって、私たちのように一定のプログラムで慢性疼痛への認知行動療法をしているところはまだ少ないと思います。ただ、認知行動療法に熱心に取り組んでいるところ、多くはうつ病などが対象でしょうが、そういう施設では慢性疼痛に対しても取り組めるところがあるかもしれません。認知行動療法という意味では、病気の対象が違っても取り組みには共通した部分がありますので。
――近くに認知行動療法を受けられる施設がない場合、個人として取り組めることはありますか。
私たちは、認知行動療法のときに使われる欧米の患者さん向けワークブックを和訳して出版しています。身近に痛みのことに理解のある医師や心理士がいたら、このワークブックを使って助言をもらうといったことが可能かも知れません。あるいはご自身で読みながら、できることを実践していただくだけでも、何もしないよりはずっといいのではないかと思います。
<アピタル:ニュース・フォーカス・オリジナル>
http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/
(編集委員・田村建二)
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http://www.asahi.com/articles/ASJ6Y2QBKJ6YUBQU004.html
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編集委員・田村建二2016年6月29日13時42分
いつまでも消えない痛みにどう向き合うのか。患者の「考え方のくせ」を修正してつらさを軽くしようという「認知行動療法」に取り組む千葉大の清水栄司教授に聞いた。
――なかなか消えない痛みを「慢性疼痛(とうつう)」と呼ぶそうですね。
一般的には6カ月以上続く痛みを慢性疼痛ということが多いです。けがなどで起こる急性の痛みと違って、最初の原因となった傷が治っても痛み続けます。以前は「疼痛性障害」とも呼ばれていました。検査では異常がなく、どうして痛みが続くのか分からない、それだけにつらい思いをする患者さんがよくいます。仕事に行けないなど、日常生活に支障が出ることもあります。
――慢性疼痛の患者は国内にどれくらいいるのですか。
これまでの調査によると、18歳以上の人の15%あまりが該当するといわれています。腰や頸部(けいぶ)、肩などに痛みを抱える方が多いようです。
――認知行動療法とはどんなものですか。
基本的には、医療者が患者さんと向かい合ってお話をする治療法です。「カウンセリング」のイメージが近いかもしれません。「認知」というのは考え方のことです。考え方や行動の「バランス」のようなものがちょっと偏っていて、それが慢性の痛みにつながっている場合に、そのバランスをとることによって、質の高い生活ができるようになることを目指します。
――考え方のくせを変えるとは、具体的には。
慢性疼痛の患者さんの中には、「痛みがゼロにならなければ、自分は何もできない」とか、「私が痛いのは家族が悪い」といった、偏った考え方をしてしまう方が少なくありません。それを、「痛いけれどもここまではやれる」とか、「家族もできることはやってくれている」というふうに思ってもらえるようにします。そのことで行動範囲が広がり、世界も違って見えてくるようになることがあります。
――痛みゼロを目指すわけではないのですね。
基本的には、痛みをなくすというより、痛いためにできなくなっていることができるようになることを目標にします。「痛みのせいで自分の人生は終わりだと思っていたけれど、痛くても意味のある人生は送れる」、「痛いけど気持ちは和やかになった」、そんなふうに変わっていく方が多いです。海外の研究でも、慢性疼痛への認知行動療法は、痛みのせいでずっと家から出られないといった「生活の障害」や、痛みのせいで人生は終わりだといった「破局的な考え方」などを軽減させる効果があると報告されています。
――実際にはどのように進めているのですか。
欧米で使われているマニュアルを私たちが和訳したものを使っています。医師や臨床心理士が患者さんと話をしながら、どのような行動をしているときに痛みが増すのか、痛みをご本人がどのように受けとめているのかといったことを紙に書いてもらいます。たとえば、痛いからとずっと横になっていると、痛い場所に意識が向いて、よけいに痛さが気になるようになります。そういう悪循環に気づいていただいて、痛くてもちょっと歩いたり動いたりしてもらう。そうすると、動きのほうに注意が向いて、痛みの感じ方が減ったりします。何か行動することで楽しさを感じる、それによって考え方が変わっていくことがあるのです。こうしたセッションを患者さんの状況によって10回から20回ほど行います。
――腹式呼吸や筋肉の弛緩(しかん)法も習いますね。何のためにするのですか。
痛みや不安といった感覚は、筋肉を緊張させます。そのことがさらに痛みを強く感じさせる面があるので、腹式呼吸や筋弛緩法を通して体をリラックスさせます。体がリラックスすると、心もリラックスする面があるのです。
――慢性疼痛への認知行動療法は、まだ公的な医療保険が適用されていません。
私たちは病院での診療ではなく、医学部での有料カウンセリングという形で取り組んでいます。1回30分間につき6480円です。実際には、人件費などを考えるとこの価格で経営的に成り立たせるのは難しいです。患者さんの金銭的負担も小さくはありませんので、保険診療となってほしいと思います。認知行動療法は現在、うつ病と不安障害に関しては保険が適用されています。ただ、保険が認められるのはうつ病では医師と看護師が、不安障害では医師が行う場合に限定されています。
――千葉大学のほか、どんな施設で受けられますか。
保険が認められず、医療機関の収入につながりにくいことがあって、私たちのように一定のプログラムで慢性疼痛への認知行動療法をしているところはまだ少ないと思います。ただ、認知行動療法に熱心に取り組んでいるところ、多くはうつ病などが対象でしょうが、そういう施設では慢性疼痛に対しても取り組めるところがあるかもしれません。認知行動療法という意味では、病気の対象が違っても取り組みには共通した部分がありますので。
――近くに認知行動療法を受けられる施設がない場合、個人として取り組めることはありますか。
私たちは、認知行動療法のときに使われる欧米の患者さん向けワークブックを和訳して出版しています。身近に痛みのことに理解のある医師や心理士がいたら、このワークブックを使って助言をもらうといったことが可能かも知れません。あるいはご自身で読みながら、できることを実践していただくだけでも、何もしないよりはずっといいのではないかと思います。
<アピタル:ニュース・フォーカス・オリジナル>
http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/
(編集委員・田村建二)
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http://www.asahi.com/articles/ASJ6Y2QBKJ6YUBQU004.html
復職時に感じる「申し訳なさ」への対処法
アピタル・中島美鈴2016年7月1日06時00分
うつで休職中のミカさん(20代女性・会社員)も、ついに職場復帰の日を迎えました。今回は最終回です。
これまでに学んだ認知行動療法の数々の技法を組み合わせて、実践していきます。
「上手に悩むとラクになる」バックナンバー
ミカさんは、久しぶりの職場に到着しました。
すると、上司がこういいました。
上司 「今日は休んでいた間にたまっているメールや回覧物の整理だけしてくれたらいいから。12時までの3時間の勤務だからね」
ミカ 「はい」
ミカさんは上司の顔色を見ながら返事をしました。
そもそもミカさんがうつで休職するようになったきっかけは、上司から自分のプレゼンのことで指摘を受けたことでした。そのため、ミカさんは上司と顔を合わせると、まだどぎまぎするのです。
上司の対応を少し素っ気なく感じたミカさんは、心の中ですぐにこんなふうに考えていました。
ミカ 「ああ、上司はもう以前のようには私に仕事を振ってくれないんだな。もう、期待されていない。戦力外ってことだ」
ほぼ反射的にこんな考えに至るので、ミカさんはソワソワし始めます。以前のミカさんなら、ここから始まる自分のネガティブな思考の渦にのみ込まれてしまっていました。
しかし、もうミカさんには認知行動療法という強い味方がいます。ここからが、これまで学んだ数々の技法の登場です。
まずミカさんは、「観察法」をやってみることにしました。これは、不安に思っている相手や状況を、観察することでさらに情報を集める方法でしたね。ミカさんは上司の様子をしばらく観察してみました。以前ならば、多少の雑談をする上司でしたが、今日は忙しそうに仕事をして、余裕がなさそうでした。もしかしたら、ミカさんに対して仕事を割り振る余裕もないのかもしれません。また、なんとなく素っ気なく感じたのは、自身の仕事に余裕がないことも一因かもしれません。
少しだけ不安を拭うことができたミカさんは、さらに勇気を出して、別の角度から上司に関する情報を集めることにしました。給湯室に向かう同僚の後をついて行き、こう話しかけたのです。
ミカ 「久しぶり。長く休んで、迷惑かけちゃって・・。なんかさ、久しぶりだからか、上司と会うとどぎまぎするなあ」
同僚 「ほんと、久しぶり。心配してたよ。あのさ、実はあの上司、あさって大事な会議があるらしくてね。それで最近ピリピリしてるんだよね。あんまり気にしなくていいと思うよ。逆に、今だけかもよ、ゆっくりできるのは。ミカが休んでる間に、ミカを頼りにしたい仕事もたくさんあったみたいで、上司は質問したり頼んだりしたがっていたみたい。でもさすがに周りが"休職中なんだから、だめですよ"って止めてたんだよ。これからたくさん働かされるわよー」
ミカさんは、まだ上司から期待されていることを知って、涙が出そうにうれしくなりました。危ないところでした。これまでのミカさんなら、一人でへこんで、今回のように同僚に相談するなんてことはしなかったはずです。これは、周りの人の考えを聞いてみる「調査法」のひとつといえましょうか。
写真・図版
こうして、なんとか初日を乗り切ったミカさん。
復職して3週間が経つと、ミカさんはずいぶん慣れて来ました。しかし一方で、周囲の人に自分の仕事を負担してもらっていることへの申し訳なさに押しつぶされそうでした。
以前のミカさんなら、「もう十分回復したので、仕事を元に戻して下さい」と申し出ている(でしょう)。
しかし、このとき、ミカさんは立ち止まりました。
ミカ 「もしかしたら、こういう態度が自己犠牲なのかもしれない。今、私は自分の体調や気分よりも、周囲の人の負担を優先しすぎていないだろうか。自分をないがしろにして、できもしない仕事量を無理して引き受けて、あとからできなくなって、かえってみんなに迷惑をかけてしまうかもしれない。そうして自分にますます自信がなくなって、自分を粗末にしてしまうんだ。これがうつの再発につながるんだ」
さらに続けます。
ミカ 「これって小さい頃からのパターンだ。お母さんがいつもおばあちゃんの顔色をうかがっていたのと同じ。"周りに迷惑かけているんだから、自分の仕事は無理をしてでも元に戻してもらうべき。人に迷惑をかけるもんじゃない"。そう言っているのは、私の心の中の"批判的な声"だ。・・・だとしたら、私の素直な気持ち、"小さなミカさん"や、その子を守る"ミカさん応援団"をもっと前に出してあげないと」
ミカさんは、自分の体調を入浴中に確かめてみました。湯船に入ると初めて、身体が思ったより冷えていたことに気づきました。首をぐるりと回してみると、ゴリゴリと音がして、肩や首が凝り固まっていることに気づきました。知らないうちに、緊張していたようです。
ミカ 「やっぱり、まだまだ本調子じゃないんだな。緊張してる」
"小さなミカさん"ならなんと言うでしょうか。"まだ怖いよ。緊張するよ。正直疲れたよ"。そんなかんじでしょうか。
では、"ミカさん応援団"はどうやって、"批判的な声"に対処するでしょうか。もしこれが自分のことではなく、ミカさんの同僚がうつから復帰したばかりだとしたら、どんな声かけをするでしょうか。"まだ本調子じゃないみたいだから、もうしばらく休ませてあげて"。そんなかんじでしょうか。
ミカさんは、こうして行動を変えることができました。与えられた仕事に集中して、周りの人の顔色よりも、自分の体調や気分に注意を向けたのです。
その結果、ミカさんは順調に回復し、2カ月後には自分の仕事を完全に取り戻しました。上司は「待っていました」とばかりに、ミカさんに期待して、いろんな仕事をふってくれるようになりました。また、ミカさんに起こった変化は職場だけに留まりませんでした。
以前よりも素直な自分の気持ちに気づけるようになり、それを友達に伝えるようになったミカさん。最近はよく「なんか雰囲気変わった?」「とっつきやすくなった」と言われます。友達と気楽なつきあいができるようになったのは確かです。
でももっと大きな変化は母子関係でした。ミカさんは最近意を決して母親にこう言いました。
ミカ 「お母さんは、ずっと自分の気持ちを我慢して、家族の為にがんばってきてくれた。でも、私も無事社会人になったし、おばあちゃんだってもういない。私は娘として、今後の人生をお母さんにもっとわがままに、自由に生きて欲しい。お母さんが幸せになるところがみたいのよ」
母親は目を丸くしていいました。
母親 「あら、そんなこと言われなくたって、やってるわよ。あなた、ずっと実家に帰ってこないからわからないだけよ。母さんは、おばあちゃんが亡くなってから、もうやめたの。"いい嫁"も"いい妻"も。今なんて、しょっちゅう父さんの夕ご飯も用意せずに、夜、友達と芝居を見にでかけてるのよ。昔の母さんじゃ、あり得ないでしょう。だから安心して。あなたには、ずいぶん我慢させてきたわね。母さんも、あなたには幸せになってもらいたいわ」
ミカさんは衝撃を受けながらも、ほっとして一人暮らしの家に戻りました。
(=ケース・スタディー「ミカさん」おわり)
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<アピタル:上手に悩むとラクになる・ケーススタディー「ミカさん(会社員・20歳代女性)」>
http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)
アピタル・中島美鈴
アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず)
臨床心理士
1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などを経て、現在は福岡県職員相談室に勤務。福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪加害者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。趣味はカフェ巡りと創作活動。
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http://www.asahi.com/articles/SDI201606280396.html
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