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歯の周りの組織破壊され歯が抜ける歯周炎…治癒&予防困難な場合も!
http://biz-journal.jp/2016/06/post_15322.html
2016.06.01 文=林晋哉/歯科医師 Business Journal
「歯周炎は細菌が原因ではなかった!」――そんなセンセーショナルな内容の論文が発表されました。
これは奥羽大学薬学部教授の大島光宏氏らによる研究結果です。同氏は以前、筆者の母校の生化学教室に在籍されていました。
ある日、大学の後輩がフェイスブックに大島先生の「歯周炎薬物治療のパラダイムシフト」という論文を紹介していたので手に入れて読み、またすぐに機会を得て講演も聞いてきました。講演後も時間を取って十分に質疑に応じていただきました。論文も講演も久しぶりに琴線に触れる感動的なものでした。
パラダイムシフトとは、「ある時代・集団を支配する考え方が、非連続的・劇的に変化すること。社会の規範や価値観が変わること」(デジタル大辞泉)とされています。
歯周炎の原因が細菌でないとなれば、これはまさしく歯科革命であり、「地動説」が「天動説」に取って代わったときほどの衝撃的な出来事です。
■「歯周病とは?」
ウィキペディアを見てみると、歯周病とは「生活習慣病のひとつ。歯垢(プラーク)を主要な原因とする炎症疾患が多いが、単に歯垢のみでなく、多くの複合的要因によって発生する。また、歯垢が一切関係ない(非プラーク性)歯周疾患も多数存在する。さらに、原因因子には個人差があり、歯周病の罹りやすさや進行度合いは人によって違う」とあり、「歯周病は人類史上最も感染者数の多い感染症とされ、ギネス・ワールド・レコーズに載っているほどである」と記載されている。
誰しも、歯周病は細菌によって引き起こされると考えていたのに、すでにウィキペディアで「非プラーク性歯周疾患も多数存在する」と記載されていることにも正直驚きでした。
細菌の塊であるプラークのせいでない歯周疾患とは、一体何か。今まで原因はわからなかったが、この現象だけは認めざるを得なかった状況に答えを示唆したのが今回の論文です。
■歯肉炎と歯周炎
ギネスに認定されるほど世界一罹患者の多い歯周病ですが、ここでしっかりと理解しておかなくてはならない前提があります。それは「歯肉炎」と「歯周炎」との違いです。
歯肉炎とは歯肉に限局した炎症で、歯を支えている歯周組織(歯根膜、歯槽骨など)の破壊は起こしません。この歯肉炎は細菌性の炎症で、プラークの除去で治り、歯が抜ける原因とはなりません。それに対し、歯周炎は歯周組織を破壊し歯が抜けるに至る病態を指します。これまでは、細菌性の炎症である歯肉炎が進行し歯周炎となり、歯周組織を破壊すると考えられており、歯周炎も細菌性の炎症であるとされていました。
歯の構造図(オレンジ部は歯肉に限局した歯肉炎で歯周組織は破壊されません。赤斜線部は歯周炎によって破壊される歯周組織。歯の支えがなくなり抜けてします)
しかしながら、長年臨床にたずさわっていると、歯周炎についてこの理屈では説明できない症例に多々遭遇してきました。
たとえば、徹底したスケーリングや歯ブラシや歯間ブラシ、フロスなどでプラークの除去ができている患者さんで、歯肉に炎症所見がなくても明確に歯周組織の破壊が起こり、いわゆる歯茎の下がった歯根の露出した状態になることが少なくありません。また、その多くはすべての歯に起こらず、前歯だけあるいは奥歯だけ、ときには1本の歯の片側だけで起こり、反対側は大丈夫だったりすることも珍しくありません。
口はひとつの入れ物ですから、細菌性の炎症であれば、その中に入っている歯肉はすべて同じ細菌に感染し、その結果として症状や炎症の所見があるべきだし、プラークのコントロールができれば歯肉炎から歯周炎に進行しないはずです。また、歯周病の原因菌が特定されているのであれば、すでにワクチンが開発されていていいはずです。
筆者は歯科大学生時代から「歯周病は細菌のせいで起こる」と叩き込まれ、卒業後30年近くを経過した今まで、そういうものだという考えで診療に携わってきましたが、日常臨床で持っていた歯周炎に対する違和感への答えが今回の論文で得られました。
いつの時代でも、100%の真実とわかっていることは、そう多くはありません。地球の年齢が科学の進歩に伴って年々変わったり、それまで真実と思われていた教科書の内容が書き直されるのは致し方のないことです。重要なのは事実を認め、それに合った体制に速やかに変換することです。
今回の論文でわかったことは、ブラッシングで歯肉炎の改善や予防はできるが、根本的な歯周組織を破壊していく歯周炎については、症状の改善には寄与できても治癒や予防は難しいという事実です。
また、この論文は2013年に発表されましたが、一部のメディアに取り上げられただけで、なかなか広まっておらず、歯科医師でさえほとんど知らないというのが現状です。
医療の目的は、「唯一無二、患者のためであること」でしょう。真摯な議論がされ、本当に歯が抜けていかないような歯周炎の治療法が早く確立することを切に願います。
(文=林晋哉/歯科医師)
総説「歯周炎薬物治療のパラダイムシフト」はこちら
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