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間違いだらけの「健康常識」 〜早寝早起き、運動、半身浴、粗食……60すぎたら寿命を縮めることもある
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48753
2016年05月29日(日) 週刊現代 :現代ビジネス
長生きしたい。それも健康なままで。そう願い、さまざまな健康法に取り組んできた人は多いだろう。だが、中には効果がないどころか、かえって寿命を縮めるものもあって……。
■歩いてはいけない時間帯
「70歳になった頃からですね。自宅から10分ほど歩いて最寄り駅近くの商店街まで出かけるのが、何だか億劫になってきたのは。脚が重くて、やたらと疲れてね。帰宅したら、横になって休まないではいられませんでしたね。これが本当に不思議だった。私は60代から、ずっと筋力トレーニングをしていたんですから」
東京・三鷹市在住の横山富士夫さん(74歳・仮名)は、こう語る。
「長寿の秘訣は、筋力にあり」「元気な人は筋肉を鍛えています」——。
テレビの健康番組で耳にした言葉が記憶に残り、リタイアを目前にした60代から、筋トレを始めた横山さん。高い料金を払ってスポーツジムに行くこともないと、自宅で腹筋運動を続けていた。
初めこそ苦しかったが、次第にできる回数が増え、中年以来、ぽっこり出ていた腹も引き締まり、調子は上々と思っていたという。だが70を過ぎて、急激に体力の衰えを感じるようになる。
メディアで健康情報が溢れる時代。テレビなどが勧める方法を実践しているのに、どうも調子がよくない、かえって具合が悪くなったという人が、急増している。
いったい何が間違っているのか。横山さんの証言について、『やってはいけない筋トレ』などの著書があるスポーツ・トレーナーの坂詰真二氏は、こう指摘する。
「筋トレが健康の秘訣というのは本当ですが、どういう筋トレをするかが問題です。テレビのCMで盛んに腹筋マシンの宣伝が流れるせいか『筋トレと言えば、まず腹筋』と考える人が多いのですが、これは大間違い。
腹筋運動ばかりを続けても、60代以上の方に重要な足腰の筋肉はほとんど鍛えられません。長寿のために始めるなら、まずスクワット。週に2〜3回でよいので試してみてください。90歳を過ぎて現役だった女優の森光子さんもスクワット運動だけは欠かさなかったといいます」
間違いだらけの健康常識。足腰を鍛える運動としてブームとなっているウォーキングやジョギングについても、勘違いしている人が多いという。
長寿を司る細胞内の物質テロメア研究の第一人者で、日本各地で100歳を超えても健康な人々を調査してきた白澤抗加齢医学研究所所長の白澤卓二医師は、こう話す。
「私自身、朝に1時間のウォーキングをするよう心掛けていますが、ウォーキングやジョギングをしている人を見かけることが本当に増えました。
ただ、私は中高年の方にはジョギングよりウォーキングを勧めています。身体に強い負荷をかける激しい運動は健康長寿のためにはよくないと考えています」
運動は筋力を高め、血行をよくするだけでなく、長寿遺伝子のスイッチをオンにする効果もあると白澤医師は指摘する。
「ただし、それに必要な運動強度は、『うっすら汗をかく程度』。長年、運動を続けてきた人ならともかく、これまでとくに運動していなかった人が、いきなり心拍数を上げて激しい運動をすることにはリスクがあります。ウォーキングやヨガなどがちょうどいいのです」
長生きのためと意気込んで、無理をして走ることは、かえって命取りになる。実際、『奇蹟のランニング』というベストセラー本の著者で「ジョギングの教祖」と呼ばれた米国のJ・F・フィックス氏は、ジョギング中に心筋梗塞を起こし52歳で急死している。
だが、白澤医師はさらに、歩くだけと思いがちなウォーキングにも注意点があると指摘する。
「週に3回、1回30分歩けば、骨粗鬆症を防げるといったデータもあり、ウォーキングはお勧めなのですが、実は身体によくない時間帯があります。
身体の機能が目覚めていない起き抜けや、空腹時、食事の直後。そして気温が下がる時期には、血圧の上がりやすい寒い時間帯です。気候のいい日、食後1時間ほど経った頃に歩くのが一番です」
朝起きて一番にウォーキングに出かけるという方も少なからずいるだろう。だが、そのタイミングで歩いてはいけない。
早朝の運動といえば、学校や公園で行われるラジオ体操も一般的だが、これはどうなのか。「ラジオ体操のような動きは筋肉を傷める」という主張も近年、インターネットを中心に広がっている。その真偽について、前出の坂詰氏はこう語る。
「ストレッチの専門家たちの間でも『反動をつけて行うストレッチはよくない』と、ラジオ体操のような動きを否定する意見があったことは確かです。反動をつけると筋肉が反射的に縮もうとする『伸張反射』という現象が起こります。それにあらがって無理に伸ばすことで、ケガをする可能性があるとされたのです」
しかしこの伸張反射、実はゆっくりと筋肉を伸ばした場合にも発生していることが次第に分かってきた。坂詰氏は続ける。
「過剰に勢いをつけるのでなければ、ラジオ体操はとてもお勧めの運動です。ラジオ体操には多くの人が子供の頃から慣れ親しんでいて手軽です。その上、腕を回す、胸を反らす、身体を前後左右に曲げる、跳ぶなどさまざまな動きが含まれ、有酸素運動、バランス運動にもなる。脂肪燃焼や筋力向上が期待できます」
ただし、ラジオ体操がもっとも効果的な時間帯は、早朝ではない。
「人間の体温が一番高くなるのは、夕方の4時から6時頃です。筋肉を伸ばしたり、カロリーを消費するためにはこの時間帯に行うほうが効果は高いでしょう」
歩くにしろ、ラジオ体操にしろ、無理に早起きをして、身体の硬い起き抜けに行うのは、百害あって一利なしなのだ。
早寝・早起きは、昔から健康の秘訣と思われてきた。だが、この「常識」も最新医学の見地からは間違いだ。スリープクリニック調布院長の遠藤拓郎医師はこう話す。
「子供ならば『早寝・早起き』は間違いではありませんが、60代、70代になってくると、『遅寝・遅起き・だらしなく』がよいと私は勧めています。人間の睡眠は、残念ながら歳を取るほど質も落ち、長さも短くなる。2歳児は12時間、20歳でも8時間は眠れますが、70歳になると健康な人でも、睡眠時間は6時間程度になってくるのです」
ところが、早寝・早起きが正しいと思いこんでいることで、かえって生活のリズムがくるってしまう人が多いという。
「私の患者さんにも、70代で夜7時に寝るという人がいました。すると6時間しか寝られないので、夜中の1時頃には目が覚めてしまう。それからずっと起きていて、早朝に散歩に出る。早起きしているので、次の日はより早く眠くなる。夕方6時に寝て深夜0時に目が覚めて……と次第次第に睡眠のリズムがくるっていくことになってしまう」
よく「寝過ぎるとボケる」などと言うが、年齢を重ねると「長時間寝続ける」ことは通常、難しい。よく見られるのは「昼間でもウトウトしている」人だが、これも危険な状態だ。遠藤医師は言う。
「たとえば深夜の1時などに目が覚めてしまっていると、昼には疲れ切ってウトウトする。すると夜はかえって眠れないのです。
私は、歳を取っても仕事やボランティアなどをして用事を作り、とにかく深夜0時から6時に寝るようにしなさい、と言っています。遅寝でいいから6時間寝て、昼間はウトウトしない。そういう生活がよいのです」
■半身浴? それとも全身浴?
早寝・早起きほど「常識」にはなっていないが、近年、ブームになった健康法の中にも落とし穴はある。東洋医学を積極的に取り込む「統合医療」に取り組んできた、東京有明医療大学教授の川嶋朗医師はこう指摘する。
「ふくらはぎを揉むという健康法が近年、大きな話題を集めました。高血圧、糖尿病、アトピーやがんなど万病を遠ざけるというのです。しかし、これは危険な極論です。
ふくらはぎを揉むこと自体は、健康法としては理に適っています。心臓から送り出された血液は、ふくらはぎの筋肉がポンプの役割を果たして、足先から心臓に戻される。ですから、ふくらはぎを揉めば血液の巡りはよくなるでしょう。しかし、それで病が治るというエビデンスはありません。
血圧の薬などをやめてしまったりすれば、かえって命の危険もあります。純粋に日頃から血行をよくする健康法だと受け止めるなら、取り組んで損はないでしょう」
他にも、免疫を高め、美容にもつながるとしてメディアでたびたび紹介される「半身浴」も疑わしいと川嶋医師は話す。
「半身だけお湯に浸かったほうが身体が温まる、などと言いますが、これはまったくのウソです。血行について考えても、全身浴なら水圧で全身の血管が圧迫され、心臓に戻る血液の量が増えることで、自然と血流がよくなります。しかし半身浴ではその効果も半減します。
熱めのお湯で半身浴をするより、ぬるま湯にゆっくり、全身で浸かるほうが断然、健康にはいいでしょう」
「長寿には粗食が一番」とした健康法も多く流布している。そうした健康法では一汁一菜、肉や脂は極力避けるなどと「ヘルシー」と称される献立が推奨される。だが前出の川嶋医師はこう話す。
「肉や脂肪分を極端に避けることが健康につながるというのは、大間違いなのです。一般的に、肉や脂肪を食べることで心配されるのはコレステロールの増加です。
しかし実は、血中のコレステロール値が高いほうが、肺炎やがんになりにくく、むしろコレステロール値が低い人のほうが、死亡率が高いことが統計から分かってきたのです」
もちろん、あまりの暴飲暴食は胃や腸を疲弊させるが、肉も魚も思うさま食べてよいのだ。
あなたが健康のためにと心がけていることは、実は大きな間違いかもしれない。本当に健康な生活を目指すためには、常に新しい情報に接して、自分の習慣を見直すことが大切だろう。
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