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脳機能低下を防ぐために コーヒーやアルコールの長期的な影響は? あるいは喫煙や糖尿病、肥満についても知っておいたほうがいい Ocus Focus-BIGSTOCK
コーヒー、アルコール、喫煙、肥満......脳によくないのはどれ?
http://www.newsweekjapan.jp/stories/culture/2015/11/post-4106.php
2015年11月12日(木)16時45分 ニューズウィーク日本版
「大人になると神経細胞は再生しない」――最近までそう信じられていた。脳の機能は年齢とともに低下するばかりだと。ところが近年、生きている脳の活動を「見る」ことができる技術が登場し、脳科学が飛躍的に発展。「脳は鍛えることができる」という発見が広まった。
日本では2005年に「脳を鍛える大人のDSトレーニング」(脳トレ)がブームになり、アメリカでも2007年にPBS(公共放送)で「ザ・ブレインフィットネス・プログラム」というスペシャル番組が放送されるなどして、脳トレーニングの関連市場が立ち上がった。ちなみに「脳トレ」は、米欧や韓国などでも発売されている。
その後、さまざまな報道や研究発表、商業的な主張が入り乱れ、混乱と誤解が広まったのも事実だ。それでも、「脳は鍛えることができる」あるいは「脳の活性化に好ましい習慣や行動がある」といった点については、一般に認められるようになったと言えるだろう。
そうした「ブレインフィットネス」分野の最新の知見をまとめたのが、『脳を最適化する――ブレインフィットネス完全ガイド』(山田雅久訳、CCCメディアハウス)だ。神経科学における健康管理と教育手法を専門とするマーケットリサーチ会社、シャープブレインズの最高経営責任者であるアルバロ・フェルナンデスと、同社の最高科学顧問エルコノン・ゴールドバーグ、そして認知心理学博士のパスカル・マイケロンが著した。
「ブレインフィットネスとは、クロスワードパズルを何回か余計にやることでも、朝食でシリアルと一緒にブルーベリーをたくさん食べることでも、少し長い距離を歩くことでもない」と、本書では述べられている。
運動から食事、瞑想、レジャー、人間関係、ストレス、脳トレまで、あらゆる側面から脳を「最適化する」具体的アドバイスを盛り込んだという本書から、「Chapter 4 私たちはほぼ食べたものでできている」を抜粋し、3回に分けて掲載する(なお、この抜粋第3回の最後には、「Chapter 4」の要点が簡潔にまとめられている)。
『脳を最適化する
――ブレインフィットネス完全ガイド』
アルバロ・フェルナンデス、エルコノン・ゴールドバーグ、
パスカル・マイケロン 著
山田雅久 訳
CCCメディアハウス
※抜粋第1回:脳を健康にするという「地中海食」は本当に効果があるか はこちら
http://www.newsweekjapan.jp/stories/culture/2015/11/post-4095.php
※抜粋第2回:記憶力や認知力をアップさせるサプリメントは存在するか はこちら
http://www.newsweekjapan.jp/stories/culture/2015/11/post-4099.php
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◇ ◇ ◇
■飲み物は脳にどう影響するか?――コーヒーとアルコール
脳の健康について関心が高まるにつれ、2種類の飲料が繰り返し研究されるようになっている。コーヒーとアルコールである。
カフェインはキサンチンと呼ばれる化学基に属していて、ニューロンの働きを短期間スピードアップさせる働きがある。このニューロンの活性化がアドレナリンホルモンの分泌につながり、私たちの身体にいくつかの影響を及ぼす。心拍数が増え、血圧が上がり、気管が開き、脳のエネルギーになるグルコースが追加的に血中に放出されるのだ。そのため、適度な量(日に数杯)のカフェインを摂取することは注意力をよくすることにつながる。
コーヒーを定期的に飲むことは、持続的で生涯にわたる利益になるのか、害になるのか? その答えには、良いニュースと悪いニュースが混在している。良いニュースは、長期研究による結果のほとんどが、否定的な内容よりも肯定的な内容を示していることだ。明白な害も起こっていない。悪いニュースは、一般的な脳機能に実際に有効かどうかの研究結果が、短期的効果においても、加齢に伴う認知力低下や認知症になるのを遅らせる長期的効果においても、一定ではないことだ。
脳に作用する別の分子はアルコールである。アルコールの過剰摂取が脳にダメージを与えることはよく知られている。ほどほどの摂取による影響はやや不透明だ。最近の国立衛生研究所のメタ分析は、軽くたしなむ、あるいは、ほどほどの飲酒であれば、おそらく認知力低下のリスクを減らすだろうと報告している。しかし、結果はやはり一貫したものではない。研究方法にも相違が見られる。たとえば、「軽くたしなむ」「ほどほどに飲酒する」の定義が、最低で週1〜2杯、最高で週に13〜28杯であり、研究によってひどくばらついている。この不一致に関する明解な説明もなされていない。
アルコール摂取によるアルツハイマー病への影響はもう少しはっきりしている。国立衛生研究所の同じメタ分析は、飲まない人と比べて、軽くたしなむ、あるいは、ほどほどに楽しむ程度の飲酒であれば、男女ともアルツハイマー病になるリスクが低くなると結論づけている。ただ、ほとんどの研究が、晩年におけるアルコール摂取を扱っているので、晩年になってからのアルコール摂取が認知症のリスクに影響したのか、大人になって以降の継続的な飲酒が影響したのかはわかっていない。
アルコールが脳に与える長期的な影響という点で納得できる説がひとつある。それは、心臓血管病になる率をアルコールが低くするとするものだ。HDLコレステロールを上昇させ、血栓を形成する要因を減らす作用がアルコールにあるからだ。そのため、ほどほどの飲酒であれば、脳の血管システムを保護するだけでなく、脳卒中を防ぐ効果があり、その結果、よりよい認知力を保ち、認知症になるリスクを減らすことへとつながっていく。
補足になるが、晩年にアルコールをほどほどの量たしなむ人は身体全体が概して健康なので、なぜ、アルコールが認知症への進展リスクを低くするかをうまく説明できない場合がある。
■問題を起こすふたつの要因――糖尿病と喫煙
ラリー・マクリーリーが指摘しているが、認知症の初期兆候のひとつに、脳が効果的にグルコースを使えなくなることがある。一部の研究者が、その事実に気づいている。糖尿病という病気の核心はグルコースをうまく使えなくなることだが、脳内でそれが起こっていることから、アルツハイマー病を3型糖尿病と呼ぶ脳神経学者もいる。
最近行なわれた国立衛生研究所による広範囲にわたるメタ分析が、糖尿病によって、認知力が低下するリスクや、アルツハイマー病になるリスクを高くすることを立証している。糖尿病になることが、認知的な機能不全につながる大きなリスク要因になるのだ。これは、体内の微小血管がダメージを受ける細小血管障害が、血糖値をコントロールできない糖尿病の人たちの特徴だからかもしれない〔そのため、グルコースや酸素がニューロンに運搬されなくなる〕。ほかの可能性として考えられるのが高血糖症だ。高血糖症は脳内の血流を変化させ、同じように認知力を障害する。
糖尿病が認知力に影響を与えるという情報が大切なのは、糖尿病患者になんらかの方法で認知力への影響を相殺しようとするモチベーションを生じさせるからだ。それは、たとえば、よりよいライフスタイルを選択する、あるいは、認知力を向上させたり、認知力の低下や認知症になるリスクを低減させたりする介入を考えさせるきっかけになるだろう。
喫煙はどうだろうか? 今現在、喫煙している人はアルツハイマー病になる高いリスクを抱えているといってよいだろう。そして、タバコを一本も吸わない人と比べると、認知力低下が激しくなることがわかっている。
今この時点からの禁煙が助けになるのは、一度も喫煙したことがない人と比べると認知力は年々低下するが、禁煙せずに喫煙を続ける人に比べれば、アルツハイマー病になるリスクが高くならないからだ。この結果は、たぶんタバコの葉に起因するものであり、ニコチンが脳に及ぼす影響とは話が違ってくる。決定的な研究結果に欠けるものの、ニコチンが認知機能(注意力、処理速度、記憶力)を強化することを示すいくつかの調査があるからだ。
■肥満と認知力
体重と認知力との関連性は本質的なところであきらかになっていない。これを探った研究は数が少なく、結論に至っていないからだ。肥満とアルツハイマー病になるリスクとの関連性についても相反する結果が報告されている。あるものはリスクが増加するとし、あるものはリスクが減少するとしているのだ。たぶん、体重が認知力に与える影響は小さいのだろう。この相反する結果を生む別の要因として、被験者が太り過ぎになったときの年齢も問題になるだろう。
体重という指標では、認知症になるリスクを矛盾なく予測することはできないことを示す研究もある。高いBMI(肥満度指数)が、若い頃は認知症になるリスクを増加させるが、晩年になると減少させるからだ。この結果に関しては、晩年における体重減少は、(リスク要因ではなく)認知症の初期症状ではないかとする指摘がある。
最近行なわれた38に及ぶ研究の再調査も、中年期の肥満と晩年の認知症には関連性がないとする。同じ研究は一方で、肥満と認知力そのものとの間には関連性があるとする。肥満している人は、いわゆる実行機能、つまり、計画力や推理力、問題解決能力などが低い傾向にあるからだ。実行機能の低下は食習慣を乱して体重増加につながりやすい。また、体重が増加すると、生物学的なメカニズム(炎症、脂肪の増加、インスリン抵抗性)を通して次々と脳に悪影響を与えるだろう。しかし、肥満したから認知力が低下するのか、認知力が低下したから肥満するのか、その因果関係はわかっていない。
好ましい行動指針は、どちらか一方を選ぶのではなく、肥満と認知力の両方に注意を払うことである。これは、この本の主要テーマにつながっていく。万能薬を使った解決を期待するより、認知力に影響を及ぼす主な要因に効率よく取り組むほうが、意味があるからだ。
■まとめ
●脳は全体重のうちの2%しか占めていないが、全体の25%のグルコースを消費している。エネルギー要求量がとてつもなく大きい器官であり、認知機能の良し悪しに私たちが食べたものが影響することを示す理由のひとつになっている。
●栄養素が脳に与える影響は、短期間(エネルギーが急増し、その結果、よく脳が働くようになる)だが、長期間に及ぶ場合もある。たとえば、地中海食(野菜、フルーツ、シリアルをたくさん、魚は適度に食べ、アルコールも適度に飲む、乳製品と肉類は少なくする)に忠実に従っていると、認知力が低下するリスクと認知症になるリスクを減らす。
●健康的な人が、安全かつ効果的に認知力を向上させるサプリメントは確認されていない。ふだんの食のあり方がなによりも大切だ。
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