1. 2015年11月06日 09:52:23
: OO6Zlan35k
アジア・中東で圧倒的に抜きん出た日本とイスラエル 中韓にノーベル賞が取れない理由〜画期的だったトルコ初受賞 2015.11.6(金) 伊東 乾 ノーベル化学賞、スウェーデンなどの3氏に DNA修復の研究 2015年ノーベル化学賞を受賞した3人〔AFPBB News〕 ?毎年10月になるとノーベル賞、ノーベル賞と騒ぎ立てられますが、皆さんは昨年のノーベル賞が誰に授与されたか覚えていらっしゃるでしょうか??全部で6賞、十数人も「新ノーベル賞受賞者」が誕生しているわけですが、私の身の回りでは1人も思い出せないという人が少なくありません。なぜでしょうか・・・? ?業績への理解などが深くなれば、忘れたくても忘れられなくなります。報道のレベルが浅いことが一因ではないかと思うのです。 ?実は昨年のノーベル医学・生理学賞は私が大学で主催している音楽研究室の仕事とも関わりのあるものでした。その内容も記した、本当は昨年末に出るはずだ った新書が、ようやく今年の11月に公刊の運びとなりました。 ?仕上げに1年かけたわけで、我ながら良い出来上がりになっていると思います。というのは私が良いのではなく、編集者が良いのです。 ?筑摩新書「聴能力!」。これに関連する話題も追ってご紹介したいと思いますが、この中でも触れるような「ノーベル賞業績」に、話を戻して、より多角的に、問題を深く考えてみたいと思います。 喉から手が出るほど賞が欲しい中国と韓国 ?中国や韓国が喉から手が出るほど欲しがる自然科学系のノーベル賞。しかし、今年の医学・生理学賞を中国が得るまで、評価に値するとされた業績はありませんでした。 ?では、どうすれば、ノーベル賞が取れるのか? ?「取りたいと思っている程度の人には取れない」といった説明の仕方ではなく、もっとそのものずばりの表現でお話したいと思います。 ?ノーベル賞を取るには「ノーベル賞級の業績を挙げればよい」。以上、終わり、です。 ?決して人をおちょくっているわけではないのです。ノーベル賞を授与するに相当するような「重要な攻略目標」を立て、それに「確実な方法で答えを導く」ことができれば「ノーベル賞級の業績」として、世界の認めるウエイティング・リストに載ることになります。 那須の与一があっぱれな理由 ?「那須の与一」の逸話をご存知でしょう。源氏と平家が争った「屋島の合戦」で、扇の的を見事に弓やで射抜いたと伝えられる人物です。 ?この逸話を引いて説明するなら、最初からまず「ノーベル賞級の目標」という的を狙わなければ、評価されることはありません。 ?仮に与一が、屋島を飛ぶカモメを射落としても、平家と源氏敵同士の双方から「あっぱれ」と言われることはない。 ?と同時に、適切な的を狙いつつ、確実にそれを射落とす弓と矢の力、つまり方法がなければ、評価に値することはありません。 ?2014年、日本国内を騒がしたSTAP細胞詐欺事件を例に取ってみれば、酸に漬け細いチューブを通すなど、ごく簡単なストレスを与えるだけで、体の組織に分化した細胞が万能の幹細胞に戻るとすれば「現象レベルで」ノーベル賞級の業績と言うことができるでしょう。 ?つまり「的」はなかなか立派なものが掲げられていた。 ?しかし、実際はどうだったか? ?方法がなかった。特定の個人が実験すれば再現される、として、ES細胞を使ったおかしな改竄データのインチキは発表されても、万人が地球上のどこで追試しても必ず再現されるファクトは一切示されることはなかった。 ?つまり「弓」もなければ「矢」もなかった、ということです。 ?しかし、いまここで記した「万能細胞作り」という業績が「現象レベルで」立派な仕事と記した部分に注目してほしいのです。つまり、個別の「現象」を超えた「本質レベル」で評価される仕事というものがあるのです。 ?個々の現象は素晴らしい、でも「本質的に」より優れているとはどういうことか・・・? ?「そんなの水かけ論だよ」という人もいるかと思います。が、こと自然科学、特にノーベル賞の自然系3賞を得る仕事の大半には、その「本質的に卓越した業績」という性格が強く表れているのです。 ?その「本質」とは何か・・・?? ?「自然法則」の大原則に照らして新しい現象、例外的な出来事、法則の根幹を揺るがすような仕事は、単に既知の自然法則の応用に過ぎない仕事より、科学の未来に明らかなインパクトを与えます。 ?例えば東京大学の梶田隆章さんが評価された「ニュートリノ質量」の確認は、今日の標準的な素粒子理論の枠組み、さらには私たちが知るこの宇宙の構造そのものを考えるうえで、根本的な再検討を求める、極めて「本質的」な仕事です。 ?私の元同級生の浅井祥仁君(東大教授)たちが検証した「ヒッグス粒子」の検証実験も極めて「本質的」、いつノーベル賞が来てもおかしくないとは、そういうことを言っています。 ?そういう「現象レベル」ならびに「本質レベル」でノーベル賞級業績と言われるものがどういう品格ある研究であるか、今年のノーベル化学賞を例にお話してみましょう。 DNA修復:その現象と本質 ?今年のノーベル化学賞はスウェーデンのトマス・リンダール、米国のポール・モドリッチ、そしてトルコのアジズ・サンジャルの3氏に与えられました。 ?受賞の対象とされた業績は「DNA修復機構の解明」この共通項がいわば「本質」に近い部分ですが、3氏の業績は各々独立したもので、共同研究者として一緒に仕事したというようなものではありません。 ?3氏の仕事を簡単に振り返っておきましょう。 ?リンダール博士は、遺伝暗号を記している「文字」の一つひとつにミスがあるとき、それを修復する機構を1970年代に始めて見つける仕事をしました。 ?ヒトの遺伝子は極めて複雑な情報としてDNAの中に記されています。これを何回となく「コピー」しながら、私たち生物は自分の体、そして種族全体としての生命を維持しているわけですが、この遺伝暗号は物質として極めてもろいのです。 ?ヒトの「核ゲノム」は約31億対の塩基対でできているとされます。ここでは「約31億文字のお経の巻物がある」と考えることにしましょう。これを写経する、あるいは暗記して誰かに伝言ゲームで伝えるとしたら・・・。 ?すべて完璧というのは、相当難しいのは誰しも分かることでしょう。 ?実際にはDNAは分子ですから熱的に振動しており、コピーの度ごとに「印刷ミス」があっても何の不思議もありません。この活字一つひとつ(塩基レベル)でのミスを細かに直す「植字工」のようなメカニズムを世界で最初に発見したのが、リンダールさんの素晴らしい仕事です。 ?これに対して「活字」一つひとつではなく、まとまった文としての下記間違いを訂正する方法を見つけたのがモドリッチさんたちの仕事です。 ?1980年代初頭、遺伝暗号の「文章単位」での間違い(ヌクレオチド・ミスマッチ)を丸ごと修復する機構をモドリッチさんたちのグループは発見、実証しました。活字一つひとつのミスを直すのも大事ですが、文章単位でのミスがあると、DNAという写経の「巻物」自体がおかしなことになってしまいます。 ?周知のとおりDNAは二重らせんの構造を持っていますが、おかしな部分が混ざっていると綺麗に2重螺旋になりません。もつれ絡まった糸玉のようなことになってしまうと、きちんとした遺伝暗号として機能できなくなってしまいます。 ?「活字レベル」での修復と一段異なる、より大きなレベルでのDNAの校正という、やはり大きな仕事をしているわけです。 ?これらの仕事はDNAの「印刷」・・・複製・・・に関連してのミスの修復ですが、そうではない種類のアクシデントも起こり得ます。「被曝」です。 ?広島や福島の問題のみならず、私たち地球上で生活する生き物は太陽の光や降り注ぐ宇宙線と無関係に存在することができません。と言うより、太陽がなければ地球上に生命が生まれることも、発達することもできなかったでしょう。 ?アジズ・サンジャル教授は、リンダール博士やモドリッチ博士の仕事とまた違う本質、つまり、生きとし生けるものが太陽などの光を浴びることによって必然的に生じるDNA異常の修復を解明するという、別のレベルの深い本質に直結している。 ?こうした3つの仕事を大きく括る「本質への入り口」がDNA修復という今年のノーベル化学賞の「テーマ」だったわけです。 受賞後の活躍を期待される「指導的科学者」 ?特にサンジャル教授の受賞は記念すべきものと思います。彼は自然科学分野でノーベル賞を受賞した最初のトルコ人サイエンティストとなりました。 ?彼以前には2006年に作家のオルファン・パムクがトルコ人として最初のノーベル賞を文学賞で受けています。 ?パムクはトルコ国内で長年タブーとされてきたアルメニア人・クルド人への虐殺問題に触れ、国際的に大きな波紋を呼び起こしました。国内で多くの批判を受けましたが、国際的に高い人道的見識を持つ作家として、ノーベル賞はパムクを高く評価したものです。 ?その意味でサンジャル教授はもっとギリギリのところから出発し、社会的にも大変な苦労の末、科学に大きな成果をもたらしています。 ?写真をひと目見れば分かる通り、サンジャル教授はいわゆるトルコ系の顔をしていません。アラブないしクルドの血を引いている可能性があり、そうしたインタビューを幾度も受けています。 ?そんなとき、彼は毅然として、 ?「私はトルコ国民であって、それ以外の何者でもない」「中東の民族対立を面白おかしく取り上げる西側メディアは深く反省してほしい」 ?と、世界市民的で強力な発言でジャーナリストを返り討ちにしたことが伝えられます。なんて立派な方だろう、と感心しないわけにはいきません。 ?トルコ最南東部のマルディン県の貧しい家庭で、8人兄弟の7番目として彼は生まれました。トルコ系、アラブ系、クルド系そしてシリア系と民族が入り混じった、非常に難しい地域の出身で、顔から見るかぎりサンジャルさんにはクルドの血統も入っているように見えます。 ?クルドは20世紀初頭、オスマントルコ帝国が解体されたとき、帝国主義列強の都合から「国を否定された」悲劇の民族にほかなりません。 ?2015年10月、東京のトルコ大使館前でトルコ系とクルド系の住民間で乱闘がありました。その背景とノーベル化学賞が直結するものであると、本当は私たちは反射的に気づくべき、そういう、心に痛みをもつ人に敏感であるべきと思います。 ?サンジャルさんのご両親は文字を読むことができなかったそうです。でも子供たちの教育に大変熱心で、アジズはイスタンブール大学で医学を修めます。 ?ただちに渡米し、1977年に大腸菌の光反応性酵素の研究で学位を取り、その後も一貫して「光と生命」の本質を追求する仕事に貢献してきました。DNA修復も大きな仕事ですが、彼の研究文脈の中では複数の本質が交差する1つの業績という位置づけになるでしょう。 ?トルコ学士院メンバーに加え、トルコ人として初めて米国科学芸術アカデミー会員にも選ばれたサンジャル教授に、21世紀の指導的科学者として中東と世界を結ぶ大きな期待が寄せられています。 ?それは、彼が多くの悲しみと苦しみを体で知る人物で、本当に大変なところで生まれ育ち、そこから人類の未来を開く偉大な業績を挙げた、真の意味での指導者として知られているからだと思います。 「本質の本質」科学における永遠の問いに連なって ?いまサンジャルさんの仕事で「光と生命」という「本質」と記しました。実際サンジャルさんは「DNA修復というノーベル賞級の業績を挙げてやろう」なんて汲々としていたセコい器ではなかった。 ?彼は生物の上に満遍なく降り注ぎ、そこに恩恵を与えると同時に、様々なリスクも与え得る「両刃の剣」光というものに照らして、生命現象の本質を分子生物学の土俵のうえで幅広く考える、本当に本物の知性だと思います。 ?察するに、彼の両親は文字は読めなかったかもしれないけれど、非常に心の深い人たちだったのでしょう。生半可で小手先のやっつけではなく、サンジャルさんの深い洞察と幅広い知見は、研究からも、また社会全体の動きに対しても、ぶれることなく確かな重みを持っています。 ?生物は一方で、DNAという巻物で個体と種の命をつなぎます。と同時に、この巻物は極めて壊れやすい、いわば「柔らかい」素材でできていて、光を浴びただけでもすぐに「変色」してしまう。そうなると、元と完全に同じ情報を伝えることができなくなる。 ?さて、ダーウィン以来の進化生物学は、一方でオランダのド・フリース(1848-1935)が発見した突然変異のように、紫外線などの光その他の影響でDNAに様々な変化を受けて進化=変態し続けるとともに、DNAの二重らせん構造を発見したフランシス・クリック(1916-2004)の唱えた「セントラル・ドグマ」が導く、普遍なる遺伝暗号の転写によって個体が分化し、種が保存されるという、実は矛盾する2つの<本質的な原理たち>の間で揺れ動いてもいるわけです。 ?リンダール、モドリッチ、サンジャルの3氏とも、発見した事実は個別の業績として「現象レベル」で大変な仕事、「ノーベル賞級」は30年前から分かっていた話です。 ?と同時にこれらどの業績も、より本質的な自然法則、もっと言えば「生命とはいったい何なのだろう?」「遺伝子という不安定で柔らかい、あいまいなメディアを使って、生物はどうして自己を保存しつつ、進化というジャンプも継続し続けてこられたのか?」という、いわば「複数の本質が交差する超弩級の問い」にも、大きなヒントを投げかけているわけです。 ?自己が自己でありながら、自己でないものに変化するとき、大半は死滅しつつ、一部は「進化した新しい種」として残っていくという不思議。 ?例えばこの問いに発して「ガンとはいったい何なのだろう?」と問う研究の「知の品格」を考えてみてほしいのです。 ?「ガンが治ったら素晴らしい」。それは間違いありません。 ?「ガンの特効薬ができたら儲かるぞ!」。製薬業界などは当然そう考えるでしょう。 ?しかし、ゲノムで見れば私たち自身以外の何ものでもない中から<そうでないもの>として、放置すれば私たち自身を死に至らしめる「ガン」も生まれれば、やはり<そうでないもの>でありながら、優れた形質として遺伝的に残っていくものも現れる。 ?ダーウィンは「自然淘汰」「適者生存」という生命世界の冷徹な大原則を示しましたが、その分子生物学的な詳細はいまだ全く分かっていないと言っても大げさではない。 ?シュレーディンガーやデルブリュックといった先達が生命現象を物理の透徹した観点から捉えたとき、最初から指摘されてきた<永遠のなぞ>と言うべき、本質的な問いがここにあります。 ?「今年のノーベル賞はDNA修復だそうだ」 ?「へー、それって何の役に立つの??儲かる?」 ?そういうレベルではない、終わりのない深い知の問いがここにあります。リンダール、モドリッチ、そしてサンジャルの3氏とも、そうした哲学的に深い彫琢に満ちた受賞講演を、ちょうど今頃準備しているのに違いありません。 ?こういう観点を共有できる社会、人材、また研究行政の体制などが整えば、5年や10年が大きな成果を上げるのに十分な時間になり得ます。 ?幸か不幸かアジアを見渡せばどうでしょう? ?アジアに関して言えば、中国、南北朝鮮、台湾、ASEAN(東南アジア諸国連合)の国々など、多くの場所でこうした深い根がいまだ共有されていない。 ?日本は圧倒的に例外であるのが分かるでしょう。 ?では中東に目を向けると・・・。イスラエルが例外的であることが分かります。 ?いまサンジャルさんがトルコ人として最初の自然系ノーベル賞を受賞したとき、グローバルなバランスの中で人類と科学の発展的な明日を考えるのは、意味があることだと思います。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45148
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