1. 2015年10月27日 03:29:56
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おしっこで癌を発見:日本が生んだノーベル賞級研究 中韓にノーベル賞が取れない理由〜九州大学の広津崇亮氏の卓見 2015.10.27(火) 伊東 乾 ブリュッセルの小便小僧は本物?「身体検査」で鑑定へ ベルギーの首都ブリュッセルのシンボル「小便小僧(マヌカンピス)」〔AFPBB News〕 中国や北朝鮮から、現在まで、また今後も当分「ノーベル賞クラス」の抜本的な基本業績が生まれてこないのには理由があります。 それは、あらかじめ「正解」とされるものにタガが嵌められており、「党の方針」や「首領様の考え」に一致しないものは、そもそも研究の対象から排除されてしまう可能性が高いから。 しかし、これを日本人が他人事と言えないリスクも存在します。ペーパーテストの弊害です。 つまり「党」や「首領様」に関係なくても、すでに存在する「正解とされるもの」あるいは「前例」「前任者がそうしているから」といった慣例の無批判な繰り返しに終始すれば、日本だって中国や北朝鮮の陥る弊害に、簡単に引っかかってしまうと思います。 そこで、以下では私がごく最近目にして、たぶんこの先にノーベル賞につながる成果が出るだろうと見当をつけた業績を1つご紹介してみたいとおもいます。 100円ガン検査:患者の尿に集まる線虫 九州大学理学部の広津祟亮(助教)先生は、面白いことを考えました。 「なぜ人は、花の香りとおならの臭いを、混同しないのだろう?」 澁澤龍彦の小説「高丘親王航海記」には、美しい夢を食べたバクがピンク色のおならを発し、それが甘美な香りを漂わせるという話が出てきますが、現実の世界に生きる私たちは、決しておならと花の香りを混同しません。 だから、トイレの芳香剤に花の香りのごときものが多いわけではないでしょうが・・・。 生物は「香り」をどのように識別しているか、その研究の「モデル生物」としてCエレガンスという「線虫」が世界的によく使われています。 広津先生は、人よりはるかに鋭敏な臭覚を持つ「線虫」を使って「花」と「おなら」を嗅ぎ分けさせてみよう、と思い立った・・・らしい。 九州大学理学部とはご縁がありますが、残念ながら広津先生は存じ上げません。しかし業績やそれが持つ意味、科学的な広がりなどは、瞬時にして分かる部分があります。 広津先生は「おなら」ではなく人間が発する別の「におい」に注目しました。ガン患者のおしっこの持つ特異臭です。 ガンに限らず、特定の病気にかかると特徴的な体臭などがする場合があります。例えばパーキンソン病の患者には、それと分かる特有の体臭がある。 臭いがあるということは「臭い物質」を発生しているということほかなりません。つまり病気の作用で生成される特定の物質が「におい」、それを私たちの鼻が感知するというわけです。 大して鋭敏でもない人間の嗅覚でも捉えられる「特有のガン尿臭」。ましてヒトの何倍も優れた嗅覚を持つ線虫、Cエレガンスなら、何らかの反応をするに違いない・・・。丁寧に科学的に考えられた準備を持って「線虫によるガン尿の臭覚」研究がスタートします。 それ以前に、様々な「におい」に対する線虫たちの挙動を、広津先生は細かく調べておられます(2014年)。 シャーレの中に健常者の尿から採ったサンプルを入れても、線虫たちは全く興味を示しません。 ところが、ガン患者の尿から採ったサンプルを入れてみると・・・。線虫たちはそこから「何か」の臭いを嗅ぎつけ、わらわらと集まって行くことが確認された。念のため、臭覚が利かないようにした線虫で実験してみると、そのような反応は起きなかった。 2015年、今年の3月に発表された、この成果は、見る人が見れば明らかな、ノーベル賞クラスの業績一直線の、金の卵中の金の卵、本当にオリジナルな成果で、今後の展開が非常に楽しみな「日本のサイエンスの宝」の1つと思います。 こういう成果を、権威でもへったくれでもなく、「党の方針」とも「首領様の偉大な指導」とも無関係に評価できる「健全なサイエンス」日本の科学力こそが、東アジアでは例外的と言わざるを得ない、高度な創造性をキープさせているのです。 素朴なファクトから偉大な成果へ 仮に中国共産党が全人代の決定として「花の香りとおならのにおいを識別する」科学を是認するだけの器量を持っているでしょうか? あるいは首領様が人民を指導するうえで「おしっこの臭い」に注目せよ、と国家に大号令をかけるだろうか? どちらかと言うと衆愚的なイメージを優先する、悪い意味で「かっこしい」これらの国々で、おならの臭いを長さ1ミリの虫に嗅がせる研究を進めるかと問われれば「疑問」としか答えようがありません。 また党是などで「おならこそ研究すべき」などと「体臭大躍進」など決議しても、奇妙と言うより滑稽なことにとなるに違いありません。 広津先生のこの研究は、明らかに勝算があると思います。 と言うのは、Cエレガンスという「線虫」は人類が手にしている数少ない「モデル生物」の1つで、すべてのDNAが解読され、すべての細胞が把握され、それらがどのように成長していくかも分かっているという、とんでもない代物なのです。 つまり、分子レベルでの「臭いの元」の把握が、時間に比例する成果として期待できると思われるからです(実際にはやってみないと分からないと思いますが)。 これを鋭敏なセンサーとして臭覚研究しようというとき「ガン患者の尿臭」に注目したというのは、非常に秀逸な着眼点と言うべきです。 で、こういう自由闊達な研究を、全体主義国家の「研究指導部」が許容できるか、と考えてみてください。 研究室内で行われる、一つひとつの実験にあれこれ口を出すような体制の中で「動物におならの臭いを嗅がせてみたら・・・」なんて実験は「ブルジョア的な反革命分子」などと科学と無関係なレッテルを貼られる可能性も高いのではないか、と心配になってしまいます。 科学というのは19世紀英国では「貴族の遊び」だったのです。ブルジョア的と言われればそのとおりかもしれない。 また「猫におならのにおいを嗅がせたら、嫌な顔をするかな?」なんていうことは多くの酔っ払いが考えそうなことですが、それをまじめに研究する高度なシステムを普通の酔っ払いは知らないし持っていない。 さらに、ガン患者の尿には特有の臭い、という事実は、非常に多くの臨床関係者が知っているにもかかわらず、それをきちんとサイエンスの土俵・・・誰がやっても同じ条件であれば常に同じ結果が現れる再現性という土俵・・・に乗せるということは、少なくとも広津先生以前の大半の人が考えつきもしなかった。 「加齢臭」というのがありますよね。あるいは様々な体臭。いやなもの、として扱われ「加齢臭を消す石鹸」なども広く売り出されている。 しかし、動物がそのにおいを出すというのは、何らかの必然性、理由があってのことで、決して意味がないことは生き物はしないものです。 フェロモンとして多くの個体に「不快」と思われる臭いを発しているとすれば、個人の意思を超えた「肉体の発する信号」として、種としてのヒトに何らかの情報を発信しているのに間違いありません。 それに敏感に反応できるか? 極微の差異に注目してターゲットを設定するとともに、それに最短の手順で行き着く方法を、脇の堅い形でさくさくと詰めていく・・・そうやって九州大学理学部の「ガンの100円検査法」は、比較的短期間に現在のレベルに到達したのだと思います。 囲い込むよりリードする「兄」へ 「線虫の臭覚を使ってガン患者の尿中に特有物質を検出」という科学的事実は、それを使って様々な発展研究が可能な、大変重要なファクトです。 しかし九大の広津先生は、検査技術として完備なものになった時点でそれを惜しげもなく世界公開された。 ガン患者の尿内にある「その物質」は何なのか? 時間の問題でそれは決定され、その追究レースは直ちに世界各国で始まっているはずで、またその物質がどのようにガン細胞から出てくるか、通常細胞から出ないのはなぜか、といったポイントから、ガン治療の新たな攻略法が見出される可能性もあるでしょう。 さらに、これを検出する鋭敏な臭覚を持つ「バイオセンサー」Cエレガンスは、あらゆるゲノムと細胞が把握されているモデル生物ですから、そこから副産物として多くの科学的知見が得られることも間違いありません。 ちなみにこのCエレガンスをモデル生物として確立したシドニー・ブレナーさんとは一度食事をご一緒したことがありますが、カニのコースで甲羅挙げをバリバリと甲羅ごと食べてしまい「それは違いますよ」と言っても「ああ、そう」と、当時77歳だったと思いますが、自前の歯で噛み砕いて平らげてしまいました。 ブレナー博士はDNAの二重らせん構造を見つけたクリック博士と隣の研究室で「これから分子生物学が発達すると、脳研究が一番重要になる」として、神経発達が明確に確認できるモデル生物として1950年代、いち早くこのCエレガンスを選び、こまかな発生を徹底して解明されました。 門下から「プログラムされた細胞死」アポトーシスという驚くべき現象なども明らかになり、仲間とともに2002年にノーベル医学生理学賞を受けています。毎年出るノーベル賞クラスより一段上の「戦略性」を持った人物として世界的に知られています。 元来、南アフリカにユダヤ系移民の子として生まれ、学業優秀だったので篤志家に奨学金を出してもらい、19歳で医学部を卒業、ご褒美の学術旅行で欧米の最先端生命科学を見る旅の途中で、まさにDNAの二重らせん構造を見つけつつあったフランシス・クリックと知り合ったことが、シドニーのその後の人生を決定づけたわけです。 こんな道のりは、誰かが計画して実現するようなものではない。 良くも悪しくも自由な体制のなか、志と能力を持った個人が懸命の悪戦苦闘を重ねる中からDNAの二重らせん構造も見つかり、そこから脳と神経系の「ゲノム科学」が必要だと直ちに考えついたシドニーの卓見があり、数十年の努力の末に驚くような成果が得られ、いまや完全なモデル生物となっているCエレガンス。 しかし、そのCエレガンスに、だれが「おしっこ」を一滴、垂らしてみようと思うか? という科学的発想の自由が決定的なのです。 それを許す体制もあれば、そういう自由を圧殺するローカルで無思慮な短見もあるでしょう。戦時中の軍事研究などでは、ビジョンのない上官がせっかく若い人が考えたすばらしい可能性の芽を多く摘んでいた。 それが戦後、AT&Tベル研究所のような自由な空気の中でいくつも花開いた、とは、ご本人がまさにその経験をされた故・猪瀬博先生(デジタル通信の基礎技術を確立:戦時中の旧軍時代には失敗しておられた)から伺ったことがあります。 広津先生は、広く役立つ「100円検査法」として臨床に使える形で世界に成果を情報公開しました。またご自身も、その後の研究に今日も勤しんでおられるに違いありません。 秘密主義で業績を囲い込むのではなく、成果を広く人類社会に還元して役立てる、優しい「兄さん」としての日本人科学者の面目躍如たるものが、ここにあると思います。 Cエレガンスを用いたガン尿特有物質の研究は、幾重にも複数のノーベル賞級業績のアーチに直結する金の卵にほかなりません。これをどのような「革命的何ちゃら」で合理化できるか、できないか知りませんが、どうでもよいことです。 今現在、北朝鮮にも中国にも、また意味は違いますが韓国にも、どれくらい、九州大学が持っている、この柔軟かつ科学の本質に照らして重要な基本姿勢を持っていることでしょうか? 最初の「シード」タネを見つけるのはもっぱら日本の役割。と言葉で言うのみならず、具体的な一例を挙げてみました。 こういう「ノーベル賞クラスのタネ」が、日本には率直に言って「無数」にあります。その蓄積は一朝一夕でなされたものではない。明治から21世紀に至る膨大な先人の努力、ファクトに対する誠実な姿勢がこれを積み上げてきたのです。 だからと言って、先人の遺産に胡坐をかいていればよいわけではありません。この先、どのようにしていくか、日本の未来を決定していくのは、今を生きる私たち日本人自身にほかならないのですから。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45079 |