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魚の油はなぜ体にいいのか? 最新研究で明らかになった「心臓保護」作用
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44951
2015.10.09 堀川 晃菜 JBpress
「魚の油は体に良い」
そんな魚の健康イメージを支えているのはDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といった「ω(オメガ)3脂肪酸」だろう。「頭に良い」とか「血液サラサラ」とか良いことばかり耳にするが、一体どこまで分かっているのだろうか?
「魚の油は本当に体にいいのか? そうならば、体内でどのように働いているのか」
これを確かめるため、従来とは異なるアプローチで研究を進めるのは、理化学研究所統合生命医科学研究センターの有田誠氏だ。近年、有田氏らの研究によって「新たなEPAの姿」が見えてきた。心不全の発症を抑制するEPA代謝物の存在が明らかになったのだ。
■イヌイットの食生活から注目され始めた「魚の油」
ω3脂肪酸が大きく注目されるきっかけとなったのは、1960年代にグリーンランドに住むデンマーク人とイヌイットの人々を比較した疫学調査だ。この調査では、イヌイットは心筋梗塞になるリスクが極めて低いことや、リウマチのように免疫細胞が自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患などにおいても、発症率が低いことが明らかになった。
血液を調べた結果、明らかになったのは、デンマーク人と比べ、イヌイットの血液では、DHAやEPAといったω3脂肪酸の割合が高いことだった。反対に、デンマーク人で多く、イヌイットでは少なかったのはアラキドン酸などの「ω6脂肪酸」だった。
ω3脂肪酸とω6脂肪酸は、いずれも栄養として摂取しなければならない「必須脂肪酸」だ。デンマーク人とイヌイットにおける両者のバランス差を生み出していたのは、食事だった。デンマーク人が牛肉を食べるのに対し、イヌイットの主食はアザラシ。そのアザラシの餌が魚、というわけだ。
「どうもこれが急性心筋梗塞のような突然死を防ぐ要因になっているのではないかと考えられたわけです。“良い油・悪い油”という考え方が生まれたのも、この頃からでしょう」と有田氏は話す。
1999年、2007年には、高濃度のω3脂肪酸を心筋梗塞の経験者や、高コレステロール血症の患者に投与すると、心臓の機能や血管の機能が改善したことが報告され、「イヌイットの人々が急性心不全になりにくいこと」が裏付けられる形となった。
ω6脂肪酸のアラキドン酸が代謝されると、炎症を促進する働きを持つ物質や、血液凝固作用のある物質が生成される。ω3脂肪酸のEPAはこれらが生成されるのを阻害することで、炎症を抑制し、血も固まりにくくすると考えられている。
「EPAにはこうした“間接的な”緩和作用があるというのが長年、中心にあった考え方です。これも重要な作用の1つであることに違いはありませんが、他にも、もっと直接的な働きがあるのではないかと思ったのです」
■代謝のブラックボックスに迫る
有田 誠 氏。理化学研究所 統合生命医科学研究センター 統合計測・モデリング研究部門 メタボローム研究チーム リーダー。薬学博士。東京大学大学院薬学系研究科修了後、米国ハーバード大学医学大学院インストラクター、東京大学大学院薬学系研究科准教授を経て 2014年から現職。横浜市立大学大学院生命医科学研究科分子エピゲノム科学研究室客員教授を併任。
「私たちが“何かを食べて体に効いている”というのは『食べたもの』と、その『結果』だけを見ていて、その過程はブラックボックスです。入口と出口しか見えないのです」と有田氏は言う。
では、ω3脂肪酸に機能性のある代謝物があるとしたら、どんな物質なのか。そして、その物質はどのように機能するのか。こうしたメカニズムを分子レベルで解明するには、従来の研究の問題点もいえる2つの壁があった。
1つめの課題は「外部からω3脂肪酸を投与する実験の精度や再現性の問題」。もう1つは「代謝の全体像を把握できていなかったこと」だ。そして有田氏にはこれらを克服する2つの“武器”があった。
ω3脂肪酸を体内で作れるマウス
まず、実験精度や再現性の問題だが、ω3脂肪酸の効果を検証するために、数多く行われてきた実験は「食べたらどうなるか」または「投与したらどうなるか」をみるものだった。
例えば、コーン油と魚の油、それぞれを含んだ餌をマウスに食べさせて比較する場合、「魚の油」といっても、世界中の研究室で同じものを使っているわけではない。ω3脂肪酸の純度が均一でなければ、不純物の影響も否めなくなる。第一、油は酸化しやすく、化学的に変質している可能性もある。
これではω3脂肪酸とω6脂肪酸のバランスを人為的にコントロールすることは難しく、「ω3脂肪酸の効果」を示すには、それ以外の影響因子となりうるものを排除する必要があった。
そこに登場したのが、ω3脂肪酸を合成できる線虫のfat-1遺伝子を組み込んだ「fat-1マウス」だ。
fat-1遺伝子は、二重結合を導入する酵素の遺伝子で、この酵素によって、例えばアラキドン酸(ω6脂肪酸)はEPA(ω3脂肪酸)に変換される。つまり餌を含め、全く同じ飼育条件で、異なるのは「ω3脂肪酸の比率だけ」という正確な対比が可能となったのだ。
線虫のfat-1遺伝子を導入したFat-1マウスではω6脂肪酸(アラキドン酸)がω3脂肪酸(EPA)に変換される。(有田氏より提供の図を改変)
通常は、外科手術でマウスの大動脈を狭めると、心臓に持続的な負荷(圧負荷)がかかる。これを上回る圧量をかけて全身に血液を送ろうと心筋を太くする(心肥大)が起こる。
さらにこの状態が続くと、炎症を伴う心筋組織の「線維化」が起こる。線維化は、内臓などを構成する繊維に富んだ組織が異常増殖することで、心臓で起こると伸縮機能の低下を招き、やがて心不全に至る。
ところが、fat-1マウスでは、適応反応である心肥大は起こっても、その後の心筋組織の炎症と線維化が強く抑制された。この結果から、心臓に負荷がかかった際に、ω3脂肪酸が心臓を保護することが示された。
■全貌を明らかにするメタボローム解析
しかし、これだけでは、そのカギとなる物質の正体が明らかになっていない。ω3脂肪酸が寄与していることは確かだが、EPAなのかDHAなのか、それらの代謝物なのか。その機能を持つ物質は1つなのか、複数あるのかといった部分が分からない。ここで登場する2つめの武器が「メタボローム解析」だ。
メタボローム(metabolome)とは、代謝物(metabolite)と「すべての」という意味の(-ome)を合わせた言葉で、メタボローム解析は「代謝物の網羅的解析」を指す。分子のサイズを調べる質量分析や、物性を調べるクロマトグラフィーなどを組み合わせ、化合物を特定する。
代謝の過程は必ずしも直線的なA→B→Cという流れとは限らず、B→Cにも、B→Dにも枝分かれするようにして、同時並行で複雑な流れをしていることもある。そのため、1つの反応だけを追跡していると、それ以外の部分を見落してしまうおそれがある。全体像が見えなかったのだ。
「従来は、手掛かりのある部分のみにターゲットを絞って調べていて、それ以外は暗闇に隠れていた」と有田氏は言う。
追い風となったのは、90年代の後半から現在に至る飛躍的な質量分析技術の向上だ。生物試料も簡易に分析できるように応用が進んだのだ。有田氏は2006年からメタボローム解析技術の開発に着手し、これまで知られていなかった脂肪酸代謝物の存在を明らかにしてきた。現在ではω3脂肪酸から生成する代謝物を包括的に解析する世界最先端の分析システムを確立している。
「大切なのは、頭で考える前に手を動かし、自然に直接問いかけてみることです。あえて狙いを定めずに、先入観なしに測定結果を眺めてみることで、視野が広がり、全体像や相対的な関係が掴めるようになってきました」
先述のfat-1マウスと、メタボローム解析。この2つの武器を組み合わせることで、ω3脂肪酸が「どの臓器で、どのように代謝されて、どんな機能を示すのか」といったことが研究できるようになったのだ。
■心臓の線維化を抑えるEPA代謝物の正体
fat-1マウスの細胞を採取し、メタボローム解析を行うことで浮上してきたのは、EPAの代謝物である「18-HEPE(ヒープ)」という物質だった。
この物質は、fat-1マウスの細胞には大量に含まれていたが、通常のマウスからはほとんど検出されなかったのだ。そして、活性を評価する実験を経て、最終的に18-HEPEが心臓の線維化を抑えることが示された。
こうしてEPAの新たな活性代謝物を明らかにした有田氏だが「1つのメカニズムを解明することはできましたが、これで全ての説明ができるとは思っていません。体内で生成するあまたのEPA代謝物のうちの1つの機能が明らかになった、という段階です」と話す。
現在、有田氏らはfat-1マウスとアルツハイマー病の疾患モデルマウスを組み合わせ、ω3脂肪酸と認知機能との関係についても研究を進めている。
■自分ではω3脂肪酸を作らない哺乳類や魚類
最後に、素朴な疑問が湧いた。ヒトやマウスに限らず、実は魚も自分でω3脂肪酸を作れないのだ。そこまで大事な物質なら、なぜ自分でまかなえないのか?
一方で、ω3脂肪酸を合成できる生物もいる。線虫の他、海洋微生物のラビリンチュラ類や微細藻類、植物などが知られている。これらを餌にする魚の体内にはω3脂肪酸が多く含まれると考えられている。アザラシを食べるイヌイットの例を思い返せば、まさに食物連鎖の賜物と言えるだろう。ある意味、必須栄養素としてのビタミン類の役割と似ている。
では、魚類や哺乳類は、あえて自分ではω3脂肪酸を作らないのだろうか。
「ω3脂肪酸は炎症の抑制に働きますが、そもそも炎症は悪なのか? 炎症は感染症など外敵から生体を防御するための反応です。強い炎症反応が起こりにくいfat-1マウスは、もしかしたら感染リスクの高い野生で生き残るには不利なのかもしれません」
“いいことづくめ”のω3脂肪酸だが、適切な量やバランスを考慮しないと問題点が見えてくるかもしれない。だが、極端に心配する必要もなさそうだ。
「食事として摂取している限り、過剰ということにはならないでしょう。むしろ現在の日本人では不足気味ですからね」と有田氏は語った。
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