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ショック! ペットを飼ったら「胃がん」になる 顔をペロペロされるのは危険です
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45331
2015年09月21日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
ペットを飼っていれば、顔や手を舐められることは日常茶飯事。だが、その行動が飼い主であるあなたの寿命を縮めるかもしれない。そう知っていても、まだスキンシップを続けられるだろうか。
■そのキスが命取り
「そんな危険があるなんて知りませんでした。私は、普段からうちの犬には顔を舐められないようにしていますし、犬が使った食器と人が使った食器を洗うスポンジは別々にしていますが……。
でも、犬って、いくら言っても人間の手足や部屋にあるものを舐めたりするじゃないですか。うちの夫なんて、ペロペロと舐められてもされるがままなんで、今後は夫にも気をつけるように言わないと」
動揺するのは、コラムニストの山田美保子氏だ。ミニチュア・ピンシャーを飼っている愛犬家の山田氏が驚いたのには訳がある。
なんと、ペットを飼っていることで「胃がん」になる可能性があるということが明らかになったのだ。
犬好き、ネコ好きの人なら誰もがショックを受けるこの事実は、今年6月の日本ヘリコバクター学会で発表された、北里大学薬学部の中村正彦准教授らのグループによる研究が元になっている。
胃がんを引きおこす原因とされているのが、「ヘリコバクター・ハイルマニイ」(以下、ハイルマニイ)と呼ばれる細菌だ。
この細菌は、胃がんの原因として知られるピロリ菌の亜種にあたり、胃MALTリンパ腫という胃がんの一種を発症させると考えられている。
たとえ、ピロリ菌に感染していない人でも、胃がんを発症することは少なくない。そのような人は、ペットを経由してハイルマニイに感染している恐れがあるというのだ。
実際、中村氏らが行った調査によると、日本全国のピロリ菌陰性患者で胃MALTリンパ腫を患っている人の6割がハイルマニイに感染していたという。
中村氏らの共同研究者である、北海道大学大学院医学研究科特任講師の間部克裕氏が語る。
「ハイルマニイ感染者はピロリ菌感染者に比べて、胃MALTリンパ腫が発症する確率が7倍も高くなったというデータもあります。胃MALTリンパ腫は一般的ながんとは違い、原因となる菌を除菌することで治る確率が高くなります」
ハイルマニイは主に犬やネコ、豚など、ペットや家畜として飼われている身近な動物から感染すると考えられており、中村氏も「ペットを飼っていることは、現状分かっている唯一の危険因子だ」と指摘している。
以前からペットを飼うことで感染の危険があることは言われてきた。'94年のドイツ人研究者らの論文によると、ハイルマニイ陽性患者125人のうち、7割が動物との接触歴があったという。
しかも厄介なことにこの細菌は感染力や毒性も強いのだ。
では、ペット愛好家を脅かすハイルマニイは、どんな時に人に感染してしまうのか。
まず、最も危険性が高いのが口の周りをペットに舐められる行為だ。もちろん、ペットとのキスも危ない。感染している犬やネコを見た目で見分けることができればいいが、それも難しい。
「細菌を持っているペットとの濃厚な接触、つまり口の周りを舐められたり、口移しで食べ物を与えたりといった行為で感染することがあります。特に粘膜と粘膜とが触れるほどの濃厚な接触は、感染の確率が高くなります」(麻布大学獣医学部教授の宇根有美氏)
冒頭の山田氏のようにペットに顔を舐められないように気をつけていれば安心かというと、それだけでは完全に防ぐことはできない。直接的な接触ではなくとも、間接的に感染することもあるからだ。
■家族にもうつる
ペットと食器を使いまわしたり、自分が食べている物をペットに舐められたりして、間接的に唾液が体内に入ってしまえば同じこと。菌を持った動物に舐められたあと、他の人とキスをすれば、相手が感染する可能性もゼロではない。
知らぬ間に感染していたり、自分が意図せずに恋人や家族にうつしてしまう可能性は常につきまとっている。
フンや吐瀉物を手袋なしで処理することも非常に危険である。なぜなら、この細菌は排泄物にも潜んでいるからだ。
例えば、ネコはお腹の中の毛玉を吐くために、よく部屋に吐瀉物を撒き散らしてしまうことがある。それを何の気なしに、手近にあったティッシュを使い、素手で片付けている人は、かなり危ないことをしている。
ペットのフンを処理するときは必ず手袋を着け、片づけ後は水洗いだけでなく、石鹸や消毒液を使うことを心がけたい。
それ以外のルートからの感染もあると話すのは、川崎医科大学と川崎医療福祉大学で特任教授を務める春間賢氏だ。
「他のヘリコバクター属の菌では、ハエから細菌が検出されたという報告もありました。これはハイルマニイでも同じこと。つまり、細菌をもった動物が残したフンにたかったハエが細菌を食べ物に運び、それを食べた人間が感染するというケースも考えられるのです」
愛好家の中には、ペットを何頭も飼っていたり、小さなワンルームで飼育している人もいる。そういう環境だと、ペットの唾液が周囲のものに付着する機会が必然的に増えるため、感染する可能性はより高まる。
そして感染の危険度を考えると、大人より、子供のほうが動物と触れ合う機会が多いので特に注意が必要だ。
■子供は特に菌に弱い
好奇心旺盛な子供は犬やネコを見つけると、すぐに触ろうとするし、幼児であれば色々なものを口に入れたがるため、動物の唾液がついたおもちゃ等を無邪気に舐めてしまうこともある。
「子供は、免疫が不完全で、胃酸が弱いので細菌に感染しやすいんです。実際、ピロリ菌もほとんどが幼少期での感染だと考えられています。まだ感染経路には不明な点もありますが、ペットに顔を舐められたり、唾液のついた手で食事をしないように大人が目を光らせないといけません」(酪農学園大学獣医学群の大杉剛生教授)
もし、遊びにきた可愛い孫が自分の飼っている犬やネコに舐められたことが原因で、将来、胃がんになってしまったら。もし、自分の子供が友人の犬とじゃれあったことで菌をもらってきてしまったら。
きっと、後悔してもしきれないだろう。
そんな細菌に対して、我々ができる対処方法はなにかあるのか。
実はハイルマニイは診断がかなり難しく、今のところ、感染しているかどうかは、遺伝子検査の一つである「PCR法」ができる医療機関でしか確実な診断は行えない。
結局のところ、我々にできる一番の対策といえば、ペットから菌をもらわないようにすることだ。
この話を聞いた前出の山田氏は、飼い主としてこれまでより慎重になる必要があると語る。
「3・11のように、震災や災害があった場合、避難所にはペットを連れてはいけません。それは動物が苦手な人やアレルギーがある人がいるからです。ただ、これまではマナーを守って、ある程度の節度があれば、一緒に連れていってもいいのではないかと思っていました。
でも、感染するとなると、話は別ですよね。他人にもし感染させたら、大変なことになってしまいます。そういう意味では普段からもう少し慎重にならないといけないのかもしれません」
ペットを愛するあまり、家族同然に扱いたくなる気持ちはみんな同じだ。しかし、ペットとのスキンシップが濃密になるほど、胃がんになるリスクも高くなることを忘れてはいけない。
自分や家族が胃がんで苦しむことになり、あとでペットを恨むことにならないようにするには、愛するがゆえに距離を取るということが求められている。
「週刊現代」2015年9月19日号より
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