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具材が卵やツナなのに常温で日持ちする「ランチパック」。カビにくく、添加物などをめぐり議論が続いている(写真:産経新聞)
山崎製パンの「添加物」バッシングの真相を追った! カビにくい理由は…
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150913-00000518-san-life
産経新聞 9月18日(金)10時45分配信
国内製パン市場で約4割のシェアを誇る山崎製パン(東京都千代田区)。食パンの「ダブルソフト」やサンドイッチの「ランチパック」などおなじみの商品は多いが、ネット上で「ヤマザキパンは大量の添加物を使っているから常温でもカビが生えない」「発がん性物質の臭素酸カリウムを使っている」などの批判も見かける。確かに、手作りパンはすぐカビるのに、ヤマザキパンはカビにくい。その理由は−。(平沢裕子)
■添加物使用を疑問視
カビにくいなどとヤマザキパンがネット上でやり玉に挙がるのは、平成20年に出版された『ヤマザキパンはなぜカビないか』(緑風出版)に端を発する。同書は、国内のパンメーカーの中でヤマザキパンだけが「臭素酸カリウム」を使っていることを問題視し、他社に比べてヤマザキパンがカビにくいのは臭素酸カリウムの使用と関係している可能性があるなどと指摘している。
臭素酸カリウムは、小麦粉処理剤として日本で使用が認められている食品添加物。海外では米国で使用を認めているが、EUは認めておらず、賛否両論ある。ラットで発がん性が認められ、国際がん研究機関(IARC)による発がん性リスクでは「グループ2B(人に対して発がん性があるかもしれない)」に分類される。ちなみに、コーヒーや山菜のワラビもグループ2Bだ。
添加物を不安に思う人が問題とする発がん性だが、発がん性は「ある」か「ない」かでなく、どれだけの量が食品に含まれるかで考える必要がある。臭素酸カリウムは、パンとして焼かれると分解されてほとんど残留しないことが確認されており、厚生労働省は平成15年、パンへの残留を高感度の分析法で確認しながら、使用量を制限して使うことを認めた。山崎製パンはこの基準を順守してきた。
山崎製パン中央研究所の山田雄司所長は「確かに以前は一部の製品に臭素酸カリウムを使っていた」とし、その理由を「パンには不向きの国産小麦をふっくらと焼き上げるため」と説明する。カビにくくするなど保存のためではない。そもそも臭素酸カリウムは保存性を高めるための添加物ではない。
山田所長は「分析機器の精度が上がり、ごくわずかな臭素酸カリウムの残留まで調べられるようになった。安全を確認できる態勢が整ったからからこそ使用していた」と胸を張る。「臭素酸カリウムを使ったパンを食べたくない」と思う消費者のために、使った製品には自主的に「臭素酸カリウムを使用しております」と表示してきたが、現在は使用していない。
■手作りパンがカビるのは…
小麦粉とバターなどシンプルな材料で作る自分の家で焼いたパンはカビやすいが、ヤマザキパンはなかなかカビが生えない。こうした事実から「大量の添加物(保存料)を使っているのに違いない」と疑いの目を向ける人もいる。
これに対して、鈴鹿医療科学大学の長村洋一副学長(薬学、臨床生化学)は「保存料を使用しなくても工業的に無菌的な環境で製造されたパンは、数日ぐらいの日持ちは当然。家庭で作ったパンがすぐカビるのは、一般家庭の台所はパン工場より汚いから」と説明する。パンにカビが生える最大の原因は人間による汚染。同社はパンを焼いた後の工程を完全に自動化し、人が手を触れないようにしている。
ヤマザキパンがカビにくいのは「衛生環境に配慮した工場で作られているから」というのが真相で、本が指摘するような事実はない。それにもかかわらず、ネット上にはいまだに本の内容をうのみにし、同社のパンの危険をあおる情報が氾濫している。
■売り上げ好調、消費行動に影響せず
同社は昨年2月から臭素酸カリウムの使用をやめた。製パン技術の進歩で、使わなくても国産小麦でふっくらとしたパンができるようになったためだ。
これを受けたのか、今年7月、『ヤマザキ〜』を改訂した『新・ヤマザキパンはなぜカビないか』が出版された。本の帯には「本書の指摘がきっかけで、山崎製パンは、発がん性物質の臭素酸カリウムの使用を中止しました!」とあり、同書が影響を与えたかのような書きぶりだ。しかし、山田所長は「本は関係ないですね」ときっぱり。「この10年で酵素製剤の種類が格段に増え、組み合わせによって臭素酸カリウムを使うよりもおいしいパンができるようになったんです」
とはいえ、本やネットでの事実誤認の情報は同社にとって頭の痛い問題だ。20年に『ヤマザキ〜』が出版されてすぐは、「食べても大丈夫なのか」など心配する声が同社に寄せられた。同社は、これらの質問にていねいに答えるとともに、ホームページに「食の安全・安心への取り組み」のコーナーを設け、パンのカビ発生を抑えるための取り組みを説明してきた。消費者団体などにも担当者が直接出向き、科学的根拠を説明してきた。ちなみに、『新・ヤマザキ〜』の出版を受けた消費者からの問い合わせはまだゼロという。
こうした取り組みが実際に成果があったかは不明だが、名指しの批判本が出版されながらも同社の業績は順調で、本が出た平成20年度に約8千億円だった売上高は今年度にも1兆円に達する見込みという。
消費者は安全に不安があるものは買わないし、高すぎたりおいしくなかったりするものも買わない。ヤマザキパンの業績が順調なのは、本やネット上にあふれる科学的根拠に乏しい危険情報をうのみにする人が案外少ないことを示している、いい例なのかもしれない。
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