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緑茶の健康効果は「カテキンの分解」が鍵だった いつもそこにある「煎茶」の歴史と科学(後篇)
2015.6.26(金) 漆原 次郎
煎茶のもととなる茶葉。「カテキン類」が豊富に含まれている
今回のコラムでは、最も身近なお茶といえる「煎茶」の歴史と科学に光を当てている。前篇では、煎茶がどのように日本人の生活の中で「いつもそこにある」存在になっていったのか、その歴史をたどった。江戸時代の初期の頃からの長い歴史の中で、急須などが使われるようになり、現在にも通じる製茶法が編み出され、そして新品種が生まれて、煎茶は日本人の嗜好品となったのだ。
緑茶どころの日本では、カテキン類に対するさまざまな機能性に科学の目が向けられてきた。「緑茶をたくさん飲む人は病気になりにくい」という研究結果も、カテキン類が関連しているのではないかと考えられている。
では、緑茶の成分は具体的に、どのように体に良い影響をもたらすのだろうか。そんな疑問を解くべく、後篇では、長らくお茶のカテキン類の機能性などを研究している三井農林に話を聞いた。
同社は緑茶や紅茶などのお茶のメーカーとして知られるが、静岡県藤枝市にある食品総合研究所では、1980年代から茶カテキンの効能を研究し、成果を実用化に結びつけている。2013年には「お茶科学研究所」という社内プロジェクトも発足し、お茶の健康作用やおいしさに関する研究に力を入れている。
取材中、同研究所所長の南条文雄氏から「茶カテキンの働きは確かにあるが、本当は何が効果をもっているのか、研究しているところ」という話が飛び出した。実は、カテキン類以外の物質もまた、健康を高める機能をもちうることが解明されつつあるのだという。その物質とはどんなものだろうか。
がん、脂質異常、血糖値上昇、いずれもカテキンが抑制
煎茶を飲むと、程よい渋みを感じる。これは緑茶の主成分「カテキン類」によるものだ。緑茶の原料チャノキを栽培するとき、覆いをせず日光を照らして光合成を促すとカテキン類が多く生成される。こうして作られるが煎茶だ。ちなみに、抹茶のように覆いを被せて栽培した場合、カテキン類はさほど生成されず、相対的に「テアニン」という、うまみ成分の含有比が高くなる。これで渋みが特徴の煎茶と、うまみが特徴の抹茶などに分かれる。
南条氏は、カテキン類に着目した経緯を次のように話す。
「緑茶は中国では薬用として飲まれていました。緑茶に含まれるカフェインについては眠気を覚ます効果が知られていました。でも、より多く含まれるカテキン類にも、何か機能があるのではと着目し、当社はカテキンの健康機能の研究を始めました」
同社では、1990年頃までに、緑茶に含まれるカテキン類の代表的な4種類の物質を結晶として抽出することに成功している。その4種類とは、「エピガロカテキンガレート」「エピガロカテキン」「エピカテキンガレート」「エピカテキン」だ。中でも主要な物質は、エピガロカテキンガレートで、緑茶のカテキン類の半分ほどの量を占める。
研究が進んだことで、カテキン類の持つ体へのさまざまな健康効果が見出された。
その1つが、がんのきっかけにもなる突然変異を防ぐ作用だ。同じ静岡県にある国立遺伝学研究所が緑茶の抗突然変異作用を見出すと、三井農林の研究員が「カテキンに効果があるのでは」と持ちかけた。突然変異の原因の1つは、有害な活性酸素が遺伝子を傷つけることだ。これに対して動物の体はビタミンEなどを生産して、活性酸素が働くのを防ごうとする。そこで、ラットに対し、活性酸素を発生しやすい油分とともに、カテキンを与えてみた。
「カテキンをともに与えたラットでは、カテキンを与えないラットより、ビタミンEの減少が抑えられたのです」。
他にも、エピガロカテキンガレートが“悪玉コレステロール”とも呼ばれる血中の「LDL-コレステロール」の値の上昇を抑える作用なども発見した。これは、メタボリック症候群の要素の1つである脂質異常症の改善にもつながるのだ。また、カテキン類が血糖値の上昇を抑制する作用も、ヒトを対象とする実験で明らかにしている。
南条文雄(なんじょう ふみお)氏。三井農林食品総合研究所研究所長。農学博士。1991年、三井農林に入社。三井農林に籍を置きながら、茨城県つくば市の食品総合研究所(現・国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)にて1年間、緑茶の主要成分・カテキンの赤血球変形能や血液凝固に及ぼす影響などを研究。その後、食品総合研究所で「ヤーコン芋」に含まれるフラクトオリゴ糖に関する研究、茶カテキン類の機能性に関する研究に従事する。2005年より現職。
カテキンよりも吸収される物質の正体とは?
抗酸化作用、コレステロール低下作用、血糖上昇抑制作用。これらの作用を煎茶の渋み成分であるカテキン類が持っていることが分かってきた。だが、南条氏たちはある疑問を持つようにもなった。
「こうした作用は、カテキン類が血管など体の中に入っていかないと起きません。でも、カテキンはさほど体の中には入って行かないのです。本当は何が効果をもつのか・・・」
作用の大きさからすると、カテキン類が体の中に入っていくだけでは、つじつまが合わないというわけだ。そこで南条氏たちは、「カテキンを含む緑茶を飲んだあと、そのカテキンが体内でどうなっていくか」に着目した。
「カテキン類を摂取すると、腸内細菌がカテキンを代謝し、分解していくのです。それにより、カテキン類が低分子の細かい物質に変わるため、体の中に入りやすくなることが分かってきました」
腸内細菌とは、腸の中に常に存在する細菌のこと。その種類も1000種類と見積もられており、それぞれが役割を果たしている。南条氏たちは、エピガロカテキンを細かい代謝物に変える腸内細菌をラットの糞から単離した。そして、その細菌をAdlercreutzia equolifaciens MT4s-5と名づけた。この細菌は、女性ホルモンに似た働きをする大豆イソフラボンを代謝する細菌と遺伝学的に近かったという。研究を進めると、イソフラボン代謝菌そのものに、カテキン類を代謝する能力もあることが分かってきた。また、エピガロカテキンガレートも、Enterobacter aerogenesなど複数種類の腸内細菌によって分解されていくことが分かった。
実をいうと、カテキンの分解物の作用は、カテキン類よりは劣るという。だが、分解物のほうが血管など体の中に入っていく総量が多くなるため、カテキン類より作用が高まりうるのだという。
「例えば、カテキン類のエピガロカテキンガレートが最も高い抗酸化作用を持っていますが、試験管での実験では体の中に1%も入りません。一方、その分解物は30%も入っていきます。たとえ、分解物の抗酸化作用が10分の1しかなくても、3倍の効果をもつ可能性があるわけです」
カテキン類を抽出したものはすでに栄養機能食品や医薬品などの形で製品化されている。もし、カテキン類の分解物の作用を生かすような製品の開発を目指すとすると、どのような形になるだろうか。
「カテキン類の分解・代謝を促すような菌を製剤化するというのも1つの考えです。あるいは、あらかじめ菌を使ってカテキン類を分解したものを飲料などで飲むという考え方もあります。安全性などを検討する必要がありますが、そういうところまでやれたら嬉しいですね」
緑茶産地で「胃がん死亡率8割下回る」データも
緑茶を飲むことが体に良いことを示唆する、多人数を対象にした研究の結果も出ている。国立がん研究センターの予防研究グループは2015年5月、男女9万人を平均で19年間を追った研究で、「緑茶を習慣的に摂取する群において、男女の全死亡リスクが低い」とする結果を発表した。
緑茶が死亡リスクを低くする理由について、同センターは「緑茶に含まれるカテキン(血圧や体脂肪、脂質の調整)やカフェイン(血管保護、呼吸機能改善)などの効果が推定されます」としている。
また、静岡県の市町村ごとに胃がんによる死亡率を調べた研究が1989年、県立静岡大学の研究者らによって行われている。胃がんによる死亡率は全県平均でも、全国平均を2割ほど下回ったが、特に緑茶の産地だった中川根町(現在の川根本町の南部)では全国平均を8割ほども下回ったという。「お茶の産地では当然お茶はよく飲まれます。その地域では胃がんが少ないのではないかという調査結果です」と南条氏は話す。
「緑茶を飲むことは体に良い」ということは、おそらく、かねてから日本人は経験的に感じてきたことなのだろう。そこに現代の科学の目が向けられ、そのことを裏付ける研究成果が次々と上がってきている状況だ。
では、緑茶の持っている力をすべて引き出すことができたのかといえば、そうではない。カテキン類の分解物もまた機能性を持つことが解明されたように、さらに緑茶の魅力を引きだすことができそうだ。
「仕事の合間にリラックスするには、美味しいお茶が最適だと思っています」
南条氏がこう言うように、煎茶をはじめとする緑茶はあくまで嗜好品。おいしさがあってこそ飲まれてきた。渋みを「おいしさ」として感じたところには日本人の感性もうかがえる。おいしさと健康効果の両面で、緑茶の研究は今後もさらに進んでいくことだろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44125
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