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コレステロール・ショック(13) 個人と平均
http://takedanet.com/archives/1030615157.html
2015年06月12日 武田邦彦 (中部大学)
ある読者の方が最近のコレステロールの報道を見て、医師に相談したら、医師が「それは平均のことで、あなたは***病をしているのだから、個別に考えなければならない」と言われたとメールをいただきました。まさにその通りなのです。
表紙の載せたグラフの左は、日本ドック学会が「健康な150万人の日本人」のデータを整理して公表したもので、ここではLDLコレステロールの分布を示している。たとえば50歳の健康な人で、LDLが低い人は60、高い人は240ぐらいである。もちろん年齢や性別によって違うのも当然である。
つまり、「健康な人」のLDLの値は、「いくつ」というのではなく、個体によって幅があるということであり、読者の方がかかっておられる医師のおっしゃる通りである。人間は背の高さ、骨の太さ、脂肪の付き方、代謝速度、体温、脈拍まで人によって違うのだから、日本人全体を一つの「範囲(たとえばコレステロールが、180から260は正常)」で健康値を示すこと自体が間違いだ。
まして、血圧のように「***以下が正常」などと一つの値に決まるはずもない。表紙のグラフの右はとても有名な血圧のグラフで、まだ日本の医師が厚労省よりも個人の研究者の仕事を大切にしていた時代のものだ。医師は偉くて本当に患者のことを考えているので、真実に基づいている。
このグラフは横軸が年齢だから「年齢とともに血圧が高くなる」と言うことを示し、中心は140から150にあり、160の人も多い。これまでの国の基準である130という固定した値を使うとほとんどの人が「病気」になり「降圧剤」の処方を受ける。
まったく奇妙である。年齢によらないこと、「幅=個性」を認めないこと、という現代科学ではあり得ないことを健康政策として進めている。それには「血液を送る血圧は意味が無い」という人間の体を全く知らない(本当は知らないのではなく、お金に目がくらんだだけ)人が、「血圧が高いと血管が破裂する可能性が高くなる」ということだけに注目し、人間は血流が下がると、栄養が行き渡らず、元気をなくし、気分が優れず、感染症になりやすく、がんも防げなくなり、認知症になり、熱中症になるが、それらはすべて「病気」ではなく、単に血管の病気だけが人間の病気で、高血圧学会は縦割り行政だから、血圧関係の病気が減ればそれでよいという「新人間の医師団」のように感じられる。
また、国民全体の健康を促進するためには「平均値」も意味があるが、「個人の健康」には平均値は無意味である。血圧が心配な人は、まず医師に「平均値ではなく、私の正常な血圧はいくつでしょうか?」と聞くべきであり、まじめな医師ならまずそれに答えなければならない。
そして血圧が「自分の正常な血圧」より高い場合は、「原因はなんでしょうか?」と聞き、もし血管壁の硬化なら、「動脈硬化を治療してください」と言うべきである。平均血圧を基準として、降下剤を処方するというのは、「患者さんの正常血圧にも関心がなく、血管壁を治療することもできないので、国に基準に従って降圧剤を出す。そのためにその人が感染症になったり、がんになったりしても俺の知ったことか」ということで、私は医師としての誠実さに欠けると思う。
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