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『奴隷のしつけ方』(太田出版/マルクス・シドニウス・ファルクス著、ジェリー・トナー解説)
古代ローマの奴隷制がスゴすぎる!ビジネスに役立つ知識の宝庫?
http://biz-journal.jp/2015/08/post_11214.html
2015.08.22 文=漆原直行/編集者・記者 Business Journal
【今回取り上げる書籍】
『奴隷のしつけ方』(太田出版/マルクス・シドニウス・ファルクス著、ジェリー・トナー解説)
奴隷をしつける……といっても、サディスティックな性嗜好をお持ちの御仁が嗜む刺激的なプレイの話ではありません。
本書は「わが一族は何世代も前から多くの奴隷を所有してきた。したがって、奴隷の扱いについてわたしが知らぬことなどない」と豪語する古代ローマ貴族が、“未開の民”である読者に向けて、古代ローマにおける奴隷の適切な扱い方や、よき主人となるための心構えを説いたものです。
いまいちピンとこないかもしれませんね。まずは目次を見ていただきましょう。だいぶ雰囲気が掴めるはずです。
【目次】
序文 主人であれ
第1章 奴隷の買い方
第2章 奴隷の活用法
第3章 奴隷と性
第4章 奴隷は劣った存在か
第5章 奴隷の罰し方
第6章 なぜ拷問が必要か
第7章 奴隷の楽しみ
第8章 スパルタクスを忘れるな!
第9章 奴隷の解放
第10章 解放奴隷の問題
第11章 キリスト教徒と奴隷
あとがき さらばだ!
(編注:上記各章の正式表記はローマ数字)
読めばすぐにわかることなのでネタバレしてしまいますが、著者として名前が出ているマルクス・シドニウス・ファルクスなる古代ローマ貴族は、あくまで架空の人物。実際のところは、「解説者」となっている英ケンブリッジ大学のジェリー・トナー教授が執筆しています。訳者・橘明美氏のあとがきによれば、トナー教授は次のような方だそう。
「専門は古代ローマの社会文化史。それも、下から見た歴史の専門家で、『庶民』や『大衆文化』を追いかけています。たとえば当時の理髪師から大衆文化を読み解いたり、娯楽がどんな意味をもっていたかを考察したりと、遠い(時代としては)ながらも身近なテーマを研究しています」
要するに、古代ローマにおける奴隷制およびそれらに関連する習俗を、歴史家がわかりやすく解説した本、ということになるのですが、遊び心あふれる執筆者の設定や、なりきり感のある筆致にニヤニヤしてしまうことうけあいなのです。
■『テルマエ・ロマエ』を彷彿
あくまで想像上の存在である貴族のファルクスですが、読み進めるにつれて、実に魅力的な人物に思えてきます。当時、世界一といっても過言ではないほど先進的で文化的な生活を送っていたローマ市民であり、しかも代々続く貴族の家系ですから、どこか尊大で上から目線な感は否めません。
でも、正しき大人の男としてのプライドと教養を備えた、人格者としての風格を端々から醸しています。滑稽なくらい生真面目で理屈っぽく、妙に厳格なところがある反面、とても柔軟な考え方をしたりもする。ときには、目下の者に対する愛情や情け深さを見せることもある。どこか、古代ローマを舞台にした人気コミック『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)の主人公ルシウス・モデストゥスにも似た雰囲気をまとっているようにも感じます。
歴史の専門家が記したものであり、学術的な知見に基づいた内容ではありますが、全編に散りばめられたパロディ感覚やウイットにより格段に取っ付きやすくなっており、少し読むだけでグイグイ引き込まれてしまいます。「歴史って苦手だわ〜」「古代ローマとか、よくわからん」なんて人でも、興味深くページを繰ることができるでしょう。
■実利的な気づきを与えてくれる
本書は知的好奇心を刺激してくれる本としてシンプルに楽しむのが最適で、ビジネス書、実用書的な実利を当て込んで読むのは無粋かなと、個人的には思います。ただ、そうした実利的な気づき──例えば、人材のマネジメント術だったり、上に立つ者の心構えや覚悟だったり、など──を与えてくれる一面もあります。
第2章の「奴隷の活用法」に、次のような描写が登場します。農場の収益性を上げるにはどうすればよいか、というくだりです。
「問題なのはモチベーションの欠如である。奴隷は収穫がよかろうが悪かろうが食事を与えられるのだから、必死で働く理由がない。とはいえ、モチベーション不足を少しでも補い、労働効率を上げるための方策がないわけでもない」
「第一に、(中略)いい働きにはちゃんと報いることで、これは何度強調してもしすぎることはない。さんざん苦労したのに怠けていた奴隷と同じ食事しかもらえないとしたら、どんな奴隷でもやる気をなくす。奴隷一人ひとりに長期目標をもたせることも重要である。(中略)子供をもたせるのもいい方法だ。懸命に働けば家族がもてるというのは喜びであり、いい刺激になる。逆にもし期待を裏切ったら、罰として子供を別の主人に売ってしまうこともできる」
「第二に、役割分担を明確にするといい。分担が明確になれば責任の所在も明らかになる。何かがうまくいかないとき、誰が咎められるかを奴隷たちも承知していることになる」
まあ、こんなことを現代で実践されたらシャレにならない……と思うような記述も登場します。が、人間の欲や業を踏まえた、社会の本質を突くような指摘も頻出するので、思わず納得させられたり、唸らされたりすることでしょう。
■会話のお役立ちのアイテムとしても
また、別の角度から実利的効能を語るのであれば、本書はビジネスパーソンのための会話のネタ本としても、極めてお役立ちのアイテムとなるはずです。
歴史の話題は、ビジネスシーンで何かと役立ちます。例えば決断力や計略、人心掌握、組織論、兵站などなど、歴史からたくさんのことを学び取っている、と語る経営者や管理職は少なくありません。何より、ビジネスパーソンとして有能な御仁(とくに壮年世代以上。要はオジサン〜ジイサン)には、歴史好きがとても多いのです。好きな戦国武将、宰相、偉人などを尋ねようものなら、凄まじい勢いで解説してくれたりします。なので、歴史ネタをあれこれと仕込んでおくと、酒席のちょっとした雑談から、重要な商談のアイスブレイクまで、何かにつけて会話の糸口になってくれるわけです。
とはいうものの、正統派かつ王道な歴史に関する知識で歴史オヤジと対峙しようとしても、相手からは「あ、その話か」「なんだ、その程度の理解か」などと思われ、それほどは興味を持ってもらえない可能性も否定できません。
そんなときこそ、この本です。本書は歴史書としては明らかに変化球ですから、執筆形式や登場するエピソードを紹介したら「それは面白そうだね」と、きっと関心を持ってもらえるはず。少なくとも塩野七生先生の『ローマ人の物語』(新潮社)シリーズ(読書好き、歴史好きな御仁にかぎらず、デキるビジネスパーソンに読まれまくった)よりはハードルがだいぶ低いので、ネタ本として持っておいて損はありません。もちろん、知的エンタメ、雑学本としても非常に完成度の高い一冊です。
最後に、著者のファルクスが序文に記している一節を紹介して、本稿を締めたいと思います。
「あなたがどの時代のどこの人であろうとも、たとえその世界がローマとは異なる原則で成り立っていようとも、ローマから学ぶべきことなどないと決めつけてはいけない。ローマには多くの知識が眠っている。そのなかには、あなたにとっても、目を閉じるより開けてよく見たほうが得になるものがたくさんあるはずだ。だから、読まれよ。そして学ばれよ」
(文=漆原直行/編集者・記者)
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