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日本株の不安な未来 - 小幡績 転機の日本経済
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20150821-00155462-newsweek-nb
ニューズウィーク日本版 2015/8/21 18:15 小幡績
株価が下がっている。この理由は2つある。
まず、世界的な株価の下落の影響である。世界的な株価下落の流れに、日本も当然巻き込まれている。世界の株価が連動するのは当たり前のことだが、なぜこれが当たり前かは、行動ファイナンスの立場からも注意しておく必要がある。
世界の株価が連動する理由は2つある。金融危機の伝播が大きな関心事となったのは、1990年代末のアジアの金融危機で、タイのバーツ危機を発端に、韓国やインドネシアなどの各国の経済も市場も崩壊した。もちろん、日本ではリーマンショックと呼ばれる、2007年以降の世界的な株価暴落が最も鮮明な印象を人々に与えた。
危機の伝染の2つのメカニズムは、金融的なものと実体的なものである。前者は、投資家による伝染で、同じ投資家が世界中に投資しているから、米国でその投資家が損失を被って投げ売りを余儀なくされれば、彼は日本市場でも現金化できる資産はとにかく投げ売ってくる。リーマンショックで、米国大手保険会社AIGが世界中の不動産関連商品を投げ売りし、日本のJ-REITも暴落したのもそのためだ。
もうひとつの理由は、実体経済で、米国経済がおかしくなれば、米国への輸出で稼いでいる中国など新興国経済が破綻する。中国が不況になれば、日本の景気は当然悪くなる。だから、米国も中国も日本も株価が下がる、ということである。
2つの中間と言えるのが、金融政策による株価変動である。来月にも実施される可能性がある、FRB(米連邦準備理事会)の利上げであるが、量的緩和の終了と米国利上げの可能性が、世界同時株安をもたらす、と言ったときには、金融現象なのか実体経済なのか、どちらに当たるか、ケースバイケースである。
つまり、米国利上げだから、祭りは終わりだ、リスクオフへ、といったときには、金融的な暴落の連鎖であり、世界中の機関投資家が売りに傾くからである。これは、同じ投資家が世界中で売るから世界が同時に下がる、という効果だけでなく三重の効果がある。2つ目は、モーメンタムの連鎖である。大手が売るから相場が崩れる。それなら自分も売っておこう、ということで、売りが投資家から投資家へ連鎖する。さらに、それは見込みだけの連鎖となる。つまり、人が売りそうだから売っておくのだが、相互にそれを行うから、誰も売り始めなくても売りが始まり、やっぱり売りが始まるのである。集団による、期待(予想)の自己実現である。
■作られた「中国ミステリー」が売りを呼ぶ
ヘッジファンドなどは、この連鎖をあえて仕掛けてくる。まだ、その連鎖が始まっていないのに、そのような雰囲気を作れば、連鎖が始まると読み、雰囲気が少し変わったイベントと捉えて先に売りを仕掛け、それにより、雰囲気を確定、拡大させ、売りの連鎖を呼び込むのである。
3番目の効果は、不安が恐怖にまで達した場合によく起こることであるが、投資家が激しく悲観し、投げ売りを始め、その悲観が悲観を呼ぶ、というセンチメントの連鎖的伝播である。これが上昇に乗れば、バブルだし、崩壊すればパニックである。
金融政策の変更は当然これにあたる、と言った方がメディア的にはおもしろいが、注意しなければならないのは、もっと地味な連鎖もあり得るのであり、それが実体経済による連鎖、あるいは実体経済の連鎖を予想することによる連鎖である。
すなわち、流動性の供給が減り、新興国に資金が流れ込まなくなり、新興国の投資が減少、実体経済も悪くなる。その結果、資源需要も減り、価格が下がる。新興国通貨も弱くなり、ますます投資が減り、輸出に有利と言っても、現在の経済では資産効果、投資の効果の法が大きく、世界的に景気は減速する。よって、世界的に株価が下がる。このようなメカニズムである。
現在の世界的な下落は、「中国ミステリー」と相まって、後者の実体経済連鎖を中心に株価下落が同時に起こり、それを材料に金融的な下落の連鎖も起きていると言えるだろう。中国ミステリーとは、外交でも経済でも、中国のことになると、米国の論者ですら、冷静さを失い(米国だからこそ、だが、日本の論者も酷い)、中国の統計はすべて信じられない、実際には暴落が始まっている、報道はすべて操作されていて、実態はものすごく悪い、という議論をまじめに行う。
■日本株だけが下落するもう一つの深刻な理由
酷いアナリストレポートになると、(中国を何としても支えたいという楽観的なものだが)株価の暴落で、消費が増える。なぜなら、これまでバブルに投資するために、消費を我慢して、すべてのカネを株に突っ込んできたような個人が、株価暴落でお金を株から消費に移す。だから、消費は伸びる。このような議論をまじめに行っているようでは、中国については思考停止状態と言っていいだろう。
いずれにせよ、今回の世界的な株価の下落は、実体経済に対する予想(一部妄想)により起きているので、下落の雰囲気や下落のスピードを静かなものにしているが、その分、影響もボディブローのように深刻であり、今後もトレンドとして続き、反転はしにくいだろう。
さらに、日本株だけが下落する理由がある。日本株だけが、今年は大きく上がっているからだ。それは、日本株だけ、日銀が買う、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が買う、だから投資家も買う、という別の論理で買いが増加し、それが世界的に広がってきたからだ。大きく上がった分、世界の流れが変われば、大きく下がる。しかし、それを買い支えているから、すぐに一旦戻す。この機会を利用して、海外投資家は上手く売り抜ける。これまで、株価が高く維持されてきた分だけ、日本株は、世界の株式よりも下落余地が大きい。今回は、日本株の投資家が特殊であることが、暴落の連鎖の短期的な防波堤になり、だからこそ、中期的に大きな下落をもたらすことになるだろう。
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