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消費税率10%は可能か? GDP統計から読み解く日本経済の現状
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44802
2015年08月20日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 現代ビジネス
■外需不振に足を引っ張られる日本経済
8月17日に発表された2015年4-6月期のGDP速報値は季調済前期比で-0.4%の減少となった(年率換算では-1.6%)。
内訳をみると、内需の寄与度が-0.1%、外需の寄与度が-0.3%となっており、外需(輸出)の不振が足を引っ張った(輸出は前期比-4.4%、輸入は-2.6%で、ともに前期比減であったが、輸出の減少幅が輸入の減少幅を上回ったため、「純」輸出を意味する外需はマイナスの寄与となった)。
ただし、GDP統計発表前に日銀がすでに発表していた月次の実質輸出入統計をみると、2015年4-6月期は、輸出が季調済前期比-3.6%、実質輸入が同-1.8%となっており、外需の不振は十分に予想可能であった。
そのため、発表されたヘッドラインの数字(実質GDP成長率)は、事前のエコノミストコンセンサスからそれほど大きく乖離せず、その日の株式市場や為替市場には特に大きな影響を与えなかった。
この外需の不振(特に輸出の不振)は、海外景気の減速による売上数量の減少である。「行き過ぎた」金融緩和がもたらした円安による原材料コスト高を指摘するエコノミストも少なからず存在するが、法人企業統計等を用いた製造業の経常利益増益率の要因分解を行うと、2015年1-3月期になって、交易条件は原油価格の低位安定によって大きく改善しており、製造業の収益にはプラスに働いている(むしろ、売上数量の減少をカバーしている)。
海外景気では、このところ、中国経済の悪化が顕著になっている。そして、そのあおりを食う形で、東アジア周辺国の輸出も減少し始めている。また、中国経済の悪化は、資源価格の下落を通じて、資源輸出国の景況を著しく悪化させる懸念がある。さらにいえば、2000年代半ば以降、中国をはじめとする対アジア貿易のウェートを高めてきたドイツを中心としたユーロ圏の景気を悪化させるリスクも無視できない。
これに加え、米国が利上げに踏み切った場合、これまで新興国に向かっていた国際マネーフローが逆流(いわゆる「リパトリ」)するリスクも指摘されている。
中国経済の悪化は、「高成長から安定成長への移行」という「構造調整」という側面が強いこと、米国に限らず、一旦、利上げサイクルが始まると、利上げは断続的に実施され、実体経済は減速するケースが多いこと(逆にいえば、利上げの実施で景気が減速しなければ、利上げは継続され、金利は累積的に上昇していくはずである)を考えると、日本経済が外需に足を引っ張られるリスクが高まることはあれ、外需主導で再び成長軌道に乗るとは考えにくい。
図表1) 実質民間消費支出の推移
■消費税率引き上げが日本経済に与えた影響
一方、外需以上に深刻だと思われるのは、消費支出である。
2015年4-6月期の実質消費支出(民間最終消費支出)は季調済前期比-0.8%の大幅減となった。実質消費支出は、消費税率が5%から8%に引き上げられた2014年4-6月期に前期比-5.0%の大幅減を記録した後、2014年7-9月期から2015年1-3月期まで3四半期連続で前期比+0.3%の緩やかな増加となっていた。今回(2015年4-6月期)の大幅減で、消費税率引き上げ後の緩やかな消費回復をほぼ相殺してしまった。
元来、実質消費支出はあまり大きな変動がなく、コンスタントに増加していくものであった(※図表1参照)。連続でデータが入手可能な1994年1-3月期以降の実質消費支出の動きをみると、1994年1-3月期から2008年1-3月期までは、景気循環とは無関係に、ほぼ年率1%(正確に計算すると0.97%)のペースで安定的に成長してきた(この間の実質消費支出はトレンドだけでその動きの約96%が説明できる)。
ちなみに、1996年半ばから1997年初めにかけてトレンドを大きく上回って増加しているが、これは消費税率引き上げ(1997年4月)前の駆け込み需要の増加によるものである。その後、2008年のリーマンショックを機に、消費水準は大きく落ち込んだが、徐々に回復に転じ、2013年にはほぼ、元のトレンド上に回帰した。
そして、直近の落ち込みの理由は、2014年4月の消費税率引き上げであると考えられる。大多数のエコノミストは、1997年時の状況から、消費税率引き上げの影響は一時的であり、すぐにトレンドに回帰すると考えていた。だが、2014年4月の消費税率引き上げ後の実質消費は、トレンドに回帰するどころか、元のトレンドからますます下に乖離しつつあるようにみえる。
仮定計算になるが、実質消費支出が2014年4-6月期を底として、その後、一定のペースで回復し、2015年4-6月期に元のトレンドに回帰していたと仮定すれば、2015年4-6月期の実質GDP成長率は季調済前期比+0.7%(年率換算で+2.8%)程度だったはずである(ちなみに、この「トレンドとの乖離率」で計算したGDPギャップは-3%程度で消費税率引き上げ前の2014年1-3月期の水準まで改善したことになる。一方、実績で計算すると-5.4%)。
以上より、デフレ圧力が十分に払拭できない状況の中で実施された消費税率引き上げが日本経済に与えたマイナスの影響は予想以上に大きかったと言わざるを得ない。
そのため、今後、アベノミクスによって日本経済を再び回復軌道に乗せるためには、消費を刺激するような経済対策(例えば、補助金等の低所得世帯向け支援)が必要かもしれない。また、財政支出の拡大の場合には、追加緩和の期待も高まってくるだろう。
■インバウンド消費は牽引役にはなりえない
最後に、筆者は株式市場でも期待が大きい設備投資やインバウンド消費に過度に期待すべきではないと考える。まず、設備投資拡大期待の理由として指摘される「ヴィンテージ要因(設備の稼働年数が長期化しており、老朽化が著しいこと)」だが、これは、「統計のマジック」である可能性が高いと考える。
エコノミストのレポート等でよくみかける「ヴィンテージ」は、1970年の「国富調査」で得られた平均耐用年数や各業種の設備構成比がそのまま用いられている。言うまでもないが、IT化等の影響が全く反映されておらず、数字自体の信頼性が全くないと考えてよいだろう(筆者は正確な「ヴィンテージ」の推移の予想が全くつかない)。
また、この数字がある程度正しいと仮定した場合でも、設備投資の動きとは無相関である。確かにミクロベースでは、円安の定着等で設備投資の国内回帰の動きが確かだが、日本企業の設備投資は、短期的な収益環境に左右される度合いが強いといわれており、結局は足元の消費等の動きに影響を受けやすいと考えられる。
「設備投資をそろそろ増やしたいのは確かだが、足元の景気状況をみると二の足を踏んでいる」というのが正直なところであろう(さらに、機械受注も、景気動向次第では「解約」可能であり、現に、機械の種類別の受注統計では、解約超により、マイナスの値となることが度々発生している)。
インバウンド消費は、確かに拡大している。例えば、GDP統計では、「非居住者家計の国内での直接購入(サービス輸出の一部)」に分類されると考えられるが、2015年4-6月期は前期比+6.1%で、実質GDP成長率(前期比)に対する寄与度はゼロである(実質消費支出全体が約300兆円、実質GDP全体が約530兆円に対し、インバウンド消費は約2.5兆円)。伸び率自体も2014年10-12月期の前期比+24.5%をピークに鈍化している。
これまでのところ、2015年の訪日外国人観光客数は年間1800万人ペースで増加傾向は変わらないが、政府の長期目標である2000万人に近づいており、今後は加速度的な拡大は見込めないのではないか。
また、中国をはじめ、アジア新興国の通貨もこのところ、大幅に下落していることから、必ずしも円安のメリットを享受できなくなっている。インバウンド消費が日本経済の牽引役になりえないのは明らかである。
2017年4月からの消費税率再引き上げを断行するのであれば、よほどの覚悟で大規模な経済対策を実施する必要が出てきたのではないだろうか。
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