1. 2015年8月18日 22:13:05
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コラム:人民元安で上がる通貨と下がる通貨=山本雅文氏 山本雅文マネックス証券 シニア・ストラテジスト [東京 18日] - 人民元の基準値算出方法の変更を受けた元安は現時点では小幅にとどまっているが、今後も下落が継続する可能性は高い。その場合、中国の輸出競合国と対中輸出国の通貨の「連れ安」も続く。想定以上の中国景気減速の兆候が見られれば、一段の資源安とリスク回避を誘発し、高金利新興国通貨も悪影響を受けるだろう。こうした中、ドル円の方向性は不明瞭となろう。なぜなら、円の連れ安余地が拡大する一方で、米利上げ期待の後退とリスク回避時の米利回り低下からドル安圧力も高まり、相反する力が働くことになるからだ。 こうなると、消去法的にユーロが買われやすくなりそうだ。以下、順を追ってその根拠を説明したい。 <元続落をもたらす3つの理由> 8月11日の基準値算出方法の変更に伴う1.9%の下落後、中国当局は機会主義的な元買い介入や記者会見を駆使して目先の元大幅下落懸念を和らげるのに成功した。もっとも、以下の理由から、元相場は今後も緩やかな下落が続く可能性が高い。 第1に、中国景気は成長再加速を目指さないという当局の意向に沿って減速している。国際通貨基金(IMF)の予測によれば、中国の国内総生産(GDP)成長率は今年が6.8%、2020年は6.3%となっており、下振れリスクが指摘されているところだ。 通貨価値は他国との相対的な評価で決まるが、一般に景気減速は通貨安と整合的だ。実際、今回の変更のタイミングとして8月11日が選ばれたのも、7月分の主要経済指標が軒並み市場予想を下回り、市場実勢に基づいて取引されれば、おのずと元安に向かう地合いだったからだろう。 第2に、こうした状況下で中国では今後のさらなる金融緩和(基準金利と預金準備率の引き下げ)が予想されている。今回の元の基準値算出方法変更は完全自由化に向けた改革の一環で、より市場実勢などを反映しやすくするための措置だ。通常、金融緩和は通貨安をもたらす。市場参加者だけでなく中国当局にとっても、金融緩和に伴う元安は自然で容認されるはずだ。 第3に、元は依然として割高水準にある。これまでのドル高や他のアジア通貨の下落を受けて、ドルに事実上ペッグしてきた元は実質実効相場で見て相対的に割高化しており、現在も長期平均対比で30%超割高となっている。 <連れ安余地が大きいアジア通貨はどれか> 今回の元安調整は他のアジア通貨安へのキャッチアップという側面があるが、これまでほぼ動かなかった元が下落に向かうことで、他の通貨もフィードバック効果を受けて、連れ安となる可能性が高まっている。 まず中国と輸出面で競合している国の通貨が挙げられる。マレーシア、インドネシア、タイなどは相対的に競合度が高く、特にマレーシアリンギットへの売り圧力は強まっている。ベトナムは8月12日にドンの変動幅を拡大し、事実上追随切り下げを行った。また、一部品目ではシンガポール、韓国、台湾なども競合していると見られ、これらの通貨も売られやすくなっている。 元と同程度に下落しない場合、輸出競合国の貿易収支は悪化し、通貨安圧力となる。こうした状況を回避しようとして、当局が金融・為替政策を用いれば、これも通貨安圧力となる。実質実効相場から見て元に次いで割高なのはフィリピンペソとタイバーツだ。すでに割安領域に来ているマレーシアリンギットやインドネシアルピアよりも下落余地が大きい。 こうした連鎖的連れ安により、実効ベースでの元安は縮小し、中国の輸出下支え効果は減殺される。為替市場ではこうしたダイナミクスが働きやすいことは中国当局も分かっていたはずだ。だとすれば、算出方法変更の主眼は元安というより自由化で、景気悪化の窮地に追い込まれて実施したわけではないだろう。景気対策としては為替政策よりも金融・財政政策が重視されるだろう。 <下落余地が大きい資源国通貨の筆頭は> 今回の元の基準値引き上げが中国主要経済指標の予想比下振れ直後に行われたことから、中国の景気が想定以上に減速しているのではという懸念が強まった。こうした状況では直接的には、対中輸出依存度が高い国が悪影響を受ける。 近年では日米をはじめ、ほとんどの国にとって中国が最大の貿易相手国だが、中でも地理的に隣接するアジア通貨に加えて、中国は資源の消費大国であるため、オーストラリアドル、ニュージーランド(NZ)ドルや南アフリカランドなど資源輸出国通貨が大きな影響を受けることになる。 カナダドル、ロシアルーブルやメキシコペソなどの産油国通貨の下落率も大きい。ただ、下落余地は、長期的な高水準にあり当局の通貨高抑制姿勢が明確であるNZドルが大きそうだ。一方、南アフリカランドは割安感が強く、下落余地は限定的だろう。 資源価格に影響が及ぶと、主要新興国の多くが資源輸出国であることから、幅広い新興国からの資金流出が増加し、リスクオフ的な様相が強まる。 ブラジルは内需主導の国だが、鉄鉱石や原油の輸出国としても比較的大きいことから余波を受ける。特に足元では、景気後退、財政悪化や国営石油会社ペトロブラスをめぐる汚職疑惑に絡みルセフ大統領の支持率が急落する中、元安はレアル安に拍車をかけている。 トルコリラは元安や資源安とは無関係で、むしろ原油安の恩恵を受けるはずの国の通貨だが、元安に端を発したドル高やリスク回避の余波を追加的に受けている。これは、8月23日の新内閣成立期限を控えて連立交渉がうまくいかず再選挙リスクが高まるなど、政局不透明感や治安悪化といった国内要因がリラ安をもたらしているからだろう。 <消去法でユーロに投資妙味> 円相場には強弱両方向の力が働く。まず、連れ安の側面で日本の輸出企業は中国とは直接競合する面は小さいが、連れ安となる韓国や台湾との競合度は高い。円実効相場に占める中国の比率は単独で3割を超えており、連れ安傾向がある他のアジア通貨を含めると5割を超える。 円が対ドルで同程度に下落しないとすると、実効ベースで円が上昇することになる。そうすると、黒田日銀総裁が述べたように実効ベースでさらなる円安は追求しないにせよ、実効ベースでの円安維持のため、対ドルでの円安許容度は高まる。元安のおかげで、124円台半ばの「黒田ライン」は無意味化したわけだ。 米国から見た場合、元をはじめとするアジア通貨安に加え、原油安を受けてカナダドルやメキシコペソも下落したことから、ドル実効相場が上昇している。ドル実効相場での中国の比率は21%、その他アジア(日本を除く)を含むと38%、さらにカナダとメキシコを含めると6割を超えているため、ドル押上げ効果が大きいわけだ。 原油安の物価下押し効果、そして中国景気減速の米景気抑制効果もある。こうした中、米国が利上げを急がなくてもいいと判断する可能性は8月10日以前よりも高まっており、ドルとの連動性が高い米2年債利回りは上昇しにくくなるだろう。 このため、元続落リスクが高い中では、ドル円には円安・ドル安の両方向の力が働き、方向感が出にくい。他方、対ドルで上昇の可能性がある通貨は多くない。米国の次に利上げに向かう可能性が高いのは英国だが、英中銀はこれまでも利上げ期待が高まると、必要以上のポンド高を避けるために急ブレーキを踏んで調整してきた。 こうした中、消去法的に上昇しやすいのが、景気回復が続き、追加緩和の可能性が当面なく、ギリシャ問題も一服しつつあるユーロかもしれない。 *山本雅文氏は、マネックス証券シニア・ストラテジスト。日本銀行で短観調査作成、外為平衡操作(介入)や外為市場調査・モニタリングに従事した後、ドイツ・フランクフルト駐在を経てセルサイドに転出。日興シティグループ証券で通貨エコノミスト、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド銀行東京支店およびバークレイズ銀行東京支店で日本における為替ストラテジーチームのヘッドを歴任後、2013年8月に外為投資に関する調査・分析・情報発信を行うプレビデンティア・ストラテジーを設立。2015年4月より現職。国際基督教大学卒業。 2015年 08月 18日 17:31 中国でマツダがライバル凌駕、ドイツ神話に陰り 2015年 07月 17日 金や新興国資産の「投げ売り」発生=米メリルリンチ 2015年 07月 24日 超低金利による弊害増大「FRBも気づき始めた」、グロス氏警告 2015年 07月 31日 http://jp.reuters.com/article/2015/08/18/column-forexforum-masafumiyamamoto-idJPKCN0QN0IF20150818?sp=true
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