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これは戦争の引き金になる「禁じ手」だ! 人民元切り下げが世界経済にもたらすリスク
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44781
2015年08月18日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
■恐るべき苦境
栄枯盛衰――。第2次世界大戦の終結から70年の節目を迎えた先週のこと。5年前に、名目GDP(国内総生産)で日本を抜いて世界第2位に躍り出て、経済大国の名をほしいままにしてきた中国の退潮を象徴する出来事が起きた。
先週木曜日(13日)までの3日間の累計で約4.5%に達した人民元の切り下げだ。中国は懸命に否定しているが、人民元を低めに誘導し、輸出を伸ばそうと目論んでいることは明らかである。
だが、周知の通り、通貨安誘導は「近隣窮乏化策」とも呼ばれ、かつてブロック経済を招いて世界大戦の引き金を引いた。経済政策の禁じ手だ。
その禁じ手をあえて選択せざるを得なかったところに、中国指導部の苦境が象徴されている。成長鈍化を「新常態」と言いくるめて、実質GDPで7%の成長を維持するとしてきたものの、その達成は困難で、力で抑え込んできた不満が爆発して社会不安に発展しかねない状況にあるのだ。
リーマンショックや中国バブルの崩壊に直面しながら、中国は強引な空ぶかしを繰り返して問題の先送りを続けてきた。その経済の実態は、一体どうなっているのだろうか。歴史的な節目を迎えた中国の実情を探ってみよう。
各地の株式市場は先週水曜日(8月12日)、時ならぬ世界同時株安の様相を呈した。中国の中央銀行にあたる中国人民銀行が、2日連続で為替レートの目安となる基準値を引き下げたことを受けて、人民元相場がほぼ4年ぶりの安値をつけたことが引き金だった。
日経平均株価は一時400円を超す下げを記録。上海、韓国、インドネシア、ベトナム、シンガポールなどのアジア株指数は全面安となった。さらに株安の連鎖は、欧州に波及。独DAX指数が約3%の下落を記録した。米国でも、ダウ工業株30種平均が一時300ドル近く下げて、年初来安値を更新する場面があった。
突然の相場急落に、世界各地で中国を非難する声が沸き上がった。批判に共通していたのは、中国が鈍化した成長力を元安誘導による輸出拡大で補おうとしているというものだ。日本の証券アナリストからは「市場に驚きを与えてまで景気刺激に注力しなければならないほど、中国経済は悪化している」と指摘する声があがった。
■日本にとっても厄介
さらに、米財務省の報道官が声明を出して「輸出でなく、基本的に内需主導型の経済を目指すことが米中両国の利益にかなう」、「(元の自由化)改革の後退は、難しい事態を招くだろう」と警告する騒ぎも起きた。その声明には、いつまでたっても解消されない巨額の対中貿易赤字を抱える米国の苛立ちが反映されていた。
一連のリアクションの背景にあるのは、このところ様々な経済指標が極端に悪化している事実と、それに伴う実体経済への不信だ。例えば、7月は消費が伸び悩み、自動車などの生産が落ち込むなど減速が鮮明で、放置すれば、中国経済が底割れしかねない状況だ。特に、7月の輸出額は、市場の大方の予想に反して、前年同月比8.9%減と大幅な落ち込みをみせた。
中国の場合、輸入が輸出を上回る勢いで落ち込んでいることが事態を複雑にした。輸出以上に輸入が縮小することで、貿易黒字が拡大する傾向にあるため、対中貿易赤字に苦しむ国々から、巨額の貿易黒字を溜め込んでいながら、一段の輸出拡大を狙って、通貨安競争の引き金を引きかねない政策に走ることは許さないとの苛立ちが広がったのだ。
日本にとっても、中国の通貨切り下げは厄介だ。元安で割安になった中国製品が雨後の筍のように流入して、デフレ経済に逆戻りという悪夢が現実になりかねない。このところ、流通事業者やホテル業界を活気づかせる原動力になっている、中国人観光客の“爆買い”が冷え込むリスクもある。
こうした批判に対して、中国人民銀行の易綱副総裁は13日、異例の記者会見を開いて「(中国当局の狙いは)相場形成の仕組みを一段と市場化する」ことにあると強調し、元安誘導を狙ったものではないと釈明した。
2005年7月に「管理変動相場制」(毎朝公表する基準値から上下2%の変動を認めるもの)を採用して以来、市場実勢とかけ離れる一方だった基準値の決定方法を見直したに過ぎないと主張したのだ。そして、11日にその宣言を行ったうえで、即日、「基準値(の決定)を前日の市場の終値を参考にする」方式に変更し、実勢に近づけることにしたというのである。
■都合のよいことだけを発信
自らの言い分を補強する狙いがあったのだろう。中国人民銀行は12日、上海外国為替市場で人民元買い・米ドル売りの為替介入に踏み切った。これまで市場実勢を無視した人民元の価格形成を批判してきた国際通貨基金(IMF)には、中国の対応を肯定的に評価する声が皆無ではない。
しかし、中国人民銀行の言い分を鵜呑みにすることはできない。
その第一の理由は、人民銀行の記者会見がオープンなものではなく、人民銀行が指名した一部メディアだけが出席できるものだったことだ。人民銀行はこれまで、首脳の定例会見の場を設けて来なかった。今回、内外から厳しい批判を浴びたことに慌てて、刷り込みやすいメディアだけを招へいし、都合のよいことだけを内外に発信させる意図が丸見えだった。
第2のポイントは、中国の場合、最も代表的な経済指標であるはずのGDPが、政府によって脚色されており、信用に値しないとされてきた点である。余談だが、この点については、李克強首相が、中国のGDP指標を信用していないという風聞がある。
もともと間接情報が報じられたものとされ、真偽のほどは不明だが、現在のポストに登り詰める以前の地方幹部時代に、「(GDPは)人為的で信頼できない」として、比較的信用できる電力消費、鉄道貨物輸送、銀行融資の3指標に「注目している」と漏らしたというものだ。
中国の2014年の実質GDPは7.4%と、24年ぶりの低水準に減速した。それでも、習近平政権は、今年の全人代で、構造改革を断行して7%前後の成長を維持する方針を表明した。成長の鈍化を「新常態」と喧伝したことは記憶に新しい。そして、その公約通り、今年1〜3月と同4〜6月の実質GDPは、そろって前年同期比で7.0%増と目標を達成したとしている。
ところが、かつて李首相が「注目している」と述べた、同じ時期(1〜6月)の中国のエネルギー消費量は、前年同期比で0.7%増と横ばい圏だ。発電量も同0.6%増に過ぎず、こちらもGDPの伸びを大きく下回った。
省エネ技術が普及してエネルギーの利用効率が上がったとしても、エネルギー消費量や発電量とGDPの伸びがこれほどかい離するのは不自然過ぎる。こういった点に、多くのエコノミストが中国の実質GDPが水増しされているのではないかと疑う理由がある。
■「通貨戦争」がはじまる
補足すると、その水増しを少なめに見積もるエコノミストは、中国の実質GDPの伸びを4〜6%程度とみている。一方、水増しが大きいとみるエコノミストの一人は匿名で筆者の取材に応じ、「中国のGDPの大半を占めてきた製造業の電力使用量がマイナス0.4%と減っているのだから、実質GDPがマイナスだったとしても驚かない」との見方を明かした。
振り返れば、リーマンショック後、中国は、巨額の財政出動をするとともに内需振興のために地方政府による不動産開発を奨励したものの、不動産バブルが崩壊。「影の銀行」と呼ばれるノンバンクが一般向けに販売した理財商品を中心に、巨額の不良債権が発生した。その一方で、日本の7、8倍とされる過剰生産力を抱えた鉄鋼業などの在庫や生産設備の整理は今なお、手つかずである。
昨年来のGDPの減速は、そうした問題を先送りしてきたツケに他ならない。日本が1980年代のバブル経済の崩壊を機に、構造的な経済力の衰えに直面したのと同じように、中国バブル崩壊は中国経済の成長にピリオドを打つものとなるだろう。
昨秋以来、4回を数える利下げの効果が見えないジレンマの中で行われたのが、今回の人民元の切り下げだ。今年7月下旬に中国政府がまとめた輸出振興策にも、人民元の下げ余地を大きくする案は盛り込まれていた。
少数民族や成長から取り残された農村部を中心にした政情不安がくすぶる中で、経済成長の鈍化が更なる社会不安を招くのは確実だ。それゆえ、習指導部はかねて取り組んできた反腐敗運動だけでは不十分と判断、国内経済の立て直しを最優先課題に据えた。そして、世界から批判を受けるリスクを承知で、歴史的な賭けに打って出た。それが、今回の人民元の切り下げというわけだ。
しかし、通貨の切り下げが期待通りの効果をあげるかどうかは、未知数だ。デフレ経済の克服を大義名分に掲げて、黒田日銀が進めてきた異次元の金融緩和に伴う円安が、期待されたほど輸出振興策になっていないのは、その好例だ。通貨安は輸入物価を押し上げて、消費や国内の企業活動を鈍化させるリスクを伴う。GDPの起爆剤になる保証はない。
加えて、周辺国が対抗して自国通貨の低め誘導に踏み切る懸念がある。中国の場合は、今秋の実施が確実視されている米連邦準備理事会(FRB)の利上げに伴い、資本の海外流出が加速するリスクも勘案しなければならない。
習指導部が起死回生を目論む歴史的な賭けは、中国にとどまらず、世界経済全体の足を引っ張りかねない。人民元の切り下げは、そんな大きな危険性をはらんでいる。
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