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関税で守られてきたコメはむしろ衰退の道をたどった(写真:kitasan/PIXTA)
決裂したTPP、次に大筋合意したら起きること 農業へのダメージ、消費者が受ける恩恵は?
http://toyokeizai.net/articles/-/80565
2015年08月17日 田嶌 ななみ、又吉 龍吾、藤尾 明彦 東洋経済
結局、内向きの議論で終わってしまうのか──。大筋合意を目指して7月末に開催された、TPP(環太平洋経済連携協定)の閣僚会合は物別れに終わった。
関税の撤廃など自由貿易に関しては、150カ国超が加盟するWTO(世界貿易機関)が、グローバルなルール作りを目指してきたものの、まとまらず。代わりに少数国間でFTA(自由貿易協定)を結ぶ傾向が強まっていた。
TPPは2006年に発効した、シンガポール、ニュージーランドなど、4カ国の「P4協定」が原型だ。2010年から米国、豪州などが加わり、TPPへと発展。日本は2013年7月、最後発の12カ国目として、交渉に参加した。
いわばTPPとは、参加国のGDP(国内総生産)が世界の4割弱を占める、メガFTAである。AIIB(アジアインフラ投資銀行)を設立、アジアで主導権を握ろうとする中国を牽制する意味でも、合意が期待されていた。
5年間を超える交渉の末、最後になるはずだった会合がなぜ、決裂したのか。
「某国はいろいろ過大な要求をしてくる」。甘利明TPP担当相の批判の矛先はニュージーランド(NZ)に向かった。同国のティム・グローサー貿易担当相との交渉で、「本当にまとめる気があるのか」と甘利氏が声を荒らげる場面もあったとされる。
■誤算だったNZの先鋭化
NZの狙いは何より、日本や米国への「乳製品」の輸出拡大だ。国内市場が小さいNZは、牛乳生産の95%を乳製品として世界に輸出。酪農が国を支え、TPPで得られるメリットも乳製品輸出にほぼ限られることから、要求が先鋭化した。日本もある程度の輸入枠を設定する方針だったが、NZの要求はそれを大きく上回るものだった。
対する日本は、酪農家を保護するために、乳製品、特にバターには、従価税換算で360%の高い関税をかけている。輸入も国が制限し、最近ではバター不足が問題化するなど、改善すべき点は多い。
反面、「バターの輸入品価格は国産の3分の1。コメや肉と比べ品質による差別化も難しい」(本間正義・東京大学教授)と、NZの要求を丸のみするわけにいかない事情もあった。米国やカナダもNZ案を拒否。これがもう一つ難航していた、「新薬」のデータ保護期間をめぐる対立にも波及したのである。
製薬メーカーの強い米国が12年間を要求したのに対し、ジェネリック(後発医薬品)活用で医療費を安く抑えたいNZやマレーシアは5年間を主張。日本は妥協点として8年間を提案し、一時は双方に歩み寄りの機運も生まれていた。が、NZは「乳製品の要求が通らないなら新薬で譲歩しない」と強硬姿勢を崩さず、合意は絶望的となった。
会見で記者から交渉離脱の可能性を問われると、グローサー氏は「NZはTPP交渉を始めた最初の国の一つ。われわれは交渉から離脱しないし、追い出されもしない」と気色ばみ、TPPの前身であるP4協定からのメンバーであるプライドをのぞかせた。
今後は8月末から9月以降の会合開催が水面下で調整される。実施されれば、これが最後の会合となろう。2016年11月に大統領選挙を控える米国では年明け2月から予備選挙が始まり、超党派での協力が難しい。米国内でTPPの承認手続きにかかる期間を考慮すると、今秋に大筋合意できなければ、米国で新政権が本格稼働する2年後まで、TPPは宙に浮くとみられる。
■保護政策なら衰退へ
ただ7月末の会合では、多くの分野で進展もあった。
甘利氏は、「もう一度会合が開かれればすべて決着する」と、願望も込めてコメントしている。たとえば12カ国共通のルール作りでは、一定額以上の「政府の物品調達」や「公共工事」の国際入札を義務づけ、海外企業を公平に扱うこととした。新興国のインフラ投資案件では、日本企業の受注する機会が増えることも期待されている。
TPP参加国のGDPの約8割を占める日米の間でも、難航していたいくつかの品目では、合意のメドが立っていた。日本が攻める立場の「自動車部品」の関税2.5%では、即時撤廃を求める日本と、時間をかけたい米国とで隔たりはあったが、撤廃する方向では一致している。
片や日本が守る立場の農産品では対応が分かれた。牛肉と豚肉では、早くから関税の引き下げ率などで、日米が大筋合意。一方で、日本が“聖域”と位置づけているコメに関しては、様相が異なる。
「コメ」にかかる関税は現在、1キログラム当たり341円。TPPでは現行の関税を維持するのが前提で、その代償として、日本は無関税で輸入する「TPP特別枠」の設定を受け入れる方針だ。その量をめぐり、調整が続いている。
過去に日本は、ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉における合意を受け、1995年から毎年一定量のコメを(2000年から77万トン)、ミニマム・アクセス(MA)米として、義務的に輸入してきた。MA米の多くは国内農家に影響を及ぼさないよう、家畜の飼料や国際援助に回される。その結果、売買差損や在庫の保管料で、累計2700億円の財政負担が発生。今回の特別枠は、このMA米に加え、さらに輸入を増やすものだ。
さまざまな保護政策にもかかわらず、全農産物の産出額に占めるコメのシェアは20%程度と、低下が著しい(図上)。特別枠の量がどの程度で決着するにせよ、競争力の衰退を止められず、さらなる財政負担の拡大を招く関税維持には、疑問が残る。
他方、米国産の「牛肉」は現行の38.5%の関税が、約15年間で9%に引き下げられる公算だ。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁氏は「国産牛肉は競争力があり、ダメージはない」と見る。
■競争力をつけた和牛
それを裏付けるのは、これまでの実績である。輸入牛肉の関税は1991年時の70%から2000年にかけて、38.5%まで段階的に引き下げられた。この間、高級な和牛の生産量は、実は増加した(図下)。
というのも畜産業者は、小売価格で輸入牛肉と約3倍の差がある、和牛生産に注力。低価格の国産牛肉(乳牛種のオスなど)の生産は減ったが、高価格の和牛の生産は、1991年の14.3万トンから、2014年に16.1万トンまで伸びた。関税の引き下げが競争力を高めた好例といえるだろう。
輸入牛肉の取扱量の多い国内の外食業界でも、TPP妥結を求める声が相次ぐ。
「TPPについて一つだけ言えるのは、悪いニュースではないということ」(日本マクドナルドHDのサラ・L・カサノバ社長)。「食材コスト抑制につながることは歓迎したい」(吉野家HDの河村泰貴社長)。輸入牛肉の場合、現地相場や為替も含めた複合要因で価格が決まる。関税引き下げがメニュー価格引き下げに直結するわけではないものの、消費者が恩恵を受ける可能性は高まりそうだ。
また「豚肉」に関しては、現状、価格帯によってかけられる関税が異なるという、複雑な制度が採用されている。1キログラム当たり524円を超える高い豚肉の関税は4.3%だが、安い豚肉には最大で482円の関税がかかる(価格によって関税額も変動)。
これは日本に安い豚肉が入ってこないための制度。しかし今回のTPP交渉では、安い豚肉にかかる関税について、約10年間で482円から50円に引き下げる方向でほぼ合意した。実現すれば、安い輸入豚肉の主要顧客であるハム・ソーセージメーカーは、原料価格を抑制できる。
コメなど一部例外を除き、TPPの交渉妥結で、日本の消費者が享受できる恩恵は大きい。従来どおりの産業界保護で終わるのでなく、各国には“生みの苦しみ”を乗り越える努力が求められよう。
(「週刊東洋経済」2015年8月22日号<17日発売>「核心リポート01」を転載)
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