2. 2015年8月18日 08:40:29
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http://diamond.jp/articles/-/76875 【第392回】 2015年8月18日 真壁昭夫 [信州大学教授] 人民元切り下げが示す中国経済の苦境と 世界への悪影響 突然の人民元切り下げの実態は なりふり構わぬ輸出テコ入れ策 ?8月11日、突然、中国人民銀行は2%近い人民元の切り下げに踏み切った。その後13日まで3日連続で切り下げ、その間の下落幅は4.5%に達した。
?今回の措置は、表向きIMF(国際通貨基金)の勧告に従った人民元改革と称しているものの、実際には、中国政府の輸出のてこ入れを狙った景気刺激策の一環と見る。 ?足元の中国経済の減速感は、ここへきて一段と鮮明化している。中国国内では、生産能力の過剰感が高まっており、企業間の取引価格の水準を示す今年7月の卸売物価指数は、前年同月比マイナス5.4%と3年5ヵ月連続で下落した。 ?そうした経済低迷に危機感を持つ同国政府は、これまでにも金利の引き下げやインフラ基金の創設など矢継ぎ早に手を打っているものの、不動産バブルや債務の積み上がりなどの問題があり、期待したほどの効果が上がっていない。 ?それに加えて7月の同国の輸出が前年同月比でマイナス8.3%と大幅に落ち込んだことを受けて、中国政府がなりふり構わず人民元の為替レートを切り下げたというのが実態だろう。 ?実質的な通貨切り下げを、人民元改革の一部と説明することで相応の体面を保つことを考えたと見られる。 ?世界最大の貿易黒字国である、中国の為替レート切り下げの影響は小さくはない。人民元が切り下げられたことで、アジア諸国などの通貨は弱含みになるだろう。それは、結果的に通貨の切り下げ競争につながる可能性が高い。 ?現在の世界経済の状況を考えると、通貨切り下げ競争によって最終的に強含むのは米ドルになるだろう。重要なポイントは、米国経済がそれに耐えられるか否かだ。 人民元は円に比べ4割強含み 中国の輸出産業には大きなマイナス ?人民元に係る為替制度には大きな二つの特徴がある。一つは、基本的に人民元は中国人民銀行の厳格な管理下にあることだ。 ?人民元とドルを交換する場合、人民銀行が毎日提示する交換レート=基準値から、上下2%の範囲に限定されている。つまり、人民銀行の基準値から上下2%を超える取引は、実際上できないということだ。 ?ところが、人民銀行が提示する基準値の計算方法は公表されていない。言ってみれば、人民銀行が勝手に基準値を決めることになる。そのため、提示されたレートが実勢を反映していようといまいと、それから上下2%内での取引しかできないのである。 ?そうした中央銀行の恣意的な基準値の提示や厳格な為替管理体制に対して、米国など主要国から人民元が実勢を反映せず、過小評価されているとの批判を受けることが多かった。またIMFからは、現在、ドル・ユーロ・円・英ポンドで構成されるSDR=特別引出権の算出対象通貨に人民元を加えるべく、人民元の為替制度改革を要請されていた。 ?もう一つは、人民銀行が算定する毎日の基準値は、従来、ドルとほぼ連動するように算出されていたことだ。そうした仕組みはソフトペッグ制度と呼ばれ、当該通貨は基本的にドルが上がると上昇し、下がると下落するという同一方向に動く仕組みだ。 ?ソフトペッグ制度だったため、2011年以降、ドルの上昇とともに人民元も上昇傾向を辿り、人民元は円などの通貨に対して約4割強含みの展開になっていた。自国通貨が上昇することは、当該国の輸出産業にとって条件が厳しくなることを意味する。それは、輸出依存度の高い中国経済にとって無視できないマイナス要因だ。 進まない構造改革と鮮明化する景気減速 背に腹は代えられず輸出振興を選択 ?従来、中国経済の主なエンジンは輸出と設備投資だった。特に、リーマンショック以前は、同国は世界の工場として輸出の大きく伸びる時期が続いた。 ?ところがリーマンショック以降、世界経済が失速したことで輸出の伸び悩みが顕在化した。それに対して胡錦濤政権は、景気刺激の目的で4兆元=邦貨換算で70兆円を超える大規模な景気対策を打った。 ?その景気対策で中国経済は一時的に回復基調を歩んだが、結果として、過剰生産能力を抱えることになった。粗鋼やセメントなどの過剰供給能力の売り先として、新興国のインフラ投資を見込んでアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設を意図したものの、AIIBの活動が開始するのは早くて今年末近くになる。 ?元々、習近平政権は、振れが大きくなりがちな輸出への依存度を減らす一方、相対的に安定した国内の個人消費中心型へのモデルチェンジを図った。しかし、国内で主に消費活性化を担う中間層がなかなか育たないこともあり、モデルチェンジにはまだ相当の時間を要する。 ?過剰生産のはけ口として、新興国のインフラ投資を見込んで創設予定のAIIBが活動を開始できるのは、前述の通り早くて今年末近くと言われている。それでは、足元の中国経済の減速ぶりを見ると、効果が実現するタイミングが間に合わない。 ?足元の中国経済については様々な見方があるものの、最近発表になる経済統計を見る限り、かなり厳しい状況に追い込まれているのは確かだ。経済状況が悪化すると、国民の間に不満が蓄積するのは避けられない。 ?一部の中国経済専門家には、「これ以上景気減速が鮮明化すると、習政権に対する不満が顕在化して政権維持が難しくなることも考えられる」との見方もある。政府としても背に腹は代えられず、人民元を実質的に切り下げて輸出振興を図ることを選択せざるを得なかったのだろう。 勝者なき通貨切り下げ競争と 米国景気への悪影響の懸念 ?中国国内からは、「人民元を10%程度切り下げるべき」との声が出ているようだ。今後、欧米がクリスマス商戦に向けて、中国からの雑貨品等の輸入の手当てを行う時期に向けて、人民元が下落することの意味は小さくはない。 ?問題は、今回の実質的な人民元切り下げによって、世界経済の微妙なバランスを崩す可能性があることだ。中国が自国通貨を切り下げると、一部のアジア諸国などもそれに追随することが想定される。 ?既にベトナムは為替変動の範囲を広げることで、通貨ドンの実質的な切り下げを可能にすることを発表した。他にもそうした国が出てくることが考えられる。特に、現在のように、世界的に過剰生産能力が存在し、企業間物価指数に下押し圧力がかかりやすい状況では、その連鎖が広がり最終的に為替の切り下げ競争へと発展することが懸念される。 ?為替の切り下げ競争が現実味を帯びてくると、国際市場の勝者なき競争が激化し、結局、世界経済全体の足を引っ張ることも考えられる。 ?また、今回の人民元切り下げの措置で、「資源多消費型の中国経済が相当厳しい状況に追い込まれている」との見方が広がると、資源などのコモディティ価格の低迷が続き、一次産品の生産国には無視できない逆風が吹くことになる。 ?さらに懸念されるのは、人民元の切り下げの影響が米国にも及ぶことだ。人民元が切り下げられるということは、ドルが一段と上昇することを意味する。ドルが上昇することは、米国の輸出企業にとっては経済環境が悪化することだ。 ?そうした状況の中で、2009年央以降回復を続けてきた米国経済が、これからも回復基調を維持することができればよい。しかし、ドル高・原油安の逆風の中で、同国企業の業績の伸び悩みの兆候が出始めている。 ?今まで世界経済を牽引してきた米国経済に、人民元切り下げをきっかけに上昇トレンドの息が切れるようなことがあると、世界経済は大きな試練を迎えることが考えられる。そのリスクを過小評価するのは適切ではない。 http://diamond.jp/articles/-/76871 金融市場異論百出 2015年8月18日 加藤 出 [東短リサーチ代表取締役社長] 株式投資への過度な扇動はなぜ 中国経済に漂う“気持ち悪さ”
大阪の道頓堀近辺で「爆買い」をした後の中国人観光客。ドラッグストアの袋に大量の購入品を入れて店から出てきた?Photo by Izuru Kato ?スイス腕時計協会によると、6月のスイスからの国別輸出額は、中国(本土+香港)向けが世界一だった。しかし、前年比はマイナス18%の大幅減少を示した。一方で、英国は34%、イタリアは25%、フランスは24%の大きな伸びを記録した。スイス製時計への中国人の需要が急落して、欧州人の需要が高まったかのように見える。 ?しかし、業界関係者によると一概にそうとも言い切れず、中国人観光客が海外で購入するケースが増えているのだという。それに対応して、スイスの時計メーカーは欧州の店舗で中国語が話せる店員を増員中だ。このため、スイス時計業界は上海株価指数の6月以降の急落が、中国人の消費マインドを悪化させないか気をもんでいる。 ?中国人の今後の消費動向を心配しているのは日本も同様といえる。しかしながら、今のところ東京や大阪では、相変わらず中国人観光客は「爆買い」を続けている。 ?7月最終週に大阪の道頓堀近辺を歩いたが、中国人を中心とする観光客でごった返していた。団体客がドラッグストアに入っていくのが見えたので、付いていってみた。彼らは胃腸薬、頭痛薬、目薬、ビタミン剤、化粧品などあらゆる商品を大量に購入していく。 ?スマートフォンの画面を見ながら、ブログで推奨されている商品をチェックしつつ選んでいる人が多かった。スカイプなどのテレビ電話で商品をカメラに写し、自国にいる家族に「これでいい?」と聞きながらカゴに入れる人もいた。買い物を終えた人は、大量の購入品を入れた大きなビニール袋を持って店から出てくる。 ?心斎橋近くのビジネスホテルに宿泊したのだが、翌朝食堂に行くと日本人のビジネスパーソンは1割程度しかおらず、大半の宿泊客が中国語を話していた。寝ぼけていたせいもあり、「あれ、今日は中国出張だっけ?」と一瞬混乱するほどの中国人の多さだった。 ?では、中国本土の消費者の様子はどうなっているのだろうか。北京や上海にいる知人のエコノミストに尋ねてみたが、意外に悲愴感が漂う話はあまり聞こえてこない。株で損失を発生させた人は多いが、あっけらかんとしている人が今は多いという。なぜなのだろうか。 ?話を総合してみると、第一に、中国の家計資産に占める株式の比率は先進国に比べるともともとかなり小さい。保有資産の大部分が吹き飛んでしまったという人は全体で見ればそう多くはない。第二に、中国政府が株価支持策をやっているので、いずれは株価が上がるはずと楽観的に考えている人がまだ結構いる。第三に、賃金は伸びているため、今は日常の消費まで節約する人は限られている。 ?ただし、今年春に「人民日報」など国営メディアが株価押し上げのための記事を盛んに掲載していたのは何だったのかと考えると、不可解な気持ち悪さは残る。 ?日本のアベノミクスの株価押し上げ効果がうらやましく見えた可能性はある。しかし、中国当局は「新常態」(経済成長率7%前後を目標とする中国経済の新局面)への移行を慎重に進めてきた。シャドーバンキング(金融当局の規制を受ける銀行以外による金融取引)の問題も緻密に管理し、地方債務問題の軟着陸も進めていた。 ?それにもかかわらず、当局はなぜ株式投資を過度に煽ってしまったのか。水面下で深刻な景気悪化が進行していたのか。あるいは、経済とは別の政治的動機があったのか。その見極めがつくまでは注意して見ていく必要があるだろう。 (東短リサーチ代表取締役社長?加藤 出) |