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ビットコイン取引所が都内で開いた会合で、関係者が手にした仮装通貨ビットコイン(2014年2月27日撮影、資料写真)。(c)AFP/Yoshikazu TSUNO〔AFPBB News〕
ビットコインへの対応で試される国家の「パワー」 現代の新たな金本位制、日本も積極的に受け入れよ
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44530
2015.8.17 加谷 珪一 JBpress
仮想通貨「ビットコイン」の大量消失事件をめぐり、取引所運営会社の社長が逮捕・送検されたことで、ビットコインに対する規制強化の議論が再燃している。
諸外国でも規制の動きが進んでいるが、日本と比較すると、そのニュアンスはだいぶ異なる。日本ではビットコインに対する否定的な見解も少なくないが、米国や欧州では通貨としての環境整備が着々と進んでおり、当局による適切な管理の下、健全に育成させる方向性が明確になりつつある。
ビットコインは既存の通貨制度に対するアンチテーゼという側面を持っているが、強固な金融システムを持つ「強い国家」にとってはむしろ国益となる。一方、脆弱な金融システムしか持たない「弱小国家」にとって、ビットコインは脅威となる可能性が高い。日本における規制の議論が、今後どのような方向に進むのか、日本の立ち位置が問われている。
■同じ規制といっても
警視庁は8月1日、仮想通貨ビットコインの取引所運営会社「MTGOX」(マウントゴックス)の社長、マルク・カルプレス容疑者を私電磁的記録不正作出・同供用容疑で逮捕した。カルプレス容疑者は取引所の運営システムを不正に操作し、自身の口座残高を水増しした疑いが持たれている。
MTGOXが破たんしたのは2014年2月のことである。当時は、ビットコインの是非やその法的な取り扱いをめぐって議論となったが、その後、あまり話題に上ることはなかった。今回、取引所運営会社社長が逮捕・送検されたことで、再び規制に関する議論が活発になってきている。麻生財務大臣は「利用実態をよく踏まえ、対応のあり方について検討を進めていかなければならない」と述べ、政府内部で具体的に検討を進める意向を明らかにしている。
だが、ここで重要なのは「規制」という言葉の持つ意味である。同じ規制でも、どのような方向性を軸に議論するのかで、規制のあり方は180度変わってくる。
1つは経済活動に必要不可欠なインフラとして、当局の監督の下、健全に育成させるための規制である。もう1つは、できるだけ社会に普及しないよう抑制するための規制である。政府が経済活動に規制を加える場合には、基本的な価値観や考え方について明確にしておかないと、各論ばかりが先行し、全体の整合性が取れないものになってしまう危険性がある。
詳しくは後述するが、ビットコインは国家にとって強力なパワーにも脅威にもなる存在である。日本としてこれをどのように取り扱うべきなのか本質的な議論が必要だが、今のところ国内にそのような雰囲気はない。
■日本の金本位制から考える、通貨の存在と国家による保証
そもそも通貨とは国家にとってどのような存在なのだろうか。通貨は皆が日常的に扱う身近な存在である一方、なぜ通貨が存在しているのかなど、その本質的な部分については謎に包まれている。
多くの人は、政府や中央銀行がその価値を担保しなければ通貨は存在しないと考えているが、必ずしもそうでもない。通貨には、多くの人がそれを価値のある存在と認めれば、通貨として成立するという自律的な側面があり、政府による価値の保証は絶対要件ではない。
通貨に政府の絶対的保証が必要でないことは、かつての日本円を考えれば分かる。
歴史の教科書などを読むと、日本は日清戦争の勝利で得た賠償金を元に金本位制を開始したと書いてある。だが厳密に言うと、この記述は正しくない。賠償金は当初、銀で支払われる予定だったが、清には日本に支払うだけの銀がない。このため清は、当時の覇権国である英国に対して外債を発行、賠償金相当額のポンドを借り入れて銀を購入し、日本に支払うつもりであった。しかし、大量の銀を一度に清が購入してしまうと、銀価格が暴騰してしまうだけでなく、大量の銀地金を日本に移送する必要が出てくる。結局、日本政府は賠償金を英ポンドで受け取り、これを金地金と同じ価値があるとみなして金本位制をスタートさせた(しかもポンドは日本ではなくロンドンのシティに預金された)。
これは今の時代にあてはめれば、日本政府がドルをウォール街の銀行にたくさん預金しているので、これを担保に日本円を発行したことと同じになる(現在のドルは金との兌換性が保証されていないという違いはあるが)。つまり、多くの人が信用できると考えるものが担保になっていれば、通貨はその価値を維持することが可能なのだ。
香港ドルも、香港特区政府の監督下とはいえ、米ドルを背景に民間銀行が発行する通貨である。通貨の発行や流通に、国家の一元管理や絶対的信用が必ずしも必要不可欠でないことは、こうした事例からも明らかである。
■ビットコインは現代の金本位制?
ビットコインは2008年に登場したインターネット上の仮想通貨である。既存の通貨のように発行元になる国家や中央銀行は存在していないものの、その仕組みはかなりしっかりとしたものであり、限りなくホンモノの通貨に近い存在である。
ビットコインの中核となるのは、取引履歴の正当性を証明するブロックチェーンという技術である。世界に分散されたコンピュータが大量の演算を行うことによって、ブロックチェーンの正当性が担保されている。この大規模な演算に協力した人には、その報酬として新規のビットコインが提供される仕組みとなっている。つまり、ビットコインの価値は、正当性を証明する膨大なコンピュータ上の労働によって成り立っている。
ビットコインの発行総量は、構造的に上限が決められていて、一定量以上の発行は不可能である。ビットコインを発明したのはナカモトサトシ氏(正体は不明)といわれているが、ナカモト氏は経済学でいうところの投下労働価値説と金本位制の概念をうまくミックスさせ、ビットコインを設計したと考えられる。どのシステムにも100%ということはあり得ないが、ビットコインは非常によくデザインされた完成度の高いものであり、通貨として普及するポテンシャルを持っている。
ビットコインの完成度の高さを多くの人が認識すれば、ビットコインは単独で通貨としての価値を維持できる可能性は高い。ビットコインに関する規制のあり方を議論する際には、まずこの事実を前提にすることが重要である。
■ビットコインに積極的な国は総じて「強国」
麻生氏は、これから具体的な規制のあり方について議論すると述べているが、実は日本政府内部では、規制に関する具体的な検討がすでに始まっている。その理由は、6月にドイツで開催された先進7カ国首脳会議(G7)において、テロ資金対策として仮想通貨の規制を含めた対応策を講じることが合意されたからである。
これまでほとんど手つかずだった日本は、急ぎ対応策の検討を迫られる状況となっており、今のところ、取引所の登録制といった案が浮上しているという。
日本では、ビットコインについて、通貨でも金融商品でもないという位置付けになっている。だが欧州では、ビットコインを通貨あるいは金融商品として認め、課税のルールを定めたり、金融当局が適切に監督する方向で議論が進んでいる。米国は今のところ黙認といった状態だが、今年の5月にはニューヨーク州の金融サービス局がビットコインの取引所に対して銀行免許を交付するなど、ビットコインを通貨システムの一部として取り入れる動きは着々と進んでいる。
ビットコインに対する各国の動きを眺めてみると非常に興味深いことが分かる。ビットコインを通貨あるいは金融商品として容認する方向性を打ち出しているのは、ドイツやノルウェー、カナダなどである。米国や英国も基本的には育成の方向とみてよいだろう。一方、ビットコインに対して否定的な国にはロシアや中国などの名前が並ぶ。ロシアではビットコインは違法であり、中国では政府が金融機関に対して、ビットコインの取り扱いを禁止する通達を出している。つまり、強い経済を持ち、強固な金融システムを持つ国は容認の方向で、経済が脆弱で、金融システムが不完全な独裁国家はビットコインに否定的である。
■大国にとって「シニョリッジ」の魅力は小さい
この図式は、ビットコインが持つ本質的な意味を象徴しているといってよいだろう。確かにビットコインは国家の監督を受けない通貨であり、場合によっては国家が持つ「シニョリッジ」(通貨発行益)を脅かす可能性がある。だが、経済の規模が大きく、グローバルに通用する金融市場を持つ国の場合、シニョリッジによって政府が得られる利益はごくわずかである。シニョリッジが相対的に大きな意味を持ってくるのは、金融システムが脆弱で、恣意的な通貨制度になりがちな途上国や独裁国家である。ロシアや中国がビットコインに対して脅威を感じるのはある意味で当然のことなのである。
グローバルな市場で基軸通貨もしくはそれに準じる地位を持つ通貨の場合、仮にビットコインのような通貨が流通しても、最終的には既存の強い通貨にペッグする、あるいは現在の米ドルと金の関係のように、主要通貨に対する信用度合いを示すバロメータとしての役割を果たす可能性が高い。むしろ従来の通貨と同様、当局が適切な規制を行い、その範囲内で自由に流通させた方が、広い意味で自国通貨圏を拡大させることにつながってくる。
広範囲な自国通貨圏を持つこともシニョリッジの1つと定義するなら、ドルとビットコインが連動することによる権益を享受できるのは米国ということになる。米国や欧州は、最終的には、自国通貨圏にビットコインをどのように連携させていくのか、国益という観点から模索していくことになるだろう。
■問われる日本の戦略性
ひるがえって日本はビットコインに対してどのようなスタンスなのだろうか。現状は、G7合意への対応という形で、短期的な観点で議論が進んでいる可能性が高い。一方、メディアの論調などを見ると、ビットコインについて、存在そのものに否定的な見解を持つ人も少なくないように見える。
通貨制度は覇権国家が持つ重要なグローバルパワーの1つである。ビットコインは、通貨制度という国家が持つパワーに対する試金石となる。ビットコインにどう対応するのかは、日本が「強い」国家であることを前提にするのか、「弱い」国家であることを前提にするのかの分岐点と考えることもできるだろう。
ビットコインを得体の知れない存在として、ただ忌避するようなことになれば、経済的利益を得られないだけなく、グローバルパワーとしての円の存在感をさらに低下させることにもなりかねない。
ビットコインは、現代の新たな金本位制とも呼べる通貨システムである。日清戦争の賠償金をポンドで受け取り、ロンドンのシティに預けることで金本位制をスタートさせた明治政府の指導者は、国際社会の現実と通貨が持つパワーを熟知していた。今後、議論が進められるであろうビットコインの規制のあり方についても、こうした戦略性を持つことが重要である。
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