1. 2015年8月17日 08:21:24
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「上向く景気、実感はこれから広がる」年収1000万円の「リッチ派遣」が登場2015年8月17日(月)松浦 龍夫 企業収益や家計の金融資産残高など、過去最高となる指標が相次いでいる。しかし“実感なき景気回復”を指摘する声は多い。一時的な輸出の停滞を受けて、内閣府が8月17日に発表する4〜6月期のGDP(国内総生産)も3四半期ぶりにマイナスになりそうだ。 日経ビジネス8月10日号の特集「上向き景気、実感はこれから広がる」では、こうした疑念をよそに外資系企業が地方景気の回復を先取りし、中堅・中小企業も成長軌道に舵を切り始めた様子を伝えた。賃金上昇を背景に、あえて非正規雇用を選ぶ人も増えている。 この連載では、特集の連動企画として、誌面では紹介しきれなかった景気の実相をリポートする。本連載の3回目では、派遣先の企業から正社員登用の声がかかるにも関わらず、あえて派遣社員を続けて高給を稼ぐ人々に焦点を当てる。 「1000万円プレイヤーの派遣社員がいる」。そう聞きつけて取材をしたのが東証1部に上場する中堅IT企業で派遣社員として働く井山仁氏(仮名、41歳)だ。井山氏は企業システムの設計を担当するITエンジニア。月収は多い月でなんと100万円、年収はここ数年1000万円を優に超えている。実際に100万円を超える月の給与明細も見せてくれた。「システム開発案件が多く、残業代が入るため」と本人は謙遜するが、まさに「リッチ派遣」と言っていいだろう。 井山氏だけではない。1000万円プレイヤーは他にもいた。大手通信会社のシステム部門で派遣社員として働く宇津木悟氏(仮名、50歳)だ。勤務時間は平日午前9時から午後5時30分まで。残業や休日出勤も一切なく、月収は50万円、年収ベースで600万円。年収1000万には足らないが、「ITエンジニアの副業が認められており、その自分の仕事の収入が年400万円ほどある」というので、これを加えると確かに年収1000万を超える。 二人に共通するのは、「あえて派遣社員を続けている」ということだ。理由は明快で、「高い収入が得られるから」(井山氏)というものだった。マイナンバー制度やサイバーセキュリティ対応などを背景に、いずれも派遣先企業のシステム受注が順調で今後も見通しは明るいという。ITエンジニアの時給も上昇の一途を辿っている。リクルートジョブズ(東京・中央)が毎月実施している調査によると、ITエンジニアなどIT・技術系の派遣社員の平均時給は2010年1月に1768円と直近の下値から上昇を続けており、2015年6月は2033円と15%ほど上がっている。 あえて派遣社員を続ける人の中には、年収アップを目指すために正社員を辞めた人もいる。都内の大手SIerで派遣社員のエンジニアとして働く村井聡さん(35歳、仮名)だ。昨年8月までの正社員時代は月収25万円ほどだったが派遣社員の今では時給3000円で月60万円ほどを稼ぐ。「こんなに上がるとは思わなかった。派遣社員でステップアップし、年収1000万円が目標」と村井氏は話す。 大手派遣会社インテリジェンスの喜多恭子・派遣事業部長によると、「人手不足に悩むIT系や自動車製造の技術者は高額の派遣社員が増えている」と指摘する。同社のデータでは、大手SIerの開発エンジニア職は時給5000円前後、高い場合は6000円。製造系のエンジニアでは4000円ほどが多いという。仮に時給5000円、1日8時間、月20日働くとすると月収は80万円の計算になる。確かに年収1000万円も現実的な数字になりつつある。 自分の働き方を選べる魅力
彼らにとって時給の高さは魅力的で、派遣社員を続ける大きな動機づけになっている。ただ1000万円プレイヤーの井山氏と宇津木氏はともにリーマンショックのあおりで職を失った過去を持つ。派遣社員であることの不安はないのだろうか。 意外なことに二人とも答えはノーだった。井山氏は「派遣社員がいつ切られるか分からないのは事実だが、優秀な人材が多い職場で緊張感をもって仕事に向かいあう働き方ができるのはむしろメリット」といい、宇津木氏も「正社員だと残業も断れないし、副業も認められない。そうするともう一つの仕事に時間を振り分けることができない」と語る。いずれも不安はなく、派遣社員の方が自分の納得度の高い働き方ができるという考えだ。年収1000万円を目指している村井氏もこの考えに同調する。「正社員だとどのシステムに関わるか、どの技術を使うかは自分に選択権がない。将来性がない経験や技術は先の自分の選択肢をせばめる。その分、派遣社員だと自分で自由にキャリアを設計できる」(村井氏)。 高額な時給という金銭面の好条件に加えて働き方まで自由に選べる状況というのは、景気が上向いていることの一つの裏付けになっている。景気の悪い時ならば派遣社員側は金銭面の条件のいいところを探すことや、そもそも雇ってもらえることで精いっぱいで、働き方を選ぶことは難しいからだ。インテリジェンスの喜多・派遣事業部長も「最近では、時給の見直しだけでなく働く時間などの待遇改善も企業が交渉に応じてくれるようになった」と語る。働き方という数字に表しづらい部分にも上向く景気の波がやってきている。 (松浦 龍夫) このコラムについて 上向く景気、実感はこれから広がる 企業収益や家計の金融資産残高など、過去最高となる指標が相次ぐ景気。しかし“実感なき景気回復”を指摘する声は多い。一時的な輸出の停滞を受けて、内閣府が8月17日、発表する4〜6月期のGDP(国内総生産)も3四半期ぶりにマイナスになりそうだ。 日経ビジネスは8月10日号の特集「上向き景気、実感はこれから広がる」では、こうした疑念をよそに外資系企業が地方景気の回復を先取りし、中堅・中小企業も成長軌道に舵を切り始め様子を伝えた。賃金上昇を背景に、あえて非正規雇用を選ぶ人も増えている。 この連載では、特集の連動企画として、誌面では紹介しきれなかった景気の実相をリポートする。初回は地方の不動産に投資する外国人ならではの“目利き”を取り上げる。 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/080700025/081000003 |