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大改修工事が進む市内中心部 マヤコフスキー広場
ロシア経済を強靭化させつつある欧米の経済制裁 息を吹き返した国内産業、課題は中小企業育成
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44496
2015.8.17 大坪 祐介 JBpress
このところモスクワの街中を歩くと至る所で道路工事や公的施設の改修工事に遭遇する。何ゆえ今さらそんなところを改修しなければならないのか首をひねる現場が多いうえ、地下道などは改修前と改修後でいったいどこを改修したのか分からない。
要は公共工事で少しでも景気を浮揚させようという政府・市当局の思惑であろうか。
7月下旬のアレクセイ・ウリュカエフ経済発展大臣の発言によれば、ロシアの2015年上期のGDP(国内総生産)成長はマイナス3.4%、通期ではマイナス2.6-2.8%になる見通しであった。
その後、8月10日に国家統計局から速報値が発表され、2014年第2四半期の成長率は前年同期比マイナス4.6%、第1四半期のマイナス2.2%からさらに悪化した。
このようにロシアの景気低迷は明らかだが、一方で今年初めに想定されていた数値に比べると大幅に改善している。もちろん、低水準だった前年の裏要因を考慮する必要はある。
■ ハトとタカの両方を経験した大臣
ウリュカエフ大臣は2013年に経済発展大臣(日本で言えば経済産業省に相当する)に就任したが、前職は2004年からロシア中央銀行の金融政策担当の第1副総裁、事実上のナンバーツーだった。
ロシアの経済発展省はいわゆるハト派(金融緩和賛成)、ロシア中銀は超タカ派(金融緩和反対=インフレ抑制至上主義)なのだが、その両ポジションを経験した同氏のコメントに対して筆者は比較的信頼を置いている。
市中のエコノミストの分析でもロシア経済が昨年末に想定されたほど壊滅的な状況には陥っていないとの見方が強い。
もちろん、ロシア経済に回復の兆しが見えているわけでもない。これまでの経済成長の原動力だった国内消費は前年比1割近く、投資もマイナス5%を下回る前年比大幅マイナスが続いている。
工業生産はルーブル下落によって1998年、2008年の経済危機時と同じように輸入代替が進み、食品や軽工業など回復を示すセクターがないわけではないが、全体としてはマイナス5%前後の減速が続いている。
他方、雇用情勢は安定しており(6月の失業率は5.4%)、国内の金融システムも平穏である。それどころかロシア中銀はこの不況を奇貨として、国内の問題銀行の一掃に取りかかっているほどだ。
欧米諸国から見れば、こうした状況は経済制裁が有効ではないということを意味するので、素直に受け入れがたい事実だが、ロシア政府は経済制裁に対する持久戦への自信を一段と深めているように思える。
6月中旬にサンクトペテルブルグで開催された恒例の国際経済フォーラムでウラジーミル・プーチン大統領が「経済の最悪期は脱した」との発言もそれを反映したものだろう。
また、ロシア中銀が昨年12月のルーブル急落に対応して17%まで引き上げた政策金利を今年に入って4回の利下げを行い、11%まで引き下げていることも非常事態モードから平常時モードへの切り替えが進んでいることを意味する。
ロシア経済が低位安定に成功した背景には、ロシアの双子の優等生、すなわち国際収支と財政収支がある。
■ 輸入急減につながるルーブル安
ロシアは言うまでもなく資源・エネルギー国である。資源価格、特に原油価格の下落はロシア経済に大きなマイナスインパクトを与えるが、それでもロシアの国際収支が赤字に陥ることはすぐには想定しがたい。
需要面でロシアからの資源輸出数量が短期間で急減する可能性が低いこと、他方、資源価格の下落はルーブル安につながり、ロシアの輸入急減につながるからである。
ところで、ロシアからの資金逃避もよく指摘されるところであるが、経済制裁導入後のこれら資金のほとんどはロシア企業による対外債務の返済である。
西側の金融機関からローンの繰り越しを拒否される、あるいは不利な条件を提示されたために返済したものであり、見合いでロシアの対外債務残高も減少している。資金逃避と聞くと外国資本が一斉にロシアから逃げ出すイメージがあるが、これまでのところロシアに進出した大手外資が撤退したという話は聞かない。
財政収支に関しても、ロシアの歳入は石油輸出企業からのドル建ての税収に大きく依存しているため、ルーブルレートの下落は一時的には歳入の増加につながる。ロシア政府の国債発行や対外調達は限定的であるため、金利上昇による調達コストの増加もこれまでのところ大きな負担とはなっていない。
筆者も国内のインフレが適正にコントロールされている限り、ロシア経済が目先2-3年は致命的に困ることはないと楽観視しているが、では5-10年といった中長期的に現在の経済システムが維持できるのかとなると極めて懐疑的である。
プーチン大統領が表舞台に登場した2000年以降のロシアの経済成長は、それは彼が意図したものであったかどうかは別問題として、資源・エネルギー価格に裏づけされた強いルーブル、それを背景にした国内消費ブームが原動力だった。
しかし、もはや1バレル100ドルを上回るような原油価格が期待できない状況で、これまでの成長モデルが続かないことは明らかである。
また、資源価格高に依拠した所得の分配システムにもほころびが見える。
■ 減少を続ける中小企業
2008年のリーマンショック以降に顕著となった主要企業の国営化、公務員の増加は政府の傘下に入った企業、従業員に対しては多くの利得をもたらすものであった。例えばロシアの政府系金融機関、エネルギー会社の役員報酬は米国企業と比べても遜色ないレベルである。
この間、ロシアの中小企業の数は減少を続け、そのシェアは20%程度である。今でも冒頭の地下道工事の後には、これまで軒を連ねていた個人事業主によるキオスク(売店)は排除され空地となっているか、比較的大型のチェーン展開の店舗に入れ替わるかである。
今後、資源エネルギー価格低迷によって分配すべき所得がなくなったとき、肥大化した政府系企業、組織を維持することは困難である。
他方、自由競争の中から利益を生み出す中小企業の育成が急務であるにもかかわらず、当局はそれを取り壊す方に執心の様子である。
ロシア経済にとって今回が3度目の経済危機である。3度目の正直というわけではないが、今回こそルーブル安を前提にした経済モデルを確立しないと、ロシアの中長期的な成長は期待できない。
具体的には、まず取り組むべきは輸入代替産業の確立だろう。実際、ロシア政府が欧米への対抗措置として食品の禁輸制裁を導入したことで、国内の農業生産、食品加工産業は着実に成長を実現している。
ルーブル高・経済制裁前は国内でさして安くもなく品質の悪い製品を作るよりも、海外から安くておいしい製品を輸入するほうが合理的だったのだが、現在は国内生産のコストが下がり、国内で欧米並みの製品製造にチャレンジする企業が増えている。
スーパーの店頭にはロシア産モッツァレラチーズ、スモークサーモン、また禁輸対象ではないがロシア産ワインも数多く見かけるようになった。
これらの品質は価格を考えれば十分満足のいくレベルである。後はいかに安く作り、上手に宣伝するか、つまり業者間の自由競争が産業全体のレベルを押し上げていくはずである。
そのために欠かせないのが国内投資の促進である。これまでロシアの投資家は「年率30%以上のリターンが得られない案件には投資しない」とうそぶいていたが、ルーブル安経済モデルの下では、もはやそうした案件は期待できないことを再認識するべきだろう。
別の見方をするなら、これまで彼らは2-3年での投資回収を目指していたのだが、長期不況を前提に5-10年、さらにインフラ投資のような場合は20-30年での回収を覚悟しなければならない。
ロシア人自身にその覚悟があるのか、今後の投資案件に注目したい。
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