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加速度的に“脱・日本企業化”する日本企業 外国人採用、英語公用語化、実力主義人事…
http://biz-journal.jp/2015/08/post_11099.html
2015.08.14 文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授 Business Journal
今年5月の改正会社法施行で認められた監査等委員会設置会社への移行を表明した企業が、「右に倣え」感は拭えないが、予想を上回り200社に迫ると伝えられている。国際会計基準(IFRS)の導入も急速に進んでおり、今年中に導入企業は100社を超える見込みである。グローバル化した資本の観点からみて企業統治(コーポレート・ガバナンス)が極めて緩かった日本企業も、その透明性の強化を受け入れざるを得ない状況にある。この流れは、今回の東芝による不正会計問題で加速化するのではないか。
これに先立って、2014年度には主要企業の6割が持ち合い株を減らしている。日本企業独特の持ち合い株(取引や融資の継続等を前提とする政策保有株)も、資本効率向上の足かせとなるので、急速に解消の方向に向かっている。
こうした動きの背景には、事業環境変化の加速化が挙げられる。長期的に見て、高齢化関連市場や補助金頼みの国内市場に依存できる企業以外は、海外市場への展開に企業の成長を頼らなければならないのは明白であろう。その文脈で、現在の政策円安による高収益を背景にM&A(合併・買収)が加速化しており、人材のグローバル化も進んでいる。
加えて、日経平均株価を構成する225社の外国人持ち株比率は、35.3%と上昇を続けている。ソニーに至っては、外国人持ち株比率は57%に近い。同社の企業統治の透明性は、パナソニックに比べて格段に高い。グローバル化する企業にとっても、海外資本の獲得は重要である。海外投資家の求める企業統治の透明性のレベルを満たそうとする取り組みは避けられない。
このような状況にあっては、日本独特のマネジメントが優位であると主張しそれを頑なに維持するのは、無理でもあり、企業として合理的でもない。
■英語公用語化と外国人採用
日本企業はこれまで、日常のオペレーションのレベルでは、楽天やファーストリテイリングによる英語の社内公用語化や大企業のグローバル人材採用(日本法人での外国人採用)など、掛け声か小さな一歩かもしれないが、グローバル化への対応を行おうとしてきている。
その流れは、一気に早まりつつある。英語に関しては、5年前に社長が英語公用語化を一笑に付していたホンダさえも先月、英語公用語化を打ち出した。
また、これまで日本企業の外国人採用は専門性のある人材の中途採用が中心であったが、ここにきて、海外の大学・大学院を出る学生や留学生の新卒採用に力を入れてきている。リクルートキャリアの「就職白書2014」によれば、今春(15年)の新卒採用で海外の大学・院卒の外国人学生を採る企業の割合は従業員5000人以上で41%に上り、昨春(14年)に比べて倍増しているとのことである。日立製作所は14年春入社の新卒者のうち、外国人比率が1割を超えたという。
15年3月29日付日本経済新聞が行った16年度の採用計画調査によれば、回答した2138社の3社に1社以上の37%の企業が、「新卒定期採用枠か別枠の正社員グローバル採用枠で海外の大学を卒業した学生や日本の大学で学んだ学生を採用する」と答えている。14年度新卒採用の外国人留学生を見ると、その圧倒的多数は中国人であり、続いて東南アジア諸国の留学生となる。彼らの日本語能力への期待が高いことが理由の一つだが、長期的には日本企業の英語社内公用語化、すなわち日本人社員の英語力向上が促される要因となる。
こうした社内における英語の利用頻度と外国人採用の増加は、日本企業の組織マネジメント自体の変化を引き起こすことになるであろう。巨視的に捉えれば、急速に進歩する技術と融合した現在進行形のグローバル化は、これまでの近代のお約束である「線形的静的決定論の世界」から「非線形的動的複雑性の世界」への急速な変化をもたらしているといえ、これまで暗黙前提としていた予測可能性は「高まっていく」のではなく、逆に「低下していく」と考えなければいけない。
つまり、過去の延長に将来は語れなくなりつつある。このような事業環境においては、「境界は喪失し、変化は加速化し、梃子の原理が効くようになる」ことを企業も個人も強く認識する必要がある。
現在のグローバル化の構造を示せば、突出して強力な国家が市場や個人を管理していた時代ではもはやない。グローバル化が進行する中で国家の力は低下し、「国家」「グローバル化した資本」「強力な力を持つ総体としての個人」という3つのプレイヤーの一つでしかない。
この3つのプレイヤーのゲームの前提に、加速的に進歩する技術がある。この技術は、基本的に一つのプレイヤーが独占できるものではなく、誰でもこの技術にアクセスが可能である。これが、現在のグローバル化の構造である。プレイヤーが3者存在するのであれば、不確実であることは避けられない。このような事業環境の中で企業経営者は、「脱境界(常識は非常識)」「脱中心(末端と中枢との関係の再定義)」「脱堅牢(完璧はあり得ない)」という3つの観点が、企業の存続と成長の鍵を握ることを理解しなければならない。
■実力主義人事
遅ればせながら、日本企業でもかなり刷新的な動きが大企業で起きてきている。
象徴的な例は、今年1月に発表された「32人抜き」といわれる三井物産のトップ交代であろう。次期社長に指名されたのは、54歳の安永竜夫氏である。年齢もさることながら、安永氏は執行役員であり取締役ではなかった。これは、日本の大企業人事では前代未聞といえよう。外国人取締役を除けば自分以外の取締役は皆年長であり、安永氏が今後年長の取締役をどう使いこなすかが注目される。
味の素でも今年、西井孝明氏(55歳)が7人抜きで社長に昇格している。これも同社としては画期的な決断であろう。
また、外国人のトップマネジメントへの登用も急である。昨年、武田薬品工業が長谷川閑史氏の後任として、クリストフ・ウェバー氏(48歳)を社長兼COO(最高執行責任者)に迎え入れた。ウェバー氏は今年4月1日付でCEO(最高経営責任者)に昇格し、経営の実権を握った。武田のトップマネジメントの多くが外国人であることはすでに知られているが、経営トップにも外国人を据えたわけである。
グローバルレベルでの生き残りをかける武田としては、極めて合理的で正しい選択だ。トヨタ自動車も今年度の経営体制変更で、ディディエ・ルロワ氏(57歳)を副社長に昇格させている。タカラトミーでは、副社長のハロルド・メイ(51歳)氏が社長に昇格している。最近では、ソフトバンクの孫社長が後継者として元グーグルのニケシュ・アローラ氏(47歳)を副社長に迎え入れている。
その一方で、トヨタのジュリー・ハンプ氏の麻薬保持容疑による退任、武田のフランソワ・ロジェCFO(最高財務責任者)や日産自動車のアンディー・パーマー副社長が他社から引き抜かれたことなどを挙げて、外国人のトップマネジメントへの登用リスクを強調する論調もある。しかし、もちろんハンプ氏のケースは除くが、こうした引き抜きはグローバルレベルのトップ人材市場では想定内である。
加えて、実質的な事業本部機能、本社機能の海外移転も進んでいる。10年にシンガポールへコンテナ船事業本部の機能を集約した日本郵船や、11年にCEO室を同国へ移転したHOYA、13年に金属資源関連事業を同国へ集約した三菱商事は、例外的ではなくなるであろう。
■成否の分かれ目
このようにグローバル化による事業環境変化に対して急速な適応を図ろうとする日本企業であるが、その成否の分かれ目はなんであろうか。
例えば、監査等委員会設置会社への移行を、監査機能を取締役会に取り込むという同制度の本質的な意味合いを理解せず、とりあえず「右に倣え」的に取り入れるようでは意味がない。社外取締役の数あわせなどでお茶を濁したり、お付き合い程度に国際会計基準を導入するような企業も、環境に適応するのは難しいであろう。
また、前述のとおり予測可能性が低下し、変化し続ける事業環境においては、選択肢を多く持つために組織は多様化していかなければならない。同質的な居心地の良い、多様化を拒否する組織では、生き残る可能性は明らかに低下する。
報酬も重要である。15年3月期に208社・408人が1億円以上の役員報酬を得たと報じられているが、実はこの報酬が日本企業にとって高いハードルになるかもしれない。最近では、ソフトバンクがアローラ副社長に165億円の役員報酬(契約金を含む)を払ったことが話題を呼んだが、特にグローバル企業におけるトップマネジメントの報酬は高くなっていくであろう。日本企業の上級役員クラスのみならず、部長クラスや役員クラスの報酬が、欧米やシンガポールはさておき、ASEAN地域と比較してもさほどの優位性がないことは理解しておくべきであろう。
そもそも、企業とは、国家や個人と違い、生き残るためには急速に変わらざるを得ず、大きく変身する合理的な存在である。事業・経営環境の変化に適応できなければ淘汰されるので、進化せざるを得ないことを理解している。当然日本企業も、淘汰されていく企業と適応して大きく変貌する企業の2つのグループに分かれていくであろう。こうした環境において、私たちはどのような選択をすべきなのであろうか。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)
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