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突然の「人民元切り下げ」は何を意図しているのか? 〜マーケットの反応と中長期的な展望
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44703
2015年08月13日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 現代ビジネス
■人民元は今後も断続的に切り下げられる
8月11日、中国人民銀行は対ドルレートでの事実上の人民元切り下げを発表した。市場関係者にとって、これは全く予想外の出来事であり、この日、世界の株式市場はほぼ全面安の展開となった。
7月9日付けの同コラム(『ギリシャ問題よりもっと怖い!「中国株バブルの崩壊」』)で、筆者は、中国の政策当局が、中国株の暴落を起点とした金融危機を未然に防止するためには、中国人民銀行による量的緩和(QE)政策が必要であり、そのQE政策が効果的に機能するためには、人民元の(大幅)切り下げが実施される必要があると書き、切り下げの可能性がある点を指摘した。
統計で確認することは困難だが、今回の人民元切り下げに先立って、すでに中国人民銀行は、QE政策を実施しているとの話が一部から伝わっていた。筆者が伝え聞くところによると、中国人民銀行は政府系の金融機関に対して、地方債の購入を通じて資金を供給し、政府系の金融機関は、その資金を政府系のファンドに融資し、政府系金融機関が中国株を購入することで、株価を下支えしている。そして、その規模は現時点で1兆元に達し、不十分であれば、さらに4兆元程度まで上積みする腹積もりであるらしい。
つまり、このようなQE政策が機能するためにも、中国当局は、人民元の切り下げを行う必要があったのだと考える。いくらQE政策を拡大させても、為替レートを固定したままでは、中国当局は非不胎化介入を余儀なくされ、流動性供給は相殺されてしまうからである。
株式市場に直接、資金が注入されたとしても、別のところで資金が吸収され、それが信用収縮を起こしてしまえば、瞬く間に株価に波及してしまう。このところの中国株市場が非常に高いボラティリティを伴って上下動を繰り返している理由は、そこにあったのではないだろうか。
そう考えると、今回の人民元レートの切り下げは、うまくいけば中国株市場のボラティリティを幾分低下させる可能性がある。ただし、昨日の切り下げ幅はわずか2%なので、今後も断続的に切り下げ幅を拡大させなければ十分な効果は得られないだろう。よって、逆にいえば、人民元は今後も断続的に切り下げられる可能性が高いと思われる。
■今回のマーケットの反応は「条件反射」
ところで、人民元レートの切り下げに対する昨日の市場の反応は、筆者の考えとは裏腹に、全世界的にネガティブなものであった。
その反応の理由としては、以下の2点が指摘されているようだ。
1) 人民元切り下げによって、中国経済の低迷が再確認されたこと
2) 人民元安による自国の輸出への悪影響(通貨高懸念による輸出減)
1)については、今回の切り下げ自体とは直接的な関係はない。当コラムでたびたび指摘してきたように、中国経済の潜在成長率の低下(従来の実質10%超の"高度経済成長路線"から3〜4%程度の"安定成長路線"への転換)は経済の発展段階から考えて「必然」である。しかも、これは、経済のサプライサイド(供給要因)から生じる「構造問題」であり、財政出動や量的緩和といった金融政策でこの流れを止めることはできない。
この点は、多くの市場関係者は理解済みかと思っていたが、海外も含め、市場関係者の多くが、いまだに中国経済の「需要サイド」のみを重視しており、単純な景気循環ばかりに目を向け、金融財政政策による景気の底打ちを期待している点は、筆者にとってはある意味、驚きであった。
中国経済についての短期的な問題は、高度成長から安定成長への移行期において、過剰な資産価格変動による構造調整の増幅を如何にして軽減するかという点であり、その意味では、人民元の切り下げは本来、プラス要因となるはずである(一方、財政支出拡大の効果は極めて小さいはずである)。
次に2)についてだが、日本の場合、2015年1-6月期において、人民元建ての輸出比率は全体の0.8%、輸入比率は0.7%に過ぎない。よって、今回の人民元切り下げが直接、貿易、ひいては輸出産業の業績に大きな影響を及ぼすとも考えにくい。
また、人民元切り下げによる中国企業のドル建て債務負担の増加とデフォルトリスクの拡大を懸念する声も聞かれる。だが、これが理由で、中国株市場が再び崩れた場合、中国人民銀行は、企業の社債を購入することによってQE政策を拡大させればいいのであって、現時点で大きな懸念材料になるか否かは疑問である。
以上より、今回の人民元切り下げに対するマーケットの反応は、「条件反射」的な側面が強く、中長期的なスタンスをとる投資家は、この動きに追随せずに冷静に対応した方が良いのではないかと筆者は考える。
■中国政府は、安定成長へのソフトランディングを模索する
ただし、筆者は、中国経済を楽観視しているわけではない。先日、英国の調査機関が、中国のGDP統計と信頼できる経済指標との大きな乖離を指摘したが、この乖離を考えると、現在の中国経済には、非常に大きな「過剰資本ストック」と「過剰在庫」が存在している可能性が高い。
通常、潜在成長率が低下する「移行期」には、適正な「資本ストック」の減少にともなう設備投資(固定投資)の減少が発生するはずである。ところが中国では、少なくともGDP統計上、伸び率の低下がようやく始まりつつあるものの、固定投資の減少局面は実現していない。また、生産指数にも大きな調整がない(6月は前年比+6.8%)。このことは、月次や四半期の統計が存在しない在庫が相当積み上がっていることを示唆しているのである。
そのため、今後の中国経済の焦点は、これらの調整がどの程度のスピードで進行していくか、ということになるのではなかろうか。筆者は、あくまでも中国政府は、安定成長へのソフトランディングを模索するはずなので、これらの調整は緩やかに進行していくだろうと考える。世界経済にとっても、その方がいいだろう。だが、そうすると、中国経済の低迷がその分だけ長引くことを意味する。
そして、この調整が平和裡に進めば、緩やかな構造調整の過程で、生産拠点の他国へのシフトも同時進行していくと考えられる。これは、現在の「中国を中心とした東アジアのサプライチェーン」の再構築の動きに他ならない。この場合中国は、生産拠点から「最終消費地」へと生まれ変わる必要がある。
だが、一方で、中国政府が、構造調整を加速度的に進めようとした場合、世界経済に大きな混乱をもたらす懸念がある。すなわち、中国政府が、断続的に人民元レートを切り下げ、中国企業が、この人民元安を用いて「ダンピング輸出」を行った場合、この「ダンピング輸出」が国際的な非難を浴び、中国は国際的な孤立状態に陥るかもしれない。
その場合、中国国内の経済も「ハードランディング」で成長率の大幅低下となるリスクがある。これは、かつての日本が戦争へと突き進んだ道筋とほぼ同じであり、この動きが始まると、中国国内で対外強硬路線が強まるという世界的な安全保障上のリスクが高まる懸念も出てくる(その意味で、リベラルな方々が懸念する「戦争国家」になりそうなのは、日本ではなく、むしろ中国の方ではないかと考えるが、この問題についてはこれ以上は立ち入らない)。
どちらのシナリオが実現するのかは現時点ではわからない。ただし、後者の悲観的なシナリオが実現する場合には、資源や素原材料の価格が大幅に低下すると考えられるので、商品市況や卸売物価等の動きには注目しておく必要があるだろう。
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