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中国・浙江省杭州で、株価の電光掲示板を見つめる投資家ら(2015年7月8日撮影、資料写真)。(c)AFP〔AFPBB News〕
市場介入せざるをえない中国のジレンマ 個人投資家と政府の“共犯”が生んだ不健全な市場
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44492
2015.8.11 姫田 小夏 JBpress
中国の経済は政策が主導する。危機的状況に陥る前に矢継ぎ早に経済政策を打つ。その迅速さはあっぱれだが、必ずしもいい結果を導くとは限らない。最近では、株式市場における政府の救済策がその是非を問われている。
「上に政策あれば下に対策あり」――。
中国社会を端的に表す一句である。強引に政策を打ち出す政府に対し、民は面従腹背しながら抜け道を探し出す。中国ではそんな歴史が綿々と続いている。
中国で「政策」は絶対的なものだ。国家の介入はごく普通に行われている。誰もがそれを当たり前だと思っている。だが、さすがに今回の株価下支えのための救済策は混乱を招いた。
■株式市場は外資の攻撃を受けた?
株価が暴落した7月8日、人民日報系の「環球時報」は、間髪入れずに社説を発表した。題して「国家隊は必ず勝つ」。「今回の暴落は国家経済やマクロ経済の危機が引き起こしたのではない」「市場救済の是非を問うのはナンセンス」「国家隊の実力は十分備わっている」などと述べ、挙句は「いざとなれば全国の8000万人の党員がそれぞれ1株を買って買い支える」などという冗談とも本気ともつかない解決策を提示した。
「国家隊」とは、政府の資金のことだ。社会保障基金や「央企」と呼ばれる大型国有企業の企業年金などを指す。国家隊を総動員するから慌てずに落ち着け、というわけだ。こうしたアナウンスが「政府に対する信用崩壊」を食い止めた可能性は高い。
一方、今回の株価暴落の原因について、多くの国民は「外国の資本が中国市場を攪乱させたからだ」と思い込んでいる。中国政府の宣伝を信じているのだ。
浦東新区の金融街に勤務する会社員のAさんは、政府による一連の救済策を支持している。「外資の攻撃から防衛するためには、政府の介入以外になかった」と語る。
中国ではさまざまなデマや憶測が飛んだが、「外資が中国の株式市場を攻撃した」というのもその1つである。以前、当コラムでも書いたが、「株式市場の防衛は習政権の改革の防衛につながり、果ては国家の防衛につながる、だからもっと操作しろ」というネットユーザーの声が堂々とまかり通り、ついには現実のものとなった。
■一攫千金を狙う個人投資家が市場を不健全に
上海の虹橋空港にほど近い、6階建てのアパート群の一角に住むBさんは「友人、同僚、自分の父親も、みんなが株で損を出している」と言う。
本来ならば大パニックだが、彼らは慌てふためいてはいない。「株式投資はリスクが伴う」ことを理解しているのだとしたら立派なものだが、実情は違う。「政府が政策を打ち続けるから」と信じているためだ。「いずれ政府が株価を上げてくれるだろう」と夢の続きを見ようとしている。
こうした「股民(gumin)」(「股」は「株」の意味)と呼ばれる個人株主は、中国の株式市場では多かれ少なかれ政府のコントロールが介在することを以前から知っていた。企業動向ではなく政策動向を読みながら投資を行ってきたのは、そのためだ。今回の株価の乱高下においても、救済策の展開や救済資金引き揚げの可能性などの情報に敏感に反応していた。
実は、この「股民」の存在こそが、中国株式市場の健全な運営を阻害していると言っても過言ではない。
中国のシンクタンク、天則経済研究所の栄誉理事長・茅于軾氏といえば、政府批判を恐れない自由派経済学者である。その茅氏が今回の株騒動について、こう総括した。
「これは投資ではなく投機だ。投機行為の繰り返しにより、中国の株式市場は乱れ、賭博場と化した。この国にはまともな股民(個人投資家)がいない。企業の良し悪しを研究することなく、空気に流されて売買をするのだ。こうした個人株主が市場を動揺させ、政府の介入が市場に暴騰暴落を繰り返させた」
「股民」は、株価が下がると必ず政府が買い支え、また一気に跳ね上がると信じている。誰もが「一夜にして大金持ちになれる」と夢を抱いているのだ。だが、結果的に個人投資家は敗退した。政府が下支えしたところで、庶民の株主にツキは回ってこないのだ。
■「押すに押せない、引くに引けない」政策のジレンマ
「売買停止」や「株式買い入れ」など、中国政府の露骨な介入は日本でも報道されたとおりだ。これには国際社会も眉をひそめた。IMF(国際通貨基金)は中国政府に対し、株式市場への介入をこれ以上行わないよう警告した。
中国でも政府の市場介入を問題視する声は聞かれる。「介入が個人投資家を博徒とならしめ、株式市場を賭博場とならしめた」といった批判は少なくない。
政府の市場介入によって個人株主はますます冷静な判断ができなくなる。だが、政府が介入せず資金を引き揚げてしまえば政治的リスクが高まる。政府の施策は袋小路に陥っていると言ってよい。
ちなみに、「押すに押せない、引くに引けない」と身動きがとれなくなるパターンは、不動産価格の過度な上昇を抑制するために発せられた「限購令」でも同じだった。「限購令」で不動産の購入を抑制すれば価格上昇を抑えられる。だが、不動産市場は冷え込む。過去を振り返れば、こうした政策のジレンマは枚挙にいとまがない。このジレンマは、市場原理に委ねない中国経済の宿命だ。
■中国モデルはどこへ向かうのか
台湾出身の経済学者・郎咸平氏は、市場メカニズムを破壊した中国政府の罪を厳しく批判している。
例えば2008年、中国政府は景気対策のために4兆元の財政出動を行ったが、「これが諸悪の根源だった」と郎氏は断言する。郎氏はこう分析している。「2004〜2007年の不動産開発は安定的だった。しかし、2008年の財政出動の結果、これまで正常に機能してきた市場の価格メカニズムが破壊され、株価は市場の実態を反映するものではなくなった」
復旦大学金融研究センター主任の孫立堅氏も、中国政府の金融政策に疑問を投げる1人だ。孫氏は自身のブログで「中国の金融緩和策は、なぜアメリカのように有効でないのか」という疑問を呈し、「金利を引き下げても、末端の中小企業に資金が届いていない」ことを問題視する。
銀行に預けられた大量の資金は、高収益の投資先として「簿外の財テク業務」(=影子銀行・シャドーバンク)に投じられる。今回の株高は、「銀行が、影子銀行あるいは股民を経由させて過剰な資金を株式市場に投じた結果でもある」という。
「上場企業の業績は向上していないのに株価だけはどんどん上がっていった。市中に資金を行き渡らせようという政策であっても、実体経済では資金が不足し、株式市場や不動産市場に資金が偏るというアンバランスに陥っている」(同)
「中国模式」という言葉がある。直訳すれば「中国モデル」である。中国は西側の価値基準をすべて受け入れず、独自の発展モデルを打ち出すことに拘泥し続けている。また、これが中国式だといわんばかりに政府が介入を続け、見せかけの発展を打ち出し、国家転覆につながりかねないすべての社会不安を抑え込んでいる。広大な国土、膨大な人口を統治するにはそれしか方法がないのかもしれない。しかし、それは効果を発揮していると言えるのだろうか。
今回の取材の中で、印象深いコメントを聞いた。Cさんは、西側社会と中国の体制や政策の違いについて真摯に研究しようとしていた若い女性である。
「大学では、政府が市場に介入するべきではないと教わった。だが、目の前で起こっていることはそうではない。中国ではそんなことばかりだ。博士課程に残り、もっと研究をしてみようと思ったけど、馬鹿馬鹿しいのでそれもやめた。世の中、何が正しくて何が間違っているのか、私にはすっかり分からなくなった」
「上にある政策」のおかげで、中国の混乱は深まるばかりだ。
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