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アベノミクスは青息吐息?【PHOTO】gettyimages
政府が隠したい不都合な数字 「GDPマイナス転落」「現金給与総額大幅減」でアベノミクスの限界が見えてきた
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44646
2015年08月11日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
■7カ月ぶりの「異変」
新年度に入っても企業業績は好調で、大幅な経常増益決算になっているにもかかわらず、企業がおしなべて賃上げやボーナスの増額を渋っていることが響いて、個人消費と景気回復に水をさす恐れが強まっている。頼みの綱だった米国向け輸出の景気押し上げ効果を、深刻化する中国バブル崩壊のマイナスの影響が帳消しにする懸念も大きくなる一方だ。
政権発足以来、一枚看板としてマスメディアがもてはやしてきたアベノミクスの化けの皮が完全に剥がれれば、安定的に推移してきた内閣支持率の流動化が加速しかねない。そうなれば、経済の停滞が政治への不信を呼び、政治不信が経済の停滞を増幅する悪循環に陥るだろう。
内閣府が8月17日に発表を予定している4〜6月期の実質国内総生産(GDP)の行方に続いて、このところの連日の猛暑が時の氏神となって7〜9月期の経済の下支え役を果たすことになるのか――。経済の先行きから目が離せなくなってきた。
いくつもの経済指標が洪水のように公表される中で、エコノミストたちにとってここ数ヵ月で最もショッキングだったのは、先週火曜日(8月4日)に厚生労働省が発表した6月の毎月勤労統計(速報値)だろう。
マスメディアは感度が鈍いのか、政権に都合の悪い指標には注目を集めたくないのか地味な扱いだったが、従業員1人当たりの現金給与総額が、前年同月比で2.4%マイナスの42万5727円に減ってしまったのだ。あれだけ安倍政権が今年の春闘の際に企業に賃上げを迫ったにもかかわらず、その効果はなかったと言わざるを得ない。現金給与額の減少は、7ヵ月ぶりという「異変」である。
この統計を発表当日の夕刊3ページで扱った日本経済新聞は、「夏のボーナスを6月に支給する企業の割合が下がったのが響いた」「厚労省は7月にボーナスを支払った企業が多い点を踏まえ、『6〜8月の状況を総合的に判断する必要がある』としている」と政府の言い分をそのまま伝えた。
確かに厚労省の発表資料には、日経の記述に加えて、「従業員30人以上の事業所では、6月にボーナスを支給した企業の割合が37.7%で、4.2ポイント下がった」と書かれている。7月にボーナスを払う企業が多いのだから、6月の現金給与額の減少はたいした問題ではないというのだ。
しかし、こうした言い分は、統計に秘められた重要な問題から目をそらすものと言わざるを得ない。
企業は内部留保を優先
その重要な問題とは、2.4%減という6月の現金給与額の減少は名目の値に過ぎず、物価上昇を勘案した実質ベースでみると2.9%減とマイナスが一段と深刻だということである。しかも、賃金の減少は6月単月に限られた問題ではなく、新年度入り以来続いている中期的な問題だ。第1四半期(4〜6月)の現金給与総額は、名目で0.7%減、実質で1.4%減となっている。
その一方で、給与を支払う企業の業績は絶好調だ。先週土曜日(8月8日)付の日本経済新聞によると、前日までに4〜6月期の四半期決算を発表した1298社(3月本決算会社)を集計したところ、連結経常利益が前年同期比で24%増えたという。2016年3月期通年でも、昨年に続いて過去最高益を更新する勢いだ。
今春、安倍政権の要求に応じて多くの企業は表向きベアや定期昇給に応じた。が、実態は内部留保優先の姿勢を崩していなかったのだ。単純にみると、好調な稼ぎの伸びの10分の1程度しか、賃金の増額に回さなかった計算になる。
典型的なのは、会社更生法の適用を申請して経営破綻したにもかかわらず、国策支援を受けて復活した日本航空(JAL)だ。JALは4〜6月期に連結経常利益で前年同期比2.3倍の392億円を稼ぎ出したが、ベア、定昇とボーナスをあわせた人件費はわずか4%しか増えていないという。破たん時に事実上の解雇と過酷な賃下げを経験した従業員たちが、いまだに給与面で我慢を強いられているのだ。
そして、この労働分配率軽視という日本企業共通の問題は、回復が期待されていた経済が変調をきたす原因になりつつある。
そのことを浮き彫りにしたのは、総務省が7月31日に公表した「家計調査報告」(6月分速報)だ。2人以上の世帯の消費支出が26万8652円と、前年同月比で実質2.0%の減少となった。名目でも実質でも現金給与額が減少している以上、家計としては消費を抑えざるを得ない。
さらに、家計の苦境に追い打ちをかけているのが、アベノミクスの副作用である輸入物価の上昇だ。
■アベノミクスの賞味期限切れ?
やはり総務省が7月31日に発表した全国消費者物価指数(CPI、6月分)をみると、総合指数(2010年を100とした値)が103.8と前年同月比で0.4%上昇した。中でも、原材料の輸入依存度が高い食料は、前年同月比で2.5%の上昇となっている。このため、消費者の間に節約志向が広がり、財布の口をきつく締めたものと考えられる。
結果として、民間シンクタンクが今年5月ごろまで2%台の成長が期待できると太鼓判を押していたはずの4〜6月期のGDP(内閣府が8月17日に公表予定)が一転、マイナスに落ち込む懸念が強まっている。今月1日付で日本経済新聞が集計したところ、民間シンクタンク17社全てが「3四半期ぶりのマイナス成長を予想」しており、その平均は「前期比年率1.9%減」という。
先行きについて、前述の1日付日経記事は、民間シンクタンク17社が「7〜9月期の成長率はプラスに転じるとの見方でほぼ一致する」としているが、こちらもほどなく下方修正を余儀なくされる可能性がある。というのは、個人消費は、全体の6割を占める経済のけん引役だからだ。
民間シンクタンクのエコノミストたちが期待する企業の設備投資は、日本政策投資銀行が先週火曜日(8月4日)に発表した「設備投資計画調査」によると、「大企業の2015年度国内設備投資計画は、製造業、非製造業ともに増加し、全産業で13.9%増と4年連続の増加」の見通しだ。しかし、今年度のもう一つのけん引役と期待されてきた輸出は、様変わりしそうだ。好調を持続している米国向けの輸出拡大効果を、バブル崩壊に苦しむ中国向け輸出の減少が相殺する懸念が高まっているからだ。
連日の猛暑でエアコンやビールなどの季節商品の販売が好調だとか、今年初めて登場する秋の大型連休(シルバーウィーク)の行楽需要が堅調だといった指摘もあるが、それらも現金給与額の減少によって、個人消費そのものが減り続ける中では、一過性の需要に過ぎない。安定的な経済成長の起爆剤にはなりえないのだ。
安全保障法案の扱いを巡り、会期を大幅延長するなど強引な国会運営に続いて、政府幹部の失言まで飛び出し、発足から2年以上にわたって高率を維持してきた安倍政権の支持率がこのところ、急低下している。
そうした中での1枚看板、アベノミクスの賞味期限切れは、安倍政権にとって大きな痛手だろう。そして、政治不信が高まり、政局が流動化すれば、それ自体が経済成長を冷え込ませる原因になりかねない。今こそ、口だけだったアベノミクスの第三の矢(規制緩和・構造改革)が求められるが、現政権はそのための指導力を発揮できるのか。正念場を迎えている。
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