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年金支給日に財布の紐が緩みがちな人は要注意だ〔PHOTO〕gettyimages
老後の不安が止まらない…… 予期せぬ出費が次々あなたに襲いかかる 70過ぎたら、おカネがどんどん出ていく【前編】
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44501
2015年08月07日(金) 週刊現代 :現代ビジネス
真面目に働き、この国の高度成長を担ってきた。現役時代にこつこつ貯めたカネと年金で老後は安心して暮らせると思っていた。それなのに、ああ、なぜこんなに財布の中身が不安で仕方がないのか。
■まとまった出費はないのに
「当たり前の生活をしてきたと思うんですが、なんでこんなに経済的に困るんだろうと思いますよ。車も軽自動車に乗りかえましたし、外食などしばらくしていません。娘にマンションの頭金をいくらか出してくれないかと言われたときには、妻と一晩徹夜で話し合いました。相手方(娘の夫の実家)の手前もあって、結局300万円出したのですが、それは万が一の際にとっておこうと思っていた資金でしたから……」
埼玉県在住の田山恒和さん(72歳・仮名)は、苦しい胸の内をこう語る。
日本は「70歳まで現役」の時代に突入したとされ、OECDの統計でも、日本人男性の実効退職年齢は69・1歳に達しているとされる。
ところが、長い年月働き続け、ようやく真のリタイアを迎えた、70歳以降の人々から、いま「カネがどんどん減っていき、不安で仕方がない」、「予期せぬ出費で苦しく、悠々自適の老後にはほど遠い」といった声があがっている。とりたてて派手な生活をしているわけでもないのに、気づけば、貯金が底をつくのではと心配するハメになっている。70過ぎからおカネがどんどん出ていく原因とは、いったい何なのか。
冒頭の田山さんは、大学卒業後、中小の機械部品メーカーに就職して約40年間、経理畑を歩んできた。60歳での定年後も再雇用され、68歳まで仕事をつづけた。
月々の収入は基礎年金と厚生年金を合わせて夫婦で23万円弱。60歳の定年時に退職金が約900万円出たが、自宅ローンの残金を返済したため、大きく目減りした。68歳の時点で、現役時代からの蓄えと合わせて2000万円の預貯金があったものの、前出の娘夫婦のマンション購入を助けた件もあり、すでに1600万円を割り込んでいる。
「まとまった出費はしないように気を付けていますが、ダラダラとカネが出ていくんです。たとえば医療費。幸い夫婦とも大病はしていませんが、私は高血圧と軽い狭心症、女房には糖尿の気があって、近所の病院に月に1~2回、お世話になっている。
その診察と薬の費用を見ると、私は月約8000円、女房は最近、歯の治療もあって約2万円払っています。3歳年下の妻は今年70歳になりますが、健康保険の制度が変わったので、私が1割ですんだ自己負担が、2割になる。ただ自己負担の限度額を超えているから、結局は月1万2000円になるのかな」
■想定外のペットの費用
これなどはまだ想定の範囲内だった。だが田山さんは家計を見直して、意外な出費に驚いた。その一つがペットの費用だ。
「犬を飼ったら散歩をするから健康にもいいなどと考えて、70歳を目前に柴犬を飼い始めました。
孫たちも中学生になって塾通いが忙しくて、休みでもなかなか会いにきてくれない。とくに女房にとってはその代わりというのもあるんでしょう、犬を大いに可愛がっているんですよ。
しかしね。私たちが子供の頃とはちがって、いまどきの犬にはカネがかかるんだ」(田山さん)
エサなどは自分たちの食事を分ければいいと思っていた田山さん。だが獣医に「人間の食事では塩分過多になる」と止められ、ドッグフードを買うことに。予防注射などで動物病院に通うと、他の飼い主から「犬も長生きするようになって、がんや歯槽膿漏、認知症で通院することが多い」と言われた。散歩で出会う他の飼い主の手前もあり、おしゃれな首輪や犬用の服まで買った。気づけば出費は年間約10万円。
「犬に罪はないが、これが10年、15年続くと思うと気が重い」(田山さん)
もう一つ気になっているのは、妻が通う市のスポーツセンターの費用だ。
「温水プールやランニングマシンのある部屋があって、いい施設なんです。65歳を超えると利用は基本タダですし。ただ、女房はそこにある、大浴場にも必ず行くんだな。するとロッカー代なんかも入れて、毎回400円近く取られてしまう」
糖尿病の悪化を避けたい気持ちもあり、妻は3日とあげず通っている。民間施設より格安なのはもちろんだが、それでも月約6000円の出費だ。
「『温泉にも行かないんだし、それくらいは』と女房は言う。私だって、たまには旅行くらい行きたいですよ。しかし、いまの生活でも、なんだかんだで月4万円は赤字なんだ。年間50万円弱でしょう。我々があと20年間、大病もせず、介護の費用もかからずに、同じ生活を続けられたとしても、貯蓄を1000万円食いつぶすわけです。
70過ぎたら、もうまとまった収入なんてないですからね。犬を捨てるわけにはいかないんだから、女房には大浴場通いを減らしてもらわないと……」
■思わぬ「税金」が負担になる
介護問題やリタイア後の生活事情に詳しいNPO法人「二十四の瞳」の山崎宏代表は、こう話す。
「いまの子育て世代は、かつてと違って子供の塾や習い事で手いっぱい。さらには伴侶に先立たれるなどして、家族とコミュニケーションする機会が少なくなり、70過ぎから『毎日、何をして過ごそう』と悩む方は多いんです。
初めはおカネのかからない公共の図書館や公民館に通う人も多いのですが、それに飽きてしまうとパチンコに行く人が増える。親類が気づいたときには、知人から借金までしてパチンコ漬けになっていたと相談を受けたこともあります」
また意外な出費につながるのが、生涯学習の勉強会や地域のカラオケの会などだという。それ自体にかかる費用は少なくても、同好の士と意気投合して『今度旅行に行きましょうか』といった話になりやすい。だからといって、出費を警戒しすぎ、自宅に引きこもるのもつまらない。現役時代以上に、財布との相談が重要になってくるのだ。
一方、意外な「税金」が家計の足かせになっているという人もいる。東京・練馬区在住の早川隆弘さん(74歳・仮名)は、島根県出身。実家を継いだ兄夫妻の子供は早くに亡くなり、3年前に兄が死去すると実家の土地や畑が「転がり込んできた」(早川さん)。地方の山間部で相続税も安く、何の警戒もしないままに相続したという。
「ところがこれが曲者だった。不動産屋に相談したら、『山奥の土地なんて、いまどき売れません』とけんもほろろ。隣近所に直接、話を持ちかけてみたけれど、どこも私以上の高齢者ばかりで、誰も買ってくれない」
売れないだけならまだしも、この土地は意外にカネを食った。支払う固定資産税は毎年4万円近い。盆暮れの挨拶に年2万円ほどの品物を送って、道路際の草をむしってもらっている近所の住人からは、「建物が朽ち始めて不用心だから、取り壊したほうがいい」と電話があった。解体業者に問い合わせると、山間部にまで入っての作業になるため割高となり、百数十万円かかると言われた。
「まさに踏んだり蹴ったりですよ。こんな負の遺産を息子にまで継がせたくない。私の代でどうにかしないと」(早川さん)
相続対策を進めようとして、かえって意外な出費に驚かされたという人もいる。東京・三鷹市在住の菅原利一郎さん(78歳・仮名)は、こう話す。
「うちの周りは、都内とは言っても、ひと昔前まで畑ばかりだった。それで、大した資産家だったわけでもないんですが、私の父が買った土地が150坪近くあるんです。
これについて、息子二人が『最近は近所が開発されて地価が上がったから、そのまま相続するのはきつい』という。彼らがあれこれ考えて、賃貸併用住宅というのを建ててくれという話になった。小さな自宅とアパートが合体したようなものですよ。それをやると、100坪以上あるような土地でも相続税の控除が受けられる。しかも、『オヤジには家賃が入るから、一石二鳥だ』なんて調子のいいことを言っていたんです」
息子たちの言う相続税の控除とは、「小規模宅地等の特例」のことだ。居住用の土地であれば、330m2(約100坪)までが小規模宅地とされ、評価額が8割減額される。100坪超ではこの特例は適用されないが、賃貸住宅を併設すれば居住用+貸付事業用の宅地という扱いになり、100坪を超える土地でも控除が受けられる。さらに賃貸住宅と一体化した自宅の場合、建物の評価額にも控除がある。
「だけどね」と菅原さんは腹立たし気にこう語る。
「私たち夫婦も確かに歳だし、自宅をバリアフリーのリフォームくらいしてもよかった。補助金も受けられて大々的にやっても数百万円程度ですよ。
ところが息子たちがいざ業者を連れてきたら、賃貸併用住宅を建てるのに、あれやこれやで8000万円近くかかるという。この歳で私が土地を担保に、息子と25年の『親子ローン』を組まされるんだ。
住宅メーカーは、家賃は計算上、手取りで月40万円弱入りますよ、それも10年保証ですよ、などと言うけれども、よくよく聞けば家賃は実情に合わせて引き下げるという。日本の人口が減っている時代に、将来の家賃収入なんてあてになりませんよ。
まあ、妻までが言いくるめられて、それが時流だというから、しぶしぶ承知しましたけどね……」
■「墓じまい」で200万円
ローンを少しでも減らそうと、預貯金から1000万円近くを払った。「土地から現金収入が入っても、これでは何をしているかわからない」と菅原さん。自宅を片付けている間に、妻は転んで足を骨折した。「打ちどころが悪かったら寝たきりになったかもしれん。そしたら家賃収入なんか介護ですぐに消えちまいますよ」と不満はつきない。
「だいたいね、古臭いかもしれないけど、息子たちもいい大人なんだ。『父さん母さん、今までありがとう』とリフォーム費用でも出してくれるというのが当たり前ってもんでしょう。それを、相続税が高いからどうのこうのと。相続税を払うのはお前たちで父も母も先に死ぬんだ、好きにしろと言いたいですよ。しかし、妻がね。息子たちは給料も昔みたいには上がらないのよ、年金ももらえないかもしれないのよと言うもんだから……」
さらに、人生最終盤での思わぬ出費に目を丸くする人もいる。東京・杉並区在住の高野まり子さん(76歳・仮名)は、三重県にあった実家の墓で、思わぬ出費に襲われた。
「もう田舎には親類もいなくて、お墓があるだけでした。私もいい歳だし、田舎に縁も感じていない娘たちにお墓参りに行ってもらうわけにもね」
そこで「墓じまい」をして代々の遺骨を引き取り、東京の霊園に改葬しようと考えた。墓のある寺に相談をすると、「それなら離檀料100万円、墓の撤去や整地でさらに100万円」と言われたという。離檀料とは檀家をやめる挨拶金といった意味合い。近年の経営難もあって、高額の離檀料を請求する寺院もあり、トラブルが増加している。
ファイナンシャル・プランナーの横川由理氏は、「離檀料の金額に法的規制はなく、寺院が自由に設定できますが、あまりに高額な離檀料は払わなくてよいという判決も出ています」と話すが高野さんには法廷闘争をする気力はなかった。懐事情を話して180万円にまけてもらい、墓を移した。
「その出費がなければ、東京に『ここがいいな』という霊園もあったんですが……結局、もっと安いところで永代供養の墓所を探して納めました。私もそこに入ります」
医療費、ペット、人付き合いでの出費、固定資産税に相続対策、そして墓……。意外な出費には大小あるが、小さいものも積もれば山となり、貯蓄を目減りさせていく。いったいどうすればよいのか。後編では、70過ぎからの出費を減らそうと悪戦苦闘した先人たちの成功と失敗の赤裸々な実例を見ていきたい。
「週刊現代」2015年8月8日号より
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