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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第136回 生産年齢人口比率低下という幸運
http://wjn.jp/article/detail/6468544/
週刊実話 2015年8月13日号
わが国の生産年齢人口(15歳〜64歳の人口)が総人口に占める比率は、1990年の69.5%から、2015年には60.7%にまで下がる見込みだ。恐らく'16年か'17年には60%を割り込むことになるだろう。
すなわち、今後の日本では生産年齢人口、特に“若年層”の労働力が貴重なものになっていくのだ。現時点で若年層失業率は5.5%('15年5月)だが、近い将来、普通に4%を切ってくるだろう。
若い労働力が貴重になれば、当然ながら彼ら彼女らの所得は改善し、雇用も安定化する。そうすると将来的には結婚が増え、少子化が解決に向かうことになる。日本の少子化をもたらしているのは、結婚した夫婦が産む子供の数が減っていることではない。現実には、夫婦が産む子供の数は(わずかながら)増えている。
問題は婚姻率が極端に下がり、結婚そのものが減っていることなのだ。そして婚姻率の低下をもたらしているのは、若年層の雇用が不安定化し、実質賃金が下がり続けていることである。
お隣の台湾も若い世代の実質賃金が低下し、現在は日本をしのぐ少子化に苦しんでいる。実質賃金低下と少子化の進展は相関関係が強いのだ。
今後の日本は生産年齢人口対総人口比率が低下していく以上、若い世代の雇用は安定化し、実質賃金も上昇せざるを得ない。わが国は若い世代が減少していくことで、かえって少子化解消への道が開ける。同時に日本の生産年齢人口対総人口比率の低下は、日本の雇用環境を完全雇用へと導き、企業経営者や政府に「生産性向上」を促す。すなわち、日本は高度成長期と同様に「生産性向上で経済成長する」という、オーソドックスな成長局面を迎える可能性が高いのだ。
筆者は『経済』の三要素について、モノ・ヒト・技術であると繰り返している(モノ・ヒト・カネは「経営」の三要素)。経済の三要素がモノ・ヒト・技術であり“カネ”ではないことを理解すると、いろいろなものが見えてくる。
例えば、社会保障に関連して「これまでは1人の高齢者を4人で支えていたのが、3人で1人を支えなければならなくなる」といったレトリックで煽っている論者がいる。恐らく高齢者の「年金というおカネ」を賦課方式で、減少する現役世代が負担しなければならないため大変な事態になると、言いたいのだろうが、残念ながら国家とはおカネを発行できる存在なのだ。
このレトリックは、むしろ「これまでは4人の供給能力で1人の高齢者の需要を満たしていたのが、3人で満たさなければならなくなる」という、供給能力の問題(分かりやすく書くと人手不足)なのだ。
とはいえ、4人で1人の高齢者の需要を満たしていたのが3人になるということは、「競合相手が減る」という話でもある。
すなわち、生産性向上で需要を満たすことができれば、現役世代は自らが生産する付加価値(モノ・サービス)を「高く売り付ける」ことが可能になるのだ。何が問題なのだろうか。
生産年齢人口対総人口比率が下がり続けるわが国では、若い世代の生産者が「貴重な存在」になっていかざるを得ない。実に素晴らしい。国民の実質賃金が下落するデフレ期に、生産年齢人口対総人口比率が下がり始めるとは、何と幸運な国なのだろうか。
高度成長期からバブル崩壊まで、日本は“ヒトが高い国”であると“批判”されていた。とはいえ、生産者の労働力が高く買われる国の、何がいけないのだろうか。
無論、グローバル市場で「安い賃金を武器に勝負する」ならば、人のコストが高いことは問題だ。しかしわが国は輸出依存度が低く、国内需要中心で十分に継続的な成長が可能な国なのである。輸出はどうでもいいなどと極論を言いたいわけではない。国民の実質賃金を切り下げてまでグローバル市場を目指す必要はない国、という“事実”を述べているにすぎない。
問題は、日本の政治家、官僚、学者といった政策への影響力の大きい人々が、生産年齢人口対総人口比率の低下を受け、
「だから、外国移民を入れなければならない」
「だから、労働規制を緩和しなければならない」
と、的外れどころか問題を悪化させる政策ばかりを提言し、推進されようとしている点である。なぜ、そういう話になるのか。
人手不足に対する対処法は生産性の向上である。そしてインフレギャップ(需要>供給能力)環境下の生産性向上こそが、経済成長をもたらす。具体的には、人手不足を埋めるための設備投資、人材投資、公共投資、そして技術開発投資だ。
要するに、「給料を上げるのが嫌だ」という話なのだろうが、企業単体で見れば生産年齢人口対総人口比率の低下は、もちろん人件費上昇要因になる。とはいえ国民経済全体から見れば「働く生産者の所得が上昇し、雇用安定化をもたらす絶好の機会」なのだ。
'98年以降の日本は、所得下落と雇用不安定化という病に苦しめられてきたわけだが、それが人口構造の変化によって解消しようとしているとき、なぜ政治家や官僚、学者たちは問題解決を妨害する(というか、悪化させる)政策ばかりを推進するのか。
結局、日本は「グローバル市場に頼らなければ成長できない」という、自虐主義に染まっているとしか思えないのだ。だからこそ、グローバルな価格競争力を引き下げることになる人件費上昇を拒否する。もちろん、安倍総理にしても例外ではない。
人口構造の変化により、実質賃金が上昇する“高成長国”に戻るか。あるいは外国移民受け入れや労働規制緩和の圧力に負け、国民の貧困化が続くか−−。
日本は今、決定的な岐路に立っている。
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三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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