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中国の太陽電池メーカーが日本に強気に出られるワケ つぎはぎの「固定価値買取制度」に潜む落とし穴
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44453
2015.08.06 宇佐美 典也 JBpress
■ 中国系メーカーが席巻する太陽電池市場
太陽電池モジュールメーカー世界2番手のインリーグリーンエナジー(英利緑色能源:中国)が経営危機に陥っている。
少し市場背景を述べると、太陽電池モジュール市場では、かつて高い技術力を持つ京セラやシャープといった日本勢や、Qセルズといったドイツ勢(現在はハンファQセルズ)が高いシェアを獲得していた。
しかしながら、技術が成熟化して太陽電池市場の参入障壁が下がってくると市場環境が大きく変化し、2000年ごろから中国系メーカーが多数参入し、果敢な投資によりシェアを伸ばした。そして2008年以降、リーマンショックやユーロ危機で日本や欧米メーカーの動きが鈍ると、ここでさらなる投資を重ねたことで中国勢が太陽電池の市場を一気に席巻して6割以上のシェアを握るようになった。
冒頭に挙げたインリーもこのような動きの中で、急速にシェアを伸ばした会社である。インリーの設立は1998年であるが、2006年以降設備投資を加速することで急速に成長してきた。
太陽電池セル生産量地域別シェアの推移。緑色で示された中国・台湾のシェアが大きく拡大している。出典:産業技術総合開発機構「太陽光発電開発戦略(NEDO PV Challenges」(http://www.nedo.go.jp/content/100575154.pdf)
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かつて「太陽電池王国」と呼ばれた日本国内でも中国企業の太陽電池モジュールのシェアは高まっており、特にメガソーラー向けでは海外企業のシェアが3割を超えている。実際インリーのIR資料においても直近1年間の四半期ベースの売上の20%が日本市場においてあげられることが予測されている。これは発電出力(金額)のボリュームで言うと、600〜700MW(600〜700億円)相当ということになるだろう。
我が国の太陽光発電システム市場の規模は1万MW(2.5兆円弱)なので、シェアにするとインリーは出力ベースで6〜7%弱、金額ベースで3〜4%弱のシェアを獲得していることになる。なお、インリージャパンの水田社長は日本市場について「世界で最も利益が上がっている市場の1つ」と明言している。
インリー社の太陽電池の地域別出荷状況。出典:2015年6月に公表されたインリーグリーンエナジーのIR資料(http://media.corporate-ir.net/media_files/IROL/21/213018/Q1_PPT_final.pdf)
■ 中国メーカーの過剰供給構造
しかしながら、太陽電池モジュール市場を席巻し、一見好調に見える中国系企業も内情を見ると苦しい財務状況にある。
太陽電池市場は参入障壁が低いので競争が激しく、1製品当たりの利幅が小さくなる。そこで、メーカーとしては投資をして生産を拡大し売上を増やすことで、利益を上げようとする。しかしながら、どのメーカーも同じように考えて投資をすることで業界全体としては過剰供給構造が生じ、結果として、ますます価格競争が激化して採算が悪化してしまう。
それでもライバルを蹴落とすためには莫大な投資を続ける必要があるが、そのためには恒常的に資金を借り入れる必要があり、今度はその借入が積み上がり過ぎて財務を締めつけることになる。それでも1度シェア拡大の投資競争に参加したら途中で脱落するわけにはいかず、各社は赤字でも投資を続けざるを得なくなり、最終的には大きくなりすぎたキャッシュフローを支えきれなくなりの経営危機を迎えることになる。中国勢はこのようなチキンレースに陥っている。
インリーも例外ではない。2015年5月に同社が発表したアニュアルレポートには「There is substantial doubt as to our ability to continue as a going concern.」と事業の継続性について疑問がある状況が明記されている。
具体的かつ短期的な問題として、2015年10月には200億円相当の中期社債の返済期限を迎えるのだが、これを返済するには手元の資金では足りず、さらなる借り入れが必要であることが示されている。仮にこの資金調達に失敗した場合、同社は経営危機を迎えることになる。なお2008年には世界最大手であった中国のサンテックパワーは同様の問題を抱え、2013年11月には破綻している。
この発表を受けインリーが上場しているニューヨーク証券取引所では株価が暴落し、また集団訴訟などの動きも顕在化している状況にある。このような中、インリーは資金調達に必死になっており、その余波が日本市場に出始めている。
■ 固定価格買取制度の盲点を突くインリーの要求
具体的にはインリー社の日本法人であるインリージャパン社が、顧客に対して太陽電池モジュールの支払・納入条件を一方的に変更する旨を通知している。インリージャパンが顧客に示した条件は要約すると、
(1)インリー本社のキャッシュフロー状況が悪化しており、本来の契約した期限に太陽電池モジュールを納入することができない
(2)ただし支払条件を変更して即座に入金すれば、その会社には太陽電池モジュールを優先的に納入する
というものだ。要は「パネルが欲しければ今すぐ即金で全額払い込め」ということだ。前述の通りインリーの2015年の日本市場での売上は600〜700億円相当なので、この資金回収を急ぐことで当座の資金繰りの危機を乗り越えようとしているというわけだ。
とはいえ、こうしたインリーから各社への通知は「お願い」であるにすぎず、本来ならば「契約も守らず経営危機に陥っている身勝手な外資系メーカー」であるインリーがこうした要望をしたとしても、顧客である発電事業者に即座に断られるはずである。
しかしながら、この要望は我が国の「固定価格買取制度」の制度的欠陥を巧妙につくものとなっており、顧客はこの要望に従わざるを得ない状況にある。
我が国の固定価格買取制度では、発電事業者に対して計画時点で太陽電池モジュールやパワーコンディショナーなどの設備仕様を確定させることを求めている。仮に、発電事業者が事後的に設備仕様を変更する場合は、設備メーカーが倒産か製造中止した場合を除いて、売電価格が設備仕様を変更した時点の価格に引き下げられてしまう。
例えば、2013年7月に、ある発電事業者がインリーの太陽電池モジュールを使った太陽光発電所を建設することを計画して、必要な申請を済ませて当時の売電価格である36円/kWhで販売する権利を経済産業省から取得したとする。
この発電事業者が現在(2015年7月)になってインリーから他社へ太陽電池モジュールを変更しようとした場合、売電価格は当時の36円/kWhから現在の27円/kWhに引き下げられてしまうことになる。この場合、売上が4分の3に減ってしまい、多くの場合採算が合わなくなりプロジェクトとして成立しなくなってしまう。結果として事実上、事後的な設備変更は困難になってしまい、発電事業者側は設備メーカー側の要望をある程度受け入れざるを得なくなってしまう。
インリージャパンの要望は、こうした我が国の固定価格買取制度の歪みを絶妙についたものとなっている。前述の通り発電事業者としては1度設備を決めて経済産業省に申請してしまったら、後から設備仕様を変更することは事実上困難なので、その後メーカー側からどのような要望をされても従わざるを得ないのである。この結果、現在各地でインリーの方針変更に困惑する事業者が続出している。
■ 制度的欠陥は一刻も早く是正すべき
ここまではインリーの事例を挙げて説明したが、他のメーカーでも我が国の固定価格買取制度のこうした欠陥を付いて、事後的に価格をつり上げたり支払条件を変えたりしようとする事例が散見されるようになってきている。
このように、我が国の太陽電池モジュール市場は経済産業省によってメーカーにとって過度に有利な環境を作り出されている状態にあり、このままでは発電事業者は不当に搾取され利益が上がらなくなってしまうような立場に置かれている。こうした状況は本来、固定価格買取制度が想定したものではなく、改善するために一刻も早い対応が望まれる。
当座の対応としては「倒産及び製造中止」といった極端なケースの他にも発電事業者に責任が無い場合には設備仕様の変更を認められるような救済措置を設けることが重要となる。他にも、経済産業省から太陽電池モジュールメーカーに対して事後的な契約条件の変更については競争法上の観点からの警告することなどが対応として考えられる。
ただそれだけでは対症療法に過ぎず、固定価格買取制度の抜本的な見直しがそろそろ望まれるところである。固定価格買取制度が2012年に創設して以降、太陽光バブルなどを経てさまざまな歪みが噴出してきたが、経済産業省は対症療法的な制度改正を繰り返すことで何度か問題をしらみつぶしにしてきた。しかしながらその結果制度が複雑になり過ぎ、問題が起きても「あちらを立てればこちらが立たない」という状況になっており、そろそろ対症療法で対応することが難しくなってきている。
そもそも設備仕様の変更を厳格化したのは今年に入ってからのことで、その目的は、高価格での売電権利は取得したがパネルの性能が向上するまでしばらく作らない、という滞留案件のいわゆる「作らない得」という状況を解消するためだった。確かに制度改正により、そうした「作らない得」の問題は解決したが、その結果「メーカーの交渉力の過度な強化」という新たな問題を招きつつある、といったところであろう。
現在、新エネルギー小委員会では固定価格買取制度の見直しが議論されているようだが、制度開始から3年程たち状況も大きく変わったことから、そろそろ法律改正も含む抜本的な制度改正が行われても良いように思える。もちろんそれ以前に当座の問題への救済策を講じた上でのことではあるが。
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