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ソニーは「つまらない会社」に成り下がったのか 「遺産相続」ではなく「新しい財産」を築け
http://biz-journal.jp/2015/08/post_10994.html
2015.08.06 文=長田貴仁/岡山商科大学教授(経営学部長)/神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー Business Journal
「ああ、つまんなかった。来なければよかった」
ある評論家がソニーの2015年4〜6月期連結決算発表会(7月30日)の直後に、同社関係者に向けて発した一言である。副社長兼CFO(最高財務責任者)らが多忙な中で貴重な時間を割き、長時間にわたり決算概要について説明したのだから、同社関係者は「そんなことを言われる筋合いはない」と思っているかもしれない。だが、こういった感想を持つ人も少なくないという事実を、真摯に受け止めなくてはならないのではないか。
では、何が「つまんなかった」のか。その答えを述べる前に、同決算内容を概説しておこう。
売上高が前年同期比0.1%減の1兆8080億円、営業利益が38.8%増の969億円、最終利益は約3.1倍の824億円と減収増益だった。16年3月期業績予想は据え置いたものの、最終利益は08年3月期の665億円を超え、4〜6月期として過去最高を更新した。
その主要因は、営業利益が前年同期の2倍超の303億円となったスマートフォン(スマホ)向け画像センサーを含むデバイスやゲーム機「プレイステーション(PS)4」の好調、オリンパス株の売却益468億円などの上乗せ、コスト削減効果などである。平井一夫社長兼CEO(最高経営責任者)になってから主力事業にすると息巻いていたものの、量を追わない路線に転換したスマホ事業は229億円の営業赤字となり、年間販売台数見通しも期初の3000万台から2700万台に引き下げた。
吉田憲一郎・副社長兼CFOは、「昨年、平井が打ち出した『やりきる構造改革』の効果自体は出てきているが、収益力回復という点では、まだまだ課題が残る」と語り、「スマートフォンの構造改革自体が1年遅れている」ことや「為替の影響を受けやすく、ドル高に対して非常に弱い体質のまま」であることを認めた。
また、6月に公募増資3017億円、転換社債1200億円により、総額4200億円を調達すると発表した。この狙いについて、吉田氏は「(イメージセンサーなどを中心に)成長に向けた投資資金を確保するだけでなく、毀損した財務基盤を強化するため」と説明し、「やりきる構造改革」から、成長投資と利益創出のフェーズに移り、持続的に高収益を創出する企業への変身を強調した。
■何が「つまんなかった」のか
ここまで決算発表の内容を読むと、少しばかりはソニーの製品名が出てきているので、同社に関する内容であることは誰でもわかる。しかし、これらの製品名を外せば、どこの企業であってもいいような報告だ。CFOによる決算説明であるからして、仕方ないといえばそれまでだが、それにしても無味乾燥で「モノづくりを捨てていないソニー」の熱い思いが伝わってこない。
前出の評論家は、主にAVC製品を対象にメディアで論じている有名人である。それゆえ、財務にはあまり興味がなかった点を割り引いても、復活を期待しているソニーに対してワクワク感を求めていたようだ。
他社のスマホ向けに、イメージセンサーのような部品が活況を呈している現況は、ソニーの復活にとって好材料であることは否めないこと。BtoC商品を主な評論対象にしているこの評論家も、BtoB事業に傾倒することが何も悪いとは言っていない。では何が「つまんなかった」のか。次の吉田氏の発言を聞けば、なるほど「つまんない」と納得できる。
「いわばソニーらしい商品、ソニーの強みを生かした製品が出てきているとは思う。例えば、センサーの強みを生かしたカメラの領域では単価も上がっており、平井の肝いりである交換レンズのラインナップも揃ってきた。カメラ自体は成長市場とはいえないけれど、その中でポジションをとっていく。付加価値を上げていける製品は出てきている」
一銭でも稼ぎたい現在のソニーにとって、当面の食い扶持を稼ぐ経営戦略は悪くない。ただし問題は、「先輩たちが基礎を固め、成長軌道に乗せた遺産」で生きている感じがしてならないから「つまんない」のである。つまり、「新しい事業」が日の目を見ていないといえよう。
ソニー不動産の設立、自動車用部品事業の強化など、一見して平井社長も新しい種をまきつつあるように見える。しかし、それもアングルを少し変えて見てみると、金融、イメージセンサーといった過去の事業の蓄積をもとに対象市場を変えたリロケーション(立地転換)である。現在、リロケーションは日本企業がとるべき経営戦略として注目されているが、本気で持続的に高収益を創出しようとするのであれば、「平井世代」においてイノベーションを実現し開花させることが求められる。
■「新事業創造」による継承
そもそもソニーが長らく低迷していた背景として、「新事業創造」による継承がうまくいっていなかった点が指摘できる。世襲(同族)企業が子息に後継させる場合、子息が失敗するリスクを最小化する条件は、後継者(経営者)として育っていることと、成長軌道に乗っている事業が現存することだ。
この点、ソニーは後継者の育成で成功を遂げたとはいえない。そして、新しい成長商品がタイムリーに生まれず、親の遺産を食いつぶして生きてきた。ブラウン管テレビの成功に酔い、液晶テレビで後手に回ってしまった。その結果、ブラウン管から薄型への移行期を、ブラウン管テレビを平面化するという改善でしのごうとした。ここに急激な技術革新の波が想定以上に速いスピードで津波のごとく押し寄せてきた。そこで、同社は液晶パネル製造でサムスンと提携するなど、救命ボートを出したのだが、うまくいかず溺れてしまった格好だ。
この悪しき過去からソニーは学習したはずだが、先輩が残してくれたイメージセンサーが絶好調なものだから新事業創造に本腰が入っていないとすれば、競争力の源泉となる画期的な製品、事業を新たに創造できなくなった「ソニー病」は根治できないのではないか。食いつなぐことは重要だが、親の遺産を食いつぶしているだけではあまりにも能がない。新たな食い扶持を親が遺産として残してくれれば後継者はそれで当分は生き残れるが、さらに次世代のことを考えれば、各世代で新事業を自ら創造しなくてはならない。ここ数代のソニー経営陣が改善に始終しイノベーションを怠った結果、ソニーの苦境は続いた。
■「一代一業」
トヨタ自動車の創業家、豊田家の家訓である「一代一業」が、新事業創造の重要性を示唆している。
初代・豊田佐吉氏(1867-1930)が世界初の自動織機で成功を収め、長男の喜一郎氏(1894-1952)が中心になり、豊田自動織機製作所(現在の豊田自動織機)内に自動車部を設立。その後、トヨタ自動車工業となり2代目社長に就任する。これが「一代一業」の始まりである。続いて、75年には、豊田英二社長(当時)が住宅事業部を発足している。では、4代目、曾孫に当たる豊田章男社長(1956-)はどうか。
自動車という産業が、自動運転、燃料電池車など革命期に入っているだけに、これだけでも新事業創造といえるかもしれない。しかし、ライバルのホンダは航空機事業で新事業創造を実現した。章男氏は、家訓の重みを背負っているといえよう。
栄華を極めたゆえ、一代一業を忘れていたのがシャープである。
「液晶のシャープ」を謳歌した町田勝彦元社長に筆者がインタビューしたとき、「液晶の次を担う新事業は何ですか」と質問した。その答えは「液晶の次は液晶です」だった。リーマンショック、エコポイント後の急激な国内販売低迷がなければ、もう少し液晶で稼げる時間が長引いたかもしれない。しかし、その稼ぐ力は瞬く間に息切れしてしまった。結果、それに代わる大きな屋台骨がない「液晶のシャープ」は、「シャープ病」にかかってしまった。
コア事業を持つ多角化は、経営戦略としては間違ってはいない。しかし、コア事業ががたついたときのことも想定したリスクマネジメントを心がけておく必要がある。
■東芝の「利益創造」
そして新事業創造がうまくいっていなかったことでソニーやシャープどころの騒ぎではなくなったのが、不適切会計問題で連日のように報道された東芝である。今回の件で会長を辞任することになった西田厚聰元社長にインタビューしたとき、「東芝にしかつくれないというものは10%程度であり、製品の90%はコモディティ化している」と話し、「グローバル展開が必要」だと強調していた。
大企業ではイノベーションは生まれにくい、といわれている。それは減点主義の風土がある一方で、新事業を創造しても高く評価されないからである。そこで、西田社長時代に東芝では、イノベーションを体系化するために、その事例集「イノベーションブック」をつくり、イノベーション統括部が管理し、社員に浸透させようとしていた。しかし、屋台骨となるイノベーションは出現しなかった。
原子力畑一筋の佐々木則夫氏を後継社長にすることで、原子力事業を稼ぎ頭にしようとしたが、東日本大震災でその戦略はもろくも崩れた。後を継いだ田中久雄社長は、ヘルスケア(医療事業)を半導体、電力システムに次ぐ第三の事業の柱に育てようとしたが、これとて、先輩が残した経営資源である。新事業創造とはいえないばかりか、世界にはGE(ゼネラル・エレクトリック)など強力なライバルが存在し、その中で高いシェアを確保することは容易ではない。国内で常にライバル視してきた日立製作所は、海外で積極攻勢をかけ、業績が見事に回復した。東芝には焦りが出たのだろう。それが、新事業創造ではなく不適切な「利益創造」に走らせた。
7月29日、東芝の経営を監督する取締役会議長として三井物産の槍田松瑩前会長(72)を招く案が浮上している、という報道があった。東芝は、「議長、会長、社外取締役を含め、就任を打診していない」と否定した。ともあれ、三井物産元幹部は話す。
「槍田さんが上に来ると、徹底的に管理されますよ。きついですよ」
東芝の不適切会計問題を機に、企業倫理、コンプライアンスを重視したコーポレートガバナンス(企業統治)に関する議論が盛り上がっている。だからこそ「締めつける人」が求められるのかもしれない。
しかし、その陰で、新事業創造の議論がないがしろにされているのではないか。儲かってしょうがない事業があれば、会計操作など必要ないはずである。特に、モノづくりが本業であるメーカーは、原点に立ち戻り、社長自らが、製品、事業を社内外で楽しそうに語り、ワクワク感を出してほしいものだ。「仏つくって魂入れず」のコーポレートガバナンスに関する議論よりも、夢を語り、実現することが今の日本企業に求められている課題ではないか。
経営者だけでなく管理職たちもが賢くなりすぎて、日本企業は「つまんない会社」に成り下がっていないだろうか。賢いだけの経営者のもとで働く従業員は、本当に「つまんない」のである。
(文=長田貴仁/岡山商科大学教授<経営学部長>/神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー)
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