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富士重工「スバル」爆売れなのに増産に踏み出さないワケ
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20150804-00000509-biz_san-nb&ref=rank
SankeiBiz 2015/8/5 11:00
好業績が相次ぐ自動車大手の中でも、「スバル」ブランドの富士重工業が絶好調だ。主力の北米では需要に生産が追いつかず、現地ディーラーからクレームが入るほど。かといって、生産能力の大幅増強に踏み込む気配はない。「1台足りないくらいがちょうどいい」(吉永泰之社長)という富士重の戦略をひもといてみると…。
「ヘルメットを持ってきた方がいい。きっとボカスカたたかれるから」
今年5月に北米のディーラー大会に参加する前、吉永氏は現地の担当者から冗談交じりに忠告を受けたという。北米では昨年発売したスポーツ用多目的車「アウトバック」や「レガシィ」が人気で、日本からの輸出を含めても受注に供給が追いつかない状態が続いているためだ。
■販売店に従業員の車も
現地では販売店に展示した実車を購入するケースが中心だが、あまりの受注増で展示される前に顧客に納車しているため、販売店に並べる車両がない状態だ。苦肉の策として、従業員の車を展示している店もあるという。
その結果、北米での販売台数は2014年度が約57万台で、20年度の目標としていた60万台を15年度にも達成する勢いだ。増加する需要に応じて、北米の生産能力増強計画を4年前倒しし、16年末に20万台増の39万4000台に引き上げることも発表している。
それでも、日本を含めた生産能力は操業時間の延長を含めても約120万台。20年度に110万台超としていた世界販売台数も前倒しで達成する可能性が高く、再び需要過多に陥る危険性もある。
「車があればもっと売れる」と強気の姿勢を崩さない吉永氏だが、生産能力の増強には慎重だ。
■米誌飾ったトラウマ
吉永氏には苦い経験がある。1990年3月、米自動車専門誌「オートモーティブ・ニュース」の表紙に、富士重の現地生産拠点の写真が掲載された。プラザ合意による円高で日本車の販売が激減し、行き場を失った1万台を超える新車が並ぶ工場の様子が空撮されたのだ。
「いい時ばかりではない。(販売が落ち込んだときの)怖さはよく分かっている」と吉永氏は言う。
生産能力の拡充をめぐっては、トヨタ自動車が2000年代前半から海外に相次いで新工場を建設。08年のリーマン・ショックによる販売減で工場の稼働率が低下し、利益を圧迫した経緯がある。好調な販売台数に対応する急激な生産能力の拡大は自動車大手の「トラウマ」となっている。
一方、富士重が「1台足りない」戦略を貫くのには別の理由もある。吉永氏によると、米国の乗用車市場では1台あたり平均2800ドル程度の販売促進費がかかるというが、富士重は平均で約800ドル。消費者の“渇望”に訴えかける利益率の高いビジネスモデルを構築しており、吉永氏は「需要が供給を上回っていることが重要。いくら売れている車でも、ディーラーに在庫が並べば値引き販売が始まる」と強調する。
■北米での一本足
過去最高益を達成した15年3月期の連結業績は米国の販売台数増に加え、円安による貢献も大きい。対新興国通貨では円高基調に振れており、為替変動が減益要因になるとみる自動車大手の中でも唯一、16年3月期も円安で利益が増えると見通している。
欧米勢による値引き競争が激化する中国では、設定した目標台数を撤回。中国向けの輸出車も一部を米国用に振り向けるなど、同社の中で北米市場の存在感は増す一方で、大黒柱の北米が失速すれば、業績を左右することは間違いない。
「慎重になって機会を逃してもいけない」
こう話す吉永氏。一本足打法の軸足を置く北米で、絶妙なかじ取りを続けることができるかが、今後の成長を占うカギとなりそうだ。
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