http://www.asyura2.com/15/hasan99/msg/481.html
Tweet |
[核心]「日本化」しないユーロ圏 43兆円投資で好循環狙う
編集委員 滝田洋一
「ギリシャ救済をめぐる仮面劇も、こう何度も演じられると観客が飽きてしまう」。渡辺博史国際協力銀行総裁は、欧米紙の風刺画を手にしばし苦笑した。
2010年から13年までギリシャ大使を務めた戸田博史UBS証券特別顧問は、任期中に幾度も繰り返された危機と応急対応の再演に嘆息したひとりだ。「寡占資本、労働組合、メディアの鉄の三角形は何も変わらず、チプラス首相はその上に乗っている」という。
欧州といえばギリシャ。ほかの国々への関心は今や著しく希薄である。ならば問う。バブル崩壊後の日本のようにデフレ不況に陥る恐れはあるのだろうか。
結論をいえば、杞憂(きゆう)に終わったようだ。いったん前年比でマイナスに陥ったユーロ圏の消費者物価指数は、小幅ながらプラスに転じた。実質成長率の見通しも、わずかだが上方修正された。「スペインやイタリアなど他の債務国は、ギリシャと同一視されなくなった」と戸田氏。
欧州中央銀行(ECB)による金融の量的緩和が、ユーロ安に伴う輸出の拡大と相まって、ユーロ圏の経済を後押しした。それは確かだが、もう一つ見逃せないポイントがある。欧州全体で官民挙げて投資拡大に取り組み始めたことだ。
14年12月の欧州連合(EU)首脳会議で合意された「欧州投資計画」はその切り札だ。EUの予算80億ユーロを種銭にした160億ユーロの保証と、欧州投資銀行からの50億ユーロの拠出によって「欧州戦略投資基金(EFSI)」を設立した。
この公的資金に対して15倍の乗数効果を見込み、3年間で合計3150億ユーロ(約43兆円)の投資を目指す。投資額は、ユーロ圏全体の名目国内総生産(GDP)の3%に匹敵する。
「我々はあなたの未来に投資する」。欧州委員会で雇用・成長・投資・競争力担当のカタイネン副委員長は、EFSIの推進役。昨年までフィンランド首相を務め、ビジネス振興の旗を振ってきた。「欧州全体で起業や雇用創出の好循環をつくる」と意気込む。
ブルガリア、ハンガリーに始まりオランダ、英国まで。投資計画への参加を募るべくカタイネン氏は奔走している。9月28日からは域外の投資を集めるため中国などを訪問する。
15年上期の「世界経済の潮流」(内閣府)によると、欧州全体で2000のプロジェクトがこの投資計画の候補に上がっている。一連のプロジェクトの事業規模は1.3兆ユーロに達する。
スペインの医療分野の研究投資、クロアチアの空港拡張、アイルランドの14の医療センター建設、イタリアの産業革新への支援。この4件への支援は4月に承認され、合計3億ユーロの資金を供給することになった。
国別にみると、独仏伊などユーロ圏の中核国がまずEFSIへの拠出を決め、東欧のポーランド、スロバキア、ブルガリアが続いた。英国は7月半ばになって協調融資に加わる方針を示した。
財政についても緊縮一本ヤリから転換が図られつつある。ユーロ参加国は年間の財政赤字を、GDPの3%以内に抑えることが求められている。ユーロという一つ屋根の下で暮らすうえで、各国が財政で抜け駆けしないためのタガである。
不況下での財政の引き締めは、景気を一層後退させ、かえって財政健全化を遅らせるジレンマが深刻になっていた。そこで欧州委員会は15年1月に、この財政規律を心持ち柔軟にした。
構造改革計画を前提に、各国GDPの3%を超える過剰財政赤字を是正するのに要する期間の延長を、加盟国に認めることにしたのだ。
フランスとイタリアが15年予算でこの措置の恩恵を受け、3%超の赤字を是正する時間を稼ぐことができた。成長・雇用の拡大と財政規律――その二兎(にと)を追えるようになった。おかげで財政緊縮と景気悪化の悪循環に、歯止めがかかりつつある。
個人消費との関係で重要なのは所得減税。昨年から今年にかけてフランス、イタリア、スペインが、相次いで中低所得層に的を絞って減税に踏み切った。
失業率も高水準ながら低下してきた。欧州委員会が進めた、若者雇用イニシアチブなどがようやく効果を発揮しだしたといえる。
もちろん、構造改革を伴わない需要刺激の効果は、長続きしない。この点で例えばイタリアは、経済的理由による解雇について、補償を金銭的補償のみとする新雇用契約を導入する。
フランスでは14年8月に就任したマクロン経済相が、経済改革に力を入れる。小売業の日曜営業の規制緩和などを第1弾、中小企業支援、投資拡大、デジタル技術推進を第2弾として、成長回復を目指す。
改革法案に自らの名を冠されたマクロン氏は37歳。国立行政学院卒のエリート行政官だったが、ロチルド銀行の共同経営者を務めるなど、ビジネス感覚も備えている。昨年11月に訪日した際、講演会の控室で同席したが、話の端々から才気とやる気が伝わってきた。
欧州といえば、成長を犠牲にしてまで財政規律。そんな思い込みはとても強い。だが実際は、投資を呼び水にした成長と雇用創出に向け、舞台は転換しつつある。ユーロ圏の日本化といったレッテル貼りより、日本に参考になる実験を見定める方が得策だろう。
[日経新聞8月3日朝刊P.4]
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。