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財政破綻で起こる恐ろしい事態 物価高騰、失業者増、給与減…平時の緊縮財政はプラス大
http://biz-journal.jp/2015/08/post_10966.html
2015.08.04 文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト Business Journal
■財政危機とは
財政危機とは、文字通り財政が危機的な状況に陥ることを指す。一般的には、国の財政状況が悪化し、国の信用が下がることで引き起こされる。国の信用が下がると、その国が発行する国債の価格が暴落することで金利が上昇する。金利が上昇すると、政府の資金繰りが困難になり、海外への資金流出が進むため、自国通貨が暴落し、対外債務の支払いが困難な状況に陥る。こうした負のスパイラルによって経済活動は混乱する。
財政危機に陥った国が財政破綻を回避する策としては、緊縮財政が一般的である。具体的には、増税や資産売却等で歳入を増やし、公共投資や公共サービスの削減により歳出を減らし、財政赤字や政府債務残高を減らそうとする。しかし、緊縮財政は景気に冷や水を浴びせることになるため、過度に行うとかえって税収を減らして財政にとっては逆効果になる場合もある。
また、財政危機に陥ると国債の信用が下がり、金利が跳ね上がることもある。こうなると、中央銀行が紙幣を増刷して国債を買い支える場合もある。これを「マネタイゼーション」と呼び、金利急騰を抑える効果が期待できる一方で、通貨の価値が下がるため、急激なインフレの危険を伴う。そして、自力では財政再建が困難となると、国際通貨基金(IMF)の支援を受けることになる。具体的には、IMFの管理下で極めて厳しい緊縮財政や金融引き締めの条件の下、一時的にIMFから金融支援を受けることになる。
しかし、外部の支援を受けることなく看過すると債務不履行(デフォルト)に至る。こうなると、実際に約束した条件で国債の利払いや元本の支払いができなくなるため、債権者は支払い期限の延長や利息・元本の減免を余儀なくされる。これが財政破綻である。こうなると、預金の取り付け騒ぎや海外への資金流出から金融機関が破綻するため、政府が預金封鎖や資本規制を実施せざるを得なくなり、金融市場は大混乱に陥る。そして、財政破綻に陥ってしまうと、国際金融市場への参加の制限や、高い金利でないと資金調達が困難になり、対外的な経済取引を行う際にさまざまな支障を来すことを余儀なくされる。
■近年の財政危機
緊縮財政の最近の例を振り返ると、欧州債務危機の当初、PIIGS諸国(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)で緊縮財政一辺倒だったことが挙げられる。その結果、各地でデモが頻発するなど緊張が高まり経済活動が停滞したことで、より債務が増え、国債の利回りが高止まりした。そこで、ある段階から緊縮財政を緩め、経済成長にも目配りしたところ、各国とも景気に若干の明るさが戻り、ギリシャを除いて国債の利回りが下がるという効果が表れた。
こうしたことから、緊縮財政というのは、財政危機が表面化してから実施すべきものではなく、実は景気が良い時にこそより大きな効果を発揮することがわかる。
その好事例が近年の米国である。米国は2008年のリーマンショックからいち早く立ち直り、先進国の中でも経済が好調だが、13年3月から50億ドル規模の自動的な歳出削減プログラムに踏み切った。このように大規模な緊縮財政に踏み切ったにもかかわらず、米国では国民の不満の声はそれほど上がらなかった。これは、緊縮財政で国民が感じる痛み以上に、株や不動産など資産の価値が上がって生じるプラスのほうが大きく、マイナス分を帳消しにしたからである。
財政危機に伴って、過去にはマネタイゼーションが行われたこともあった。それが1998年のロシア危機である。90年代に社会主義経済から市場主義経済に転換したロシアは、社会主義経済の下での生産性の低い企業に対する抜本的な改革を財政による補助金の投入で先送りし、慢性的な財政赤字と硬直的な財政運営に依存していた。それが、97年のアジア通貨危機により顕在化し、財政危機に陥った。ロシアでは中央銀行が国債を買い入れ、政府は国債を売って得た資金を債務の支払いに充てた。この結果、通貨ルーブルが大幅に下落してインフレ率も99年には85%以上へと上昇し、経済活動は大きく混乱した。
一方、アジア通貨危機でIMFの支援を受けた韓国には、支援の条件として経常収支改善や財政収支黒字化、インフレ抑制、金融引き締め、外貨準備積み増し――などの厳しいハードルが課された。また、経営難に陥った金融機関の閉鎖などの金融改革と、市場開放のために財閥改革も行われた。経済が悪化する中でIMFの支援条件に沿った再建計画が進められたため、経済成長率はマイナスに落ち込み、韓国では朝鮮戦争以来最大の国難として「IMF危機」と呼ばれている。
アルゼンチンでは2001年、通貨ペソのドルペッグ制が破綻したことによるデフォルトが起きた。周辺国が自国通貨を切り下げ、変動相場制にする中、固定相場制を維持したため輸出価格が高くなり、産業の競争力が失われて海外に資金が流出。取り付け騒ぎを防ぎ、資金の国外流出に歯止めをかけるため、政府はすべての銀行口座を凍結した。
しかし、金融機関の破綻によって給料の払えない企業や倒産する企業が相次ぎ、失業率は00〜02年には20%台に上昇したほか、自国通貨の価値が暴落したことで物価も高騰。政情不安になって商店略奪が横行し、暴動も発生したことで、大統領が辞任に追い込まれる事態に発展した。
■財政破綻が国民に及ぼす影響
財政破綻すれば、そこに暮らす国民も甚大な影響は避けられない。まず、国債の価格が下がり金融機関の経営が悪化すると、金融機関が融資に対して過度に慎重になり、クレジットクランチが起こることになる。そうなると金融機能がマヒし、貸し渋りや金利高騰が起きる。すると設備投資は激減し、銀行から資金を借りにくくなるため、個人でも住宅や車などをローンで購入することが難しくなる。
また、変動金利で住宅ローンを借りている場合は、金利高騰の影響を直接受けることになる。住宅ローン金利を払えなければ、通常は住宅を手放すことになるが、このような状況で買い手を見つけるのは困難になるため、自己破産に陥る場合もある。
こうして不況が進み、採用も減少する。職を維持できても残業カットやボーナス削減などで給与削減は避けられない。倒産企業も増えるため、失業者が巷にあふれることになる。さらに通貨の下落が進行するため、食料品やエネルギーなどの輸入物価が上がる。給与削減や失業が増加する中で、追い打ちのように生活必需品の価格が上がるため、家計は非常に苦しい状況に陥ることになる。そこで、通貨価値の下落を防ぐために金融引き締めを余儀なくされると、政府や民間部門に資金が回りにくくなり、資金繰りひっ迫がさらに景気の足を引っ張る。
政府も極端な緊縮財政をやらざるを得なくなる。医療・福祉・教育・公衆衛生などの公共サービスの質は相当悪化すると考えられる。財政の引き締めは景気悪化に拍車をかけるため、株価や地価などが下がり、個人の資産が目減りする恐れがある。
こうして加速度的に事態が深刻化し、金融機関の経営に対する不信感が広まると、預金の取り付け騒ぎなどが起き、それに対して預金封鎖のような措置が取られるようになる。銀行に預金があっても十分に引き出しができなくなり、生活がひっ迫する。
以上が想定される最悪のケースだが、財政危機が起きても必ずしも事態がここまで深刻になるとは限らない。先に説明した緊縮財政やマネタイゼーション、IMF支援を実施することで深刻な事態を防いだ事例は数多くある。
なお、財政危機の際には、経験則的に通貨の下落、物価上昇、金利上昇といった3つの経済現象が急速に起こるが、これらの現象はデフレ脱却の際にも緩やかに起こる。具体的には、デフレ脱却のために中央銀行が量的緩和政策を行い、紙幣が増えれば通貨は下落する。そして、デフレ脱却に向かえば物価も上がることになる。また、物価が上がれば期待インフレ率の上昇から長期金利にも上昇圧力がかかる。したがって、筆者自身は日本が財政破綻をするとは決めつけていないが、もしものために備えることは無駄にならないと考えている。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト)
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