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アジアインフラ投資銀行は、「国際機関」のようにみえるが、国際機関とはいえない。なぜなのだろうか。(写真 : 新華社/アフロ)
プロから見ればAIIBは国際機関ではない アジアインフラ銀行は中国の国内銀行だ
http://toyokeizai.net/articles/-/78842
2015年08月01日 美根 慶樹 :平和外交研究所代表 東洋経済
6月29日、アジアインフラ投資銀行(AIIB)設立協定の署名式が北京で行なわれた。創設メンバーとして参加を表明した57カ国のうち、フィリピンなど7カ国は署名せず、銀行が運営を開始する年末までに対応を決めるそうだ。
日本は米国とともに参加しなかった。厳密にいえば、参加しないということを決定したのではなく、今後の推移を見守るというのが政府の姿勢である。この構想が打ち出された当初、国内では乗り遅れるなという論調が強かったが、今はかなり沈静化したように見受けられる。しかし、参加しないことに自信を持てる人も少ない。要するに、日本としてはどうするのがよいのかよく分からないというのが大勢だが、私は、やはり日本として参加すべきでないと思う。
■AIIBを観察する側の問題点
AIIBの問題点を説明する前に、AIIBを観察する側の問題点を一言述べておきたい。AIIBは「銀行」なので、政府でも、またメディアでも金融や経済の専門家に振る、つまり担当させる傾向があるが、それは適切でない。なぜならば、この銀行は、きわめて政治的であり、銀行としての信頼性、ガバナビリティなどを論じる以前の問題があり、それを明確にしておかないと正しい判断ができないからである。
AIIBの最大の問題は中国だけがダントツに大きな権限を持っていることだ。出資比率は中国が30.34%であり、2位のインド(8%台)、3位のロシア(6%台)を大きく引き離している。各国の議決権は出資比率に基づいて算出され、中国が26%を確保している。同銀行において重要事項を決定するには75%の賛成が必要なので、中国がノーと言えば他の国がすべて賛成しても成立しない。つまり、中国だけが拒否権を持つということなのだ。
AIIBの本部は北京に置かれる。国際機関であれば、本部の所在地は関係国がすべて参加する協議において決定される。しかし、AIIBの所在地は中国が影響力を行使しやすい諸国との間で決定済みであり(2014年10月24日、北京で署名された創設に関する覚書)、後から参加した国は「創設メンバー国」としての地位を与えられるが、本部を北京とすることについては、その決定を呑むか、それが嫌なら銀行の設立に参加しないという選択肢しかなかった。AIIB設立協定に署名した50の「創設メンバー国」のうち、本部決定の協議に参加できたのはその半数にも満たなかったということである。
また、総裁も中国人となるだろう。中国の圧倒的な決定権から見て当然であり、中国ではすでに具体的な候補者名が挙がっている。
■AIIBは国際機関とは呼べない
このようなAIIBは国際機関と呼べない。世界は平等な主権国家から成立している。各国が協力して国際機関を設立する場合、決定権は普遍性のあるルールにしたがって振り分けられ、本部や総裁は全参加国の協議で決定されなければならない。AIIBの実体は中国の国内銀行に近い。
折しも、AIIB設立協定の署名直後の7月7日、中国、ロシア、インド、ブラジルおよび南アフリカの5カ国が設立した「BRICS開発銀行」の第1回総会がモスクワで開かれ、発足した。
両銀行共にインフラ建設などに資金を提供する開発銀行であるが、対象地域がAIIBはアジア、BRICSにはそのような限定はないという以上の違いがある。
BRICS開発銀行は5カ国が均等に出資する。本部は上海に置かれているが、初代の総裁はインドのクンダプール・ワマン・カマス氏であり、最初の総会がモスクワで開かれたことを見ても5カ国のバランスに注意が払われている。
実は、設立の準備過程では中国はやはり他の国より多く出資したいと要望し、具体的な出資額まで提示していた。しかし、他の国は中国だけの影響力が強くなるのを嫌い、結局5カ国平等の出資比率にした経緯がある。
中国はこれでは不満だったのだろう。BRICSの轍を踏まないよう、AIIBでは中国の出資比率が自然にダントツになるよう初めから周到に計画を進めた。中国のGDPは世界の12.7%(2013年)であり、これでは中国だけが拒否権を持つことにならない。そこで、規模が小さく中国の主張を聞いてくれやすい20の国だけで設立の青写真を決定し(前記の本部を北京と決定した覚書署名式で)、「アジア諸国の出資が全体の70%以上」という枠組みを設定してしまった(一時期75%にしようとしたとも報道された)。こうすると自然に中国だけが拒否権を獲得することになる。
中国は米国や日本に対してAIIBに参加するよう勧誘しているが、出資比率は変えないだろう。現在でも米国のGDPは世界の22.4%と中国の1.7倍あり、国内総生産にしたがって出資比率を決定しなおすと中国の圧倒的地位は消滅し、最大の発言権は米国に取られてしまうからである。
個人的な推測だが、中国は今後BRICSにおける各国との付き合いはほどほどにしながらAIIBに力を集中していくのではないかと思われる。
中国が圧倒的な決定権を持つ銀行を設立しようとしたのは、シルクロード一帯開発計画を進めたいからである。この計画は陸上と海上にまたがっており、陸上は中国から中央アジアへつながる「一帯」であり、海上は東南アジアからスリランカ、パキスタンなどの主要拠点を経て地中海まで伸びる「一路(ルートのこと)」である。ただし、この2つが別々に使われることはなく、常に「一帯一路」と呼ばれている。
■中国の大国化戦略の一環
この構想は中国の大国化戦略の重要な一環である。その実現のためには、中国は各国と常識的な意味の協力を進めるだけではとても足りず、中国が強力なリーダーシップを発揮していかなければならなかった。
中国は、地域の発展のために中国自身が旗を振り、主要なスポンサーとなり、事業の中心になるのは当然であるとみなしているようだ。2015年3月末のボアオ・アジアフォーラムで、習近平主席は、「中国と周辺の国家が運命共同体の意識を樹立することが重要である」「一帯一路(海上シルクロード)戦略はそのための重要なブースターとなる」と述べたと報道された(4月13日付の『大公報』紙がシンガポールの『联合早報』を引用)。これは伝統的な中華思想をほうふつとさせる中国中心主義ではないか。
最後に、中国の政治状況にも注意が必要である。AIIBや「一帯一路」の背景には、共産党の独裁体制を維持していかなければならない、そのためには高度な経済成長、また、それを支える大型プロジェクトが必要であるという中国特有の事情がある。短絡的に政治体制と結びつけるのは慎むべきだが、そのような問題がありうることを忘れてはならない。
アジアの巨大な投資需要を満たすというのは立派なことであるが、AIIBの運営が中国の国家戦略によって強く影響されることは不可避であろう。日本としては、国家としてではなく、商業ベースで対応・協力していくのが適切と思われる。
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