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東芝の第三者委員会報告は トップと監査法人への追及が甘すぎないか
http://diamond.jp/articles/-/75770
2015年7月30日 山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員] ダイヤモンド・オンライン
東芝の闇はまだ解明されていない。第三者委員会の報告ではとても幕引きとはならない。「組織的な利益の水増し」が明らかになって責任者が罰せらないなら、日本企業の無責任体制を世界に宣伝するようなものだ。
委員会報告書は二つの点で不十分である。第一はトップの責任。現場の粉飾行為は具体的に書かれている。だがトップの関与は記述が曖昧だ。第二は監査法人の責任。内部監査のいい加減さは、監査委員会が機能しなかったことを詳細に書き、責任者の名前まで特定した。だが外部監査、すなわち監査法人の責任は「諮問の範囲外」として逃げた。この2点が明らかにされないかぎり、東芝問題は「痛い教訓」にならないだろう。
■興味を細部に向けさせる目くらまし?肝心なところが甘い第三者委員会報告書
報告書は、細部は読み応えがある。事業部ごとにどんな手法で不正が行われたか、よく書き込んである。ところが、そこから導き出される総括は「甘い結論」だ。報告書として落第点である。
読み手の興味を細部に引き付け、「本当の悪党」の所業を曖昧にした、とさえ思える書きっぷりだ。
佐々木社長が「チャレンジ」と号令をかけた。月例会議で書類を何度も突き返された。話は面白い。だが決算の粉飾について具体的な「指示・命令」が書かれていない。「トップの責任」がふんわりと描かれているだけ。会社全体の空気が経営者や社員を不正会計に走らせた、といわんばかりだ。元凶を突き止めようという気迫は報告書から感じられない。
「東芝に雇われた委員会」という限界なのか。委員が出身母体におもんばかってのことか。委員長の松田広一弁護士は東京地検特捜部長を務め東京高検検事長で勇退した検察官OBである。その気になれば、歴代の東芝社長の刑事責任に道筋をつけることも可能だろう。一方、どんな報告書で済ませば刑事事件にならないかも分かっているだろう。
検察庁と太いパイプがある。東芝トップに刑事責任を問えば、個別企業の粉飾決算に留まらない重大事になることは検察も承知だろう。
原発再稼働が秒読みになっている。原子力政策と深く関わる東芝で、原発事業で辣腕を振るった経営者を手荒に扱えば、政府も火の粉を被る。「政局が不安定な時に東芝から火の手があがるのは好ましくない」という声が自民党にある。
検察は産業界と浅からぬ関係にある。OBは顧問弁護士や監査役、社外取締役さらには第三者委員会委員など引く手あまた。財界の有力企業は再就職先でもある。
報告書を読む限り、刑事責任を問おうとう意欲は行間から読み取れない。
■現場の粉飾は調べても監査法人は不問 木を見て森を見ずの調査
3人の委員のうち一人は企業弁護士。コーポレートガバナンスの専門家で、企業統治の観点から意見を言う役回りだ。残る2人は公認会計士である。その一人伊藤大義氏は元日本公認会計士協会副会長を務めた業界代表でもある。更に調査補助者として監査法人デロイトトーマツ・グループから公認会計士76人が加わった。役割は帳簿の記載や会計処理が妥当か調べることだ。つまり会計監査のやり直しである。その結果1600億円もの利益かさ上げが見つかった。
東芝の監査は、新日本監査法人が担当してきた。「適正」のハンを押しつづけてきた新日本の監査を、同業者であるデロイトトーマツが「不正」と断じたのである。
「新日本の牙城に乗り込んだトーマツは、会計不正を見つけることで得点を稼いだ。東芝の監査を新日本から奪いたいと思っているかもしれません。でもやり過ぎると監査法人って何なの、という不信を世間に広げかねない。さじ加減が難しかったと思います」。会計士業界を知る人はそう指摘する。
報告書にその苦労が滲んでいる。粉飾の具体的事例はよく書かれているが記者会見で上田委員長はこう語った。
「東芝からの諮問事項は4分野に渡る会計操作についてで、監査法人に対する調査や会計監査への評価は対象外です」
つまり現場の粉飾は調べたが、監査全体については論評しない、ということである。木を見て森を見ない、とはこういうことだ。
東芝が「不適正な会計処理」に邁進した謎を解明することが第三者委員会の役割ではなかったか。「単年度の利益至上主義に陥った」と結論付けたが利益至上主義は東芝だけではない。どの年度も黒字にしたい、というのはどの企業も願うことだ。なぜ東芝が無理をして利益を水増ししたか。その構造を探り当てるのが外部委員会の仕事である。
粉飾の全体像を明らかにする必要がある。損益計算書に載る利益の操作だけでない。バランスシート(貸借対照表)に記載されている資産の評価が適正に行われていたか、そこまで踏み込まなければ東芝の闇は追及できない。
■無理な買収が裏目に原発事業の深い闇
第三者委員会は敢えて避けたのではないか。深い闇が原発事業にある。2006年、東芝は米国の原子力メーカー・ウェスチングハウス(WH)を買収したことで生じた不良資産。「三菱重工に決まりかけていた案件を横取りした」と社内でもいわれた強引な買収の副産物である。
スリーマイル島の事故を機に、米国では原発の新設は止まっていた。メンテナンスと補修では原発ビジネスはうまみがない。資本効率を重視する米国経営はWHを見切った。売り先は「WHの日本代理店」とされてきた三菱重工が本命と見られていた。WHの技術で加圧水型の原発を日本で作っている。長い交流がある。東芝は日立製作所と並び、ゼネラルエレクトリック社の加圧水型原発を手掛けていた。WHとは基本技術が違う。その東芝が法外な額を提示して横から割り込んだ。「まともな価格の3倍だ」と三菱重工は驚いた。
決断したのは西田厚聰社長(当時)だった。日立と市場を分け合う沸騰水型に留まっていては東芝の成長は望めない。原発に軸足を置く積極策に打って出た。
日立は原子力から半導体、家電まで競い合う積年のライバル。西田は三菱の独壇場だった加圧水型の市場にまで原発事業を広げようと6000億円を投じた。
だがWHの企業価値は2000億円程度しかなかった。そこでWHの「潜在的事業価値」を4000億円と評価してつじつまを合わせた。世界に冠たるWHをグループに抱えれば、世界各国の原発事業を次々に受注できる、と踏んだ。2015年まで世界で39基の原発を受注する、毎年1兆円の売り上げが立つ。そんな事業計画を立て「WHは4000億円の無形資産がある」と説明した。俗にいう「のれん代」である。
惨憺たる結果だった。3・11で日本の原発は止まった。世界でも中国など一部の途上国を除けば、原発は厄介者になっている。今年5月には欧州最大手のアレバが経営破綻した。フィンランドで建設中の新型原発でトラブルが続き32億ユーロの損害が出た。フランスや英国での事業も行き詰まり、巨額の赤字に耐えられずフランス電力公社に救済された。ドイツではジーメンスが原発事業から撤退、再生エネルギーへと舵を切った。原発は世界で危ないビジネスになっている。
買収直前に7兆円規模だったWHの売上は現在どれほどあるのか。東芝に尋ねても「個別事業の売上や採算は公表していない」と答えない。39基受注の計画については「その計画は今はない」と言うだけ。であれば「2015年度まで39基受注、年1兆円の売上」という皮算用をもとに「4000億円の価値あり」としてきたのれん代は、会計の原則に従えば「減損処理」するのが常道である。
4000億円と見ていたのれん代を仮に1000億円に評価替えすれば3000億円の損金を立てなければならない。そんなことになれば2014年3月期に2900億円(これも水増し)だった営業利益は赤字に転落する。
東芝は最悪の事態を避けたかったのではないか。赤字になれば「繰越税資産」が消えてしまう。
■シャープのような惨状への転落も!?今後の焦点は減損処理の行方
ややこしい会計問題に少し触れよう。企業は赤字になったらその欠損分を将来の納税額から差し引くことができる、という制度がある。リーマンショックで2009年3月期に3435億円の大赤字を出した東芝には4000億円もの繰越税資産がある。この資産は収益力(将来の納税力)があることが前提で、赤字になれば消えてしまう。「幻の資産」なのだ。
のれん代を減損処理し、さらに繰越税資産まで無くなれば、東芝は債務超過に陥る恐れさえある。ライバルの日立に水を開けられるどころか、シャープのような惨状になるかもしれない。名門企業として、あってはならない事態だ。経営者は黒字化のプレッシャーに晒され、愛社精神あふれる社員が一丸となって組織的不正に走ったのではないか。
会社という身内の論理の暴走である。だが東芝は上場企業だ。公表数字を信じて東芝株を売買する投資家への背信行為である。
会社は暴走する。だから専門家である公認会計士が独立した立場で会計をチェックする。監査法人は経理を点検する「第三者委員会」である。
新日本監査法人は年度ごと10億円の報酬で東芝の決算を見てきたが、組織的不正を見逃していた。報告書は「結果として外部監査による統制が十分に機能しなかった」と指摘した。「全く機能しなかった」と書くべきだが、それはともかく問題なのは、報告書が「会社組織による事実の隠ぺいや、事実と異なるストーリーの組み立てに対して、独立の第三者である会計監査人がそれを覆すような強力な証拠を入手することは多くの場合極めて困難である」としていることだ。なんと監査法人に寛容なことか。
会社は隠す、だから専門家が第三者の立場で調べるのであって、問われているのは結果責任だ。
「会計士は微妙な立場です。監査対象のクライアントとの関係を継続する営業力も問われます」。高額の報酬を得ている仕事を継続することが大事な仕事だと業界の人は言う。大企業の監査を担当する会計士が監査法人で出世する。ちなみに東芝を担当する会計士は新日本監査法人の常務理事だ。冗談のような話だが、品質管理担当理事だという。
「10億円の仕事」は甘い監査と関係があったのか、なかったのか。第三者委員会には監査が適正であったか、突っ込んだ調査をしてほしかったが、「本委員会ではかかる評価はおこなわない」と逃げてしまった。
WHののれん代は2014年12月時点で4007億円が計上されている。今回、副会長を辞任した佐々木則夫氏は社長だった2013年4月、「監査法人から減損する必要はないという意見をいただいている」と発言している。「39基受注」の筋書が幻となった今、減損処理を求めていない新日本の監査は正しいのか。今後の焦点となる。
■「甘い監査」常態化の背景は監督官庁・業界団体との馴れ合いか
「甘い監査」が明らかになると困る人がほかにもいる。業界団体の日本会計士協会と監督官庁である金融庁だ。
新日本には「前科」がある。2007年のIHI(旧石川島播磨重工)と2009年のオリンパスの粉飾決算である。いずれも新日本が監査を担当していた。この失態を受けて金融庁と公認会計士協会は調査に入ったが「問題なし」の結論となり、担当者の処分には至らなかった。オリンパス事件では「前任のあずさ監査法人との引き継ぎが十分でなかった、として業務改善命令が出ただけ」(新日本監査法人広報)で、東芝と手口が似ていたIHIの粉飾については「問題ないという通知を文書で受け取った」(同)という。監査の目が節穴であってもお咎めなし、というのが当局の判断だった。
行政の甘い姿勢が「甘い監査」を常態化させた、とも見えるが、当局の目も節穴である事実が浮上している。
金融庁は監査法人に対し定期的な監査を実施している。新日本には2011年、行われた。その際、東芝への監査が監査対象になった。ここでも結論は「問題なし」だった。公認会計士協会も同様の監査を2014年にしている。この時も「問題なし」。なんのためのチェックなのか。
今回、第三者委員会が「監査に問題あり」と結論付けたら、金融庁や協会の責任が問われる。第三者委員会で調査に当ったのは会計士であり、その頂点に公認会計士協会の副会長を務めた重鎮がいる。細部は具体的でも全体像はぼかし、監査法人の責任を問わない報告書は、このような構造から生まれたのではないか。
トップが暴走すると全社一丸となって粉飾が横行する。内部監査は機能せず、監査法人は見過ごす。その監査法人を監査する金融庁も公認会計士協会もチェックが効かない。皆がもたれ合い、隠しあう。
日本の企業は世界で信用されるだろうか。東芝は日本を代表する名門企業である。
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