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東芝の事業所(「Wikipedia」より/Waka77)
東芝、恐怖の底なし巨額賠償支払い地獄か 影落とす28年前の日米“東芝事件”
http://biz-journal.jp/2015/07/post_10905.html
2015.07.30 文=寺尾淳/ジャーナリスト Business Journal
「不適切会計」問題に揺れる東芝は7月21日、前日に第三者委員会から組織的な関与があったと断定する報告書を受け取ったことを受け、田中久雄社長、佐々木則夫副会長、西田厚聰相談役の歴代3社長が同日付で辞任した。報告書では、問題となった一連の会計処理の中では意図的に「チャレンジ」と称する見かけ上の利益のかさ上げを行っており、それに経営トップを含めた組織的な関与が認められると断定していた。
辞任した田中氏は21日の記者会見で「140年の歴史で最大ともいえるブランドイメージの毀損」と述べた。
東芝株は東京株式市場で、16日に年初来安値の369.3円(終値)まで下落していたが、17日は7.5円高、21日は23.1円高で、22日も午前中に7.6円高まで上昇し「悪材料をすでに織り込んだ」と思われていた。ところが、22日午後の取引再開時に急落して16.5円安まで下落し、終値は6.8円安。23日は3.4円安、24日は2.2円安で、3日続落した。
22日の昼下がり、東芝に何があったのか――。
それは「アメリカでクラスアクション(集団訴訟)準備中」というニュースだった。株式市場での株価の方向を一変させるほどの悪材料で、日本企業にとっては大きな恐怖だということを、あらためて認識させた出来事だった。
東芝を相手取ったクラスアクションとは、日本経済新聞によれば、6月4日付でカリフォルニア州の連邦地裁に提訴され、7月22日までにそれが判明したという。提訴したのはアメリカの個人投資家で、インフラ事業の費用に関連して投資家に誤った情報を伝えたことを問題視し、東芝株、東芝のADR(現物株を裏付けとし、株式同様に市場で売買されるアメリカ預託証券)の下落で被った損失に対する損害賠償を求めている。
それとは別に、アメリカのローゼン法律事務所が投資家に対し、6月初旬から損害賠償請求のクラスアクションに参加するよう呼びかけている動きもある。東芝が第三者委員会を設置して調査を開始し、3月期本決算の業績予想を取り下げた5月7日以前に東芝のADRを購入した投資家が対象で、アメリカ国外の居住者でも訴訟に参加できる。
5月7日から年初来安値をつけた7月16日までに、東芝の株価は終値ベースで23.3%下落した。これが損失の根拠である。
参加申し込み期限は8月3日で、それまでに訴訟参加者は100人を超えるのではないかとみられている。訴える相手は法人としての東芝だけでなく、辞任した田中氏、佐々木氏個人も含まれる。
■アメリカのクラスアクションは、なぜ怖いのか
クラスアクションは集団訴訟と訳され、日本にも集団訴訟制度は存在するが、アメリカの制度は裁判所から「一部で集団全体を代表するクラスアクション」と認められた場合、日本以上に被告は不利になる。訴訟社会のアメリカでは、クラスアクションの参加者を募ると被害の程度が不明確な人も交えて参加者がふくれあがる傾向がある。しかも、複数起こされた訴訟の中で誰か1人が勝訴すると、クラスアクションに参加している被害者も、参加していない被害者も、全員が被告から救済を受けられるルールになっている。
今回の東芝のケースでいえば、クラスアクションの訴訟参加者が仮に100人だとしても、その中の1人でも勝訴したら、損害賠償の支払い対象は100人にとどまらず、「東芝株、東芝ADRで損失を被った人」は全員が東芝から救済を受けられ、損害賠償額が巨額になる恐れがある。
そのため、クラスアクションの被告は賠償支払額をなんとか低く抑えるために原告との和解で解決を図るケースがほとんど。それでも和解金はかなりの高額を覚悟しなければならず、アメリカでは訴訟の和解金で被告企業の最終利益が赤字になることもよくある。
■実燃費が広告よりも悪いために約140億円を支払ったホンダ
日本企業ではタカタが製造したエアバッグに欠陥が見つかりアメリカ、カナダでクラスアクションを起こされているが、本田技研工業(ホンダ)は広告をめぐって次のようなクラスアクションを起こされ、2012年に総額で約140億円の和解金を支払っている。
「シビック」のハイブリッド車の広告に掲載された燃費の数字よりも、購入者が実際に走ってガソリン代を支払った燃費のほうが悪かった。どこのメーカーの自動車でもよくある話だが、購入者は「予想外の出費を強いられた」と主張してカリフォルニア州サンディエゴ郡地裁に訴え、クラスアクションと認められた。ホンダは結局、購入車の年式に応じて1人当たり100〜200ドルの和解金を支払い、さらに、今後ホンダの新車を購入する際には最高で1500ドルの値引きを受けられるという権利までプレゼントした。
1人最高200ドルといっても、和解金の支払い対象者が03〜09年モデルのシビックハイブリッドの購入者全員に及ぶというのがクラスアクションの怖いところだ。その数は、全米で約20万人。裁判などまったく知らなかった人も含めて全員がホンダから和解金を受け取り、その総額は1億7000万ドル(当時のレートで約140億円)にも上った。140億円は12年3月期のホンダの当期利益2114億円の6.6%を占める。エアバッグと違って安全性とは無関係な、広告の片隅に小さく載った燃費の数字が、ホンダに大きな損失をもたらしたのである。
それでもホンダは、「私たちはホンダ車の所有者と良好な関係を維持したいと望んでおり、裁判所がこの和解案を承認したことを喜んでいる」という神妙な談話を出している。
■東芝に対するイメージは決して良くない
東芝がアメリカで、株価下落による損失をめぐってクラスアクションを起こされることは、もはや不可避な情勢だが、アメリカの法制度にはもう一つ「陪審員」という厄介な存在がある。クラスアクションを認定するのは裁判官だが、陪審裁判になって被告に不利な評決を出されるのを恐れ、被告が高額の和解金をのんで裁判を終わらせるケースは多い。公害問題のように、陪審員になる国民に良いイメージを持たれていない場合は、なおさらそうである。
東芝は1999年にアメリカで、「フロッピーディスクのデータが壊れた」というパソコン部品の欠陥による損害をめぐって訴訟を起こされたことがあるが、テキサス州連邦裁判所がクラスアクションと認定する前に東芝側はクラスアクションを認めて原告と和解し、総額1100億円(訴訟費用を含む)の高額な和解金を支払って裁判を終わらせている。なぜ和解を急いだかというと、原告にタバコ会社相手の健康被害のクラスアクションで巨額の和解金を勝ち取った敏腕弁護士がついていたことと、テキサス州連邦裁判所の陪審員が大企業に不利な評決を連発していて、陪審裁判になって賠償金額がより高額になるのを恐れたためだった。
今回の原告側についているローゼン法律事務所も、大企業相手のクラスアクションで数々の戦果を挙げているが、陪審員になるアメリカ国民の東芝に対するイメージも、必ずしも良いとはいえない。というのは、87年に東芝グループの東芝機械がココム違反事件を起こしているからだ。
この事件は、東芝機械がソ連(当時)に輸出した工作機械によってソ連海軍の潜水艦の性能が向上し、冷戦の相手のアメリカに軍事上の潜在的な危険を及ぼしたとして「対共産圏輸出統制委員会(ココム)協定」違反に問われたもの。アメリカ国防省が日本政府に調査要請を行ったことが87年3月に明るみに出て、外国為替及び外国貿易法違反で東芝機械幹部2人が逮捕され、法人の東芝機械とともに起訴された。同年7月、当時会長の佐波正一氏、社長の渡里杉一郎氏が辞任している。
日米貿易摩擦の真っ最中でもあり、通商問題に飛び火。アメリカは東芝製品を輸入禁止とし、約3兆円の損害賠償を求めた。ワシントンDCの連邦議会議事堂の前で議員が東芝のラジカセを叩き壊すパフォーマンス映像がニュースで繰り返し流れた。その後、88年4月に成立したアメリカの包括貿易法では、東芝機械、東芝からの政府調達を3年間禁止する「東芝制裁条項」が盛り込まれた。
事後の対応でも東芝は批判される。「東芝と東芝機械は別法人」を主張して制裁措置を解除してもらう目的で、連邦議会に対して活発なロビー活動を展開。主張はある程度は認められ東芝への制裁は解除されたが、ロビイストの人数を増やして多額の活動費用を投下する「物量作戦」が問題視され、アメリカでロビー活動への規制論議が高まった。
28年前は決して遠い昔ではない。12人の陪審員を代表し話し合いをリードする陪審長になりそうな50歳以上の人は「TOSHIBAは昔、連邦議会でもめた」ことを覚えているだろう。ましてや裁判が開かれるカリフォルニア州は、冷戦時代には軍需産業の中心地として経済が潤った土地柄。「敵のソ連を利した日本企業」では、イメージは良くない。
東芝は経営トップが不正を認めて辞任したので、勝訴できる見込みはほとんどない。16年前と同じように陪審員を恐れ、陪審裁判を避けたいと高額な和解金支払いをのむのだろうか。業績へのダメージがどれぐらい出るのか不透明だが、アメリカでのクラスアクションの今後の行方は気になるところだ。
(文=寺尾淳/ジャーナリスト)
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