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リサイクルの悪夢 中国で劣化廃棄部品がハイテク新製品に混入→輸出で世界中に拡散
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150729-00010001-bjournal-bus_all
Business Journal 7月29日(水)6時1分配信
日本には“都市鉱山”と呼ばれる世界有数の金鉱山がある。金の推定埋蔵量は6800トンで、世界の埋蔵量の16%に及ぶという試算があるが、これは廃棄された携帯電話などハイテク機器から取り出せる金の総量だという。
別のデータによれば、携帯電話一台からリサイクルされる金は価格にして約100円。10万台の携帯電話を集めれば、そこから1000万円相当の金を取り出すことができる。実際、リサイクルの最先進国であるEUのリサイクル工場では、廃棄機器から金の延べ棒がつくられている。
しかし、そのようなリサイクル最先端のEUですら、リサイクル工場の稼働率は高くない。潜在的な都市鉱山資源のうち回収される資源は1%程度で、実はリサイクルに出された家電製品の実に67%は工場に届いていない。いったい、その理由はなんなのだろうか。
●リサイクル工場に届かない
先日、NHK BSで骨太なドキュメンタリー番組が放送された。スペインとフランスの共同制作『廃棄家電の悲しき行く末』という番組で、先端的なリサイクルの仕組みがなぜ機能していないのか、複数の国にまたがる取材を通じて、リサイクルの闇に切り込んでいる。その概要を紹介したい。
EUで販売される家電製品には、あらかじめリサイクル料が付加されている。廃棄されることになった家電はリサイクル業者が無料で引き取るとともに、業者はあらかじめ政府機関にプールされている代金を受け取り、リサイクルを行う。従業員の健康にも配慮した先端的なリサイクル工場で廃棄家電は分解され、最終工程で貴金属や鉄、ニッケルなどが回収されていく。
携帯電話5万台から4万ユーロ(540万円)の金の延べ棒が抽出されるが、それにかかるコストも大きい。だから廃棄家電のリサイクル業には、あらかじめ徴収されたリサイクル料収入が加わらないと成立できないのだ。
そのリサイクル工場の稼働率が低い理由は何だろうか。番組ではいくつかのケースを取り上げている。
そのひとつ、EU内でも特に家電の最終リサイクル比率が極端に低いスペインでは、リサイクルに出された家電がリサイクル工場に届く前に盗難に遭うという事象が報告されている。
スペインでは失業率が高い。仕事のない若者が、廃棄物の集積場に忍び込んで、お金になりそうな家電を盗んでいく。ブラウン管テレビにはたくさんの銅線が巻かれている。これを分解して転売すれば、テレビ一台当たり2ユーロ(270円)になる。パソコン本体からは4ユーロ相当、冷蔵庫からは10ユーロ相当の部材が取り出せるそうだ。こうして集積所に一時置きされた家電は、盗まれ空き地で分解され、プラスチックのケースはそのままゴミとして空き地に捨て置かれる。
リサイクル工場の関係者が横流しするケースもある。政府機関からリサイクル料を受け取るが、実際はリサイクルせずに海外に輸出する。完全な組織的詐欺なのだが、政府がひとつひとつのリサイクル事業者の現場に立ち入り検査をしても、横流しの発見や摘発はなかなか難しいという。
●抜け道
この横流しには、もっと深い闇がある。日本と同じでEUでも企業や公共機関などの事業所で使われるパソコンや電気製品には、あらかじめリサイクル料は付加されていない。使用した事業者が、お金を支払って業者に引き取ってもらうことになる。その業者の中に、一般のリサイクル事業者の半額で廃棄品を引き取ってくれる事業者がおり、実際にはリサイクルなどせずに廃棄品をそのまま輸出してしまう。
バーゼル条約という国際条約は、廃棄物を他国に輸出することを禁止している。しかし、抜け穴が2つある。ひとつは、回収した廃棄品をゴミではなく中古品と偽って梱包すれば輸出できるということ。そしてもうひとつは、世界最大の消費国であるアメリカがバーゼル条約を批准していないということ。これらの抜け穴により、EUで集められた廃棄家電も、アメリカで集められた廃棄家電も、中古品としてコンテナに詰められて、船で海外へと運ばれていく。
筆者もコンサルタントとして以前、ある大企業の静脈物流のお手伝いをしたことがあるので、このような仕組みが成立している背景はよく理解できる。完成品を工場から販売店、そして消費者まで届けるのが動脈物流とすれば、静脈物流は消費者が利用し終えた製品を回収してリサイクルするまでの物流の仕組みを指す。
大金を払ってコンサルタントを雇ってまでリサイクルの仕組みをつくろうとする大企業の場合は、非常に真面目な仕組みを構築する。そのような真面目なリサイクルの場合は、いかに回収の生産性を上げるかが、コンサルタントが頭をひねるポイントになる。それはリサイクル品を効率的に回収するネットワークを設計することから始まり、最終的にはリサイクル処理の効率が上がるようにあらかじめ製品を設計するところまで、生産性向上のポイントは多岐にわたる。
そのような仕事を手掛けてみてよくわかることは、リサイクルで採算を取るためには非常に多くの手間暇がかかるということだ。裏を返せば、リサイクルにそこまでの投資をしない脱法事業者なら濡れ手で粟のごとく儲かってしまう。つまりリサイクル事業者の中で一番コスト競争力があるのは、リサイクルせずに廃棄家電をただ同然で海外に輸出する違法業者なのだ。
●グローバルな消費社会の闇
番組が突き止めたところによれば、廃棄家電を満載したコンテナの行き先は、いくつかに絞られるそうだ。多いのはアフリカのナイジェリアとガーナ、そして香港だという。番組では、アフリカのガーナにおびただしい量の廃棄家電や廃棄コンピュータ機器のゴミの山が広がっている様子を映していた。
香港の場合は、もっと複雑だ。香港の港から新界に集められたゴミは、なぜか“金属スクラップ”と表示を偽って税関を無事通り抜けて中国の内陸へと運ばれる。行き先は中国最大の廃棄家電リサイクル都市・貴嶼鎮(きしょちん)だ。人口13万人の町で、町の工業生産の90%はリサイクルで成り立っている。
廃棄家電はこの町で、人海戦術と原始的な方法で分解される。分解されたプラスチックはライターであぶり、そのにおいで分類して、成分に見合ったリサイクル工程に回す。従業員の肺はそのたびにむしばまれていくが、それが問題になることはない。
パソコンなどの電子基板はスチームで蒸し、溶剤で溶かして分解する。貴金属を取り出す過程で大気汚染や水質汚濁が問題になるはずだが、そのコストを計算に入れないから、EUの工場のようにリサイクル料を受け取らなくても、貴嶼鎮のリサイクル事業は採算に合うのだ。そしておそらくガーナでもナイジェリアでも同じことが起きている。遠く離れた国で、土壌が汚染され、そこでリサイクルに携わる人々の健康が害されている。
被害は、それだけでは終わっていない。廃棄家電から取り出された半導体チップは、素知らぬ顔をして新品に混じって、中国の工場で新製品に使われていくのだ。リサイクルの過程で基板から取り出すのにスチームを浴び、熱を帯び、溶剤を通った半導体チップは当然劣化する。そしてそのようなチップが組み込まれた新品の電気製品は、EUへと還流していく。完成品メーカーはこのような欠陥品を出荷前に発見しようとするが、その仕組みを一定数で不良品がすり抜ける。これが家電品だけならともかく、人々の命を預かる交通システムやインフラの部品の中で使われているという現状に、この番組は警鐘を鳴らして終わる。
いずれにしても、グローバルな消費社会の仕組みの中に、このような闇が存在することを理解しておくことは、われわれ責任ある社会人としてはとても重要なことではないかと思う。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)
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