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東芝の事業所(「Wikipedia」より/Waka77)
東芝“不正”会計、「組織的関与・利益かさ上げ」批判は正しい?過去の粉飾事件との比較論
http://biz-journal.jp/2015/07/post_10880.html
2015.07.28 文=高橋篤史/ジャーナリスト Business Journal
今月21日に行われた東芝の「不適切会計」をめぐる記者会見で、多少の違和感とともに印象に残る場面があった。2時間近くに及んだ会見の最後、進行役が質疑を打ち切った直後、田中久雄社長(同日付で辞任)が「最後に一言だけ」と言い、会場に詰めかけた200人を優に超す記者や証券アナリストらに向かって、やおら感謝の言葉を述べ始めたのである。
「(社長就任から)2年間、大変ありがとうございました」――。
それが締めの言葉だった。
まるで不慮の怪我で引退に追い込まれたスポーツ選手か何かを見るような思いがした。今回の不祥事が重大な結果を招いたことは火を見るより明らかだが、従業員20万人のトップにまで上り詰めた田中氏本人は最後の最後まで“悪気”を感じていないようだった。会見中、「不適切な会計処理がされているとの認識はなかった」と責任逃れともとれる弁明に終始していたが、それはあながち嘘ではなく、本心からそう思っていたのかもしれない。
歴代トップ以下の組織的関与で利益かさ上げが行われていた――。第三者委員会による調査報告書の片言隻句を引き、そう報じるマスコミが多い。刑事事件として扱うべきだという論調さえ広まっているが、調査報告書を読む限り、後述する手口の悪質さや利益かさ上げ額の規模などからして、田中氏の“悪気”のなさを一方的に責め立てるのは少し酷な気もする。売り上げ計上のタイミングにせよ何にせよ、複雑多岐にわたる商売の形態とともに、もともと企業会計には一定の幅が許容され得るという、一連のマスコミ報道ではほとんど省みられない真実に照らせば、その感はより強まる。
会見では民放テレビ局の人気女性キャスターが「これは粉飾ではないのですか」と田中氏に詰め寄る場面もあった。確かにテレビ的には絵になるのだろう。しかし、筆者からすると、それは問題の本質からほど遠い質問だ。「粉飾」とレッテルを貼ることで、勧善懲悪的に問題を片付けたような気にさせるのは日本のマスコミの悪い癖である。そもそも「粉飾」という言葉は法律や会計ルールに書いてあるわけではない。その事象を見る人がどう言葉を当てはめるかの問題にすぎない。
■「粉飾決算」「不正会計」「不適切会計」の違い
この手の問題が起きた時、重大性の順におおよそ3つの呼び方があるだろう。「粉飾決算」「不正会計」、それに「不適切会計」である。マスコミがやたら「粉飾」と言い募り、逆に会社側が「不適切会計」で通し続けているのはそうした暗黙の評価尺度からだ。
3つを線引きする明確な数値基準はないわけだが、筆者はこれまで概ねこう使い分けてきた。「粉飾決算」とは、トップ自らが主導し規模や悪質さにおいてその企業の存立を根底から揺るがすようなもの。「不正会計」はそこまでいかないものの一定の規模や組織的関与、悪質さが認められるもの。そして「不適切会計」は単純な経理処理のミスなど悪意が認められないものである。
これは見方を変えれば、「粉飾決算」は刑事事件、「不正会計」は課徴金事案、「不適切会計」は単なる過年度決算の訂正事案という分け方にほぼ等しいともいえる。それらからすると、東芝の問題は「不正会計」という言葉を当てはめるのが今のところ妥当だと思う。以下、具体的に過去の代表的な事例との比較で見ていくこととする。
■規模の問題
まず規模の問題である。
2008年度から14年度第3四半期までの約7年間で、東芝は1562億円の利益(税引き前損益ベース、三者委の指摘額と自主チェック分の合計)をかさ上げしていたとされる。絶対額が大きいことが即ち悪であるとの見方がよくなされるが、それは正しくない。絶対額は尺度のひとつにすぎず、より重要なのはそれまでの公表額と実態額との比較感、要は決算の見え方である。
それからすると、東芝の利益かさ上げ額は年間でならせば200億円強。6兆円前後の売上高がある会社からすれば、目が飛び出るほどの金額ではない。売上高が大きければ大きいほど本業利益のかさ上げは容易であり、当然ながら売り上げ以上の利益水増しは不可能だ。誤解を恐れずにいえば、東芝の場合、単年度に限るならその程度の差が悪意のない経理処理のミスで生じることもあり得るレベルである。
例えばカネボウの場合、大量の不良在庫などを抱えた子会社群の連結外しにより約2200億円の損失が簿外に隠されていた。これは売上高の3分の1に匹敵するような規模だ。その額を純資産に反映させれば1500億円以上の債務超過に陥るという致命的なものでもあった。債務超過は上場廃止基準に抵触するものだし、通常それほどの債務超過額であれば会社の存続は難しい。
いまだ議論が多くなされているライブドアの場合はどうか。ダミーの投資組合を通じた実質的な自社株売却による収益の売り上げ計上などによる経常利益の水増し額は約53億円と、それほどの額でないように映る。ただ、売上高の約16%に相当する額であり、より重要なことはそれがなければ実態は3億円の赤字だったという点だ。黒字と赤字とでは決算の見え方に雲泥の差がある。
ただし、東芝でも重要視しなければならない点はある。利益かさ上げがもっともひどかった12年度は税引き前利益のじつに5割強がそれによるものだったからだ。投資判断に重大な影響を与えるレベルである。
■手口の悪質さ
次に手口の悪質さはどうか。
東芝の場合、特徴的な手口が2つあった。工事進行基準の経理処理における損失計上の先送りと、パソコンなど組み立て業者との部品取引における「押し込み」による一時的な利益かさ上げである。
大型プラントなど複数年度にわたる工事では、進捗に応じた売り上げと費用の計上が行われる。以前、国内企業では完成時点で一括計上する完工基準がとられていたが、十数年前から進行基準の採用企業が多くなった。進行基準のポイントは、赤字工事になる見通しが生じた時点で引当金として全費用を前倒しで計上しなければならない点だ。東芝はそれを先延ばしすることで、一時的に利益のかさ上げを行っていた。
実はこのことは、相当厄介な問題を孕んでいる。将来予測や見積もりの問題が入り込んでくるからだ。というのも、今振り返れば楽観に過ぎた収支計画だったとしても、当時はある程度現実的な計画に見えたかもしれないのである。実際、ゼネコンではこんなケースがざらにある。受注時点で赤字でも工事期間中のコストダウン努力(多くの場合、下請け叩き)でそれを吸収してしまうのである。つまり、将来予測の評価は極めて難しいということだ。個々の工事に精通していない監査法人などにとって、それはなおさらである。
話を広げれば、同様の問題は企業買収によるのれん代や生産設備など固定資産の減損テスト、繰延税金資産の評価にも当てはまる。会社側はなるべく損失を計上したくないから楽観的な将来計画に傾きがちだ。とりわけ、のれん代は国際会計基準(IFRS)の導入で最長20年間にわたる均等償却の必要性がなくなるため、楽観的な将来計画が行き詰まり、ある日突然、巨額の損失が発生するようなケースが今後続出するに違いない。果たしてそれが投資家にとって懇切丁寧な情報開示かどうか、大いに疑問である。
要は東芝が行っていた工事進行基準における損失先送りは決して特殊なケースではなく、程度の差こそあれ今現在でも水面下では多くの企業が行っている可能性が高いものだといえる。そして、それらをばっさりと「粉飾」「不正」「不適切」と切り捨てることは案外と難しいのである。
■部品取引の問題
次に部品取引はどうか。
東芝は一括調達した部品を組み立て業者に支給する際、いったん売り上げ計上する「バイセル方式」と呼ぶ有償支給のやり方を04年以降とっていた。その際のポイントは、調達単価という企業にとっての機密情報を守るため、一定額を上乗せした「マスキング価格」で支給していたことである。その上乗せ分は利益だ。
ただ、当然ながら完成品を東芝が買い戻す際、上乗せ分は相殺処理することとなる。だから利益といっても一時的なものだ。かなり複雑な取引だが、不合理といえるものでもなく、有償支給は他社でもみられる方式である。また、期末の棚卸しなどを考えれば、無償支給が合理的とも限らない。
期末に組み立て業者への「押し込み」で多額の利益が計上できたとして、完成品になって帰ってくる時には相殺処理するのでかりそめのものにすぎず、単に「期ずれ」の問題と捉えることも可能である。調査報告書によれば、組み立て業者内の部品在庫は適正水準が5日分であるところ、10年12月末には「押し込み」の結果、1カ月分に上っていたという。確かに過大な在庫ではあろうが、異常といえるかどうかは評価が分かれるだろう。
ただ、調達価格と「マスキング価格」との差が一時期、急速に広がった点は悪意を感じさせるものだ。当初、価格差は1割程度だったとされるが、12年7月から13年3月にかけて一部部品では価格差が4〜8倍にも広がっていたという。部品取引をもっぱら期末の利益調整弁にのみ利用していた疑いも残る。
■過去の事例との比較
東芝の部品取引と似た過去における粉飾決算の事例を挙げるなら、カネボウにおける不良在庫の“宇宙遊泳”や、IT企業で多発した架空循環取引といえるだろう。それらの悪質さは東芝とは比べものにならない。
“宇宙遊泳”とは決算期の異なる同業者間で不良在庫を売り買いして期末計上を免れるグレーな取引だが、カネボウの場合、そのうちの毛布メーカーとの取引で生じた不良在庫は1年分の販売額を優に超す巨額のものだった。おまけに同社は損失計上を免れるため、実質子会社化した後の毛布メーカーを連結外し工作により隠蔽していた。
IT業界での粉飾決算は、メディア・リンクスやアイ・エックス・アイ、ニイウスコーの事件が代表例だが、それらでは取引の対象物がそもそも存在しなかった。証憑類のやりとりと銀行間の資金移動だけで取引を仮装していたのである。規模も信じられないほどのものだった。売り上げの大半が架空だったからだ。メディア・リンクスに至っては、公表していた売上高の9割超が架空循環取引によるものだった年もある。ニイウスコーの場合、純資産の水増し額は300億円超に上り、実態は50億円を超す債務超過状態にあった。
オリンパスのケースは規模こそ会社存立を危うくするほどのものではなかったが、手口の悪質さが際立っていたため刑事事件化したといえる。純資産の水増し額は多い年に1200億円余りで、これは公表していた純資産額の3割ほどを占める数字。他方で手口は巧妙かつ複雑、そして長期にわたるものだった。1990年代初頭に財テクで生じた含み損を海外のペーパーカンパニーに飛ばしていたが、そのネットワークは年々複雑化、手伝ってもらっていた証券関係者には多額の報酬を与え、大型の企業買収で生じるのれん代を逆手にとって飛ばしていた含み損の解消を図るという、過去に例を見ないものだった。
では次稿は、トップ以下の組織的関与、そしてこの問題の本質について考えていきたい。
(文=高橋篤史/ジャーナリスト)
※次稿へ続く
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