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さて、日銀はどこまで万能か(澤上篤人)
さわかみ投信会長
2015/7/26 6:30
今回は、日銀の金融政策がどこまで万能かという点を草刈貴弘CIO(最高投資責任者)と話し合ってみよう。果たして、黒田東彦日銀総裁の2%インフレ目標政策は成功するのかどうか、長期投資のスタンスで検討してみたい。
■「ソロス」は稀有な例
草刈貴弘(以下、草):投資する際には「中央銀行には逆らうな」という相場格言がありますが、これは昔から使われていたのですか。
澤上篤人(以下、澤):昔からと言っても、米国の大恐慌や世界恐慌の大混乱を経て中央銀行の機能を強化した1930年代からのことだね。それ以降は、投資家のみならず、金融マーケットにおける不文律のように崇められている。日銀をはじめとした中銀の金融政策には、どうケンカを仕掛けても勝てないということだ。
草:中銀の立ち位置は金融マーケットにおける為政者ですから、当然と言えば当然だと思いますが。
澤:唯一の例外は、90年代にヘッジファンドの祖として有名なジョージ・ソロス氏が、英国のイングランド銀行に真っ向から英ポンドのカラ売りを仕掛けて勝ったことぐらい。あの時はソロスが力勝負で中銀を押さえ込んだというよりも、英国の衰退という大きな流れの中で、卓越した先読みがイングランド銀行の旧来の為替管理政策を打ち崩したとして歴史に名を残した。
草:ちょうどその頃に会長自身が欧州で活躍されていたと思いますが、現地ではどの様に報じられていたのでしょうか。世紀のカラ売りについて事実としては知っていますが、その時代に欧州マーケットで活躍していた日本人運用者はもうほとんどいませんから、ぜひ教えてください。
澤:ソロスが結果としてイングランド銀行を打ち破ったということだが、そう派手な丁々発止があったわけではない。当時、ソロスはまだそれほど有名でもなかったから、イングランド銀行の方も高をくくっていたフシがある。それを良いことに、ソロスはじっくりと売り建て玉を増やしていった。そして、最後の最後に英ポンドの相場が崩れて、ソロスは大もうけしたというわけ。
あの頃のソロスの論文などを見ても、彼は長期視野でもって金融の大きな流れを読んで行動していたことが分かる。その先読みをベースに、ソロスは実にしぶとくカラ売りを続けたから、意外と静かな挑戦だった。最終的に大勝利を収めたのを見て、後に世紀の大勝負と喧伝されることになったんだ。
草:いかにも大胆不敵な挑戦者が巨人を倒したかのようなニュアンスで伝えられていますが、実はじっくりと自分の信念に基づいて行動していたのですね。投機家の代表というイメージですが、視点が金融の大局的な変化というのが非常に面白いです。
澤:ところで、どうして中銀に逆らっても勝てないと言われるのか知っているかい? それは簡単で、中銀は通貨を発行することで、無限に信用を拡大できるからだ。
昨今の事例でいえば、日銀はじめ米連邦準備理事会(FRB)も欧州中央銀行 (ECB)も国債の無制限買い取りで、未曽有の資金供給をしたり政策金利をゼロ%状態にまで持っていったりと、その力を存分に発揮した。日本のデフレ克服や、欧米でのリーマン・ショックからの立ち直りには「これしかない」ということで、各中銀が通貨発行による信用拡大という伝家の宝刀を抜いたわけだ。
草:大学教授時代に、当時の日銀の金融政策が不十分だと批判していたバーナンキ氏(前FRB議長)が、自分が中銀のトップに立った際には信用緩和など徹底的な対応を立て続けに行い、米国経済の回復に道筋をつけました。自分の考えが正しいことを証明して見せたと言えますね。
澤:さて、そろそろ今日の本題に入っていこうか。「中銀には逆らうな」を金科玉条にマーケット参加するのは各自の自由だが、そういった思考停止は極めて危険でもあるのだ。
■金利はどこかで上昇する
澤:早い話、先進国中心に国債の大量発行が続いているよね。大量に供給されたものが、どこかで値崩れをきたすのは経済の大原則だ。ところが現状では、日銀など中銀がその分を大量購入していることもあって、国債の値崩れなんて気配すら感じられない。そして、長期金利も超低水準にへばりついたままだ。
さらに言えば、中銀によるマネーの大量供給も続いているが、インフレの懸念は全く感じられない。そういった目先の現実をもってして、現状がずっと続くと想定するのは思考停止そのものだということさ。
仮に人為的に価格を上げる政策が功を奏して景気が上向いてくれば、長期金利も必ず上昇に転じる。それは、国債価格の値崩れを意味し、国債の大量購入を続けている日銀の財務を大きく損なうことを意味する。ということは、円の信用力が低下してインフレの火が燃え広がることになるわけだ。
草:確かに、人為的に価格に影響を与え続けることは難しいので、日銀の政策は万能とは言えそうにないですね。2%の継続的な物価上昇も当面は難しいでしょう。本来であれば、賃金が上昇することで消費が増えて景気が良くなり、物価が継続的に上昇するのを日銀は望んでいたはずです。
しかし、賃金が上昇している今でも財布のひもはまだまだ固いままです。賃金と同時に、社会保障費や税負担も増えていますし、そもそも高齢化で、賃上げの恩恵が及びにくい高齢世帯が増えているからでしょう。
■円安には警戒が必要
草:一方で円安は進んでいます。日本の産業構造はサービス業の比率が高くなっていますから、これ以上の円安となると、こうした業種の賃金上昇には向かい風です。輸入物価は確実に上がるにも関わらず、消費が回復しなければ、企業は収益悪化で結局、人件費を含めたコスト削減をしなければならなくなります。
円が今よりさらに安くなっていくと、景気が回復する以上のスピードで輸入物価が上昇し、価格に転嫁しなければならない事態にもなりかねません。そうするとコストプッシュ型のインフレとなり、同時に景気が後退するスタグフレーションになるのでは?
澤:景気はモタモタしているのに物価だけ上昇していく展開は、今後十分あり得る読みだ。だからこそ、生活に密着した「これぞ」という企業の株式に投資しておく必要がある。市場の混乱を尻目に、われわれ長期投資家は平気で乗り切っていくというわけさ。
澤上篤人(さわかみあつと)
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。
草刈貴弘(くさかりまさひろ)
2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)。
[日経マネー2015年8月号の記事を基に再構成]
http://www.nikkei.com/money/column/moneyblog.aspx?g=DGXMZO8822225018062015000000
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