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東芝巨額粉飾決算事件 「不透明な決着」の裏に霞が関の安倍政権への配慮がチラつく
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44325
2015年07月24日(金) 長谷川 幸洋「ニュースの深層」 現代ビジネス
■「これでお仕舞」はおかしい
東芝の不正会計は歴代の経営トップたちが主導した組織ぐるみの巨額粉飾決算事件だ。ところが、証券取引等監視委員会をはじめ本来、厳しく対応すべき「市場の監視役」たちはなぜか、そろって腰が引けている。いったい、どうなっているのか。
事件の概要は大々的に報じられているから、いまさら繰り返すまでもないだろう。不正会計は約7年間にわたって総額1562億円規模に達していた。責任をとって田中久雄社長ら歴代トップ3人を含む取締役8人と相談役の計9人が辞任した。
不可解なのは、証券監視等監視委員会の対応である。報告書を出したのは、あくまで会社側が選んだ第三者委員会だ。特別の権限があるわけでもなく、そもそも利害関係者が選んだ人たちなのだから、当然ながら、それで事件の真相が解明されたとはいえない。
第三者委の報告は報告として参考にしつつ、まずは監視委が権限に基づいて独自に調査し、処分を決めるのが市場のルールである。
ところがマスコミ報道によれば、監視委は第三者委の報告概要が出た時点で、早々と刑事事件化を回避する姿勢を見せた。たとえば、産経新聞は7月21日付けで「市場欺く悪意見えず 刑事事件は回避も」と報じている。
報告の完全版が発表された21日になると、読売新聞は産経報道を裏打ちするように「(監視委は)東芝に対して課徴金を科すよう金融庁に報告する方向で検討に入る」(22日付1面)とダメ押しした。
これだけの大事件なのに、監視委は自ら調査に着手する前から課徴金による制裁で十分と判断し、刑事事件化を断念しているのだろうか。まさか第三者委の報告で調査はもう十分と考えているわけではあるまい。
監視委が処分を決めて金融庁に勧告するのは、早ければ9月という。調査したうえで対応を決めるのが筋なのに、いまから2カ月先の結論を先取りしているかのようだ。そうだとすれば、それだけで監視委のふるまいに大きな疑問符をつけざるをえない。監視委はいったい、何を考えているのか。
■ そんなレベルで済む話ではない
監視委が刑事処分の必要があると判断すれば、検察当局に告発して検察が対応を決める。検察はどうみているか。22日付の朝日新聞は「トップがどのように関わっているのか、より具体的な内容が分からないと判断できない」という検察幹部のコメントを報じている。事件の真相が分からない現在の段階では、まったく当然のコメントである。
監視委の役割は予断なく具体的な事件の真相を調べるのが役割だ。ところが朝日によれば、監視委は調べる前から「『小規模な会社では社長が経営の詳細まで把握しているが、東芝のような大企業は事情が違う』と話し、立件には高いハードルがあるとの見方を示」しているのだそうだ。
不可解なのは監視委だけではない。東京証券取引所も「上場契約違約金」の支払いを求める方針という(22日付読売新聞9面)。上場契約違約金というのは、上場企業が適切な情報開示を行わなかった場合に支払いを求めるペナルティである。
だが、今回の事件はとてもそんなレベルで済ませる話ではない。日本を代表する超一流企業がトップの意向で長年にわたって組織ぐるみの不正会計を続けていた。それによって株主や投資家、銀行、消費者、社員らを欺いてきた。第三者委が強弁するような、単なる「不適切会計」ではまったくない。
監視委や東証の対応に首を傾げていたら、一部のマスコミを通じて素早く対応策をぶちあげたのは経済産業省である。日本経済新聞などによれば、経産省は「社外取締役の機能強化」を目指した会社法の新たな解釈指針を作成して、22日の週内にも発表するという。
昨年12月から検討していたそうだから、いま準備万端整ったと言いたいのだろうが、第三者委報告発表と同じタイミングで一部にリークしたのは「経産省も事件を重視して、きちんと対応してますよ」という姿勢をアピールするためだろう。
■東京電力を守ったのと同じ構図
以上のような展開をみると、この事件に対する霞が関の姿勢はあきらかと思う。なんとしても刑事事件化を防ぎ、すでに発表した役員退任と課徴金支払い、形ばかりの東証での制裁で済ませたいのだ。
刑事事件化してしまえば、下手をすると、東証の上場廃止という処分にもつながりかねない。そうなれば、事件は単に東京市場にとどまらずニューヨークなど世界市場に広がり、一段と拡大する。そういう事態を避けたいのだ。
私がとくに注目するのは、各紙が監視委や経産省などの姿勢を「匿名」で報じている点だ。役人たちが匿名で方針を語るのは、自分たちの責任を回避しつつ、報道をコントロールして世間の相場観を形成したいからだ。匿名なら短いコメントだけで済み、詳しい説明を避けることも可能になる。それは霞が関の常套手段である。
第三者委報告の発表と同時に、そういうコメントが流れたのは事実上、東芝と二人三脚とみて間違いないのではないか。いまの段階で課徴金処分という方針を固めるからには、監視委はすでにそれなりの情報収集を終えているはずだ。
産経新聞は21日付の記事で「現段階では刑事事件化の必要性は低い」という監視委幹部のコメントを報じていた。情報を入手していなければ、こんなコメントは出せない。はっきりいえば、監視委は第三者委報告を事前に読んでいたか、あるいは報告の作成段階で監視委が直接、関わっていた可能性すらある。
なぜ、監視委や経産省は東芝事件の拡大を防ぎたいのか。背景には、安倍晋三政権への打撃を最小化したい思惑があるかもしれない。
加えて、経産省には経済界本流である東芝と築いてきた二人三脚関係を事件によってぶち壊し、台なしにしたくないという計算もあるだろう。「東京電力をつぶしたくない」というのと同じである。
■情けなすぎるマスコミ
東芝に限らずカネボウやオリンパスなど企業の不正事件が起きるたびに、企業統治の甘さが内外で指摘されてきた。ガバナンスの不在が日本企業の生産性の低さの一因でもあった。だからこそ安倍政権は企業統治の見直しに動いた。
そこへ代表的な日本企業であり、経団連副会長と政府の産業競争力会議メンバーにもなっている東芝の副会長=元社長がこの始末では、とてもじゃないが、統治強化どころではない。政策の旗振り役になってきた経産省とすれば、最悪の事態である。
そんなダメージを少しでも緩和するために経産省や金融庁、証券取引等監視委員会、東京証券取引所が一体となって事件の穏便処理を図ろうとしている。そんな構図ではないのか。そうだとすれば、それはまったく逆効果である。
世間の目も内外投資家の目も甘くない。事件を甘く処理すれば、安倍政権の本気度が疑われるだろう。むしろ徹底的にメスを入れるべきだ。ここは正念場である。
情けないのはマスコミだ。
第三者委の上田広一委員長(元・東京高検検事長)は「粉飾にあたるかどうかの観点からは調査していない」とか「会計用語としては不正だが、違法の認識がないものもかなりあったから報告書は『不適切』という表現にした」などと語っている。
ということは、第三者委が「粉飾決算ではない」という前提で調査し、かつ事実上「不正もあったけど目をつぶった」と告白したも同然である。それなのに、監視委が課徴金ですまそうとしている姿勢を批判していない。
日本経済新聞が「証券取引等監視委員会などがさらに徹底して調査することも、東芝の信頼回復に欠かせない」(22日付社説)と書いたくらいのに、朝日新聞は「それぞれの視点から必要な対策を検討してほしい」(同)とありきたりに言うにとどまっている。
■霞が関の思惑通りにはいかない
そもそも官僚の匿名情報を鵜呑みにして報じている限り、官僚の手のひらから逃れることはできない。これまでの段階で事件を穏便に済ませたい彼らの思惑は、すでにあきらかである。当局の動静は実名で報じて、世間の評価にさらす。それを基本にすべきである。
経済部の主流を歩く記者や経済担当論説委員は霞が関の役所を担当している。それに対して、東芝のような民間企業の担当記者は年も若く、役所担当に比べて一段格下にみられがちだ。簡単にいえば、総じて地方支局から東京に上がってきたばかりの新人記者が担当するのが、東芝のような製造業である。
東芝の発表は企業担当が受け持つが、監視委や金融庁、経産省の対応となると、役所担当が取材して記事を書く。そんな役割分担の中で、役所担当が「監視委はこう言っている」と取材結果を上げてくると「そういう対応はおかしいんじゃないの」と疑問を投げる声は起きにくい。
論説委員となると、民間も役所担当も終えた上がりポストのようなものだから、正面切って役所の考えに竿をさすような記者はほとんどいない。かくて霞が関の方針が紙面に踊り、流れが作られていく。役所とポチ記者の談合で相場観が出来上がるのだ。
だが、いまやメディアは新聞やテレビだけではない。はたして霞が関の思惑通り、コトは運ぶだろうか。
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