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トヨタ自動車「ミライ」
偽りのFCV普及 迷惑なトヨタの独りよがり、巻き込まれる日産とホンダ…
http://biz-journal.jp/2015/07/post_10836.html
2015.07.24 文=河村靖史/ジャーナリスト Business Journal
トヨタ自動車、日産自動車、ホンダの日系自動車メーカー大手3社が、燃料電池車(FCV)に水素を供給する水素ステーションの整備を促進するため、協力することで合意した。3社は資金を拠出して、水素ステーションを運営するインフラ事業者に対して運営費を支援する。現状、FCVを市販しているのはトヨタだけで、「お付き合い」せざるを得なかった日産とホンダ。新たな利権を求めて水素インフラの整備を後押しする経済産業省。同床異夢の水素ステーション整備促進事業が動きだした。
FCVは、燃料である水素と大気中の酸素を化学反応させることで生み出される電気を動力として利用する。走行中に排出されるのは水だけなため、「環境自動車の本命」ともいわれ、大手自動車メーカーが開発に注力している。FCV普及に向けた課題となるのが、車両自体が高価になることと、燃料となる水素供給インフラが整備されていないことだ。
FCVの車両価格は一時期、一台あたり数億円といわれていたが、技術開発が急速に進展し、高級車並みの価格にまで下がってきた。昨年12月、世界初の量産型市販向けFCVであるトヨタ「MIRAI」は価格が約720万円で、今後の技術開発によってさらに低価格化できる可能性がある。だが、FCVが普及していない現状で、需要が見込めない水素ステーションに投資する事業者は少ない。そして水素ステーションが整備されていないことから、FCVが普及しない。
一方、世界中で水素ステーションが整備されていない中で、そこに新たな利権として目を付けたのが経産省と政治家だ。トヨタのロビー活動の効果もあって、安倍晋三政権は「水素社会」の実現を目指す方針を掲げ、国の水素関連予算を大幅に増やしている。実際に水素ステーションの整備やFCVが普及するかはさておき、エネルギー関連産業は多くの新しい利権が見込めるためで、利権に敏感な自民党政治家や経産省が手をこまねいているわけがない。
政府は、トヨタがFCVを市販する半年前の昨年6月、「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定、トヨタのFCVが普及する環境を整備するためとも見られる水素ステーションの整備を掲げた。その上で、設置に対する補助金の交付や規制を見直している。これに加え、今年2月には水素ステーションの運営経費を一部支援する施策を公表した。同じく昨年6月、自民党の資源・エネルギー戦略調査会は「水素社会を実現するための政策提言」をまとめ、「水素社会」の早期実現を掲げた。
■運営経費のほぼ全額を補助
多額の税金を投じてFCVを普及する環境を整備する中、自動車メーカーとしてもFCVが普及する環境を整備するための取り組みを加速せざるを得なかった。そして、これに付き合わされることになったのがホンダと日産だ。
ホンダは16年3月までにFCVの販売を開始する。日産に至っては、FCVの市場投入は早くても17年。しかし、FCVを普及させる名目で水素ステーションに多額の税金を投入する経産省としては、「トヨタの環境対応車を、国が税金を投入して全面支援している」と見られないためにも、日産、ホンダを加えた国内大手3社が揃って水素ステーションの整備促進事業を展開することが必要不可欠だった。
だが、FCVが普及していない中で、一基当たり5億円の投資が必要とされる水素ステーションを整備していくのは簡単ではない。7月1日現在、商用水素ステーションの整備計画は、首都圏、中京圏、関西圏、北部九州圏を中心とする81カ所にとどまっている。政府は水素ステーションを設置するインフラ事業者に補助金を支給して支援するとともに、1カ所を運営するのに必要となる人件費や修繕費などの経費の3分の2、年間2200万円を上限に補助している。
今回、自動車メーカー3社は資金を拠出して、一基当たり運営経費の3分の1、年間1100万円を上限に補助金を支給する。このため、補助金支給の対象となったインフラ事業者は当面、水素ステーションを運営していく経費のほぼ全額を補助金で賄うことができる。こうした環境を提供することで、水素ステーションの整備を後押しする。
3社による支援総額は、FCV普及が本格化すると政府が見ている20年度までに60億円程度と見込まれている。3社の負担割合は、ベースとなる拠出に加えてFCVの販売実績に応じて決めていく。
■3社3様の思惑
水素ステーションの整備を促進するため、自動車メーカーが補助金を支給する施策は、電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車(PHV)用充電インフラの整備促進事業に近い。トヨタ、日産、ホンダの3社とEVを市販している三菱自動車は、EV普及を促進するため、政府の施策に歩調を合わせて急速充電インフラの整備を支援する事業を展開してきた。政府の補助金に加え、自動車メーカー4社が支援することで、ほぼ投資ゼロで急速充電インフラを整備できるもので、この結果、国内のEV・PHV向け充電設備の数は、急速充電が5000カ所、普通充電が9000カ所まで増えた。
「環境自動車の本命はEV」と見てFCV普及に懐疑的な日産が、今回の水素ステーション整備促進事業に加わったのは、政府・経産省の強い意向もあったが、このEV・PHV向け充電設備の整備支援事業に対する「恩返し」の面も否定できない。実際、トヨタ、日産、ホンダの水素ステーション整備支援事業を発表した記者会見でトヨタの伊勢清貴専務役員は、「FCV普及に対する考え方で3社には温度差がある」と認めた。
他社に先行する技術でFCV普及をリードするため、なりふり構わず水素ステーションの整備に前のめりになるトヨタ。FCVが本格的に普及するとは思っていないが、政府の目もあって、お付き合いから資金拠出を決めた日産とホンダ。そして、新たな利権の確保を狙う政府・経産省と政治家――。3社3様の思惑を抱えながら、多額な補助金を背景に水素ステーションのインフラ整備が進む。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)
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